鳥海山を爆発させた妖怪退治伝説とは 〜世界に残る奇妙な「爆発」伝承
黒色火薬は中国で生まれた、人類史初の爆発物である。
やがて黒色火薬は兵器にも応用され、モンゴル帝国の拡大や東西交流を通じて、その知識はユーラシア各地へ広まっていった。
さらにニトログリセリンの発見によって爆発物の威力は飛躍的に高まり、建築物や人体を容易に破壊する兵器として、現在に至るまで用いられている。
一方、自然界に目を向ければ、爆発は決して珍しい現象ではない。
落雷によって木が破裂し、火山が噴煙を上げて噴火する。科学的知見のない時代の人々にとって、そうした轟音と破壊は、妖術や神仏の祟りとしか思えない恐怖であった。
今回はそんな、本能を揺さぶる爆発伝説をたどってみたい。
山が吹き飛び島と化す
山形県と秋田県を跨ぐ鳥海山(ちょうかいさん)は、日本百名山にも数えられる名峰である。
そのすぐ近くには飛島(とびしま)という離島があり、ここから見える鳥海山の姿はまさに絶景である。
鳥海山と飛島の関連性について、以下のような伝説が語られている。
意訳 :
その昔、鳥海山には手長足長(てながあしなが)という妖怪が棲んでいた。
この妖怪はその名の通り手足が異常に長く、手を伸ばしては麓の人間を捕えて喰らい、足を伸ばしては沖合の船を沈めるなど、悪行の限りを尽くしていた。
これを知った慈覚大師(794~864年。またの名を円仁。天台宗3代目指導者)が100日間祈祷を捧げたところ、なんと仏像から光線が放たれ、鳥海山の山頂に直撃し大爆発が起こった。
手長足長は消し炭となり、吹き飛んだ山頂は日本海へと落下し、島となった。
これが後の飛島ということである。
爆発する妖怪
東北や関東のマタギ(猟師)の伝承には、小玉鼠(こだまねずみ)なる妖怪が登場する。
その姿はヤマネなどに似ているが、全体的に丸っこいフォルムであるとされる。
この妖怪は人間に出会うと体を風船のように膨らませ、最後にはなんと「爆発」してしまうのだそうだ。
マタギたちは小玉鼠の自爆を神の警告だと解釈し、これに出会ったら即座に猟を切り上げて下山したという。
北米の木こりたちの伝承では、ガンベルー(Gumberoo)という怪物が語られている。
その姿はクマに似ており、体毛が存在しない代わりに、黒光りする分厚い皮膚を有している。
この皮膚は恐ろしく頑丈であり、あらゆる攻撃が通用せず、銃弾すらも跳ね返してしまう。
しかしどういうわけか、ガンベルーの体は非常に引火しやすく、火をつけるとたちまち「爆発」してしまうという。
爆発から人々を守る聖人
キリスト教の伝説によれば、3世紀頃のローマ帝国にバルバラという女性がいたという。
彼女は美しかったため、父のディオスコロスによって塔の中で厳重に保護されながら育てられたとされる。
やがて密かにキリスト教へ帰依したが、そのことを知ったディオスコロスは激怒し、無惨にもバルバラを処刑してしまった。
だがバルバラを処刑した直後、ディオスコロスは神罰によって雷に打たれ、粉々に爆散したとも、全身を焼き尽くされて消し炭になったとも伝わる。
ディオスコロスが雷によって爆死したという伝説から、彼女は落雷や突発的な事故から人々を守る聖人として崇められて「聖バルバラ」と呼ばれるようになった。
特に鉱山労働者や砲兵、火薬庫の管理者など、常に爆発と隣り合わせの仕事に携わる者たちから、熱心に信仰されたという。
バルバラが殉教したとされる12月4日は「聖バルバラの日」とされ、現在でもフランスやドイツなどでは、砲兵にまつわる祭事が行われている。
参考 : 『Fearsome Creatures of the Lumberwoods, With a Few Desert and Mountain Beasts』『黄金伝説』他
文 / 草の実堂編集部