「自分の予想を良い意味で裏切られることがありました」——収録で生まれたキャストとの化学反応とは? 『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』亀山陽平監督インタビュー
2025年7月より放送・配信された、1話3分半のショートアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』。アニメ全12話を再構成し、新作パートを加えた映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が、2026年2月6日(金)に公開されます。
本稿では劇場版の公開を記念して、脚本・キャラクターデザイン・制作まで手掛けている亀山陽平監督にインタビューを実施。限られた期間の中で進められた制作の舞台裏や、新キャラクター誕生の経緯、プレスコ収録によって生まれたキャストとの化学反応など、幅広く語っていただきました。
ショートアニメから劇場版、コミカライズへと広がり続ける『ミルキー☆サブウェイ』の世界。亀山監督の演出へのこだわりや、作品の今後の展望についても深掘りします。
【写真】『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』亀山陽平監督インタビュー
全12話の物語を一本の映画として再構成する難しさ
──ショートアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は放送・配信時から大きな反響があったと思いますが、監督ご自身は視聴者の反応をご覧になることはありましたか?
監督・亀山陽平さん(以下、亀山):SNSはよく確認していて、YouTubeなどのコメントもちらほら拝見していました。全体的にポジティブなコメントをたくさんいただけていたのが純粋にありがたかったです。
あと、最近はコメントをまとめた反応集などもYouTubeに上がっていて、そういう動画がおすすめに出てくると、「お!」とテンションが上がりますね(笑)。とても嬉しかったです。
──劇場版の制作決定を知ったのは、どのようなタイミングだったのでしょうか。
亀山:「(映画化)したいですね」という話自体は放送前からありましたが、ただあくまで人気次第という前提だったんです。徐々に話題になってきたことで、最終話で正式に映画化がお知らせできたという流れでした。
──制作期間もかなり限られていたとか。
亀山:ものすごく短かったですね。今回は宣伝物の制作も同時進行だったので、作業量もとても多くて。複数のことを並行して進めなければならず、正直パニックになりかけました。マルチタスクが本当に不得意なので、同時にいろいろなことをこなさなければいけない状況が一番しんどかったですね。
──宣伝物の制作も手がけられていたんですね。
亀山:はい、キービジュアルのデザインをはじめ、様々な部分を自分で担当しました。細かいエフェクトの調整などは他の方にも手伝っていただいたりもしたのですが、とても忙しかったです。
──改めて、劇場版になることが正式に決まったときのお気持ちを教えてください。
亀山:映画化が決定するほど多くの方に作品を見ていただけたという事実は、シンプルに嬉しかったです。ただ一方で、もともと劇場上映を想定して構成した作品ではないので、どうやって話を組み直すかという問題もありました。
放送された12話をそのまま並べて流す案もあったのですが、せっかく劇場で上映してもらえるのであれば、きちんと一本の物語としてつながる形にしたいと思っていて。そこをどう成立させるか、という点は一番悩んだところです。話と話のつなぎ目に違和感が出ないように、できる限り調整しました。
「自分の限界を一歩超えたところにキャラクターの深みが生まれる」
──新作パートで描かれるストーリーは、いつ頃から構想があったのでしょうか。
亀山:シリーズを作る前から、警察サイドでもてんてこ舞いになっている様子を描けたら面白いだろうな、という漠然としたイメージはありました。
アサミという新キャラクターも元々原案の段階では存在していたのですが、シリーズ制作時は本編の尺の都合で入れる余裕がなく、カットしていたんです。ですが今回、劇場版を作るのであればということで追加させていただきました。
──劇場版で新たに登場するハガ署長も、原案からいたキャラクターだったのでしょうか。
亀山:ハガについては、そこまで具体的に固めていたキャラクターではありませんでした。ただ、「こういう大柄な署長がいそうだな」というイメージはなんとなくあって。アサミだけでなく、もう一人キャラクターがいた方が世界観の広がりを感じられると思ったんです。それにネタも作りやすくなるだろうということで、ハガを登場させることにしました。
──劇場版からの新キャラクターとして、アサミ役に小野賢章さん、ハガ役にロバート・ウォーターマンさんが起用されています。こちらはオーディションだったのでしょうか?
亀山:今回は音響会社さんと相談ていきました。その中で、アサミは「真面目そうな雰囲気の声、例えば小野賢章さんみたいな声がいいですね」と話したら、本当に出演していただけることになった形でした。
ロバートさんは、実はショートアニメのオーディションの際に、「すごく魅力的な重低音のある声だな」と印象に残っていて。今回、ハガ役でご相談したところOKをいただけました。
実際にハガを演じていただくと、コミカルなニュアンスも自然に入れてくださってとても良かったです。やはりあの重低音のある声が、ハガというキャラクターに合っているのではないかと思います。
──新作パートもプレスコでの収録だったそうですが、構想段階から完成した映像までの間で変化した部分はありましたか?
亀山:プレスコをするにあたって、まず自分でVコンを描いて、仮の声も自分で当ててから進めるので、そこから大幅に変わることはあまりないですね。ただ、小野さんには要所要所でアドリブを入れていただいたこともあって、細かいニュアンスの部分で自分の予想を良い意味で裏切られることがありました。その結果、若干セリフや表現が変わることがありましたね。
──アドリブを受けて、どう思われましたか?
亀山:ノリノリで演じていただいているのが伝わってきて、素直にありがたかったです。Vコンの段階ではどうしても自分が想像できる範囲でしかキャラクターを描けていないのですが、役者さん独自のニュアンスが加わることで、自分の限界を一歩超えたところにキャラクターの深みが生まれる。その点は、毎回とても勉強になっています。
──キャストの皆さんと直接やり取りされる機会はありましたか?
亀山:収録以外の場では、新キャストの方々とはまだ直接お話できていないんです。ただ、年末の特番として、新キャラクターを含めたキャストの皆さんがお好み焼き屋でトークしている動画を公式YouTubeで公開していたのですが、それを見て「すごく楽しそうだな」と(笑)。
特番の中で、小野さんが「注文していたベッドが家に届く日で、その時間までに収録が終わるか心配だった」という話をされていたのですが、その感じが「めちゃくちゃアサミっぽいな」と思って(笑)。どこか自分の時間を大切にしている雰囲気が声にも表れている気がして、本当にハマり役だなと感じましたし、その話を聞いて少し感動しました。
──まさに、という感じですね。
亀山:そうですね。キャストの皆さんの素の雰囲気が、自分の中で想像していたキャラクター像にかなり近いと思うことも多いんです。だからこそ無理をして作り込むことなく、ナチュラルにキャラクターを演じていただけているのだと思います。
──キャストの皆さんと向き合う上で意識されていることはありますか?
亀山:仕事上での会話になるので、皆さん基本的には丁寧な話し方をされるのですが、実際に演じてもらうキャラクターはそうではない瞬間の姿になります。なので、それぞれの演者さんが素の状態ではどういう話し方をされるのか、プライベートではどんな雰囲気の方なのか、そういった部分が少しでも見えてきたらいいな、という点は意識していました。
オーディションの際も、プライベートではどういうことをされているのか、どういうタイプの人間だとご自身で思っているのか、といった質問をすることがあって。演者さん自身の素のキャラクターのようなものがわかるとよいなと思っていました。
──なるほど。
亀山:例えば、カートには「妹がいる」という設定があるのですが、それを自分がいつ決めたのか、正直覚えていなくて。もしかしたら声を収録した後に追加した気もしているんですよね。
内山さんの声にどこかお兄さん的な包容力のあるニュアンスを潜在的に感じ取っていて、そこから自然とそういう設定を入れたのかもしれない、と思ったりしました。やはり演者さんの素の部分から何かを感じ取ろうとすることは、無意識にずっとやっていたかもしれません。
「この人はお姉さんっぽいな」とか、「普段は結構大らかそうだな」とか。声優さんと会話しているときも、そういうことを意識しながら話している部分はあると思います。
──オーディションの時のプライベート寄りの質問の中で、印象に残っているものはありますか?
亀山:「普段、友達と接している時にどういうポジションになりますか?」という質問をしたと思います。例えばチハル役の寺澤さんは、周りに面倒を見てもらうポジションだとおっしゃっていて。そういった回答から、自分が作ろうとしているキャラクター像に近いかどうかを確認していました。
あと、カナタ役の小市眞琴さんが「学生時代は男子に混ざってスポーツをしていた」というお話をされていて、男勝りな環境で培われた性格という点がすごくカナタっぽいなと感じました。その話を聞いて、まさにそうだなと感動したことを覚えています。
「需要がある限りは作り続けていきたい」
──さらなる展開を期待する声も多いと思いますが、今後続編を作る構想はありますか?
亀山:ミルキーシリーズのアイデア自体はいくらでもありますし、やる気もあります。需要がある限りは作り続けていきたいという気持ちが強いですね。
──続編は映像作品として、というイメージでしょうか。
亀山:そうですね。基本的には映像で展開していくのかなと思っています。ただ、映像ではどうしても描ききれない部分もあるかもしれませんし、映像向きではないけれど描きたい話、というものもあります。そういったものは、色々なメディアで展開していく方法もあるのかなとは考えています。
──監督の中では、列車の事件後の彼らの姿もすでに思い描かれているのでしょうか。
亀山:事件後の話もそうですが、過去のエピソードも結構考えていますね。劇場版の新作パートを作る中で、リョーコの暴走族時代の話や、ハガとの関係性なども自分の中でどんどん広がっていきました。
規模が大きすぎて映像にはできないかもしれないのですが、どうにかして表に出したいと思っています。何らかの方法で、そういった物語も届けていけたらいいですね。
──アニメ制作にあたって特に大事にしていること、力を入れている点を教えてください。
亀山:まだやり切れていない部分もあるのですが、意識しているのはアニメーションだからこそ活きる物語の作り方や演出の組み方ですね。
単なる会話劇にならないように、画として退屈しない見せ方になるように、できる限り作ろうとしています。ただ、どうしても作業環境の限界などもあって十分にやり切れていないところもあるので、今後はもう少し努力していきたいと思っています。
──今後、取り組んでみたい舞台設定などはありますか?
亀山:作業スピードの制約もあって、これまでは物語の舞台が列車の中や警察署の中など限られた空間での展開が多くなっていました。なので、今後はもう少し世界観の広がりを感じられるような街中のシーンや、モブがたくさんいる空間も描いていけたらいいなと思っています。
街の描写がないと、どうしても荒廃した世界のような印象が強くなってしまうんです。会話の中で「他にも人がたくさんいる」というニュアンスは出しているのですが、その大勢の人たちを実際の映像としてはまだ描けていなくて。そこに世界観としての限界を感じることもあると思うので、きちんと街を描いて、人がたくさんいる社会を映像で見せる、ということには挑戦したいですね。
──世界観が広がりはストーリーの長さにも関わってくるのでしょうか。
亀山:そこまでストーリーの長さ自体には影響しないと思っています。結局は、空間の中に人がたくさんいるかどうか、という話なので。
──では最後に、作品にちなんだ質問を。海老天の尻尾は“いる派”ですか? “いらない派”ですか?
亀山:絶対に食べるので、いる派ですね。年末に実家に帰って年越しそばを食べたのですが、海老天の尻尾が結構おいしくて。家族みんなで「尻尾が一番サクサクしていておいしかったね」という意見で一致したくらいです。なので、尻尾はかなり大事だと思っています。あった方がいいですね。
[取材・文:柴山夕日]