福岡の“第3の都心”はなぜ動かないのか?「ウォーターフロントネクスト」の現在地
構想から10年、それでもウォーターフロントネクストの全貌が見えにくい理由
天神ビッグバン、博多コネクティッドと並ぶ福岡市の都心再整備の第三極として構想されたウォーターフロントネクスト。福岡市北部の海沿いにある中央ふ頭・博多ふ頭エリアの再整備を目指すこのプロジェクトは、2016年の「ウォーターフロント地区再整備構想」策定から約10年が経過した今も、「全貌が見えにくい」プロジェクトとして語られ続けている。
天神ビッグバンや博多コネクティッドが着実に前進しているのとは対照的に、ウォーターフロントネクストは「検討中」「調査中」という状態が長く続いている。なぜこれほど時間がかかるのか。その理由は、このエリアが抱える構造的な複雑さにある。
福岡市が2025年12月に公表した最新の議会報告資料をもとに、現在地を整理する。
【LIFULL HOME'S】博多区の不動産・住宅を探す
【LIFULL HOME'S】博多区の投資用不動産を探す
年間267万人が訪れる中央ふ頭・博多ふ頭エリアの「今」
まず、このエリアに何があるかを確認しておく必要がある。中央ふ頭・博多ふ頭周辺には、MICE施設(会議・展示会・イベントなどの総称)・クルーズ機能・旅客船ターミナルという3つの機能が集積している。
MICE施設としては、マリンメッセ福岡A館(1995年開業)・B館(2021年開業)、福岡国際会議場(2003年開業)、福岡国際センター(1981年開業)、福岡サンパレス(1981年開業)が立地する。
なかでもマリンメッセ福岡B館は、福岡市のMICE機能強化を目的に、既存のA館に隣接する形で2021年4月に開館した。両館を一体的に活用できる体制を整えたことで、大規模展示会の開催や既存催事の規模拡大が可能になり、多様な催事が行われるようになっている。クルーズ機能としては博多港のクルーズセンターが整備されており、旅客船ターミナルとしては博多港国際ターミナルと博多ふ頭の国内定期ターミナルが機能している。
規模感を示す数字として、2024年度のMICE来場者数は267万人に上る。コンサートや展示会、会議・集会、大相撲・スポーツと多様な催事が年間を通じて開催されており、既に多くの市民、そして観光客が日常的に利用している場所だ。このエリアは「将来の開発地」ではなく、今まさに動いている生活・文化の拠点なのである。
なぜ長期化するのか?MICE・クルーズ・国内定期、3つの機能が絡み合う複雑さ
長期化の理由を一言で言えば、「それぞれ異なる課題を抱えた複数の機能が、同じエリアに集積しているから」だ。
MICE機能
MICE施設の核となる福岡国際センターと福岡サンパレスは、ともに1981年開業で築45年が経過し老朽化が進み、バリアフリー対応が不十分であるなど施設が時代の変化に対応できていない部分も明らかになっている。しかしこの2施設の稼働率はそれぞれ70%台で推移しており、稼働を止めるわけにはいかない状況だ。特に福岡国際センターは、伝統興行の唯一の舞台でもある。毎年11月に開催される大相撲九州場所(定員6,976人)は2024年、2025年と、場所前に全日程チケットが完売するほどの盛況を見せている。毎年5月に開催の新日本プロレスのレスリングどんたくも、季節の風物詩として定着している。老朽化している施設ではあるが、需要が減ることはない。
クルーズ機能
クルーズ機能は、復活の兆しを見せつつある。コロナ前の2017年に約326回を数えた博多港のクルーズ船寄港回数は、2020年以降ほぼゼロまで落ち込み、計画全体の見直しを余儀なくされた。現在は2024年度、2025年度とも200回強と回復傾向にあるが、ピーク時にはまだ届いていない。クルーズ客のうち個人旅行客の割合は2025年には23%まで増加しているが、クルーズ客が寄港地観光に向かうためのタクシーや観光バスがクルーズセンターに集中し、コンテナヤードに出入りする物流車両との交錯が慢性的に生じている。需要の拡大に、環境が追いついていない。
国内定期機能
国内定期機能は、やや性格が異なる。博多ふ頭を発着する壱岐・対馬・五島航路は、離島住民にとって日常の生活航路だ。議会報告資料にも「市民や離島住民の生活航路であるため、運航を止めることなく更新が必要」と明記されている。博多ふ頭第2ターミナル・上屋は築50年で老朽化しているが、経済的な理由ではなく社会インフラとしての使命から、1日も運航を止められないという制約の中で更新を進めなければならない。
動いている部分、止まっている部分 再整備の現在地を整理する
もちろん、全く動きを見せていないわけではない。
振り返れば、2021年のマリンメッセ福岡B館の開館はこのエリアにとって数少ない具体的な成果だった。老朽化した施設群が課題として残る中、新たな展示場が加わったことでA・B館の一体活用が可能になり、A館の稼働率向上にもつながった。
もっとも具体的に進んでいるのが国際定期機能の移転だ。現行の港湾計画において、国際定期機能は現在の博多港国際ターミナルから中央ふ頭東側への移転が既定路線として位置づけられており、JR九州高速船の撤退で生じた博多港国際ターミナルの一部未利用スペース(約1,600m2)の有効活用とあわせて、早期移転に向けた取組みが進んでいる。
一方で、国内定期機能については現地建替または他地区への移転を検討しているが、まだ詳細な段階には至っていない。施設の更新という点では、MICE施設も老朽化状況の詳細調査を進めており、施設を一体的・機能的に配置したMICE拠点の形成を目指す方向性は示されているが、建替えの順序・スケジュール・手法はいずれも未決定だ。
マリンメッセ福岡の館内掲示には、天神・博多駅への徒歩での移動を推奨する掲示がされている。距離がさほど遠くないことの証明ではあるが、実際には天神までは徒歩で約25分、博多駅まで徒歩約30分かかる。福岡国際センターで大相撲九州場所が行われる際は、高齢者中心の客層ということもあり、臨時バスを待つ長蛇の列が見られる。大規模イベント時のアクセス問題は、このエリアだけにとどまらない。マリンメッセ福岡や福岡サンパレスでコンサートが行われる際には、博多駅前のバス乗り場にも長蛇の列ができるのが日常的な光景だ。
それでも期待が集まる理由 海と都市をつなぐ「ウォーターフロントネクスト」の可能性
「全貌が見えにくい」ウォーターフロントネクストだが、だからこそ完成したときの期待は大きい。
実際にこのエリアを訪れると、老朽化の指摘される施設が依然として高稼働で動いていることがよく分かる。大型クルーズ船が岸壁に着き、離島行きのフェリーが発着し、コンサートや展示会の来場者が行き交う。そのエネルギーが、将来への期待を支えている。
市が描く将来像は「MICE・クルーズ・賑わいが融合した一体的なまちづくり」だ。機能的に一体化されたMICE拠点、クルーズターミナルに隣接する商業施設・ホテル、海辺を活かした連続的な賑わい空間、例として横浜みなとみらいやバンクーバーのコンベンション地区のような都心ウォーターフロントの姿が挙げられている。
国内でも横浜のパシフィコ横浜や長崎の出島メッセのように、MICE施設を一体化・集積することで誘致力を高めている事例がある。ウォーターフロントネクストが完成した暁には、福岡もMICE誘致力を高める都市の1つとなるはずだ。現状、施設間は徒歩で移動できる距離にありながら一体感のある空間にはなっていないが、再整備が実現すれば海辺の賑わいと施設群がシームレスにつながる景色が生まれるだろう。
天神ビッグバンや博多コネクティッドが陸の再開発とすれば、ウォーターフロントネクストは海と都市をつなぐ再開発だ。完成の姿はまだ遠いが、その先にある福岡の都心は、海を日常の風景として取り込んだ、これまでにない街になるはずだ。
成重 敏夫
編集者・ライター・広報
福岡県在住のWeb編集者・ライター。北九州市と福岡市を拠点に、スポーツ(特に野球・サッカー)、地域の取り組み、DX、GX、スタートアップなど、多彩なテーマで取材・執筆を行う。観光施設の広報としても活動し、地域の魅力を多角的に発信中。北九州市のローカルメディア「キタキュースタイル」を運営し、街と人々の魅力を発信している。また、企業やプロスポーツチームへの取材を通じ、地域の活性化や新たなビジネスの創出に貢献する記事を提供している。2022年2月に株式会社プランチャを設立し、地元企業の情報発信支援に取り組む。
この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。