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北九州市のスタートアップ育成に関する考察 多角的視点で見る地域発展の可能性

キタキュースタイル

北九州市が「日本一起業家に優しいまち」を掲げ、スタートアップ育成に注力してきた努力が実を結びつつあります。帝国データバンクの最新調査で、北九州市小倉北区・小倉南区が新興・スタートアップ企業の出現率11.0%で全国トップとなり、注目を集めています。八幡西区も8.9%と高い数字を示し、全国平均3.6%を大きく上回っています。

参考:「新興・スタートアップ企業」の出現率、北九州市など福岡県勢が台頭https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000877.000043465.html

この結果について、NPO法人Startup Weekend公認ファシリテーターの糸川郁己さんとスタートアップ支援施設・COMPASS小倉の事務局長・福岡広兵さんに見解を伺いました。おふたりの意見から、北九州市のスタートアップ環境の実態と今後の可能性が浮かび上がってきます。

スタートアップ環境の変化

COMPASS小倉5周年イベントの様子(2023年7月撮影)

糸川さんによれば、北九州市のスタートアップ環境の強さは、複数の要素が組み合わさった結果だといいます。「創業支援セミナーなどの公的支援策、既存の大企業によるDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を使った業務やサービスの変革)の推進、そして事業承継問題への革新的な取り組みなど、多面的なアプローチが功を奏しています」と分析します。

一方、福岡さんは過去5年間の変化に着目します。「スモールビジネス、スタートアップともに起業する方々のリテラシーが上がりました。YouTubeなどの動画媒体で創業や起業についてわかりやすくまとまった情報が多く存在するようになったことが大きいですね」と指摘。さらに、働くことに関する概念の変化や、コロナ禍をきっかけに地方でも資金調達がしやすくなったことも変化の要因として挙げています。

調査結果の解釈と背景

調査結果の解釈について、糸川さんは慎重な姿勢を示します。「この調査では、企業数が200以上の市区郡のみが対象となっており、中小規模の自治体は含まれていません。また、『新興・スタートアップ企業』の定義が2019年以降に設立された企業と広く、急成長を目指すスタートアップと、安定成長を目指すスモールビジネスが同列に扱われています」と指摘します。

福岡さんもこの点に同意し、「この数値はスタートアップ企業の創出だけでなく、地域に根付くスモールビジネスの数値も盛り込まれています。ニュースのネタとしてはスタートアップの創出や成長がフィーチャーされがちですが、スタートアップとスモールビジネスのいずれも地域経済にとって重要です」と述べています。

具体的な支援策とその効果

スタートアップ体験イベント「Startup Weekend北九州」(2022年6月撮影)

糸川さんは、市や商工会議所などが実施してきた創業支援セミナーなどの施策が、新規ビジネス創出に寄与していると指摘します。また、北九州市が3年連続で経済産業省のDXセレクション選定企業を輩出するなど、既存企業のDX推進も特筆すべき点だと述べています。

福岡さんは、自らが事務局長を務めるCOMPASS小倉の取り組みについて、「実際に創業経験のあるインキュベーションマネージャーが、業種等の制限を設けずに柔軟に対応しています」と説明。さらに、独自のアクセラレーションプログラムにより、創業前後のスタートアップ企業に対する集中的なサポートも行っているといいます。

「COMPASS小倉としては、事業を作る、いわゆる0→1(ゼロイチ)の部分を徹底してサポートしてきたことが、微力ながら調査結果に寄与したと考えています」と福岡さんは述べています。

今後の課題と展望

糸川さんは、北九州市内の企業総数の減少(2009年の約3万5千社から2021年の約2万8千社)を指摘し、この傾向への対策の必要性を示唆しています。一方で、日本の近代化を支えてきた歴史ある企業が多く存在する北九州市には、産業構造の変化に伴う新たなビジネスチャンスも生まれているといいます。

福岡さんは、今後も新たな企業の創出に寄与したいという意欲を示しつつ、スタートアップとスモールビジネス双方の重要性を強調。両者のバランスの取れた発展が、北九州市の経済にとって重要だと指摘します。

北九州市の事例は、スタートアップ支援において数値だけでなく、地域の特性や課題を深く理解し、長期的視野を持って取り組むことの重要性を示唆しています。既存産業とスタートアップの共存、DXの推進、事業承継問題への取り組み、そして地域に根ざしたスモールビジネスの育成など、北九州市は多面的なアプローチでスタートアップエコシステムの構築を進めています。

この取り組みは、他の自治体にとっても貴重な参考例となるでしょう。単なる数値の向上ではなく、地域の実情に即した持続可能なエコシステムの構築こそが、真の意味でのスタートアップ支援につながるのです。北九州市の今後の展開が、日本全体のスタートアップ環境の発展にどのような影響を与えるか、注目が集まっています。

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