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天智・天武だけではない!斉明天皇の「三人の皇子」に秘められた古代史最大級の謎

草の実堂

画像:天智天皇(百人一首画帖/狩野探幽筆)public domain

古代文化の香り豊かな郷として、日本の原風景とも称される奈良県明日香村。

同地には石舞台古墳、高松塚古墳、飛鳥宮跡など、日本が国家として歩み始めた飛鳥時代の遺跡が数多く存在する。

今年の夏には、明日香村を含む「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録が期待されており、いま注目を集めるエリアでもある。

飛鳥時代といえば、大化の改新を断行した天智天皇(中大兄皇子)を思い浮かべる人が多いだろう。

一方で昨今は、飛鳥時代を主導した天皇として、その母である斉明天皇(重祚前:皇極天皇)にも注目が集まっている。

しかし日本の礎を築いた女帝でありながら、彼女が生んだとされる三人の皇子、漢皇子中大兄皇子(天智天皇)・大海人皇子(天武天皇)には、多くの謎がつきまとう。

今回は定説ではなく異説を手がかりに、その謎をひも解いていきたい。

激動の飛鳥時代を動かした女帝・斉明天皇

画像:皇極天皇 (斉明天皇) public domain

斉明天皇の諱は寶皇女(たからのひめみこ)といい、594年に敏達天皇の血を引く茅渟王と、欽明天皇の血を引く吉備姫王との間に生まれた。

37歳で舒明天皇の皇后となり、642年に舒明帝崩御にともない49歳で皇極天皇として即位した。

このとき朝廷は蘇我蝦夷・入鹿が主導していたが、皇族などから反発が強まり、645年にいわゆる大化の改新のクーデターが勃発、同母弟の軽皇子が孝徳天皇として即位する。

655年、孝徳帝が崩御すると重祚して再び皇位に就き斉明天皇となり、661年に崩御するまで政権を担った。

その間の主な事績として、国内では隼人、蝦夷、粛慎(みしはせ)などへの対応、飛鳥とその周辺の宮都整備、対外的には百済救済のための朝鮮半島への介入が挙げられる。

従来このような斉明帝の政治は、皇太子中大兄皇子が主導し、女帝は単なる中継ぎでしかなかったとの見解が唱えられてきたが、昨今は斉明帝こそ激動の飛鳥時代に君臨し、律令国家の体制構築に大きな役割を果たした実力者とされている。

第一子・謎に包まれた漢皇子(あやのみこ)

画像:漢皇子の父高向王の祖父用明天皇 public domain

斉明帝が寶皇女の時代、20歳頃に用明天皇の孫である高向王(たかむこのおおきみ)との間にもうけたのが漢皇子(あやのみこ)である。

父・高向王が用明帝の孫であったことから、蘇我氏本宗家(馬子・蝦夷の系統)とも近い位置にあったと考えられる。
また、漢皇子という名から、渡来系氏族である東漢氏(やまとのあやうじ)との関係を想定する説もある。

漢皇子の生没年は、不明である。
そのことから斉明女帝と舒明帝との間に生まれた、中大兄・大海人の兄弟との関係もわからない。

それゆえに古くからこの二人との関係はさまざまに言われてきたが、それについては後述したい。

改新を主導した第二子・中大兄皇子

画像 : 天智天皇(中大兄皇子) public domain

626年、舒明帝と斉明女帝の子として誕生した。

中大兄皇子(なかのおおえのみこ)は、いうまでもなく後の天智天皇だ。
斉明女帝が皇極帝のときに、その御前で中大兄皇子らが蘇我入鹿を暗殺する乙巳(いっし)の変を断行した。

この変を発端とする政治改革が、いわゆる大化の改新である。
乙巳の変の後、皇極女帝は大王位を退き、孝徳天皇が即位する。

そして孝徳帝崩御の後、斉明女帝が皇位につくと中大兄皇子は皇太子となった。
皇太子在任中は、母斉明とともに飛鳥京の整備を行い、漏刻(ろうこく/水時計)をつくった。

しかし中大兄が行った最大の事績は、やはり百済復興のために朝鮮半島へ軍兵を派遣し、唐・新羅連合軍と戦った白村江の戦いであろう。

この戦いは、倭軍の惨敗で終わったが、その後の戦後処理では大宰府を中心とする西国防衛体制の強化、朝鮮式山城の構築をはじめとする防御施設の整備、また近江大津京への遷都など、中大兄の手腕には見るべきものが多かった。

国内政治では、初の全国的戸籍である庚午年籍の作成を命じ、太政大臣・左大臣・右大臣を任じるなど、後の太政官制につながる官職整備も進めている。

671年、病のため近江大津京で崩御した。

律令国家を完成へ導いた第三子・大海人皇子

画像:天武天皇 public domain

大海人皇子(おおあまのみこ)は、舒明帝と斉明女帝の子として誕生したが、その生年は『日本書紀』には記載がない。

『一代要記』や『本朝皇胤紹運録』が、その没年齢を65歳とすることから、誕生年は622~623年になる。
しかしこれでは兄の中大兄よりも早く生まれたことになるため、「65」は「56」の誤写と考えられてきたが、そのあたりも結論に至っていない。

この矛盾についても古くからさまざまな議論が交わされてきたが、これについても後述しよう。

一般的な史実に基づけば、大海人は兄・中大兄が皇太子時代から即位後、天智となってもよく補佐し、その大皇弟(皇太子)として大王位の後継者としての地位にあった。

内政面では、664年2月に中大兄の命で、冠位二十六階制を敷き、氏上を認定し、民部と家部を定めることを群臣に宣べている。

ただ天智が晩年になると、その子である大友皇子を寵愛し、政権首班である太政大臣に任じるなど、政治的実権を大海人ではなく大友の方に比重を置くようになる。

それがやがて天智の死後、壬申の乱に発展し、国内を二分する大乱となった。
この乱に勝利した大海人は673年、天武天皇として即位する。

再び飛鳥に都を戻した天武帝は、飛鳥浄御原宮で大化の改新政策を推進させる。
その事績は、天皇専制と皇親政治に基づき官制改革を実施、681年には律令制度の構築に乗り出し、それが妻の持統天皇に引き継がれ689年、飛鳥浄御原令として発布された。

また律令の整備だけでなく、本格的な宮都である藤原京の造営、さらに天皇という称号や日本という国号も天武帝が定めたともされ、その後に続く時代を構築した天皇ともいえる存在であった。

686年、即位から13年後に崩御、その志は持統女帝に引き継がれ、奈良時代前半から中盤にかけてその皇統が続いていくのである。

三人の皇子(漢・中大兄・大海人)をめぐる謎

画像:天武天皇御影(矢田山金剛寺蔵)public domain

さて以上のように、斉明女帝と舒明帝の皇子である中大兄(天智帝)、大海人(天武帝)の果たした役割は非常に大きかった。

それはこの二人が、倭国が律令国家・日本として確立していく礎を構築した大人物であったといっても過言ではないからだ。

しかしそのような人物であるにもかかわらず、中大兄と大海人の真の姿は、謎というベールに包まれているのだ。
それはひとえに、斉明女帝が最初に産んだ漢皇子の存在にある。

大海人の生まれ年が、中大兄よりも早かったのではないか、という疑問を前述した。
そうなると、兄が大海人で弟が中大兄ということになり、兄弟が逆転してしまう。

それゆえに、大海人が中大兄より年上だったという事実を『日本書紀』が意図的に伏せたのではないかとする説が唱えられてきたのである。

これに基づき大海人の正体について、実は漢皇子ではないかとの見解も示されている。
つまり、大海人は中大兄の実弟ではなく、異父兄であったというものだ。

しかしこの異説に立てば、天智帝(中大兄)が大友に大王位を継承しようとしたのはむしろ当然のことであり、継承権が低かった大海人は壬申の乱を起こして大友を死に追いやり、皇位を奪い取ったとも考えられるのである。

また大海人という名は、海部氏の一族出身の乳母に育てられたことに由来するという説もある。

海部氏は諸国の海部を統括した伴造で、海上交通や外来勢力との関わりも深かったとされることから、大海人の出自を新羅系、あるいは新羅の皇族に結びつける説もある。

画像:乙巳の変 public domain

乙巳の変の実行犯には、大海人の存在は見当たらない。

その理由としては当時、大海人がまだ幼かったというのだが、誕生年が622~623年ならば、すでに20歳は越えている。

また、蘇我入鹿暗殺の現場にいた古人大兄皇子は、「韓人(からひと)が鞍作臣(蘇我入鹿)を殺した。吾が心痛し(悲しい)」と述べたと『日本書紀』に記されている。

『日本書紀』では、古人は入鹿殺害の実行者を「韓人」と表現している。
この「韓人」については、現場にいた朝鮮使節による襲撃だと古人が勘違いしたという見方がまことしやかに語られてきた。

しかし異説として読むなら、「韓(から)」は「唐」「漢」とも通じる表現であることから、「漢皇子」、すなわち大海人皇子を指した可能性も完全には否定できないと筆者は考える。

飛鳥時代は、日本という国家が形づくられた激動の時代である。
しかし、その中心にいた斉明女帝と三人の皇子の実像は、今なお完全には解き明かされていない。

だからこそ古代史は面白く、新たな史料の発見やそれに基づく研究によって、いつの日か真実に近づける日が来るのかもしれない。

※参考文献
市大樹著 『斉明天皇』吉川弘文館、『日本書紀』皇極紀・斉明紀・天智紀・天武紀 他
文/高野晃彰 校正/草の実堂編集部

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