『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』ハサウェイ役・小野賢章さん×ギギ役・上田麗奈さんインタビュー|ケリアとの関係から見えるハサウェイの大人になりきれなさ……そして、上田さんが考えるギギがハサウェイを求めてしまう理由
2021年6月に公開されたアニメ映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。その第2章『キルケーの魔女』が、いよいよ2026年1月30日(金)より公開となります。
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、シリーズの原典となる『機動戦士ガンダム』の総監督・富野由悠季さんによる角川スニーカー文庫で1989年から全三巻で展開された小説を原作とした作品。アニメシリーズでは村瀬修功さんが監督を務め、第1章はコロナ禍の影響を受けつつも22億円を超える興行収入を記録する人気作となりました。
アニメイトタイムズでは本作の公開に先駆け、ハサウェイ・ノア役の小野賢章さんとギギ・アンダルシア役の上田麗奈さんへインタビューを実施。第1章の収録から第2章の収録までに5年が経過しており、大変なこともあった様子。
また、ハサウェイならギギやケリア・デース(CV:早見沙織)、ギギならハサウェイとケネス・スレッグ(CV:諏訪部順一)に加えてメイス・フラゥワー(CV:種﨑敦美)といった、第2章の見どころとなるキャラクターとの関係についても伺いました。
【写真】『ガンダム 閃光のハサウェイ』第2章 小野賢章×上田麗奈インタビュー
ハサウェイには大人になりきれていない男の子のような部分も
──第2章『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の台本やシナリオを読んだ時の印象からお願いします。
ハサウェイ・ノア役 小野賢章さん(以下、小野):第1章の台本を読んだ時点では、まだ作品やキャラクターについて把握しきれていなかった部分が多かったんです。だけど、5年の月日を経て自分もガンダムのことをもっと深く知ることができました。それこそ、原作小説をもっとじっくり読み直して台本と向き合う時間があったので、ハサウェイや彼と接するキャラクターたちの心情などの流れの部分が、第1章の収録の時よりすんなり入ってきました。
3部作と明言して始まった内の第2作目が今回なので、本作で物語自体は完結しないのですが、だからこそ、この続きを早く知りたいなという気持ちにもなりました。また、今回の第2章はキャラクター同士の人間関係にフォーカスされている部分があるので、そういうところは収録を進める中で丁寧に表現できたらいいなという想いがありましたね。
ギギ・アンダルシア役 上田麗奈さん(以下、上田):ギギは相手の心を見透かしたり、掌の上で転がしたり、そういう万能感のある姿が第1章では印象的でした。第2章ではその第1章の端々で覗かせていた等身大の少女らしさがハッキリ見えてきた感覚があって、第1章とはキャラクターの印象が少し違ってきたように思います。
それこそ「ギギってこんな子だったっけ?」と思ったぐらいなのですが、ギギだけでなくハサウェイの印象も第1章から凄く変わったように思いました。
ハサウェイに関しては、第1章より理解しやすくなっていました。第1章での彼は、何に傷ついて何に悩んでいるのか、それすらもわからなくなってしまっているような印象を持っていました。絡まりに絡まったものへの自覚すら危うい……だからこそ、靄がかかったような雰囲気が感じられたのかなと。第2章のハサウェイはより自覚した上で悩んでいて、具体的かつタイムリーなものに対して藻掻いているような印象があります。
対する第2章のギギは第1章の靄がかかった雰囲気のハサウェイに近くて、自分でもわからないところに悩みとその答えがある。それが直感とスピード感をもって紡ぎ出されていくのですが、第1章とはまた違った印象だけど、これもまたギギなんだなと思いながら台本を読み進めた記憶があります。
──本作で改めて演じて大変だった点や、監督や録音演出の木村絵理子さんからのディレクションで印象に残っているものをお教えください。
小野:第1章から久々の収録ではありましたが、物語的には地続きで昨日の今日の出来事なんです。だから、まずはその5年間のブランクを感じさせないようにしなければならない。気持ちの面というより技術的な面での難題があり、そこは思い出しながら丁寧に収録を進めました。
事前準備として台本チェックをするといった当たり前のことだけでなく、第1章を見返したり、台本は基本的に台詞がメインでト書きの部分を省略していることがあるので、小説を読んで「この時、ハサウェイはどんな感情だったのか」といったキャラクターの心情の部分の補完や整理をしてから収録に臨みました。
ただ、それだけ準備をしても実はこういう意図があったんだと収録時に気付くこともあって。それは村瀬監督とお話をしたり、ディレクションをいただいた時に理解することが多々ありました。なので、準備不足というよりも、その場で対応するしかないと思って頑張っていましたね。
村瀬監督から言われていたのが、第1章のハサウェイはあのブライト・ノアの息子で好青年という、対外的な鎧を纏うことで自分を偽り、マフティー・ナビーユ・エリンその人だと悟られないようにしていた。それに加えて、外面で会話しているようなところがかなりあって、心の中と実際に出てくる言葉が乖離していることが多いということでした。
これはギギとの会話の中での駆け引きにも近く、どこまでこの相手は理解しているんだろうかと探りを入れているところもあるので、第1章では本当は違うことを思っているけれど、それを悟られないように、自然に会話しているかのように言わなければならない……という部分で苦戦していました。
今回はマフティーの仲間たちと共にいるので、第1章よりは居心地がいい。というよりも、第1章の時より少し素に近いところで会話できるシーンが多く、そういう意味では気持ちの整理がつきやすかった印象があります。
──ハサウェイは早見沙織さんが演じるケリアとの関係性を通じて、その内面が掘り下げられる部分があるように思います。ケリアとのシーンは演じていていかがでしたか?
小野:ずっと気まずい空気が流れているので、かなりしんどいシーンでした。そういう意味ではハサウェイはかなり素直で嘘が得意ではなく、まだ大人になりきれていないというか、割り切れていないというか。そういう男の子な部分が凄くあるなっていうのは思いました。
僕がケリアだったとしても、ハサウェイはもうギギに惹かれていると思うんじゃないかなと。言ってしまえばそういう上の空な態度なので、ギギと出会ってからのハサウェイしか知らない方でも、親しい関係だったであろうハサウェイとケリアがもうそんな関係には戻れないことが見て取れるシーンがあります。
ここでは村瀬監督から、もっと甘えている子供っぽく、駄々をこねているようにといったディレクションがありました。これまで見せなかったケリアと恋人同士であるというハサウェイの一面が出てくるので、もしかしたら、そういう関係性なのにハサウェイはケリアに凄く冷たくない? そっけなくない? というような印象になる方もいると思います。でもそれは、恋人にだからこそできる態度……のようなものなんです。
親しき仲にも礼儀ありなので、そんなことをしてはいけないとは思うのですが、こういうカップルは絶対いるよなって感じられると思います。だから、演じながらもこのふたりの掛け合いは何故だか重い気持ちにさせられましたね。
ギギにとってのハサウェイは自分らしく生きるために今一番必要な存在
──第2章のギギに関しては演じていてどんなところが印象に残りましたか?
上田:小野さんがおっしゃった私たちは5年ぶりの収録だとしても、キャラクターたちは昨日の今日で動いているという部分については、その情報を持った上で収録に挑まなければならなかったので私も凄く大変でした。順番的に他のみなさんの声が入っていない状態での収録をひとりでやらせていただいていたので、そこがまた難しかったなと。
ハサウェイだったり、ケネスだったり、みなさんのお芝居のちょっとしたニュアンスや機微を拾い上げて、それから台詞の中にニュアンスを出していくのが第1章のギギのアフレコ収録のスタンスでした。なので、台本チェックをしただけでは感じきれなかった機微や心情が拾えないのは、ギギとしてこの物語を生きるには困難な状況のように感じていました。
その難しさと闘いつつ収録を進める中で、今回は村瀬監督がひとつひとつの台詞に細かくディレクションをしてくださったんです。そのため、ひとつの台詞に対して何テイクもパターンを重ねて収録をしていた印象があります。
そうやって何パターンか録り終わった後に、どれも良いんだけど、もう一声となる時があったんです。そうなると「上田さんの自由にやってください」という指示が飛んでくるのですが、私の思うままにやってみたら「今のがギギだね」と纏まることもありました。
キャラクターの解釈に色々な可能性があるなんて、これは『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』の現場ならではだったかもしれないなって思います。監督の意志だけでなく、役者側の感覚も大切にしてくれる現場だったなと思いつつ、今回は難しかったですね。
──メイス・フラゥワーとやり合うシーンがコミカルな雰囲気だったと思います。収録の裏側をお教えいただけますか?
上田:ケネスとメイスの恋愛模様にギギも介入する三角関係という印象はなかったです。軍人としてのケネスを見にきたのに、男の人を食うメイスのような女の人がいると、自分の目的の妨げになる。それが許せないという気持ちがギギにはあるのかなって思っていました。
だからこの人にいなくなってほしいという考えのもとで会話をしていたので、このシーンではギギの見透かす力や誰かを掌の上で転がす力を見せられたのかなと。メイスはギギより年上の女性ですし、簡単に激昂するような方ではないと思うのですが、余裕を持った上でそんな相手を怒らせるなんて、ギギの凄く怖いところが見えたような感じもありました。
一番パターンを収録したのがメイスに対して耳打ちするところだったのですが、台詞をしっかり聞かせるのか、それとも聞かせないように工夫するのか、そのどちらにするか判断するために、色々なパターンを録りました。どのテイクが使われているのか、現段階では私自身も把握できていないのですが、この作品の現場のユーモア、遊び心のようなところを感じて楽しかったことを覚えています。
このシーンの前後でようやく元気なギギが戻って来たかのような印象を受けたのですが、それまではふさぎ込んでいるように思っていました。元気がない印象だったギギが心を決めてケネスの元に戻ってきたという、とても元気な姿が見られるシーンでもあったので、演じていても見ていても楽しかったんです。
──ケネスと接する時よりハサウェイと接する時の方が、なんとなくですがギギの感情がこもっているような印象があります。上田さんから見たこのふたりの印象についても聞かせてください。
上田:ケネスは大人として社会の中で生きている人なので、ギギからするとつれない部分があるのですが、それがつまらなさになっていることも多いのかなと。けれど、そんな一面を持ちながらも青春の香りを感じさせるようなギラギラした一面も持っているので、どちらも知った上で軍人であるケネスに魅力を感じているのもきっと本当なんだと思います。
だから話していて安定感や楽しさはあるのですが、それはギギの今までのスタイルでも太刀打ちしやすいところからくるものなのかなと思いつつ。ギギはケネスに対してクールな気持ちも持っているので、もしかしたら同族嫌悪もあるかもしれないなと考えながら演じていました。
ハサウェイはギギにとって、常に自分の血を滾らせてくれる……心躍らせてくれるような相手なのかもしれないと思っています。ケネスを見たからこそ膨らんだところもありそうですが、ハサウェイはより青春を感じさせてくれる。だから、ギギにとって自分が青春を感じるために必要な相手なのかもしれないのだけれど、それが恋愛感情なのかはわからない。
もしかしたら恋だったり、愛だったりとは違うものかもしれないけれど、ギギが自分らしく生きるために今一番必要な存在というものがあって、それでハサウェイを求めてしまうのかもしれないなって思っています。
ハサウェイと話していると嬉しい気持ちになっていることが多いんです。言ったことに対して大人なスカし方で対応するのではなく、ひとつひとつに真正面から向き合ってくれる。だから「私はここにいる」っていう感覚を得られているのですが、それは小野さんと諏訪部さんのお芝居によるところも大きいんです。あくまで個人的な解釈なのであっているかどうか分からないのですが、私の中では、ふたりに対してそういった違いがありますね。
──小野さんは今のお話を伺ってみてギギについていかがでしょうか。今回はほとんど一緒に行動はしていないとは思いますが……。
小野:上田さんの収録が終わった後、仮で音声が入っている段階のものを見た時の印象になるのですが、第2章でのギギは自分が一度きりの人生で何をしたいのかを見つめ直しているような印象がありました。これまでは他人を何でも見透かしているような不思議な女性でしたが、そんな彼女が自分を客観視して向き合っている時間が多かったと思います。
その本当に一部にハサウェイがいて、ケネスがいる。ふたりのどちらと行動したいかをおそらくギギ自身もまだ決めかねているところがあるんです。視聴者側としては第1章から5年が経過しているので、理解が深まっているかと思います。とはいえ、ギギからすると昨日の今日の出来事。そんな相手のどちらに自分の人生を委ねるのか、そんなこと一日、二日で決められることじゃありません。
それを第2章でのギギは、自分の今までの生活や経験も踏まえて、ここから先はどんな生き方をしたいのか、自分の心と会話するようなイメージで決めていきます。上田さんご自身も今回はすごく難しかったとおっしゃっていましたが、ギギは彼女自身がどうしたいのかがわからない状態から始まっていくので、そこが演じる時に難しかったんじゃないかなと想像していました。
──最後に、おふたりの演じられているキャラクターの見どころについてお教えいただけますでしょうか?
小野:第1章はまだ物語の序章であるという感覚が強かったのですが、この第2章はマフティーという組織にハサウェイが合流してからの物語が描かれるので、彼とその所属する組織の動きが物語の核になっていくかと思います。
元々ハサウェイには、マフティー・ナビーユ・エリンという偽名を名乗ってでもやりたいことがありました。けれど第1章では、ギギと出会ったことでそれを阻まれ予定が狂ってしまった。第2章では、いよいよ本格的にマフティーとして行動するハサウェイが見られます。
ギギとは第1章の終盤で別れましたが、ハサウェイは会ってしまうと後ろ髪を引かれるからと会わずに仲間たちと合流しました。やっぱり、対面で会って話をするとそれがその人のリアルだと思うんです。だけど、会えない時にその人のことを考えると、自分の理想にどんどん近づけていってしまう。自分の中でこうあってほしいっていう、その人への想いみたいなものがどんどん膨らんでいくと思うんです。
ハサウェイとギギはすぐに連絡を取り合えるような関係ではないので、今度はいつ会えるかわからない。もしかしたら二度と会えないかもしれないという状況で、ハサウェイ自身もギギの存在が自分の中でどんどん大きくなっていることは自覚しています。
そんな状況の中で、自分の立ち位置や遂行しなければならない目的……ギギと出会うより前から一緒に行動してきた仲間たちがいて、彼らを裏切ることはできない。そういう苦悩が、今回もハサウェイを苦しめるポイントのひとつになっていると思います。
──上田さんはいかがでしょうか?
上田:ギギがついている勢力が勝つ、得をする……そんな勝利の女神のような存在になっています。だから、彼女がハサウェイにつくのかケネスにつくのか、それがこのふたりの男性の対決という部分を大きく動かしていくのかなと。
ただ、自分がそんな存在として祭り上げられている自覚はギギ自身にはないと思うので、望んでそうなっていく訳ではありません。ギギが動かしているようでいて、大人たちに動かされている。大人たちが子供を動かしているような印象も受けると思います。
第2章ではケネスのもとに残っているところから物語が始まるのですが、先ほど小野さんがおっしゃられたように、ハサウェイと離れている間に気持ちが膨らんでいくようなことが、ギギにもあるんじゃないかと声が入った映像を見て改めて思いました。だから、そんなギギの変化や心の動きに注目していただければ嬉しいです。
──ありがとうございました。