『プリズム輪舞曲』原作者・神尾葉子さんインタビュー|「女性にとって決して楽な時代ではなかった1900年代の中で、一条院りりという女性がどんなふうに生きていくか、それを見守りながら描きました」
『花より男子』の神尾葉子が原作・キャラクター原案・脚本を手がける完全新作アニメーション、Netflixシリーズ『プリズム輪舞曲』が、2026年1月15日よりNetflixにて世界独占配信されます。
本作は、1900年代初頭のロンドンを舞台に、画家を目指す日本人留学生と英国の大貴族の青年が出会い、互いに刺激を受けながら成長していく青春ラブストーリー。
主人公の留学生、一条院りり役の声優に種﨑敦美さん、大貴族の天才画学生キット・チャーチ役に内山昂輝さん、小早川新之助役に梶裕貴さん、ドロシー・ブラウン役に潘めぐみさん、ジョフリー・オブライエン役に阿座上洋平さん、ピーター・アンソニー役に坂田将吾さん、キャサリン・アスター役に上坂すみれさん、小早川さくら役に鬼頭明里さん、チャールズ・ブラント役に大塚芳忠さん、一条院たけ役に甲斐田裕子さん、リチャード・チャーチ役に諏訪部順一さんという豪華キャストが揃い、大きな話題を呼んでいます。
アニメイトタイムズでは、配信を記念して、原作・キャラクター原案・脚本を担当された神尾葉子さんにインタビュー。企画・プロデュースを務める櫻井大樹さんにも同席していただき、制作秘話から作品の見どころ、キャストについてなど、深く語っていただきました。
「イギリス貴族と日本人の女の子の恋愛を描きたい」という思い
──今作品はどのような経緯で作られていったのでしょうか。
神尾葉子さん(以下、神尾):5年前のコロナ禍のある日、櫻井大樹(企画/プロデュース)さんからSNSのDM(ダイレクトメール)が来まして、大変失礼なんですけど、「ちょっと、これは大丈夫かな?」と思いながら、お会いしました。でも、お会いしてから2時間後には、「やりましょう」となったんです。それは櫻井さんのご提案がすごく面白かったので「やりましょう」ということになって、次の週に脚本の原型となるプロットを書いて出すというスピードで決まりました。
──櫻井さんのご提案がすごく面白かったというのは、どんなところでしたか。
神尾:1900年頃(明治時代)の海外へ、日本人の女の子が一人で渡っていくというお話だったんです。「少女漫画的なものをやりましょう」ということで、少女漫画は私の得意分野でもあったので、やらせていただくことに決めました。
──作品作りの中で、こだわったポイントをお聞かせください。
神尾:私たちがこだわったところは、当時の風習や食べ物などですね。そういったことを大学でイギリス史を教えている先生にご相談をしたりして、徹底的にみなさんで相談して、作り上げていきました。
櫻井大樹さん(以下、櫻井):考えていたのは「大学に寮があるのか、下宿するのか、一人暮らしせざるを得ないのか、その辺りはどうなっているのか」ということで、イギリス史を教えている先生に聞いて、「寮はなくて、下宿」と教えてもらいました。他にも、「ランチタイムはどうなっているのか」なども教えていただいて、そこに則る形で作っていきました。そもそもイギリスという舞台にも、神尾先生がすごくこだわっていたんです。
神尾:「イギリス貴族と日本人の女の子の恋愛を描きたいな」と思っていて、初めは「絵画といえば、フランスなんじゃないか」というお話もあったんですけど、『プライドと偏見』(※1)のような恋愛を描きたいということで、「イギリスにしましょうか」となり、そういうことも、2時間の間で決まりました。
※1:2005年のラブロマンス映画。原作は何度も映像化されているジェイン・オースティンの小説『高慢と偏見』。
櫻井:僕は最初フランスと言ったんですよ。先生が「イギリスじゃないですか」と言って、イギリスが舞台となりました。フランスは共和制で貴族がいないので、絶対にイギリスの方がいいんです。先生はそういったことも、一瞬で看破して伝えてくれました。
神尾:(笑いながら)はい。一応、ストーリーは私が考えて、簡単なプロットと脚本をお出しして、監督(3rdディレクター)の藤井咲さんが絵コンテに合わせてのリライトをしていただいたという感じです。
櫻井:原作は1話から20話まで全て先生が描かれていて、それを監督チームに持っていっているという形です。絵コンテするにあたっては、尺や描写の問題で、少し絵コンテに合わせるような、アニメとして見やすいような形で、脚本を脚色していただいたんです。脚本として藤井さんの名前がクレジットにもありますが、脚色が藤井さんといった方が正しいような気がします。
──今回の作品で、柱にしたい、テーマにしたいところは、どういったところでしょうか。
神尾:自分が好きなことを貫く女性像といいますか。1900年代の主人公・一条院りりが生きた時代は、女性にとって決して楽な時代ではなかったと思うんです。好きなこともやめて、お嫁に行ったりする。そういう時代の中で、「彼女がどんなふうに生きていくか」、それを見守りながら描きました。
──アニメの脚本を書くのと、漫画を描くのでは違いがあったと思います。具体的にどういったところに違いや面白さを感じましたか。
神尾:漫画は担当編集者や仕上げにはアシスタントがいるんですけど、基本的に一人で全部描きます。私の『花より男子』という作品は、アニメにしていただいたことはあったんですけど、その時はアニメ会社にお任せして、私は漫画を描くというスタンスをとっていました。
アニメーションに関わったのは、今回の作品が初めてで、脚本という形で携わらせていただいたんですけど、初めての経験でした。参加してみてわかりましたが、漫画を描くことと、アニメーションを作ることはまるで違いました。アニメーション作りは一人ではなくて、みなさんで作り上げて、完成するものだということを知り、すごく刺激になりましたし、勉強になりました。
──漫画の毎週連載と違って、配信のアニメになるので、全20話を一気に見る人もいると思います。その辺りはどのように考えられて、作られましたか。
神尾:まず全20話ということで、必ず終わらせなくてはいけない。最後をどんなふうにするかというのを櫻井さんともすごく話しました。
櫻井:この作品は監督も2ndディレクター、3rdディレクターと3人いるという、ちょっと特殊な体制ですし、中澤一登監督が制作の方たちにも意見を求めるタイプの方だったので、神尾先生が描かれた全20話の脚本を読み進めるうちに、キャラクターに感情移入して「このキャラがこうなるのは、納得がいかない」とファン心理で言ってくるんですよ(笑)。
一般的には、制作進行が作品に口を出すことを嫌う監督もいますが、中澤監督はそういうタイプではなく、どんな人の意見でも、良いものは取り入れるタイプでしたので、「なるほど」と聞いてくださるし、神尾先生も「そんなにこのキャラクターに思い入れがあるんだったら、変えましょうか」とフレキシブルに対応してくださったんです。
神尾:みなさんで作っている感があって、「これがアニメーションの世界なんだ」と思って、すごく楽しかったです。
常に一番大事にしているのは、「気持ちのリアリティーをしっかり作る」
──今作品の主人公一条院りり(CV:種﨑敦美)、その相手となるキット・チャーチ(CV:内山昂輝)というキャラクターは、どのように生み出されていかれましたか。
神尾:りりに関しては、当時コロナ禍で世の中が暗い状態だったので、作品をご覧になる方が「元気が出るといいな」と思ってキャラクターを作りました。キットは二転三転して、初めはもう少し子どもっぽいキャラクターを作っていたんですけど、みなさんで話し合って、もう少し尖った天才肌のキャラクターを作り上げていきました。
──物語の中の二人の関係性について、お聞かせください。
神尾:二人が初めに惹かれ合うんですけど、なかなかうまくいかない。20話もあったので、結ばれそうで結ばれないとか、見ている方が「これからどうなるんだろう」と思うようなエピソードや流れに気をつけました。
──階級の差もあったり、物語の途中で、小早川新之助(CV:梶裕貴)が入ってきたりといろいろな出来事が起こりますが、どういったところを大事にして作っていかれましたか。
神尾:全てにおいてそうしているんですけど、「気持ちのリアリティーをしっかり作る」というところです。ご覧になっている方がちゃんと感情移入できる主人公でなくてはいけないと思っていましたし、そこは常に一番大事にしている軸でもありますね。
──キャラクターデザイン・総作画監督として、高橋靖子さんが担当されていますが、アニメーションになった時のキャラクターを見て、どのように感じられましたか。
神尾:そもそものキャラデザは私が描いてはいるんですけど、高橋さんにいろんな表情やキャラクター表を作っていただいて、当たり前ですけど、みなさん絵がお上手でビックリしました。
櫻井:基本的に全キャラクターは神尾先生が描いています。それをアニメーションのキャラクター化するために、高橋さんが描いているんです。
──キャラクターデザインのポイントをお聞かせください。
神尾:そこは高橋さんにお任せしていたんですけど、例えば「キットは大口を開けて笑わない」とか、「りりはああいう性格なので、明るくて見ている人がハッとするような笑顔で笑う」とか、そういうところは私が言わなくても、ちゃんとわかってくださっていました。
アフレコ収録現場では、声優のお芝居に感動して涙を流すことも
──今回の作品ではアフレコ収録には参加されましたか。
神尾:はい。
櫻井:神尾先生は、全20話のアフレコ収録の全ての回に参加してくれました。
──アフレコ収録について、感想をお聞かせください。
神尾:私は声優さんにあまり詳しくないんですけど、こんな私でも知っている声優さんばかりのキャストだったんです。こんなに素晴らしい方々が集まってくださったということにも、すごく感動しました。実際に立ち会ってみて、みなさんの演技が本当に素晴らしくて、すごくビックリしたんです。
例えば、種﨑敦美さんだったら、主人公のりりが泣くシーンがあるんですけど、収録現場のガラスの向こうで、種﨑さんのお芝居を見ているだけで、こちらも感動して涙を流してしまうことがありました。本当に素晴らしい演技をなさる方ばかりで、とてもありがたかったです。
──アフレコ収録で先生が演出されたことはありましたか。
神尾:全くないです。ただ、私がいることによって、「この感情とこの感情では、どちらかがいいですか」と最終的な判断を聞かれたら、「私はどちらかというと、こっちの感情ですね」というのはありましたけど、それ以外はなかったです。
──キャストはオーディションをして決められたのですか。
神尾:はい。私も含めて監督、櫻井さんなど、みなさんで「この方がいいんじゃないか」と話しました。
漫画を描く時に一番大切にしていることは、「自分が楽しんでいるか」ということ
──長く漫画家として生活をされていますが、漫画家にとって持ち続けているもの、必要なものはどんなことでしょうか。
神尾:まず漫画を描く時に一番大切にしていることは、「自分が楽しんでいるか」ということです。自分が楽しくないと、読者の方も楽しく感じてくれないんじゃないかと思っています。あとは、読者の方が読んで、次の日にちょっと楽しい気持ち、「次回が楽しみだな」と思っていただけるような、そういうものを常に描きたいなと思っています。
──『プリズム輪舞曲』という作品に触れて、ご自身の中で感じた変化や影響はどんなことでしょうか。
神尾:変化は、今まではずっと一人で作っていたので、大勢の方とお仕事をするというのが今回初めてで、例えば櫻井さんに「これ、どうしたらいいと思いますか」とか、今も相談しているんですけど、みなさんがいて、一人じゃないってすごくいいなと思いました。
櫻井:僕、驚いたんですよ。漫画家って、そうは言っても編集の方やアシスタントの方がいるので、もうちょっと集団で作ると思っていたら、基本は全部自分一人で考えていますと聞きました。
神尾:もちろんそうですね。
櫻井:それを聞いて、逆に驚いたんですよね。ずっとお一人で仕事をされてきた方だと、大勢の人と関わることがストレスに感じたりするんじゃないかと思いましたが、そんなことは先生から全く感じられなかったです。
神尾:本当にビックリするぐらい、みなさんと仲良くしていただきました。初めはコロナ禍だったので、マスクをしていて、みなさんの顔半分がずっとわからなかったんですよ(笑)。後半になって、アフレコ収録現場に通うあたりから、どんどん仲良くなっていって、もめることも一度もなかったですね。
櫻井:ないです。すごく良好な関係で、もうちょっと揉めてほしいぐらいでした(笑)。中澤さんもけっこう重鎮な監督ですけど、まず「神尾先生が何をやりたいか。どっちの方が合っているか。先生が決めてください」となるし、先生も「作品は監督のものですから、監督が決めてください。。自分が決めるのはおこがましいです」みたいな感じでした。
そういった謎の紳士と淑女の譲り合いがあって、「誰か、どっちか言ってくれ」みたいな流れになったりすると、「そんなこと言うんだったら、櫻井さんが決めてください」となってしまう。僕が「だったら、アニメーションプロデューサーの吉信さんが決めてよ」と、さらなる譲り合いになるんです(笑)。逆にそれぐらいお互いをリスペクトしていて、お互いの話を尊重して、相手がどう思うか決めようという現場でした。
神尾:(笑いながら)はい、そうです。
櫻井:ダビングやアフレコも多数決とまではいかないけど、テイク1、テイク2、テイク3の中で、どれがいいか決める時に、それも3票ずつ分かれたりする。そうすると、神尾先生が決めるという流れになるんだけど、神尾先生も「いや~、決められません」ということになって。最終的にはもちろん合意で決めていくんですけど、そういうプロセスがありました。あれだけのヒット作を飛ばした方ですから、天皇陛下みたいなイメージがあってもおかしくないんですけど、「こんなに謙虚な方なんだ」とビックリしました。
神尾:よくわからない世界に飛び込んだということもあるんですけど、みなさんにお任せしていました。ただ、私が思っている着地点と全然違うということが全くなくて、みなさん同じところに最終的に立っていたので、同じ気持ちで作っていけました。たぶん感覚がすごく似ていたりするところもあって、それは大変ありがたかったです。
──完成した作品をご覧になった感想をお聞かせください。
神尾:本当に映像も綺麗でしたし、声優さんの声で魂が入っているのが素晴らしくて、何も言うことがなくて、ただただたくさんの方に見ていただきたいという気持ちでいっぱいです。
──特にお好きなシーンやエピソードをお聞かせください。
神尾:私が特に好きなのは、17話から最終話までです。ちょっと特殊な演出があるんですが、それがすごく好きで、見ているみなさんにもビックしていただきたいなと思っています。
──作品を楽しみにしているファンのみなさんへメッセージをお願いします。
神尾:もうこれ以上ない、会心の作品です。私も含めたスタッフみなさんの全力で作った作品なので、ぜひたくさんの方に見ていただけたらと思っております。
──ありがとうございました!
[取材・文]宋 莉淑(ソン・リスク)