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『13歳からの地政学』著:田中孝幸

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子どもも大人も知っておきたい世界のしくみ!

13歳になると家族や学校といった身の回りにある社会の仕組みを理解しはじめ、大抵のことは自分でできるようになってくる。こどもから大人への階段を上りはじめるなかで、立派な大人になりたいという漠然とした思いはあるものの、何をしたらそうなれるのかわからない。この本は13歳のそんなもやもやに応えてくれるものなのかもしれない。

県内の進学校に通う大樹と勉強嫌いな妹の杏は、帰りがけに見つけた古い地球儀をきっかけに「カイゾク」と呼ばれるアンティークショップの店主と出会い、世界で起きている「なぜ」を学んでいく。一度は学校やテレビで耳にしたことがあるような各国の事例を、地政学をつかって解説し、大樹と杏とのやりとりをはさみながら質問に応えるかたちで物語はすすんでいく。

地球儀を眺め、各国の立場や近年の世界情勢について学んでいく大樹と杏。物語がすすんでいくなかで、ふたりは自分の目が届かない外の世界に目を向けはじめ、世界の仕組みを理解していく。特に印象的なのは、世界の強国として存在しているアメリカ、そして逆にアフリカの国々が長い間貧困から抜け出せていないことに触れる章。豊かさとは何か、貧しさを克服できない理由はどこにあるのか。これまで知識として知っていても、そこに隠れる問題の背景・本質まで見えていなかったことに気づかされる。著者自身を投影しているであろうカイゾクは、「差別やいじめ、不正をなくすことに効果的なことは関心をもつこと」であると語る。
世の中には問題が溢れているが、いざその問題が目の前に現れた時、気づかぬうちに「そうゆうものか」と素通りしてしまうことがある。関心を持つということは簡単そうにみえて難しい。カイゾクは問題に直面する人々の感情を想起させることで、「なぜ?」と自分自身で考えたくなるきっかけを与えてくれる。

自ら考え自分の答えを出すためには世界に目を向けて、多くのことを学ばなければならない。まだ知らない外の世界に飛び出すことは時に不安や恐れも伴う。それでも、そこにはぼんやりとある立派な大人になりたいという思いへ手がかりが隠れており、カイゾクは優しくその一歩を踏み出すことを促している。物語の終盤に、地球儀を前にした大樹と杏に問う「世界の中心はどこか?」という質問からも、世界という広い海を航海していくであろうふたりに向けたエールを感じることができる。
自分の大きな未来に立ちすくみ、新しい一歩を踏み出せなくなってしまった時、この本を開いてみるといいかもしれない。
カイゾクは、きっと背中を押してくれる。

著者:プロフィール

田中孝幸
国際政治記者。大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで取材した。大のネコ好きで、コロナ禍の最中に生まれた長女との公園通いが日課。40代で泳げるようになった。

『13歳からの地政学』
著者:田中孝幸
出版社:東洋経済新報社
価格:1650円

この記事の著者について
[テキスト/佐藤弘庸]
1987年札幌生まれ。2009年日本出版販売への就職を機に上京。入社後は紀伊國屋書店を担当。
2011年にリブロプラス出向。2016年より日販グループ書店の営業担当マネージャー。
2022年より文喫事業チームマネージャー兼 文喫福岡天神店 店長。

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