Yahoo! JAPAN

中2で「不登校」から公立大医学部「合格」 元野球少年の「壮大な紆余曲折」の本当の価値とは

コクリコ

中2で「不登校」から公立大医学部「合格」 元野球少年の「壮大な紆余曲折」の本当の価値とは

中2で不登校になり、壮大な紆余曲折を経て、医学部合格の道を切り開いた元野球少年。親はどんなサポートをしてきたのか、母親・倉孝子(くら・ゆきこ)さんにインタビュー(最終回)。息子が医学部合格を果たした背景には、母親の「思い込みの手放し」がありました。不登校に限らず、子どもに心配や不安を抱える“全親”に刺さるメッセージです。

▶この記事の画像をもっと見る

90冊以上の著作を持つ教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏が迫ります。

「子どもの価値は変わらない」と本気で思えるか

おおたとしまささん(以下おおた):「信じて待てば、子どもは変わるんですか?」と聞かれることがありますが、それはちょっと違うんですよね。それは信じているんじゃなくて、信じているふりをして、まだ親の期待を子どもに押しつけている状態です。

その期待すら手放して、目の前のありのままの子どもをありのままに見られる自分になるために、孝子さんは一つ一つ思い込みを手放していきました。壮大な回り道をしながら、ご自身が変わっていきました。

ある講演会のあと、会場から質問がありました。娘さんが不登校だと言うお父さんです。

無理に行かせないほうがいいと聞いたから、学校に行かない娘の気持ちを否定しないで話を聞くようにしているんですが、いくら話を聞いてもなかなか本人から学校に行こうとはしない。いつまで待てばいいんですか、と。

私はこう言いました。「それはまだ、早く学校に戻ってもらうためにそうしているだけですよね。学校に行っていない娘さんのその状態自体をよくは思っていないわけですよね。

まずは娘さんが学校に行きたくないと思っているというその事実をそのままに、ただ『ああ、そうなんだね』と受け止めてみたらいかがでしょうか」と。そのお父さんはその場でハッとした顔をされていました。

「いま君はそうしていたいんだね。そのままの君でいいんだよ」と本気で思うことです。だって学校に行ったって行かなくたって、親にとってのお子さんの価値は何も変わらないんだから。それを伝えればいい。

ただしそのためには社会的なモノサシをいったん脇に置かなければなりません。息子の俊徳(としのり)さんがオール1をもらってきたとき、孝子さんがそうしたように。

「期待しない」は「諦めた」ではない

おおた:期待を手放すということは、可能性を諦(あきら)めるのとは違います。むしろ、親の期待なんて狭い枠組みの中に子どもの人生を押し込むのではなく、親には想像もつかない未来が待っているはずだと、無限の可能性を信じることです。

孝子さんは、子どもを変えるための手段として自分を変えたわけじゃない。目の前の苦しみを和(やわ)らげるために必要なのは、子どもを変えることじゃなくて自分の中の思い込みを手放すことなんだと気づけた。

そこが重要だと思います。だから、いまでもトーキョーコーヒーを続けている。

倉孝子さん(以下孝子):息子が高1のときに始めたトーキョーコーヒーの活動は、いまはniconという名前のNPOとしてやっています。NPOにしたのは、あとから仲間になってくれたメンバーの意向です。

私が一人だけ年上で、みんなまだ若くて、普段なら一緒にいるような人たちじゃない。相当個性的な人たちなんですけど、niconということだけで一緒にいて。そういうこと全部含めて、なんだか毎日、冒険をしているような気持ちなんです。

苦手なこと、できないこと、嫌だなと思うことが、いまだにいっぱいあるんですけど、あのメンバーだから、なんとなく一緒に頑張ろうと思える。そういう生き方ができたことが、良かったな、と。

五十を過ぎているので、もう疲れて人生を諦めたくなるときもあるんですけど、niconもしているから、諦めるわけにいかない。そういう生き方が、誇り、ですかね。

niconは、禅の言葉の「而今(にこん)」からとりました。「今この瞬間」という意味です。不登校になると、過去を後悔したり、未来に対して不安になったりする。

でも、そういうことにとらわれないで、今いるこの時間を楽しく過ごしていこう、と。それで、みんなで考えて、「而今」という名前をつけました。

おおた:「而今」。過去の後悔にも、未来の不安にもとらわれず、今この瞬間を生きる。その名前に、ここまでのお話が、ぜんぶ詰まっていますね。

大人が変わらないと苦しさから抜け出せない

孝子:niconでは、トーキョーコーヒーのほか、無料のフリースクールも、地域食堂も、服の交換会もしています。フリースクールでは、標津の漁師さんの協力で漁師体験をしました。

宿泊学習として日高でラフティングもしました。「地域食堂nicon」では、畑をやったり、生演奏の音楽を聴けるコンサートなどを開催しました。

niconの日高でのラフティング。  写真提供:倉孝子さん

やってることに一見まとまりがないんですけど、「今この瞬間を楽しんで生きていこう」という、そういう認識を持った人たちが集える場所だな、と思っています。

不登校で悲しい気持ちになっている保護者同士がつながり、地域のプレーヤーになることで元気になっていく場を増やしたい。

私が中心的にやっているのは、やっぱりトーキョーコーヒーです。私のなかでは二本柱で考えていて。一つは、不登校の親子が遊ぶ活動。七夕やハロウィン、クリスマスといった季節行事をやったり、料理を作ったり、手仕事をしたり。

もう一つは、大人向けの講座。やっぱり、大人の視点が変わらないと、苦しさから抜け出せないと、すごく思うので。教育関係の人に来てもらって、勉強会やお話会をやっています。現在市内3ヵ所で活動していますが、これを全区に広げたい。

私たちは、特別な資格も何もない、ただのお母さんの集まりなんです。お母さんたち自身が良い場所を作れるし、それによってお母さん自身も元気になるし、結果として子どもたちも元気になってくる。

今のメンバーはみんな、本当にそうなんです。だから、お母さんたちが一歩踏み出せるような、勇気を持ってもらえたらいいな、と思っています。

*****

医学部合格は現在の日本の学歴社会の最高峰の一つです。中学受験でトップクラスだった子どもが名門校で中高6年間を過ごし、虎の穴のような塾に通って努力を重ねても合格できるかどうかわからない最難関です。

そこに、もともと地方都市の公立中学で中の上くらいの成績で、しかも中2で不登校になりフリースクールを経て定時制高校夜間部に進んだ子でも合格できるという事実は、「不登校=学歴社会からの脱落」という図式を打ち崩してくれます。

しかし私は「不登校から医学部合格の下剋上! 不登校になってもいつでも元のレールに戻って“成功”できる」という、学歴神話、学校神話の延長線上にある話を紹介したかったわけではありません。

俊徳さんは、小児精神科医への道を選びました。さまざまな回り道を経て、幼いころのぼんやりとした憧れが、くっきりと自分の目標として目の前に像を結びました。回り道があったからこそ、本当に自分のやりたいことが明確になりました。

その経験がなければ、単に学歴社会の最高峰として医学部に憧れただけだったら、そこまでの努力はできず、医学部合格は叶わなかったかもしれません。

逆に、不登校という経験をしたからこそ、結果的に選んだ道が、学歴社会とはほとんど無関係の、ラッパーでも、子どもの居場所のスタッフでも、本人の満足感は変わらなかったはずです。孝子さんがいま感じている誇りも、変わらなかったはずです。

ここで改めて、不登校という経験を経て、孝子さんが手放した思い込みを振り返ってみましょう。

(1)「中学・高校の3年で人生が決まる」という思い込み

(2)「うちの子は不登校にならない」という思い込み

(3)「普通の高校生活」という思い込み

(4)「なんだかんだで成績は大事」という思い込み

(5)「親が学校に行かせなければならない」という思い込み

(6)「心配するのは愛情表現だ」という思い込み

(7)「学校に行かなくても勉強は必要」という思い込み

(8)「現実を教えるべき」という思い込み

(9)「居場所も進路も親が用意する」という思い込み

(10)「不登校が親子から多くを奪った」という思い込み

一つ一つ「思い込み」を手放したことによって、もともと自分たちの中にあったあふれんばかりの価値に気づき、覚悟を持ってそれを活かす生き方を選択できたのです。

「放てば手に満てり」。道元禅師の言葉です。

取材・文/おおたとしまさ(教育ジャーナリスト)


●おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、教育に関してさまざまな観点から取材を行い、著書は90冊以上。2026年5月に『フリースクールという選択』(講談社+α文庫)を上梓。どこの組織にも属さない在野の視点で現代の教育への考察・提言を続けている。メディアへの出演や講演も多数。

“フリースクール探し”で最初に読む本、登場! 『フリースクールという選択』(著:おおたとしまさ/講談社+α新書)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 新しい伝統!?「こんな琉球ガラス、見たことない」アメリカ人職人が沖縄の伝統工芸に新風!ヴェネツィアの技法と融合し生まれる

    OKITIVE
  2. 「今日は何食べる?」の答えを全部盛り かつやの「欲張り飯」が本気で欲張り

    おたくま経済新聞
  3. NODA・MAP番外公演『THE BEE』が本多劇場で上演 高橋一生・二階堂ふみ・河内大和・川平慈英が出演

    SPICE
  4. 福田悠太(ふぉ~ゆ~)主演、星新一生誕100年記念朗読劇『星新一が描いた未来』上演決定 上演台本・演出は板垣恭一

    SPICE
  5. 鶏ささみが『カリカリジューシー』に!「これ、どうやって作ったの?」家族がハマったのり塩チーズスティック

    BuzzFeed Japan
  6. 「なんでもええから やってみー!」音楽ライブや防災体験、職業体験も楽しめる 「第2回 こどもの居場所FES」 神戸市

    Kiss PRESS
  7. 安静にしなかった後悔は今も消えず、“流産”という経験があったからこその今がある

    たまひよONLINE
  8. 30種類以上のビールを飲み比べ? 勝山公園で「Japan Craft beer Weekend」開催【北九州市小倉北区】

    北九州ノコト
  9. キャンピングカーは普通免許で運転できる?免許取得時期で変わる条件とは

    CAM-CAR
  10. 中野ブロードウェイ 驚異の部屋(ヴンダーカンマー)~逸品珍品をめぐる物欲散策~

    さんたつ by 散歩の達人