ジェントリフィケーションが進行している?外資系ホテルが続々開業する西成の過去・現在・未来
大阪市の南部にある西成区は、串カツで有名な新世界や通天閣のすぐ近くに広がるエリアだ。その入口にあたる新今宮駅の周辺で、ここ数年見慣れた景色が少しずつ姿を変えている。
このエリアは、かつては日雇い労働者が多く集まり、安く泊まれる宿が集まる街として知られてきた。ところが今、その西成に星野リゾートやマリオット系のホテルが相次いで開業している。昔から語られてきた街のイメージと、足元で起きつつある変化。今回はその両面から、西成エリアを追っていきたい。
西成エリアの過去と現在
西成の中でも、新今宮駅の南側に広がるあいりん地区は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、大阪の建設現場や港湾の仕事を支える人が集まる場所として発展してきた。日雇いの仕事を求める人と人手を探す事業者をつなぐ「寄せ場」がこの一帯に形成され、労働者が安く泊まれる簡易宿所、いわゆる「ドヤ」が街に数多く建てられた。
しかし、バブル崩壊後の不況や港湾労働の機械化が進んだことで、時代とともに建設や港の日雇いの仕事は減っていく。かつて働きに来た人たちも年を重ね、街の高齢化が進んでいった。多くの労働者が集まり、安い宿がそれを支える。かつての街の形は、時間をかけて少しずつ変化してきたのだ。
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そんな西成で、近年特に目立つのがホテル建設の動きだ。
転機の1つは、2022年4月に星野リゾートが新今宮駅前に都市型観光ホテル「OMO7大阪」を開業したことだ。客室は436室にのぼり、かなり大きな規模の都市型観光ホテルである。
さらに2026年5月には、米マリオット・インターナショナルが、日本に初めて進出するブランド「シティエクスプレス by マリオット」を西成区内に2軒同時に開業した。客室数は合計243室で、手ごろな価格帯のビジネスホテルとして展開している。
こうした大型ホテルが相次いで開業するのと並行して、もともと街に多かった簡易宿所が、外国人旅行者向けのゲストハウスや民泊に変わっていく動きも進んでいる。安く泊まれる場所が多いという西成の魅力は変わらないものの、その客層が働きに来る人から世界中の旅行者へと移りつつあるのだ。
長く受け継がれてきた街の姿に、観光と宿泊という新しい一面が加わりつつある。それが、今の西成の姿だといえるだろう。
西成エリアは高級化しているのか
新今宮駅前に外資系の大型ホテルが次々と建ち、簡易宿所が旅行者向けの宿に変わっていく。このような動きを見ていると、西成には「ジェントリフィケーション」の兆しが見え始めている、と言えそうだ。
ジェントリフィケーションとは「地域の高級化」のことだ。もともと家賃の安かった地域に新しい店舗や住居、資本が流れ込み、街の環境が良くなっていく。その一方で地価や家賃が上がり、昔から住んでいた人が住み続けにくくなって、住民の顔ぶれが入れ替わっていく。こうした一連の流れを指す言葉だ。
わかりやすいのが、宿泊施設の移り変わりだ。労働者向けの簡易宿所から、旅行者向けのゲストハウスや外資系ホテルへ。同じ宿泊施設でも、より単価の高い客層に向けて段階的に置き換わっている。これは、ジェントリフィケーションが進んでいる地域によく見られるパターンだ。
隣接するエリアとの関係からも読み取れる。西成のすぐ北には、通天閣がそびえる新世界がある。串カツ店が並び、国内外の観光客でにぎわうこのエリアの活気が、隣接する西成にも少しずつ流れ込んでいるのだ。
ただし、欧米などで見られるような、富裕層の移住による住民の入れ替わりという典型的なジェントリフィケーションが本格的に進行しているかというと、状況は少し異なる。今のところ変化が目立つのは宿泊や観光の領域で、住民が大きく入れ替わるところまでは至っていない。
LIFULL HOME'Sのデータによる地価の動きを見てみると、新今宮駅周辺の標準的な土地の価格は、直近3年間でおよそ8.42%上昇している。確かに上がってはいるが、同じ期間の大阪府全体の上昇率は7.53%で、新今宮の数字はこれとほぼ同じ水準にとどまっている。(LIFULL HOME'S「住まいのインデックス」2026年1月時点)
もし西成だけで高級化が進んでいるのであれば、周辺地域よりも地価が急上昇しているはずだ。つまり今の地価上昇は、西成に限った現象というより、大阪全体の値上がりの一部と見るのが自然だ。
この点からも、西成エリアの地価や家賃が上がる可能性が指摘されているものの、それが現実に居住エリア全体を動かしているとまでは言えない段階だといえる。しかし、宿泊施設が労働者向けから観光客向けへ転換しているように、街の主な滞在者が入れ替わるという独自の形でのジェントリフィケーションは、すでに進行している。
4つの視点で見るメリットとデメリット
こここまで見てきた西成エリアの変化は、立場によって好材料にも不安材料にもなる。それぞれの目線で整理してみたい。
昔から西成に住んでいる人たちにとって、大規模ホテルや新しい施設が増え、街の知名度やイメージが良くなることは嬉しいポイントだ。駅前がにぎわい、立ち寄れる店が増えれば生活はさらに便利になる。
一方で、街に注目が集まるほど地価や家賃は上がりやすくなる。さらに、長く続いてきた住民同士のつながりや、生活に困った人を支えてきた地域の仕組みが薄れていくのではないかという不安もある。
新しく進出する事業者やホテルの運営者にとっては、西成は魅力的な土地に映るだろう。増え続ける訪日客の受け皿になれるうえ、大阪の中心部に近いわりに、土地が割安な傾向にあるからだ。
ただし、インバウンド需要は景気や為替、社会情勢に左右されるため変動のリスクがある。さらに、その土地の背景を理解しないまま開発を進めれば、地元の人たちとの間に摩擦が生まれる恐れもある。
投資家の場合、一番の狙いは今後の地価上昇への期待だ。再開発や新しい路線の計画を見越して、早い段階で資産を持っておきたいと考えるだろう。
とはいえ、期待だけが先走って価格が過熱すれば、その反動も大きい。供給された宿泊施設や投資物件が需要に見合わなければ、空室が生まれ、そのしわ寄せを受けることになる。
そして自治体、つまり大阪市や西成区にとっては、開発が進めば税収が増え、長く付きまとってきた街のイメージを変えるチャンスになる。
一方で、西成は生活に困窮した人を受け止めてきたセーフティネットとしての役割も担ってきた。観光や宿泊で街を盛り上げることと、困った人を支える仕組みを守ること。この両方をどうやって両立させるかは難しい問題だ。
こうして並べてみると、ある人にとっての「街が良くなる」が、別の人にとってはそうでないこともある。誰の視点に立つかで、同じ変化が違って見えてくるのだ。
古い顔と新しい顔が共存する街へ
西成のこれからを考えるうえで、ポイントになるのが「なにわ筋線」だ。
なにわ筋線は、大阪駅とJR難波駅・南海新今宮駅を結ぶ新しい路線で、2031年春の開業が予定されている。この路線によって、関西国際空港や新幹線発着駅である新大阪駅へのアクセスがスムーズになると期待されている。
そして、新今宮駅がこの新線の乗り換え拠点のひとつになる。空港と都心をつなぐ動線の中に新今宮駅(西成エリア)が組み込まれることで、これまで「通り過ぎるだけの場所」だった街が、「人が降りて立ち寄る場所」に変わる可能性がある。
増え続ける訪日客と、新しい交通インフラ。この2つを追い風に、西成は外から人を呼び込む力をさらに強めていくだろう。
その先で問われるのは、新しい顔と昔ながらの顔が共に在り続けられるかどうかだ。
西成は、生活に困った人を受け止めてきた「福祉の街」としての歴史を持つ。そこに今、「観光・宿泊の街」という新しい顔が重なろうとしている。この2つは、どちらか一方がもう一方を追い出すものではない。
古くからの機能を残しながら、新しい役割をどう重ねていくか。共存の道を描けるかどうかが、街の今後を左右するのではないだろうか。
街の変化というと、大きなビルが建つかどうかや、派手な再開発があるかどうかに目が向きがちだ。しかし、本当に見るべきは、その変化が「誰のためのものか」を考えること。
新しく訪れる人のためなのか、昔から住む人のためなのか。その両方をすくい上げるのか。西成は今、その問いの入り口に立っている。西成がこれからどう変わっていくのか、引き続き注目していきたい。
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杉山 明熙
不動産特化ライター
元不動産営業のWEBライター。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、賃貸不動産経営管理士。12年間の不動産営業を経験後、不動産特化ライターとして大手メディアや不動産会社のオウンドメディアで、住まいや不動産投資に関する記事を多く提供している。不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。