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精神と時の部屋に入れない現実世界で、何に自分の身銭を費やすのか

さくマガ


その人に向いていることというのは、努力がそんなに苦にならないことである、という言い方をすることがある。
どんな仕事や趣味でも、ある程度「努力」と言われるものは必要とされる、ことは多い。自分で勉強することや必要な知識を調べることもそうだろうし、そもそもその時間をとることもまた努力と言われるものの一部だったりする。

そもそも「努力」とは

私は昔から日本の漫画で育ってきた人間なので、努力という言葉にそこまで抵抗なく生きてきた(つもりである)。なんせ漫画には「努力」が大量に描かれている。部活漫画、冒険漫画、クリエイター漫画、音楽家漫画、その他諸々。最近Twitterで話題になった『HUNTER×HUNTER』だって主題は「適切な努力とは何か?」だと私は思っている。努力、友情、勝利、なんてキャッチコピーがあるほどに、日本の漫画は努力を描くことが多い。
が、大人になると、「そもそも努力って何だろう……」と不思議な気持ちになることがある。
漫画だったら、目標に向かってがむしゃらに頑張ること、が努力のように描かれがちだけど。これ、漫画ならいいけど、実生活だと割とハードルの高い行為であることがだんだん分かってくる。
だって現実は、努力をしている合間に、ごはんを作って食べたり、洗濯をしたり、部屋を片付けたり、LINEやメールの返信をしたり、人とごはんに行ったり、あれやこれや日々の用事をこなしていかなくてはいけない。これを「いま、努力中ですから!」と言ってやめることは、かなり無理に等しい。
いやもちろんたとえば受験生のような、公に努力することを認められた期間限定の立場であるならまだしも。普通の日々を暮らしている人間が、精神と時の部屋に入ることはかなり無理、なのである。
……今回はジャンプ漫画ネタが多くなってきた。
まあ、ジャンプ漫画の世界には生憎住んでおらず、ジャンプ漫画を日々の息抜きとして買うほかないしがない私たちは、精神と時の部屋に入れない。なら、現実世界での「努力」とはいったい何なのだろうか。
なんとなく、努力という概念は大切っぽく言われるけれど、はたして何をすれば努力なんだろう。そもそも昔、漫画で読んだ、絵に描いたような努力って存在するんだろうか。時代の空気からして、努力なんてもう残っていない概念なんだろうか?
と、たまに、考えることがある。

時間とお金を使うこと

私が冨樫義博ならこの結論はもっと後まで伸ばすのだけど。私は冨樫義博ではないので、早々に結論を言ってしまおう。
私は、努力の定義は「時間とお金を使うこと」だと思っている。
たとえば、仕事が上手になりたかったら、その仕事に必要な技術・知識・人との知り合い方などに対して、時間とお金を使うことが必要だろう。
知識を得るには本を買わなきゃいけないし、その本を読んで噛み砕く時間が必要になる。
人と知り合うにはある程度ごはんに行くお金が必要だったり、あるいは、SNSやメールやあれやこれやを通してその人を知る時間をかけることが必要だ。
努力=お金かよ!
と思われるかもしれないけれど、お金がまったく必要じゃない努力なんてすごく少ないと思う。でも一方で、お金だけでなんとかなることはほぼ存在しない、とも思う。本を買っただけでは知識が身につかないのと同じで、だいたいの努力には時間がかかる。

何に対して「身銭を切る」か

でも、ジャンプ漫画の主人公ではない大半の人間は、かけようと思ってお金と時間をかけているわけじゃない、結果的にお金と時間がかかってしまった、ということがほとんどのように思う。知識を得る努力をしようと思って本を買ったわけじゃなくて、必要だったから本を買ったんだ、と。
努力というとつい私たちは「精神と時の部屋」的な、がむしゃらな行為を想像してしまうけれど。
本当は、「いかにそれにつぎ込む時間とお金を生み出すか」という、生活の合間を縫った行為であるように思う。
だから冒頭の「努力がそんなに苦にならない」という言葉は、言い換えると、「それに時間とお金を使うことがそんなに苦にならない」という意味だと、私は思っている。
時間とお金はそもそも有限だ。ものすごく有限だ。
でも、「身銭を切る」という言葉があるけれど、自分の身銭は決まっているなかで、何に対して自分の身銭を差し出すか、ということに自覚的になったほうが「努力」はやりやすいのかもしれない。と最近は思う。
たまに「人生で全然努力してこなかった」という人がいるけれど、そういう人はたぶん、人生の時間とお金を無意識に好きなものにつぎ込んできたのではないだろうか、と思う。同じことをしていても、無意識につぎ込むか、意識的につぎ込むか、人によって異なるだろう。
精神と時の部屋に入れない現実世界で。いったい、何に自分の身銭を費やすのか。あらためてちょっと考えてみたいと思う今日この頃なのだった。
■三宅さんの前回の記事はこちら
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執筆

三宅 香帆
書評家・文筆家。1994年生まれ。『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える
バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などの著作がある。

編集

武田 伸子
さくらインターネット社員。1児の母。主に「さくらのユーザ通信」(メルマガ)を担当しつつ、さくマガの記事執筆や編集に関わっている。

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