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神楽坂の坂上いぶし銀横丁の謎。コアな人とモノが集まる「一水寮」文化圏は世界を見すえる

さんたつ

神楽坂駅1A出口を出て前方右手、ひとつめの脇道に入る。神楽坂の坂の上は裏通りに一本入ると静かな住宅エリアが広がっている。脇道の渋い魚屋の先、トタン張りの民家脇の目立たない私道へ左折。細く折れ曲がった道をくねって進んで行くと道が開け、年季の入りまくった2階建て木造家屋が目に飛び込んでくる。脇に丁寧にリヤカーまで立てかけてあって、まるで昭和中期に迷いこんだかのよう。駅前のすぐ裏手にこんな白日夢の空間が潜んでいようとは……最初、いきなり目にすると少なからず驚くはず。 通称「よこみち通り」に鎮座するこの建物は、「一水寮(いっすいりょう)」という。しかし、壁に文化庁・登録有形文化財であることを示すプレートが取り付けてあるだけで、看板らしきものも説明もない。中に人の気配はあるが玄関口は閉ざされ、周囲の静けさも手伝ってどことなく敷居が高い。メガネ店と料理店が隣り合っているが、こちらもひっそりとして入りにくい雰囲気。私道を隔てて並ぶ同じくらい年季の入った平屋のお屋敷ともども独特の雰囲気を醸しだしている。ここって何なの? 地元民のひとりとしても長く気になっていたのだが、今回全貌を掴む機会に恵まれた。紹介していこう。

独特の雰囲気を醸しだす謎の建物の正体

「一水寮」は1951(昭和26)年、ご当地の建築家、故・高橋博氏によって建てられた。仕事を任せていた大工たちの寮である。並びの平屋は、母屋として建てられ、後に娘婿である鈴木喜一氏が改修した住まい。同じく登録有形文化財で今もご家族の住まいである(非公開)。

ちなみに高橋氏は自宅からほど近い神楽坂沿いに建築事務所を開設、現在は『アユミギャラリー』として営まれている。切妻屋根が美しいハーフティンバー風の木造家屋は、こちらも登録有形文化財。高橋物件は神楽坂上の美観に大きく貢献している。

登録有形文化財を示すプレートと、未だ現役のリヤカー。

「一水寮」は時代の流れと共に寮から、高橋博氏と同じく建築家だった鈴木喜一氏の事務所スタッフ、学生、クリエイターなど縁者の住まいに転用された。2016年(平成28年)、耐震補強を含めた徹底した改修工事が行われ、以後複数の店舗と事務所が入居して、多目的に使用されている。

外観内観をそのままに改修した様は見事で、さびたトタンに囲まれた外観からは想像のつかない程、水回り、床、柱に至るまで目立たないように補強され、修理の手が入っている。年代モノの木枠の窓ガラスひとつとってもすきま風ひとつ通さない。

古びているがしっかりした造り。灯りを抑えた廊下に静かなときが流れている。
建物の外壁とは対照的に手入れの行き届いた室内。白い壁が印象的。

「室内は冬でも暖かいものですよ」と話してくださったのは、1階に事務所を置く不動産『トランジスタ』の木村茂さん。高橋博氏の孫にあたる現オーナーの鈴木歩さんを補佐して、借り手の選別・運営に当たっている。

鈴木歩さん(左)と木村茂さん。「一水寮」の名の由来は今となってはわからないとか。

2022年6月現在、「一水寮」にはギャラリー2部屋、ワークショップを目的とする3部屋と、残りの部屋は事務所が入居している。部外者の入館は不可だが、ギャラリーのオープン日(路上に小さな看板が出る)とワークショップ参加者は、当日関連のある部屋に出入できる。実際伺ってみるとオーナーは皆気さくで楽しい方ばかり。そしてそれぞれの分野で深くこだわりを持って仕事をしている。

息をのむ美しさの品々が並ぶ『うつわ松室』

まずは2階から。1階は土足OKだが、2階は木造の階段の前で靴を脱がなくてはならない。狭い階段をぎしぎし鳴らして登り、年季の入った板張りの廊下を振り向いた突き当たりが『うつわ松室』だ。

部屋と相まって着物姿が絵になる松室真一郎さん。

主人の松室真一郎さんの眼鏡にかなったうつわ類を月2回のペースで展示販売している。大きく切り取られた木枠の窓ガラスから降り注ぐ自然光の下、毎回趣向をこらして並べられる品々は、その様子だけで息を呑む美しさ。価格はその時々の催事で異なるものの、ぐい呑みなら3000円代の品も登場し、意外と手を伸ばしやすい。

松室真一郎さんは元来、伝説的な靴磨きでもある。六本木の某有名セレクトッショップに専用スペースを持つほど、その世界で名を知られていたが、元来うつわ好きで着物好き。着物で溶け込める街=神楽坂で一水寮に出会い、店を始めるに至った。一水寮2階の一室という店のロケーションに最初は躊躇するかもしれないが、どなたも歓迎。主の好みで満たされた静謐な空間に魅了されることだろう。

写真は毎年開催される艸田正樹(くさだまさき)のガラス器展のもの。あえて冬の時期を選び、外光だけで展示。水がたゆたいているような表情が特徴の艸田作品の魅力を、白々と冴えた日射しがさらに引き出している。この部屋ならではの表現だ。

また『うつわ松室』は、松室さんの奥様で刺繍作家である三原佳子さんが主催する「日本刺繡 露草」と共有スペースでもある。同じ場所で刺繍教室と年に2回程度、展示会が開かれる。実は「一水寮」、三原さんが最初に惚れ込み借りたものに松室さんも魅了されて合流したのだとか。

開催日は氏の撮影する美しい商品写真とともにインスタに掲載される。

●『うつわ松室』HP:https://www.utsuwa-matsumuro.jp/ Instagram:@utsuwamatsumuro

●「日本刺繡 露草」HP:https://www.sisyu-tuyukusa.net/ Instagram:@japanese_embroidery_tuyukusa

『Terakoya Kagurazaka』は伝統様式や技術に関するワークショップを開催

2階中ほどにある部屋は『Terakoya Kagurazaka』を主催する佐々木康裕さんの部屋。佐々木さんは、大手セレクトショップのトゥモローランドでメンズ事業部創設、事業部長を勤め上げた人物。丸の内店はじめ数々の店舗のプロデュースも手がけた。仕事と視察を兼ねた海外出張も多く、旅先で目にしたのが日本の伝統に根ざした品々の人気と、輸入品となるがゆえの値段の高さ。日本のよき品々を伝えるには、完成したモノよりも、生きた文化として日本人を世界に派遣していくほうが、広がりが期待できるのではないか? と考えるに至り、「寺子屋ワークショップ」を掲げて開いたのが『Terakoya Kagurazaka』だ。

「日本人特有の伝統的な生活様式を伝えることによって、もっと海外の方々に日本人を知って頂き、もっと日本、日本人に興味を持って頂く。そんな活動を江戸時代に存在した寺子屋になぞらせて頂きました」という佐々木さんの言葉通り、日本の伝統様式や技術に関するワークショップを定期的に開いている。対面しやすい距離と人数から参加者を6~8人にしぼり、肩肘はらない雰囲気を醸しだしている点もいい。生花、組子製作、家紋を描く会、紋切り紙あそび、水引のお正月飾りなど、佐々木さんの厳選の和のイベントが目白推し。神楽坂の小粋な六畳間から世界を見据えている。

青木さん。物腰は低く、志は高く。
これはお抹茶の会の時の様子(写真提供=佐々木康裕さん)。

●『Terakoya Kagurazaka』 Instagram:@terakoya31

2階の角部屋は『神楽坂サンクチュアリ*「間」Persimmon』

2階東南の角部屋は、ライフ・カウンセラー青木麻奈さんが2人の友人とシェアしている『神楽坂サンクチュアリ*「間」Persimmon』だ。

左から、青木麻奈さん、林大貴さん、山口香さん。

「一水寮」オーナー鈴木さんの父であり建築家の故・鈴木喜一氏は武蔵野美術大学で教鞭を執っていたことがあり、青木さんはその時の教え子。師弟の縁で一水寮に出入するようになり、やがて魅せられ、活動の場として部屋を借りるようになった次第。

40年以上の歴史を持つというトランスフォーメーションゲーム®。

青木さんのカウンセリングは、「トランスフォーメーションゲーム®︎」というボードゲームを用いるのが特徴だ。色鮮やかなボード上に駒を進め、カードをめくりながら人生の旅に出る自己探求ゲームだ。ゲームというとっつきやすい道具を入り口に、参加者を魂の深淵へと導いていく。

友人の林大貴さんは、心に深い傷を負った人の苦しみを全身全霊で受け止め、救いを模索する重度のトラウマ解消セラピスト、ほとんど告知はしていないものの助けを求める声は絶えないという。

さらに『はり灸 一香堂』を営む鍼灸師・山口香さん。古典鍼灸をベースに脈診・腹診を中心に施術。身体のより深部にまで熱が浸透するネパール棒灸(冷え性に効果抜群)も手がけている。

3人は相談して利用時間をシェアして部屋を代わる代わる利用。都心部に位置する神楽坂の利便性のよさに加え、周囲の落ち着いた環境と、古民家・一水寮のもたらす包み込まれるような安らぎは、それぞれの仕事に大いに役立っているという。

●『神楽坂サンクチュアリ*「間」Persimmon』 facebook:https://www.facebook.com/MaPersimmon/

●『トラウマ解消セラピー』 HP:https://processworker.jp/healing_trauma.html

●『はり灸 一香堂』 HP:https://www.hitokadoh894.com/

毎月工芸品の展覧会が開かれる『工芸青花』

靴を履いて1階に戻ろう。ガラス戸の玄関すぐ脇の部屋は『工芸青花』のギャラリー。工芸青花はご近所の老舗出版社、かの新潮社が手がける工芸雑誌だ。以前から一水寮が気に入っていた編集長の菅野康晴さんが2017年に部屋を借り受け、毎月下旬に工芸品の展覧会を開いている。

雑誌編集に展示会の準備と日々多忙な菅野康晴さん。

3方を木枠のガラス戸に囲まれ、床はコンクリート、板張りの天井からはむきだしの電球がぶら下がる。一昔前の学校の美術室、または古風なアトリエのようなこざっぱりした室内に、板を渡しただけの長テーブルがしつらえられ、器などその時々の展示品が並ぶ。気取らぬシンプルな構成が、展示品をあるがままに見せている様がいい。初日は会員のみだが残り会期4日間は誰でも無料で入場可。

『工芸青花』は1冊1万円を超える新潮社で最高額の雑誌。1000部限定ながらほぼ完売の状態が続いている。年2、3回の刊行で、国内外の骨董、工芸、建築をテーマに、ふんだんに写真を盛り込んだ麻布張り上製本の通な雑誌は、そのものがすでに工芸品の風格だ。

「生活工芸」の器の代表的な展示風景(写真提供=菅野康晴さん)。
雑誌『工芸青花』。

今、工芸の世界では、日常使いで味わいを増すような現代の生活に密着した器類を「生活工芸」と呼び、日本発祥の新しい工芸の流れとして捕らえる動きがある。『工芸青花』ギャラリーは、その動きの一翼を担うコアなスペースでもある。世界的現代アーティスト村上隆氏も参画しているなんて話を伺うと門外漢には敷居が高そうだが、イベントの雰囲気は軽やかで開放的。『工芸青花』の見本も手に取ることができる。展示品の値段も時には数千円〜だし、展覧会ゆかりのちょっとした菓子なども販売されることがある。観賞するだけで終わらないかも。

●『工芸青花』 HP:https://www.kogei-seika.jp/

オーナー鈴木さんのスペースでは不定期イベントも

玄関から入って左手、『トランジスタ』の事務所前の廊下を経て奥に進むと、往年の雰囲気漂う畳敷きの小部屋のついた土間に出る。こちらはオーナー鈴木歩さんのイベントスペース。土間には年季の入った大テーブルがでんと置かれ、漆工芸の名工・宮下智吉さんの漆継ぎ(金継ぎ)教室や、不定期なイベントが開催されている。

土間なので引き戸で外に通じている。出た先は柿の木荘(後述)。

鈴木歩さんは、祖父から代々続く「一水寮」とその周辺の、奇跡的ともいえる落ち着いた環境を存続させるべく務めている。理解があって「一水寮」とマッチする入居希望者を厳選するのもそのためだし、向かいマンションも予定より1階低い建物になった。さらに改装時、隣接するアパートと大家さんの元住居を買い取り、四棟の建物の統一感を産み出すに至る。この住居は一から立て直すと建坪率の関係で小ぶりになってしまう。そのため外観は残し、内部をリノベーションする形をとっている。入居者は一水寮同様、ステキなクセ物揃いである。

土間には畳敷きの小部屋付き。

●「神楽坂一水寮漆研究室」 HP:https://miyashitatomokichi.themedia.jp/pages/1513963/lesson

歴史ある眼鏡ブランド『カメマンネン』

一見メガネ店には見えない和モダンな店構え。

2018年オープン。ショールームをかねる店舗はアートギャラリーと見まごう端正な佇まい。入ってみると適度な広さがあり居心地良し。『カメマンネン』は創業1917年、メガネの名産地として名高い鯖江(福井県)で誕生した工場を起源に持つ日本で最も古いブランドといわれている。

ブランド名は「鶴は千年亀は万年」に由来し、丈夫で永く愛用できるメガネ作りを目指す。その願い通りに1981年には軽量かつ高い耐久性を誇るチタン素材のメガネフレームの生産に世界で初めて成功。加えて下から逆V字型に延びる独特な鼻パッド(安定性抜群)の採用など、高品質なオリジナル製品を産み出してきた。だが安価な中国製フレームの台頭などで国内売り上げが低迷、2008年にブランドの販売強化を考え工場から独立。2018年に現社長のメガネデザイナーの土山博史さんに承継、知名度を挙げるべく海外にアピール。品質、高い独自性が認められ、ヨーロッパを中心に好評となり、アジアにも波及し、今や上海に店舗を構えるに至っている。

シンプルかつ完成度の高いオリジナル商品の数々。ことに丸メガネの評価が高い。

現代にアピールするようデザインに僅かに手を加えつつも、クラシカルな風格を供えたシンプル繊細なメガネは、絶妙なサイズ感の丸メガネを筆頭にいずれも手に取って掛けてみたら欲しくなる。値段も4万円前後~とクオリティーを考えたらリーズナブルだ。

スタッフの今尾さん。はっきり買う目的を持ってくるお客さまが多いという。

「一水寮」の並びという目立たぬ裏通りに店開きしたのは、都心部にあって、ゆっくり品物を見てもらえる場所だったからだという。入り口の段差は建物がアパートだった時代の名残だとか。この辺りのミックス感も味。

カメマンネン
住所:東京都新宿区横寺町31/営業時間:12:00~19:00/定休日:月・火/アクセス:地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩2分

ものづくりを実際に体験できる雑貨店『てならい堂(ひみつの小店)』

カメマンネンの脇、アパートの面影を残す階段を登り2階に登るとたどり着くのが『てならい堂(ひみつの小店)』である。ひみつといっても「慎ましく」程度の意味で、入店は自由、合い言葉とかは必要ない。

こちらは、一水寮2階にも事務所を持つ中村真一郎さんの『にっぽん てならい堂』のワークショップ兼雑貨の販売スペースである。

日々たいして考えることもなく、ただ買って消費するだけのモノに囲まれた生活は、はたして豊かなものなのだろうか。「モノを手に入れる方法にひと手間かけることで、私たちはモノや、それを作るつくり手の物語を知ることができる」という中村さんは、そのための体験・ワークショップを”てならい”と呼んで主催している。

佐々木康裕さん。部屋の奥は小ぶりなイベントスペース。

参加者は各地の工房や工場を訪ねたり、あるいは出張してくださるつくり手を通して、ものづくりを実際に体験。今までの例だと、フライパン作りのてならい(!)、麦わら帽子作りのてならい、伝統的なほうき作りのてならい、こだわりのネクタイ工房見学買い物体験など、数々の興味深いイベントが、生活に関する選択眼を深めてくれる。

ひと手間かかる生活雑貨が棚に並ぶ。

『てならい堂ひみつの小店』で扱う雑貨類も、その流れにそったいい意味で”いわく付き”の品々ばかり。手入れしながら育てていくオリジナルのてならい堂の育てるスプーン4400円、きちんとお手入れできるまな板お手入れセット5170円、親子で作るさぬきうどん英才教育キット7920円など、なかなか目にしないモノばかりである。

ひみつの小店を訪れれば、豊かな生活感覚を身につけ、子どもの世代にもつないでいく事を目指す、息の長いワークショップの一端に触れることができる。

●『てならい堂(ひみつの小店)』 土・日の13:00~18:00 HP:https://www.tenaraido.jp/ohanashi/shop-info/

『HASABON「破沙盆(はさぼん)」』でランチを

小坂考弘シェフ。料理の〆のお茶も自ら立てる。

『カメマンネン』『てならい堂(ひみつの小店)』の棟の裏手に隠れているのが『HASABON「破沙盆(はさぼん)」』。知る人ぞ知るミシュランガイド一つ星連続獲得の神楽坂の人気和食店『ふしきの』の姉妹店である。それまで入居していたカフェに変わって2020年開店。元一軒家の民家が、吹き抜けを持つスタイリッシュな空間に変身。狭い入り口をからして隠れ家風。大きな一枚板の立派なテーブルや、京都の古材を取り込んだ白い室内は適度にカジュアルで、席数をしぼりこんでゆったり。2階席の一角には購入可能な器を並べたコーナーもあり、茶席も設けてある。裕福な友人の開いたサロンに招かれたような居心地だ。

1階のテーブル席と物販コーナー。供される食器は購入可能。

開店当初は喫茶にも力を入れていたが今年から料理メインに舵を切った。料理は「ふしきの」と違い、和食ではなくてフレンチ。店を取り仕切る小坂考弘シェフは、日本料理の経験もある腕を活かし、ひとクセある料理を給する。

ランチは野菜から美味レベルの異なる料理を、相応の値段で堪能できる(3850円~)。〆には好みの器を選んでお茶をいただける(オプション)。これが意外なほどマッチ。口をまとめてくれる。

店の奥はカメマンネンと共有のちょっとした中庭になっている。「一水寮」に挟まれた異空間ぶりが魅力的。

HASABON「破沙盆」(はさぼん)
住所:東京都新宿区横寺町31/営業時間:水・木の11:30~14:00・17:00~21:00LO(土・日は11:00~21:00LO)/定休日:月・第3火/アクセス:地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩2分

神楽坂で一番コアなモノがぎゅっと集まった場所

母屋と一水寮。

ひととおり回ってお話を伺った。どなたも我が道を行くプロフェッショナルばかり、部屋同士の交流は、無視しているわけではないのだが、ほぼないというのも自然の成り行きか。しかし方向性は違えど、そろって「一水寮」の居心地に魅了されている点は共通している。

「『一水寮』は建築家が建てたので、ただの古民家とは違うんですね。窓が多く巧みに配置されているとか、窓格子で縦線を強調しているとか、そういう独自性も魅力になっているのかもしれません」と答えてくださった『工芸青花』菅野さんの言葉が印象的だった。なるほどこの古民家はクリエイティブな気配を確かに宿している。静かな環境と相まって住み手の創造力を刺激するのかもしれない。

神楽坂というと観光エリアにある石畳の路地が有名だが、坂上の住民エリアで昭和の面影を濃厚に残す「一水寮」は、外観のみならず、おそらく神楽坂で一番コアなモノやイベントがぎゅっと集まっているであろう穴場である。

実は裏手の敷地にアパートも有している。玄関前の柿の木にあやかり「柿の木荘」という。関係者の宿泊や資料倉庫として使われていたが、現在秋に向けてリノベーションが進行中。1階は貸店舗になるという。どのような新顔が入居する事になるのか今から楽しみだ。「一水寮」エリア、訪れてみれば神楽坂の新たな魅力を発見できることだろう。

『一水寮』詳細

一水寮(いっすいりょう)
住所:東京都新宿区横寺町31/アクセス:地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩2分

取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊、奥谷道草(工芸青花)

*「一水寮」はオープン(不定期)している店のみ入場可能。また隣の棟は個人宅に付き、入ることはできません。ご注意ください。

奥谷道草
ライター
東京生まれ。MOOK『散歩の達人 台湾さんぽ』を執筆。都心部の道草散歩歴は半世紀あまり。月刊「散歩の達人」で独特のセンスと経験を駆使し、散歩ライターとして雑貨を中心に、喫茶・エスニックなどの企画を取材執筆。2010 年から台湾に夫婦でハマる。以後二人して中国語を学びつつ、主に首都台北をはみだし、各地方の魅力ある街あるきを模索散策。書籍は15 年『オモシロはみだし台湾さんぽ』、18 年に続編にあたる『もっとオモシロはみだし台湾さんぽ』を上梓。

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