宮城県「白石きぼう学園」発 「不登校の子ども」に寄り添う「学校らしくない」取り組みとは
不登校を経験した子どもたちが、自分のペースで学びや人との関わりを取り戻していく場として、全国に広がる「学びの多様化学校」。今回紹介する宮城県白石市の白石南小学校・白石南中学校(通称・白石きぼう学園)は、2023年4月に東北で初めて開校した公立小中一貫型の学びの多様化学校です。
9時20分登校や、授業中につらくなった場合に、教室以外の場所で心身を整えるクールダウンを認めるなど、「学校が子どもに合わせる」ための工夫を重ねる同校。取材を通じて見えてきた、子どもが自分らしさを取り戻す教育の工夫と「学校の力」をお伝えします。
「誰でも不登校になりうる」課題認識から始まった開校への歩み
──白石きぼう学園は、どのような背景で開校したのでしょうか。
半沢芳典教育長(以下、半沢教育長):宮城県白石市では、「誰一人取り残されない教育」を掲げ、学力や不登校などの課題に向き合う教育改革を進めてきました。学びの多様化学校である白石きぼう学園も、その大きな取り組みの一つです。
白石市教育委員会の半沢芳典教育長。「誰一人取り残されない教育」を掲げる白石市の「教育改革3.0」をけん引し、白石きぼう学園の取り組みも支えている。 写真提供:白石市教育委員会
半沢教育長:不登校は、特別な子どもだけに起きるものではありません。一定の条件が重なれば、誰にでも起こり得ます。だからこそ、不登校の子どもたちを受け止める学びの場が必要だと考えました。
小中一貫にした背景には、兄弟で不登校を経験しているご家庭の存在もありました。小学生から中学生まで同じ学校に通えるようにすることで、保護者にとっての負担や利便性も考慮しました。
星健太郎校長(以下、星校長):現在(2026年8月現在)、本校には38名(小学生7名、中学生31名)の子どもたちが通っています。
学校生活や一斉授業のなかで学習への苦手意識を強く持ってしまった子、友人や先生との関わりで心が疲れてしまった子、大きな音などの刺激に敏感で、大勢の場にいることが難しい子もいます。
白石きぼう学園の星健太郎校長。2026年4月に着任し、子どもが安心して学校との関わりを取り戻せる環境づくりに取り組む。 写真提供:白石きぼう学園
星校長:けれど、子どもたちは決してやる気がないわけではありません。「行きたい」と思っても、心身が不安定になったり、家から出られなかったりする。
そのことに葛藤を抱いている子もいます。私たちの追求する学校は、そんな子どもたちの心のSOSを受け止め、安心して一歩を踏み出せる場でありたいと思っています。
「学校が子どもに合わせる」登校時間やクールダウンの柔軟な工夫
──子どもたちが安心して通えるよう、どのような工夫をしていますか。
星校長:「自分は自分のままでいいのだ」と、子どもたちが安心感を取り戻せるよう、本校では、子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせることを大切にしています。
手づくりの装飾が並ぶ校内のホール。 写真提供:白石きぼう学園
星校長:例えば、登校時刻は心と体のリズムを整えるという観点から一般の小中学校より1時間遅い朝9時20分に設定しています。また、登校のスタイルも柔軟にとらえており、「1時間だけ過ごす」「放課後に来る」「教室以外の部屋で学ぶ」といった選択も認めています。
さらに、授業中につらくなったときは、和室や相談室などでクールダウンすることも認めています。通常の学校では、授業中に教室を出ることが問題と見なされる場合もあるかもしれません。でも本校では、つらくなったことを自分で認め、必要な休憩をとることも大切な力だと考えています。
子どもたちの絵が並ぶ和室。安心して過ごせる空間になっている。 写真提供:白石きぼう学園
星校長:クールダウンできるとわかっているからこそ、子どもたちは勝手に席を立つのではなく、「少しクールダウンしてきます。5分後に戻ります」と伝えられるようになります。
もちろん、最初から全員が伝えられるわけではありません。一人ひとりの段階に合わせて、自分で調整する力を少しずつ身につけていきます。
「白石タイム」で子どもの自己選択・自己決定の力を育む
──学習面では、どのような工夫がありますか。
星校長:週4時間、「白石タイム」という学び直しの時間を設けています。
年に4回、「今、何を学びたいか」「どこでつまずいているか」を一緒に考え学びの方向性を決めます。
「算数をやり直したい」「漢検に向けて漢字を学びたい」という思いに応じて、子どもたちを小さなグループに分け、教員や支援員が入ります。プリントやAIを搭載したデジタルドリルを使いながら、それぞれの課題に向き合います。
学び直しの時間「白石タイム」。教員や支援員が見守るなかでそれぞれの課題に取り組む子どもたち。 写真提供:白石きぼう学園
星校長:なかには、3年ほど学校に通えなかった子もいます。これまで十分に学べなかった部分を補うことも、白石タイムの大切な役割です。もちろん、国語や数学など、学習指導要領に沿った教科の授業も行っています。
また、本校では、先生たちが子どもたちの話を最後まで聞き、意見を否定しないことを大切にしています。
自分の考えを言葉にし、受け止めてもらえる経験は、小さな成功体験となり、他者への信頼感を育む機会にもなります。そうした経験が土台となって、子どもたちの自己選択・自己決定を後押ししているのです。
──子どもたちの自己選択・自己決定を尊重することは、簡単ではないと感じます。
半沢教育長:すべての子どもたちに共通することですが、それは子どもたちが自己決定できないのではなく、それを発揮できる環境にあるかどうか。つまり、自己決定する場が少ないだけなのではないでしょうか。
白石きぼう学園には校則がありません。けれど、だからといって学校生活が乱れるわけではなく、子どもたち自身が必要なルールを考え、決めています。一方で、周囲が決めたことに従っているだけで生活できる環境では、自分で考える機会は少なくなります。
子どもは本来、意欲を持っています。その意欲を発揮できる環境を整えれば、少しずつ自分で考え、選び、より創造的に生活していけるようになると、私は思っています。
子どもに寄り添い続けるために教員が必要とする「時間の余白」
──一人ひとりに応じた関わりを続けるために、大切にしていることはありますか。
星校長:本校では、子どもたちが来る前に、その日の様子や前日の小さな変化を共有しています。朝は、急用がなければ職員全員で子どもたちを迎え、帰りも市民バスのバス停まで見送ります。
──それは、子どもたちにとってもうれしい時間になっていそうですね。
星校長:そうですね。本校は、子どもたちが学校に来ることを当たり前としない、「学校らしくない学校」でありたいと考えています。
本校は、部活動がないため、子どもたちが帰った後にも、先生たちで話し合う時間があります。「こんな声かけがよかった」「次はどう関わろうか」と共有や相談をしながら、翌日を迎えています。
「夢スタジオ」の取り組みで、子どもたちが自分たちで企画したお花見昼食会。 写真提供:白石きぼう学園
半沢教育長:学校現場では今、子どもに向き合うための「余白」を生み出すことが難しくなっています。子どもの小さな変化に気づき、「次はどう声をかけようか」と考える時間があってこそ、より質の高い教育につながるのではないでしょうか。
白石きぼう学園が子どもや保護者に寄り添えているとすれば、市内のほかの学校と比べて、そうした余白を確保しやすい環境にあることも大きいと思います。
変化する子どもと保護者の姿とその先に見える「学校の大きな力」
──子どもたちや保護者には、どのような変化が見られていますか。
半沢教育長:2023年4月の開校から3年間で、25人の卒業生を送り出しました。最初の年は、夏休み前まで「高校に行きたい」と言う中学3年生が一人もいませんでした。それが先生や仲間とのかかわりのなかで少しずつ変わり、最終的には全員が志望する高校へ進みました。
保護者の変化も大きいと感じています。入学前には、学校に不信感や強い思いを抱いていた方もいたと思います。その気持ちは痛いほどわかります。けれど子どもが通い、少しずつ変化していく姿を見て、今は学校や先生への感謝の言葉をいただくことが増えました。
「夢スタジオ」での笹巻きづくり。地域の食文化に触れる学びの時間に。 写真提供:白石きぼう学園
半沢教育長:不登校は、子ども本人も保護者も孤立しがちです。学びの多様化学校だけが答えではありません。教育支援センターなども含め、さまざまな場所や人の力を借りながら、その子と家庭に合う一歩を踏み出してほしいと思います。
星校長:一歩踏み出した先で、学力や社会性、人との関わりをもう一度作っていけることも、「学校の大きな力」だと私は信じています。
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最後に星校長が語った「学校の大きな力」を、白石きぼう学園は子どもたち一人ひとりとの日々の関わりのなかで形にしようとしていました。
取材・文/山田優子
写真提供:白石きぼう学園
白石市立白石南小学校・白石南中学校
(通称・白石きぼう学園)
住所:宮城県白石市越河平字平合23番地1
電話:0224-28-2013