鳥羽一郎の全カタログが一挙配信!一世一代のデビュー曲「兄弟船」とマグロ解体ショー
演歌界の大御所・鳥羽一郎が捌くマグロ解体ショー
1982年8月に「兄弟船」で颯爽とデビューしてから、今年で43年になる鳥羽一郎。これまでリリースされたシングル146作品、アルバム35作品が9月10日に一挙配信された。また、10月1日にリリースされる新曲「昭和のおとこ」の先行配信を記念して、元漁船員でもある鳥羽本人によるマグロの解体ショーが実施された。
滅多に見られない斬新な配信&新曲御披露目のイベントが開催されたのは、新宿駅からも近い小田急ホテルセンチュリーサザンタワーにある寿司店『有楽町かきだ』。多くの取材陣が待ち構える中、料理人姿で鉢巻きをした鳥羽が入場する。演歌界の大御所の登場に場内の空気が引き締まったところで、早速マグロの解体ショーが始まった。宮城塩釜で水揚げされた102キロもあるという本マグロ(高級品のクロマグロ)が、店の料理人の手を借りて鮮やかに捌かれてゆく。手際よく解体が終わり、司会の方が鳥羽に曲のコメントを促すとーー
“何もないよ。いいから早く食べよう”
ーー とジョークをかまして取材陣からどっと笑いが起きる。すぐに真面目なコメントが続き、配信については、レコーディングしたきり歌っておらず忘れてしまっている曲もあるが、皆さんに聴いてもらいたい。自分にとってはそういったものを思い出すいい機会にもなった、と感謝の弁が述べられる。
一世一代の名曲「兄弟船」
いよいよ歌唱を促される鳥羽。
“嫌だよ、せっかくのマグロの鮮度がどんどん落ちちゃう。歌なんていいからもう食べようよ”
ーー と言いながら、「兄弟船」のイントロが流れると瞬時に歌手の顔になり、一世一代の名曲が見事に歌い上げられた。続けて新曲「昭和のおとこ」も。決して広くはない空間、オーディエンスもマスコミの面々と関係者のみにもかかわらず、一切手を抜く気配のない真摯な歌いっぷりにプロの凄みを見せつけられると同時に、時折見せる茶目っ気たっぷりの笑顔にすっかり魅せられてしまった。
その後は部屋を移動して、取材陣に新鮮なマグロの刺身と握りが振る舞われた。鳥羽も実際に寿司を握りながらサービストークにも徹するという、この上なく素敵なイベントであった。仕事で訪れていた参加者たちも、この日から全員鳥羽のファンとなったに違いない。
デビュー時のキャッチフレーズは “潮の香りが似合う男”
鳥羽一郎は三重県鳥羽市石鏡町の出身。芸名もそれに由来する。漁師の父と海女の母の間に生まれ、やはり歌手となった山川豊は実弟。遠洋漁船の船員としてパナマやインド洋でマグロ船やカツオ船の漁船員として従事した後、歌手になる夢を抱いて作曲家・船村徹の内弟子となり、約3年間の修行を積む。
そして既に30歳となっていた1982年夏に念願のデビューを果たしたのであった。デビュー時のキャッチフレーズは “潮の香りが似合う男” だった。デビュー曲「兄弟船」がいきなりヒットし、前年既にデビューしていた弟の山川豊と共に演歌界の珍しい兄弟スターとなる。漁師出身であるだけに、海の男たちの心意気や絆が歌われた作品が多い。
今回配信解禁となった作品は、代表作「兄弟船」をはじめ、中村典正作曲による「男の港」(1986年)、三木たかし作曲の「カサブランカ・グッバイ」(1996年)などのよく知られた曲から、「愛恋岬」のシングルバージョンや「東海の暴れん坊」のライブバージョンといった隠れた名曲まで。
さらには、宇崎竜童プロデュースのカバーアルバム『時代の歌』シリーズ5作品に収録されていた「君こそわが命」(水原弘)、「昔の名前で出ています」(小林旭)などの骨太な歌唱や、「夜空の星」(加山雄三)、「ルビーの指環」(寺尾聰)といったポップス系の意外な選曲も含まれており聴きものだ。
鳥羽一郎の姿に重なる新曲「昭和のおとこ」
新曲「昭和のおとこ」は、地道に生き抜く昔気質の男が描かれており、固い信念を貫きながら歌手活動を続けている鳥羽自身の姿に重なるところも感じられる。作詞のかず翼と作曲の徳久広司、同じ作家陣による2020年の「戻れないんだよ」、2023年の「されど人生」の流れを汲む作品となっている。亡き母親への想いが歌われた「おふくろ月夜」も、これから迎える秋の夜長に沁みそうな曲。
日本人の演歌離れが囁かれて久しい昨今ではあるが、鳥羽一郎の歌にはそんな声をも覆すような強靭な説得力がある。豪快な佇まいとは少々のギャップのある温かな人柄が歌に滲み出ているのも鳥羽演歌の魅力だろう。それにしても捌きたての本マグロは美味であった。