「劇伴童貞を捧げたのが大根さんでよかった(笑)」石野卓球×大根仁監督がNetflixシリーズ『地面師たち』制作秘話を語る!〈不動産詐欺事件〉を元にドラマ化
Netflixシリーズ『地面師たち』大根仁×石野卓球インタビュー
2017年に東京で実際に起こった不動産詐欺事件を題材にした新庄耕の小説が、Netflixシリーズ『地面師たち』としてドラマ化された。
Netflix作品を手がけるのは初となる大根仁が、自ら企画を持ち込み実現させた本作。綾野剛、豊川悦司のW主演に加え、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史など、演技合戦にも期待が高まる豪華キャスト陣が集結した。
そして地面師集団、大手不動産ディベロッパー、警察の三者が入り乱れて進行していく本作のサスペンスをさらに加速させるのが、電気グルーヴの石野卓球が手がける音楽だ。
大根監督にとって念願だったというオファーに120%で応えた石野。二人にとってもエポックとなる『地面師たち』について、ざっくばらんに語ってもらった。
大根「“これは卓球さんだろうな”という直感がありました」
石野「劇伴童貞を捧げたのが大根さんでよかった(笑)」
―綿密なストーリー展開はもちろん、キャスティングの妙が今作の大きな魅力だと思います。豊川悦司さんと綾野剛さん、小池栄子さんはそれぞれ別作品で印象的な共演を残していますし、リリー・フランキーさんと池田エライザさんは音楽番組でともにMCを務めています。卓球さんとピエール瀧さんももちろんですし、作品外のリアルな関係性も取り込んでいるようにも感じました。
石野:マキタスポーツと瀧も草野球仲間だしね(笑)。
大根:プライベートで知っている人も何人もいますけど、あんまり意識はしてないというか、あくまで役に合う人を選びました。ただ、瀧さんに関しては自分でキャスティングするのは初めてだったんですよ。『モテキ』(2011年)には出てもらいましたけど、あれは“ピエール瀧役”だったので。
ずっと仲良くさせてもらってますけど、瀧さんを役者として使うということは僕にとって非常にハードルが高いことだったんですよね。
―そのハードルを飛び越えたポイントは何だったんですか?
大根:原作を読んでるうちに、後藤が瀧さんにしか思えなくなったのが一番大きいですね。ただ、あのキャラクターが標準語だったらお願いしてなかったと思うんです。関西弁というフィルターを通すことによって瀧さんを演出しやすくなるというか。瀧さん自身も縛りができることによって、やりやすくなるんじゃないかと。と、思いきや瀧さんは関西弁が超ストレスだったらしくて(笑)。
―卓球さんに音楽を依頼されたきっかけは?
大根:今までの映画でもドラマでも、スチャダラパーのSHINCOくんとか、TOKYO No.1 SOUL SETの川辺(ヒロシ)さんとか、坂本慎太郎さんとか、同世代の自分がよく聴いてるミュージシャンにお願いすることが多かったんですが、卓球さんは昔からいつかいつかと思ってて。でも、生半可な作品じゃお願いできないので。僕は脚本を書きながら音楽をイメージするんですけど、今回は「これは卓球さんだろうな」という直感がありました。機が熟したというか。
地面師グループ、騙される人たち、警察という三つの柱が、土地を巡ってどんどん前に進んでいく話じゃないですか。そこには四つ打ちのエレクトロなループミュージックが合うんじゃないかと思ったのも、理由の一つですね。
―ちなみに、卓球さんと瀧さんはどちらから先にオファーされたんですか?
大根:ほぼ同時じゃないですかね。
石野:それによってバーター感が変わってくるから(笑)。実は、劇伴を担当するのは初めてなんですよ。主題歌を作ったことは何回かあるんですけど、作品全体の音楽というのはなくて。劇伴童貞を捧げたのが大根さんでよかった(笑)。
大根「最初の10曲が本当にバッチリだった」
―どのような劇伴のイメージを伝えましたか?
大根:『LUNATIQUE』(2016年リリースの石野卓球ソロアルバム)がすごく好きで。「あの音像をサントラにアップデートしたようなものでお願いできませんか」と。
石野:ライブの楽屋で依頼されたんですよ。正直、初めてのことだから不安もあったけど、「出てくるみんなが悪いやつで、不穏な感じなんで」って言われたから、だいぶ気が楽になりました。
大根:正義のヒーローが出てきたり、ましてやピュアなラブシーンがあるような作品は卓球さんにお願いしないので(笑)。
石野:俺に頼まれてもね(笑)。
―実際の作業に取り掛かったときは、どこから発想していったんですか?
石野:出来上がった台本を読んで、その上で10曲くらいラフスケッチみたいなデモを大根さんにお渡しして、「こんな感じでいいですか?」ってお伺いを立てたんですね。その方向性は間違ってなかったみたいで、思ったよりもスムーズに進みました。
大根:そうそう、最初の10曲が本当にバッチリだったんですよ。第1話の中華料理屋でハリソン(演:豊川悦司)たちが話してるシーンを撮影してるときにメインテーマかハリソンのテーマが上がってきて、その曲があまりにも良くて。「このシーンにはこの曲が流れるので、こんな感じでやってみてください」ってテスト中に流したら、みんなきょとんとしてました。
石野:瀧も「やりづらい」って言ってました(笑)。
大根:嬉しくなっちゃったんで(笑)。その10曲から派生して、「このシーンにはこういう曲がほしいです」という感じで追加でどんどん発注していって、それに職人のように応えていただいて、最終的には40曲くらい作っていただきました。
石野「あくまで物語をサポートする素材の一つ。そこにミュージシャンとしての自我みたいなものは必要ない」
―普段の音楽制作との違いはありましたか?
石野:やっぱり監督の意向があって作るものなので、やりすぎちゃいけないというか。音楽として成り立つものを作っても、結局それが映像を邪魔しちゃう場合もあると思うんですよね。自分が映画を観てるときにそういうのを感じたりすることもあるので、そこは気を付けました。音数も展開も寸止めというか、ぐっと堪えて。
大根:その辺の空気というか、映像作品において音楽はそんなに主張するものではないということを最初からわかってらしたので、ありがたかったですね。
最終的に卓球さんの音源を映像に当てていって、そのときにサウンドデザイナーが調整していく。「この場面はベースを減らそう」みたいなときに1トラックずつ単音で聞いていったりするんですけど、これまで散々いろんな劇伴を聴いてきたサウンドデザイナーが「この単音はヤバい!!」と。
―音そのものの強さがあるわけですね。
石野:単音で納品すればよかった。
大根:いやいやいや(笑)。単音がいちいちリッチというか、高級というか。あれは何なんですかね?
石野:俺は右も左も分からないまま、大根さんの導き通りにやってきただけだから。自覚はないんです。サウンドデザイナーさんが調整してくれると聞いてたので、その辺は安心していつも通りやりました。
―最終的には自分の手を離れてミックスされるというのも、普段とは違いますよね。
石野:その辺はあんまりこだわりはないんですよ。あくまでも物語をサポートする素材の一つというふうに捉えてるので。そこにはミュージシャンとしての自我みたいなものは必要ないと思うし。
大根:いつも自分が好きなバンドなりミュージシャンなりに頼んでるので、大概スムーズなんですけど、今回は特にスムーズでした。言えばどんどん曲が出来上がってくるので、途中からクセになっちゃって。
石野:そういうもんだと思ってるからさ(笑)。
大根:結果的に普通の映画よりも多めに作ってもらいました。
大根「エンディングをスキップさせない、最後まで聴かせたいという目標があった」
ー実際に劇伴がついた映像をご覧になっていかがでしたか?
石野:作ってるときは全体像が見えてないというか、部分部分にフォーカスしてるので、まとまって観たときには作曲した本人も想定してないような使われ方をしてたりして、新鮮でしたね。いっぱい作ったんで、「これ俺が作った曲?」っていうのもあった(笑)。
大根:曲が良すぎて、かけすぎたかなっていう気がしてるくらいで(笑)。Netflixのドラマって、本編が終わってスタッフロールが流れるとすぐ次の回にスキップできるようになってるじゃないですか。そこをスキップさせないという目標がありましたね。エンディングをちゃんと最後まで聴かせたいという。
―2話目以降はオープニングもスキップできますが、毎回見入ってしまうかっこよさがあります。
大根:(オープニングとエンディングで流れる)メインテーマは何回聴いても気持ちいいですよね。
石野:最初に大根さんに渡したデモの中にその曲も入っていて、早い段階で「これをメインに」って決まってましたよね。メインが決まれば、自ずと方向性が決まってくるので気が楽でした。他は出来てるけどメインが決まらないってなると、相当気が重いので。
大根「やっと理想の“制作環境”が見つかった」
―卓球さんはラジオなどで「俳優としての瀧の魅力に最近気がついた」とおっしゃってますよね。
石野:そのきっかけが、この『地面師たち』なんですよ。ラフ編集の映像を見るときも気が乗らなかったんですよね。瀧がやっぱり近すぎる存在だから、客観的に見れないし。粗探ししちゃったりして(笑)。でも、意を決して見たら「あれ? 恥ずかしくないぞ」と。変な感情が芽生えなくて、あいつも成長してんだなと思って。監督の使い方の上手さもあるとは思うんですけど。それで、他のはどうだろうと思って『サンクチュアリ -聖域-』(2023年/Netflix)とかも観たり。
―瀧さんアレルギーを克服したというか。
石野:まさにそうです。今は好きな役者ですもん。シルエットだけ見たらロバート・デ・ニーロだし。もしくは、どーよのテル(笑)。
―関西弁を喋ってるというのも、普段の瀧さんから距離があってよかったのかもしれませんね。
石野:うんうん、それもあると思います。
大根:瀧さん本人はだいぶピリピリしてましたけどね。関西弁は本当に難しいので。現場では関西弁指導の方とマンツーマンでずっと練習してました。
―Netflixでの制作は、今までの映画・ドラマと比べていかがでしたか?
大根:お世辞を言うわけじゃないんですけど、制作環境という点において、やっと理想の場所が見つかったという感じがします。予算的なことや、撮影スケジュールを含めて。労働環境込みでグローバルレベルなんだよなと。作品自体に関してもめちゃくちゃ表現の自由度が高かったですし。
―本筋とは関係ないセリフにも、実在の企業名や政党名が当然のように登場していますよね。それが本作のリアリティに大きく貢献していると思いました。
大根:そうですよね。本当はもっとやりたかったんですよ。新聞のタイトルとか、検索してるPC画面とか。もっとやれたなと。
取材・文:張江浩司
サウンドトラック 全30曲が、7/25 (木) デジタルリリース決定!
石野卓球が初の劇伴を手がけた、渾身の30曲!
Netflixシリーズ『地面師たち』は2024年7月25日(木)よりNetflixにて世界独占配信
©新庄耕/集英社