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ACIDMANが混迷の世に鳴らす最新曲「灰色の街」は我々に何を示すのか

SPICE

ACIDMAN・大木伸夫

人々の暮らしと意識を暗く塗りつぶしたパンデミック後の世界に、我々はこれからどんな色を付けていけるだろう? ACIDMANの2年11か月ぶりのニューシングル「灰色の街」。昨年の『創、再現』ツアーで新曲として披露され、ファンの熱烈な支持を受けて音源化された壮麗なミドルバラードは、人工と自然の共存、宇宙と音楽の繋がり、世界の終わりと始まりのメタファーを散りばめた予言的な1曲だ。歌に託した思い、近況、革新的な配信ライブ、そして未来への思いについて、大木伸夫の力強い言葉を聞こう。

――お久しぶり。最近どう過ごしてます?

毎日ここ(事務所)に来て、曲作ったりミーティングしたりしてます。やってることは変わらないけど、ただただ収入がゼロというだけで(笑)。

――あはは。笑っちゃいけない。右に同じですよ。二人(佐藤、浦山)は元気ですか。

元気だと思いますよ。あんまり連絡は取ってないですけど、元々そうなんで。普段ライブとかでしょっちゅう会ってるから、わざわざ連絡を取り合うこともなかったのが、ライブがなくなるとさらに連絡を取り合わなくなりますね。

――7月のツアー延期は残念でした。

いやーもう、さすがに……頑張って意地張って、やっちゃうことも考えたんですけどね。今はまだだなと思ったんで。だんだんコロナ収束の空気感にはなってきてるけど、やっぱりライブ、エンタメに人が集まるのは最後の最後だろうなと思って、延期も考えたんだけど、「シングル発売記念」とうたってるから。いっそのこと中止にして、コロナ明けにシンプルにワンマンをやったほうがみんなはうれしいのかなと思ってそうしました。

――自粛疲れでブルーになってる人も多いみたいだけれども。大木さんの音楽家魂は元気ですか。クリエイティビティの欲求とかは。

それはもう全然変わらず。

――落ち込んだりはしてない?

全然してないです。ちょっと価値観変わるかな?と思って、歌詞も書いてみたけど、結局何も変わらないというか、いつも同じようなこと書いてるから。

――確かに。言い方はアレだけど、大木さんの世界観には、合ってる状況というか。

そうそう。だからコロナ前からずっと、何も変わらないです。ただ思うのは、コロナによって見えた良い面というのもあって、ライブハウスを助けようとか、そういう人と人との繋がりがすごくリアルに見えたので。実際に会うことがなくても、こうしてリモートで話もできるし、大事なことが見えてきて、逆に大事だと思ってたことがそうでもなかったのかな?とか、クリアになった気がします。

――今日はシングルの話なので、その話をしたいんですけど、こんな状況の中でリリースされるニューシングルが「灰色の街」。というか、このパッケージでシングルと言っていいのか?という疑問がまずあって(笑)。

カップリングがね。サービス精神を出しすぎて、ちょっと見誤りました(笑)。

――去年の『創 、現』ツアーファイナルの音源が丸ごと入って、おまけも付いて2枚組で2200円(初回限定盤)。そもそもライブ音源も入れてパッケージしようというのは大木さんのアイディア?

そうです。もともと『創、再現』ツアーのDVDは出すつもりだったんですけど、ミックス後の音源だけを聴いたらすごく出来が良かったから、「CDで音だけでも発売したい」という話をして、カップリングに入れようと。ただ値段のところだけはそんなに綿密に打ち合わせをできないまま、流れのまま行っちゃったから、ユニバーサルには申し訳なかったなと思ってます(笑)。

――さかのぼると、去年のツアー前に話したときに「新曲をがんがん作ってるからツアーで1曲披露したい」と言っていて。結果的にそれが「灰色の街」だったわけで。

はい。

――ということは、あの時点でほかの候補曲もあったということ?

いや、もうこの曲でした。実はこの曲、けっこう前から作っていて、詞はまだフィックスしてなかったんですけど、1年前ぐらいに世に出せるチャンスがあったんですが、色々あっていったん流れまして。絶対この曲をちゃんとした形で世に出してあげたいなと思って、だとしたら出し方は慎重にしたいと。普通にシングルで出すんじゃつまらないから、ライブで初めて聴いて、それをいいと思ってくれた人がいたなら音源化しようという、そういうトライアルでした。

――それが「#灰色の街」プロジェクト。言い方悪いけど、リリースありきの作戦とかじゃなく?

本当に新木場STUDIO COASTのライブの時点で、まだ音源化を決めてない状態だったんですよ。ライブで「いまいち」という反応だったら、マジでCDにはできないなと思ってたから、本当に良かったです。

――ステージでも手ごたえがあった。

ありましたね。すごくあった。わかりやすいメロディと言葉を使ったつもりなので、ライブで歌った瞬間にみんなが理解してくれてるなということがわかったし、すごく健全な形になったような気がします。音源を出してから、そのお披露目会としてのライブというものがなぜか常識になっちゃったけど、元々は生でしか聴けないものを盤にしたい、というのが盤の始まりだったと思うから。それをちゃんとCDとしてリリースすることができて、まだ日本ではCDに価値があるから、CDとして形に残せれば、このスタイルは面白いなと思いますね。

――そもそも、これはどんなふうにできた曲?

まさにここ(事務所)で、アコースティックギターかリッケンバッカーか忘れたけど、ギターを片手に、僕がよく使う好きなコードを弾きながらメロディを紡いでいくと、言葉も一緒に出てきて、そのまま作っていった感じですね。Aメロの雰囲気とサビの感じは、その時に全部できました。言葉はAメロの最初の部分だけですけど。

――じゃあ「灰色の街」というフレーズは最初からあった。

そうです。灰色、灰色の街の中~♪、という言葉が出てきて、「灰色の街について何か歌いたいんだな俺は」と思って、作り出していった感じですね。

――灰色ってどんなイメージなんだろう。大木さんの中で。

まさに東京のビルディングの、自然とは離れてしまったけれど、それは僕らが求めて描いてきた未来でもあるし、それと共にこれからも生きていかなきゃいけない場所であるということですね。決してコンクリート・ジャングルを否定しているわけではなくて、「これも人間の一つの生きざまなんだ」という意味で「灰色」をとらえたと思います。

――そしてサビ終わりの<世界は歌に成ってゆく>という、これはすごいフレーズですよ。ライブで聴いた瞬間に素晴らしいと思った。

ありがとうございます。僕も書きながら「いいのできた」と思ってました。シンプル・イズ・ベストだなって。

――これも最初から?

これは後半のほうですね。これがあるのとないのとでは全然違うし、そこにカチッとハマったというか、すごく納得がいくフレーズです。灰色の街を歩きながら、夜空から星が降るように色が降ってきて、世界は繋がりあってるんだよということを実感する感じだったので、そのワードが最後の決め手でした。

――まさに。ずっと言ってきたことと、やってきたことが一行に凝縮されてる。

キャッチコピーみたいですよね。

――そうそう。ACIDMANのキャッチコピー。それと引っ掛かったのは<僕は君との約束を果たせているだろうか?>というフレーズで。君って神様的なものかな?と思ったんですけどね。

そこにはいろんな意味を含めていて、世界との約束という一面もあるし、家族だったり仲間だったり子供だったり、たとえば男性なら結婚するときにはみんな嫁さんを幸せにすると約束して結婚すると思うんだけど、実際本当に幸せにできてるのかな?とか。ファンの人に対しても、僕らの音楽を聴いてくれたら絶対に心が豊かになると約束をしてるけど、本当に彼ら彼女らを僕らは幸せにできてるかな?とか、20年以上やれたからこそ思う感じですかね。

――ああー。なるほど。

人は約束をして、それが当たり前に叶うものというか、絶対的なものであると信じてしまうけど、実際本当に約束は果たされているか?ということを、いつも自問自答していくというか。それをもう一回ちゃんと振り返って、「そういえば、前を見て生きていくと約束したな」とか、食べものをちゃんとおいしいと思って食べていたのに、「いつのまにかお腹を満たすだけのために食べてたな」とか。そういうシンプルなところから大きなところまで、大事にしていかなきゃということですね。

――その話を聞くと、本当に今の世の中に合っちゃってるというか。

そうですね。まさに灰色の街だったりするから。皮肉にも。

――予言的だなあと思いますよ。あとサウンド面で言うと、リズムは打ち込みを大胆に使ってますよね。

はい。今回「せーの」で録るイメージがなかったので、今までとはちょっと手法を変えて。サビは有機的な感じになってるんですけど、Aメロは切って貼ってというR&Bの作り方っぽくやってます。無機質とまでいかないけど、ちょっとドライにしたかったので。あと、効率的というのもありますね。一悟くんがうまく叩けないから。

――またそういうことを言う(笑)。

毎回十何時間かけてやってるけど、予算もそんなにかけれないから、一番効率的なやり方にしようという(笑)。この形がベストでしたね。

――盛り上がるタイプの曲ではないけど、バラードと呼ぶには躍動感があって、壮大だけど重くないというか。

一番聴きやすい感じですよね。いろんな人に聴いてもらえる可能性がある曲だと思います。

ACIDMAN

――そして2曲目以降が、『創、再現』ツアーファイナル新木場STUDIO COASTのライブ音源。僕は現場にもいたけど、あらためて聴いて、これはいいですわ。素晴らしい。

ツアー自体もいいツアーだったし、新木場STUDIO COASTのライブがちゃんとできたのがすごく良かった。形になるクオリティの演奏ができたことは一安心でしたね。

――当時のツアーのセトリを再現するという企画で、久々にやる曲もあって。どうでした?

違和感はほとんどなかったです。リハーサルを2~3回やっただけで思い出してきたし、やっぱりデビュー当時だから、そこまで難しいことをやってなかったので、手癖のようにできたし、気楽にできた感じはありますね。

――あらためて、シングル全体としての聴きどころを。

ライブはライブとして楽しんでいただいて、「灰色の街」を、それぞれの気持ちの中で色を付けてほしいなと思いますね。音楽ってやっぱりいいなと思ってほしい。激しいからいいとか、静かだからいいとか、難しいからいいとか、簡単だからいいとか、そういうのも全部超えて、心に響くものが音楽だと思うので。そういう人が一人でも多く増えてほしいなと思いますね。

――あと、そうそう、この話もしなきゃ。ジャケットのイラストを描いたのは西野亮廣。これはどんな縁が?

僕が彼の絵本をすごく好きで、一番最初の『Dr.インクの星空キネマ』という本を読んで、好きになったんですよ。きっかけは、元TBSのプロデューサーの方と仕事をしたときに、「大木くんと西野くんは考え方がすごく似てるよ」と言われて、へえーと思って、じゃあ絵本を買ってみようかなと思って買ったら、すっごい良くて。そこから彼の新作をいろいろ集めていたら、うちの事務所のスタッフが「ジャケットにお願いしたらどうですか?」というアイディアを出してくれて、ダメ元でお願いしてみたら、彼も運命的なものを感じてくれたらしくて、引き受けてくれた。曲を聴いてもらって、『えんとつ町のプペル』のまだ使ってない絵とピッタリだということで、それを使わせてくれたんですけど、見た瞬間に素晴らしいと思いました。本当にピッタリで、すごくありがたいなと思います。

――それまでに面識は?

ないです。3日前にLINEでやっと繋がりました。「コロナ終わったら飲みに行きましょう」という約束をしました。

――縁ですね。そしてもう一つユニークな試みがあって、初回限定盤には「花の種」が付いて来るという、これは?

最初のアイディアは、西野さんのモノクロのイラストに、CDを買ってくれた人たちがそれぞれ色づけてくれるように、色鉛筆を付けようと思ったんですよ。いいのが見つかって、CDに入る形にカットしてもらえるし、これでいいなと思ったんだけど、ふと思ったのが、色鉛筆は木でできてて。間伐材を使ってるならいいけど、調べたら間伐材じゃなくて、そうすると歌ってる内容と全然違ってくるし、自然を大事にしようと歌ってるのに、おまえ木を使ってるじゃねえかって言われちゃうなと思って、色鉛筆はやめにした。じゃあ植物をつけたいという話になって、鉢植えとかも考えたんだけど、歌詞に「小さな花の様に」って出て来るし、花の種がいいということで、デイジー(ヒナギク)の種になりました。「酸化空」という僕らの曲に「ヒナギク」が出て来て、ヒナギクの香りを求めていたわけではないけれど僕ら人類は発展してしまった――という曲なんだけど、そこに基づくようなものにしたかったのもあります。

――すごい。フラグが回収された。

ずーっと前ですけどね(笑)。無理やり回収したみたいな感じですけど。このタイミングでみんなが、ちっちゃなポッドにデイジーの種をまいて、家で楽しんでくれたらなという、そういうことができたらいいなと。ウィルスは悪い方の種だけど、植物という良い方の種をまいて、それで世界が色づけばいいなという、ポジティブな種をまくイメージですね。結果的には良かったです。後乗りですけど。

――大木さん持ってる。

偶然ですよ(笑)。

――せっかくなので、同時リリースのライブDVDにも一言。

シンプルなカメラワークと、たまにちょっと演出をして、サイケな雰囲気にしているところもあって。でも基本的にはライブ感が伝わるような、シンプルな作りになってますね。いい作品になったと思います。

――みなさん、シングルとセットでぜひ。

お願いします。

――最後に、ライブの話をしましょう。こういうことがあると、ライブをやることが当たり前じゃなかったんだということを痛感するわけで、僕が思うぐらいだからやる側はもっと思ってるだろうなと。

本当にそう思います。僕はライブがめちゃくちゃ好きだったわけではなくて、究極の緊張感のもとにやるから、かなり疲れるし、ツアー中は毎日テスト前みたいな気持ちになるんです。でもこうやって「できない」ということになると、いかにライブというものが僕の人生を色づけていたのかということが、すごくわかりますね。だから今回の配信ライブを決めたのも、もしコロナが早く収束すればそれはそれでいいんですけど、長引いたときに、ずっとライブができないんじゃなく、配信でも生のライブを超えるようなエンタテインメントが作り出せるなら、それは一つの武器になるし、若いミュージシャンのためにもなるかなと思ってて、トライをしてみたいなと思うんですね。

――配信ライブ、いつどんなふうにやるんでしたっけ。

7月11日の午後7時からやります。昨日会場を見に行ったんですけど、ストリーミング配信用の設備があって、普段のライブとは違う感じのものができそうで、配信ならではの、映像を使ったりミュージックビデオとライブの間みたいなものができたらいいなと思ってます。映画じゃないけど、アートっぽくしたくて、ライブをただ見るだけじゃないふうにしたいなと思ってます。

――興味そそりますね。面白そう。

生のライブを超えるものか?と言うと、そうではないかもしれないけど、「ライブを見る」という発想ではない、アートを見るようなものができたら面白いなと思ってます。最初はコロナに負けたくないという発想だったけど、ライブをイメージしているときはコロナなんて頭にないんですよ。コロナ関係なく面白いことをやろうとしているので、新しいエンタテインメントの形になれたらいいなと思います。

――楽しみにしてます。

宣伝しておいてください。これで誰も見てくれなかったら、ただただ孤独なんで(笑)。PCでも見れるし、スマホでも見れるし、大画面でも見れるし、いろんな見方ができるので。

――お金取るんですよね。

取ります。ばっちり取ります(笑)。

――うん。そこ大事。一つの作品、一つのアートを提供するわけだから。

そこは賛否両論あるかと思ったけど、今のところないです。

――楽しみにしてます。またライブで会いましょう。そして、制限されているからこその、今の時間を大切に使っていきましょう。

そうですね。楽しみながら、つぶされないように、生きていきたいと思います。

取材・文=宮本英夫

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