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AORシンガー岩崎宏美のとんでもない名曲3選「南南西の風の中で」「名前のない花」「決心」

Re:minder

1985年06月05日 岩崎宏美のアルバム「戯夜曼」発売日

筒美京平が岩崎宏美に提供した楽曲は74曲


野口五郎108曲、岩崎宏美74曲… と書くと、勘のいいRe:minder読者なら何のことかすぐお分かりになるだろう。そう、筒美京平が2人に書き下ろした曲数である。野口は筒美に最も多く曲を書いてもらった男性シンガーであり、「グッド・ラック」(1978年)は和製AORの名曲として高く評価されている。

同様に、女性シンガーの中では圧倒的に多い曲数を書いてもらった岩崎も、筒美には特別に目をかけてもらった1人だ。デビュー以来、筒美が一切手加減せず書いたディスコ路線の曲で鍛えられた岩崎は、その後も筒美の手引きによってウエストコースト・ロックやフィリーソウル風の曲も歌うようになっていく。ゴロー版AORに決してヒケを取らない、“ヒロリン版AOR” の誕生である。

なお、AORの定義は2つある。 “Adult-Oriented Rock” と “Album-Oriented Rock” だ。よく説明に使われる前者は和製英語で、そもそも “大人向けのロック” という定義は曖昧すぎて意味がないと私は思っているので、本稿では後者の定義とさせていただく。

“Album-Oriented Rock” とは、シングルチャートを意識するより、曲としての完成度を重視した、いわゆる “アルバム・ロック” と呼ばれる曲を指す。そういう曲が歌えてこそ、“AOR歌手=大人の歌手” と言えるのだ。もともと楽曲志向の岩崎にはそういう持ち歌がたくさんあり、曲によってはシティポップと重なるものもあるが、以下、私が独断で “これぞヒロリン版AOR” だと思う楽曲を何曲か選んでみたい。

南国のリゾート地を思わせる「南南西の風の中で」


■「南南西の風の中で」(1978年)

筒美が全曲を書き下ろした通算7枚目のアルバム『パンドラの小箱』のB面5曲目、ラスト前を飾る1曲だ。シングル曲「シンデレラ・ハネムーン」のB面曲でもあり、A面同様、作詞は阿久悠である。この曲、岩崎は大のお気に入りで、あちこちでそう公言している。南国のリゾート地を思わせるトロピカルな曲で、それを楽しむかのような岩崎の歌いっぷりが聴いていて爽快だ。

演奏のクレジットを見ると、“Dr.ドラゴン&サウンド・オブ・アラブ” という、全然南国っぽくないバンド名が記されているが、Dr.ドラゴンの正体は何を隠そう、筒美京平である(別に隠さなくていいのに)。バンドメンバーは、坂本龍一、後藤次利、佐藤準、松原正樹、斉藤ノブ(現:斎藤ノヴ)。最強の布陣であり、さらにストリングスやブラス、フルートなどの楽器もふんだんに入って、まこと贅沢極まるオケだ。岩崎もすっかりリラックスして歌っていて、気分は完全にリゾートである。

朝、ホテルのベッドからなかなか起きてこない彼氏を待ちながら、ビーチで肌を灼(や)き、うとうとする主人公。南の島でノンビリしているだけで、とても幸せ…… 歌詞の上では、何か特別なドラマが起こっているわけでもない。でも岩崎の歌声を聴いていると、主人公が感じている “幸せな雰囲気” の中に自然と吸い込まれていくから不思議だ。相当な表現力がないとできないことを、サラッとやってのけているのがさすがである。

 秋の気配もなく 渚はきらめいて 
 南南西の風に私吹かれて しあわせ……

曲の最後、イントロと同じ旋律のストリングスをバックに、この「♪しあわせ……」がリピートされながらフェードアウトしていく。聴く側をまどろみへと誘うボーカル。これぞ大人の歌であり、AORだと私は思う。

異彩を放つ男歌「名前のない花」


■「名前のない花」(1981年)

通算10枚目のアルバム『緋衣草』収録曲。タイトルは “ひごろもそう” と書いて、洋名の “さるびあ” と読む。「月下美人草」「恋待草」「ひまわり」そして「緋衣草」など草花をテーマにした曲を中心に構成されたアルバムだ。岩崎は1981年、シングル「恋待草」「すみれ色の涙」「れんげ草の恋」をリリース。この3曲は “草花シリーズ” と呼ばれ、ジャッキー吉川とブルー・コメッツのカバー曲「すみれ色の涙」はオリコン最高6位のヒットを記録。岩崎はこの曲で第23回『日本レコード大賞 最優秀歌唱賞』を受賞している。

このアルバムは、その草花シリーズの延長線上で制作された1枚だ。LA録音の前作『Wish』(1980年)はAORに寄せた作りだったが、このアルバムは歌謡曲寄りの曲が多い。だが、その中で異彩を放っているのがB面ラスト前に据えられた「名前のない花」だ(作詞:わたなべ礼、作曲・編曲:松任谷正隆)。この曲、一人称は “ぼく”。珍しく男が主人公の歌で、これまた不思議と引き込まれてしまうAORナンバーである。

 このまま何もかも 振り捨てて
 君をつれていきたい
 
曲調こそ穏やかだが、情熱的な歌詞で始まるこの曲。“ぼくと駆け落ちしよう” と女性を逃避行に誘う歌だ。「♪このまま何もかも 振り捨てて」のくだりは不倫の匂いを感じたりもする。間奏のムーディーなサックスがまた効果的だ。

 夜汽車乗り継ぎ 誰も知らない駅に
 君とふたりで降りよう
 名前知らない花と 青い風に送られ
 君とふたりで降りよう

道ならぬ恋に走り、この先どうなるかわからない不安を感じつつも、この女性と生きていこうと心に誓う主人公。この「♪降りよう」のところで、音がポーンとオクターブ上がるのが聴かせどころ。2番ではこの部分の歌詞が「♪ぼくとふたりで生きよう」に変わり、主人公の決意がここに集約されている。

全体的に抑えたトーンの中で、岩崎が男性の立場から愛を歌い上げたこの曲は、アルバム『緋衣草』に力強い生命力を与えるナンバーで、まさに “Album-Oriented Rock” と呼ぶにふさわしい1曲だ。

独立した岩崎の固い “決心” を感じる「決心」


■「決心」(1985年)

前述の通り、1981年に「すみれ色の涙」で『日本レコード大賞 最優秀歌唱賞』を受賞した岩崎。翌1982年には『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系)のエンディングテーマ「聖母たちのララバイ」がオリコン4週連続1位の大ヒットとなり、翌1983年には、同じ『火サス』の主題歌となった「家路」もオリコン最高4位のセールスを記録した。アイドルから “大人の歌手” へと成長を遂げた岩崎。20代後半ともなれば、当然自分の意思も反映させたくなってくる。だが事務所には事務所の意向がある。今後どういう路線を歩むかで、いろいろと葛藤もあったようだ。

1984年、岩崎はデビュー時から所属していた芸映を離れ個人事務所を設立。独立して自分で決めた道を歩むことになった。前年に事務所の先輩・西城秀樹が独立したことも少なからず影響したと思われる。ただしレコード会社は移籍せず、ビクターに残留。楽曲制作にあたってはデビュー以来気心の知れたスタッフとでなければ、ということで、これも岩崎らしい。

当時、大手事務所を離れることはTVへの露出が減り、大きなコンサートも開けなくなることを意味した。だがその間、スタッフと共に “自分が歌うべき曲” を作ることに専念した岩崎。1985年にリリースされた独立後最初のアルバムが『戯夜曼』(ぎやまん)だ。

“ギヤマン” は江戸時代のガラス製品を指す言葉だが、もともとの意味はガラスを切るために使うダイヤモンドのこと。このアルバムからシングルカットされたのが、カメリアダイヤモンドのCM曲にもなった「決心」である(作詞:山川啓介、作曲:奧慶一、編曲:萩田光雄)。タイトル通り、独立した岩崎の固い “決心” を感じる曲だ。

この曲は「夢狩人」(作詞:松井五郎、作曲・編曲:奧慶一)と両A面でリリースされた。まずは「夢狩人」が池上季実子(岩崎とは堀越学園の同期生)出演のCMで流れ、その第2弾で「決心」をバックに満を持して岩崎が登場。ファンにしてみれば“待ってました!”という心境だっただろう。あらためて当時のCMを見返してみると、いきなり黒いセーターを着ている途中の岩崎のショット。ドキッとさせておいて、サビのこのフレーズだ。

 いい男になってね 時間をかけて
 いい男になってね 私の隣りで

すっかり大人の “いい女” になった岩崎がそこにいた。CMには使われていないが、さらにはこんな歌詞も――

 子供のように はしゃぎ合う
 真夜中の入江
 胸まで濡れたドレスを
 どこかで脱がせて

ここなんかは、独立していなかったら歌えたかどうか。でも岩崎が歌うと、こういうセクシーな文言も爽やかに聴こえるから不思議だ。そして、彼女自身が自分を縛るさまざまなものから解放されたからこそ、この歌詞が刺さる。

 あなたの中の少年を
 私にちょうだい
 守りつづけた自由を
 惜しげなくあげる

シングルとしても、オリコン最高15位のヒットとなったこの曲。アルバム『戯夜曼』でも柱となる重要な1曲だ。その後も岩崎は、まだメジャーデビュー前だった久保田利伸作曲のシングル「月光」(1985年)をリリース(作詞は松井五郎)。新しい才能とタッグを組み、AORシンガーへと歩みを進めて行くことになる。

HIROMI IWASAKI 50th TBS Special Collection
・発売日:2025年3月5日(水)
・仕様:6枚組DVDボックスセット(三方背豪華BOX / 特製デジパック仕様 / 解説書付き)
・価格:29,480円(消費税込み)



・DISC1「in 8時だョ!全員集合」(約66分予定)
・DISC2「in ザ・ベストテン」(100分)*数々の名場面を久米宏&黒柳徹子とのトークも含め収録
・DISC3「in ロッテ歌のアルバム +(プラス)」(64分)
・DISC4「in サウンド・イン“S” +(プラス)」(71分)
・DISC5「in BS-TBS」(約68分)
・DISC6「award 日本レコード大賞 +(プラス)」(約75分)合計444分

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