「幅広い世代の方に刺さる作品になっていると思います」──アニメ『サイボーグ009 ネメシス』009・島村ジョー役を演じる梶 裕貴さんインタビュー
石ノ森章太郎先生による不朽の名作『サイボーグ009』は、2026年7月21日で初のアニメ化から60周年を迎えます。そんな今年、最新作『サイボーグ009 ネメシス』が7月19日より各配信プラットフォームにて配信スタート!
今作では001から009の通称「00ナンバーサイボーグ」と対となるサイボーグ集団「ネメシス」が立ちはだかります。それぞれが信じる正義のために戦う、18人のサイボーグたちの運命は……?
アニメイトタイムズでは、アニメ『サイボーグ009 ネメシス』の配信を記念して、主人公の009・島村ジョー役を演じる梶 裕貴さんに今作の魅力や見どころなどを語っていただきました。
【写真】アニメ『サイボーグ009 ネメシス』島村ジョー役・梶 裕貴インタビュー
『009』の最新作は00ナンバーサイボーグと対になるネメシスとの戦い。18人のサイボーグが入り乱れる!
──『サイボーグ009』はコミックやアニメが何度もリメイクされていますが、これまでに触れたことはありましたか?
島村ジョー役 梶 裕貴さん(以下、梶):石ノ森章太郎先生の代表作のひとつであり、昭和から現在に至るまで多くの人に愛されてきた金字塔的作品であることは、もちろん存じ上げておりましたが、この度、ジョーを演じさせていただくにあたり、初めて本格的に原作やアニメに触れました。
令和になって初、加えて、シリーズ誕生60周年を迎えるタイミングでの製作ということで、まさに記念すべきタイトルと言える本作。そんな中でのジョー役は、計り知れない責任やプレッシャーも感じましたが、それ以上に、ひとりの声優として光栄な気持ちが大きかったですね。長年の『サイボーグ009』ファンの皆様をはじめ、まだ本作を知らない世代の子どもたちにも作品を楽しんでいただく機会として、とても価値のあるアニメ化なのではないかと感じております。
──私は井上和彦さんが009を演じたTVシリーズの2作目をリアルタイムで観ていましたが、放送日翌日の掃除の時間は多くの男子が雑巾で廊下を滑って「加速装置!」と叫ぶのが流行っていて、女子にウザがられていました(笑)。
梶:すごい!(笑)。放送当時、それほどまでに子どもたちを熱狂させていたんですね。あらためて、作品の持つパワーに圧倒されます。セリフで言うと、009が高速移動する際の「加速装置!」だけでなく、「あとは勇気だけだ」も有名なフレーズですよね。もはやアニメやマンガに触れたことがない人でも知っているくらいの、いわば一般常識のようなイメージすらあります。
時代時代でのリメイクも印象的。映像技術の発達とともに、常に新しい表現にトライし続けてきた名作ですよね。今回のタイトルにある「ネメシス」は、ギリシャ神話の義憤の女神の名前。英語で「強敵」や「天敵」を意味するスラングでもあり、本作においてはゼロゼロナンバーサイボーグと対になる、9人の新しいサイボーグ戦士たちの総称です。9対9の対立構造は初めてということで、長年のシリーズファンの皆様も、新鮮に楽しんでいただけるのではないかと。
──ちなみに2019年に深夜番組『お願い!ランキング』内のアイデア文房具を紹介するコーナー「ブンボーグ009」で、万年筆のフォルムをしたキャラクター、芯村ジョーを演じられましたね。
梶:よくご存知ですね(笑)。パロディー要素が強い演出でしたが、ちゃんと石森プロの公認・監修を受けている作品です。当時、演じるにあたって気負いすぎるようなことはありませんでしたが、それこそ「あとは勇気だけだ」のような名セリフを言うときには、やはり緊張しましたね。リスペクトを持って、しっかり009らしく演じねばなと。
ただ当時は、今ほどネットで気軽に過去作を見られるような環境ではなかったので、資料探しに苦労しました。歴代009の皆様のお声を聴いて、すごく感動したのを覚えています。とはいえ、まずは自分にできるジョーを……まあ、あのときは芯村ですけど(笑)……を演じさせていただきました。
──芯村ジョーのお芝居が今回の島村ジョー役の決め手になっていたりして?
梶:どうなんでしょう?キャスティングを担当された方やスタッフの皆さんが「ブンボーグ009」をご覧になっていたのか、気になりますね(笑)。僕自身、今回オファーをいただいたタイミングで、「あっ!? そういえば昔……」と「ブンボーグ009」のことを思い出した感じなので(笑)。
──今回、009を演じるにあたって、監督から「こうしてください」というオーダーはあったのでしょうか?
梶:僕はネメシス009・グラビトン役の中村悠一さんと二人での収録でした。絵コンテを見ながら芝居をして、その音源をもとに絵を調整していく、という製作スタイルだったので、視覚的なヒントが得られない分、通常のアフレコよりも難易度は高かったように思います。なので、台本から受け取った情報を整理しつつ、自分たちの頭の中で想像し、構築していく作業が重要でした。
なかなか完成図がイメージしにくい中での収録ではありましたが、それでも、我々が提示したキャラクター像を好意的に受け入れてくださり、根本的な部分での修正やリテイクは、ほぼなかったと記憶しています。加えて、中村さんとはこれまでにも数々の作品でバディや宿敵役として共演させていただいてきたので、大きな信頼と安心感の中、楽しく掛け合いをすることができました。
009は正統派ヒーローでありつつ、葛藤や悩みを抱えるリアルさが魅力
──ゼロゼロナンバーサイボーグの9人はそれぞれ個性的ですが、009は熱く正義感がある、まさに主人公然としたキャラクターですね。
梶:まさに王道ヒーローですよね。でも、そんな「王道のヒーロー像」というのは、それこそ石ノ森先生が生み出されたと言っても過言ではないのかなと感じていて。
それが島村ジョーであり、ある種の原点。強い正義感を持ちながらも、ただただ熱血というわけではなく、生い立ちや過去には陰があり、戦いの日々の中、悩んだり、葛藤し生きている。
そんな生々しく、リアルな人間らしさは、以降の多くのヒーローたちに受け継がれている気がするんです。優しさや強さだけでなく、繊細さやナイーブさも抱えており、決して完全無欠ではない。でも……だからこそ誰もが共感できるし、応援したくなる存在なんだろうなと。
また今回は、ゼロゼロナンバーサイボーグとネメシスの「正義の捉え方の違い」が大きなテーマとなっており、グラビトンたちの存在や言動に対して、ジョーの心が揺れ動く描写がたくさんあるんですよ。自分がこれまでやってきたこと、これからやろうとしていることは、本当に正しいのだろうか? 彼らを悪と決めつけていいのだろうか? と。そこに対するジョーの葛藤は、彼を演じる上ですごく大事な要素になると感じ、丁寧に拾っていきましたね。
──ゼロゼロナンバーサイボーグの9人は個性がバラバラで強く、キャストの皆さんのお芝居が更に一人ひとりを魅力的に輝かせていた印象がありますが、今作もそこは変わらないですね。
梶:石ノ森先生が生み出されるキャラクター設定や造形は、本当に素晴らしいですよね。そもそもの大前提として、ゼロゼロナンバーサイボーグは「自らの意志と関係なく拉致され、合意なく改造されてしまった人たち」というバックボーンがあります。
それぞれが苦しい環境での生活を余儀なくされていたり、悲しい過去を背負っていたりと、闇や影のようなものを抱えている人たち。なので、おそらく皆さん、そのあたりを考慮されつつ、各キャラクターの個性を汲み取っていかれたんじゃないかと思うんです。
加えて、今回の物語は、数々の戦いを乗り越え、チームに絆が生まれた後を描いています。つまりは、最初から完成されたアイデンティティを提示する必要があり、もしかすると、そういった意味でのハードルは皆さん感じられていたかもしれませんね。
とはいえ、これまでの『サイボーグ009』シリーズで、諸先輩方が構築してくださってきた素晴らしい解もあるわけで、それらを踏まえることで、キャラクターの解像度を上げる方法もあったのではないかと思います。
──サイボーグに改造されても心は人間のままというのがこの作品の素晴らしさであり、胆でもあるのかなと。
梶:最強とも言えるサイボーグの体を持ちながら、その実、心の中では苦しみもがき、それでも悪と戦う。そんな姿に、視聴者は惹かれるし共感するんだと思うんです。僕自身、ジョーを演じていて、やはりそこにグッときました。
さらに今回は、ゼロゼロナンバーサイボーグの対となるネメシスたちもいるので、合計18人分の設定を被らず用意しなくちゃいけないわけですよね。もちろん、ただ枠を埋めていくんじゃなく、そのコントラストを魅力的に表現しなければならない。すごく面白いアイデアだなと感じつつ、実際に作り上げていくのは相当大変だったろうなと思います(笑)。
──アニメや特撮のライバル的な相手は1人や数体の場合がほとんどですが、9人というのはあまり見たことがありません。
梶:普通やりたがらないかもしれませんね(笑)。構成がめちゃくちゃ複雑になってしまうと思うので。そのあたりは、安保(英樹)監督や脚本の冨岡(淳広)さんとキャラテックスさんが絶妙なさじ加減で作ってくださったのだろうなと。
──1話では、ネメシスはゼロゼロナンバーサイボーグよりも能力や性能が上回っているように感じられました。
梶:確かに冒頭、ネメシスに圧倒的な力を見せつけられたような印象が強いです。なんたって、そんなゼロゼロナンバーサイボーグを超えるために作られた新世代のサイボーグたちですから。まあ、だからといって009たちがそのまま屈してしまうのかといえば……そのあたりは、ぜひ配信でお楽しみください(笑)。
『ネメシス』には、かつて009を演じたキャストも
──ゼロゼロナンバーサイボーグとネメシスで9人ずつ、計18人もいるのでみんなそろっての収録はなかなか難しかったかと思います。
梶:皆さん基本、セリフの掛け合いが多い、対となるキャラクターを演じるキャストさんとの抜き収録という形式だったはず。なので、僕も出演するキャスト全員を把握したのは、しばらく後になってからでしたね。
──今回の18名のキャストの方はそれぞれがアニメの主役を担当できるような豪華な声優陣ですごく驚きました。
梶:僕も驚きました。たとえば、今回ジェットの声を担当されている宮野(真守)さんは、映画『009 RE:CYBORG』(2012年公開)で島村ジョーを演じられていたわけですから。そんなケースもあるん!? だって(笑)。
そして、ゼロゼロナンバーサイボーグの声優陣にインパクトあるキャストをそろえたなら当然、ネメシス側にも負けないくらいの知名度と芝居力がある役者さんたちを集めないといけなくなる(笑)。なんたって、主人公たちのチームをおびやかす、または圧倒するくらいの迫力がないと盛り上がりませんからね。
だからこそ、もっともっとネメシスとの物語を観てみたい、演じてみたいと思いました。ネメシス結成秘話とか、各キャラクターの出自とか。それこそメンバー1人に1話くらい割いて、そんなドラマを観てみたいなという衝動にかられましたね。それくらい濃い面々だったので。
──ゼロゼロナンバーサイボーグ側は003しか女性がいないのに、ネメシス側は半数を超える5人もいるのはなぜなのかも気になります。
梶:そう! もしかすると時代も反映されているのかもしれませんね。いや、もう話し始めるとキリがない(笑)。今回のシリーズ配信終了後、ぜひスピンオフやアナザーストーリーを作っていただきたいです。その際は、できれば009たちの出番も作っていただいて(笑)。
──実際に映像をご覧になった感想をお聞かせください。
梶:これまでにも様々な時代でアニメ化されてきた『サイボーグ009』。きっと、その時代時代で考え得るベストな手法で製作されてきたのだと思います。もちろん、今回も例外ではありません。特にバトルシーンは見応えたっぷりでしたね。
──あと石ノ森先生の作品は、最後が切なかったり、悲しいものが多いので「今回はどうなるのかな?」という心配もありそうです。
梶:まだ配信前なので、どこまでお話ししてよいものやら難しいですが……(笑)。最初、ネメシスがすごく悪い集団に見えるかもしれませんが、一概にそうとは言い切れない部分があって。つまりは、単純に殺りくを楽しんだり、人を恐怖に陥れようとする、いわゆる「悪」とは少し違うんですよ。彼らには彼らなりの信念がある。
だからこそジョーたちも、戦う上で葛藤するんですね。単純な「善対悪」の構図ではないところに、石ノ森先生イズムを感じます。
この時代だからこそ多くの人に観てほしい
──楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。
梶:ゼロゼロナンバーサイボーグたちは、人種も、国籍も、生い立ちも、それぞれ違います。ジョーも、日本人の母親と外国人の父親のもとに生まれています。
今でこそ「多様性」という言葉や意識は一般的になってきていますが、これまでの日本の文化には、どこか「みんなで足並みを揃えることこそが美学であり、そこから外れるのは和を乱すという者」というような風潮があったように感じられていて。そんな空気感の中で、個が目立った表現や力を発揮するのは、少し難しい側面もあったのではないかと思うのです。
しかし、1960年代に描かれ始めた『サイボーグ009』では既に、背景の異なる9人がお互いの個性を尊重しあい、力を合わせて戦っていました。今回、あらためて石ノ森先生の原作に触れ、不思議なほど今の時代とテーマがリンクしていることに衝撃を受けました。
ありがたいことに近年、欧米やアジア諸国をはじめ、中東や南米など、世界中で開催されるイベントにご招待いただく機会が多いのですが、そこでも地域問わず、アニメというコンテンツが「誰もが等しく楽しめるもの」として存在していることを肌で感じます。
それこそ言語や宗教、文化など様々な垣根を超えて、みんながひとつになれるような計り知れないパワーを持っているのではないかと、本気で思います。『サイボーグ009ネメシス』という作品にも、そんな可能性を強く感じますね。
シリアスな物語ではありますが、肩肘張らずに楽しめる上質なエンタテインメントであることに変わりはありません。まずは難しいことを考えずに、ワクワクドキドキしながら本編をご覧いただけましたら幸いです。これまでのシリーズファンの方にはもちろん、本作で初めて『サイボーグ009』に触れられるという方にも、間違いなく楽しんでいただける内容になっているかと思います。
そのうえで、作品を受け取った方それぞれが、「自分の中にある正義とは何なのか」、「自分が今すべきことは何か」を見つめ直すきっかけになったら素敵ですね。もしかするとその問いは、原作者である石ノ森先生が作品の中で表現されてきたメッセージにも通じているのかもしれません。
──配信をご覧になった方はハッシュタグ「加速装置」で盛り上がってもらったり、子供たちには「加速装置」ごっこをしてもらえたらいいですね。
梶:「あとは勇気だけだ」のセリフも、合わせてつぶやいていただいて(笑)。009の加速装置は、もはや作品の代名詞でもありますし、もちろんバトルでもカギを握る重要な能力なので、使われるシーンや表現方法にも注目して、存分に楽しんでいただければ幸いです。