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「全裸監督」の“性地”巡礼 村西とおるの原点を辿る!(文・本橋信宏)

日刊ゲンダイDIGITAL

村西とおる監督(C)日刊ゲンダイ

「全裸監督」シーズン2 公開記念

 AV監督・村西とおるの波乱の半生を描いたNetflixドラマ「全裸監督」のシーズン2がいよいよ公開される。世界的大ヒットとなった前作から2年。「シーズン2」では、さらに暴走を続ける姿が描かれる。そこで日刊ゲンダイGW号では、その“原点”ともいえるブレーク前夜の村西監督の足跡を、「全裸監督」原作者である作家の本橋信宏氏とともに巡った。

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 ◇  ◇  ◇

 閑静な住宅街に突如、若い女性の悲鳴が響いた。

 1984年初秋。

 村西とおるAV監督デビュー。彼が制作した記念すべき作品が「私、犯されました。」シリーズだった。

 この2年前、取材で村西とおると知り合った私は、物書き稼業の合間、ひょんなことから村西とおる作品を時折、手伝うことになり、その1作目が「私、犯されました。トラックの中で…」だった。

 80年代前半、世の中はテレビもラジオも女子大生ブーム。深夜放送でも「ミスDJ」とうたわれた女子大生がDJをやって人気を博した。

 AVの原点は男たちの暗い欲望を満たすことにある(あくまでも作品の中で)。そこで深夜放送の女子大生DJに恋い焦がれるトラックドライバーが拉致して……というシナリオを私が書いて、村西とおるが撮ることになった。

 村西とおるは「裏本の帝王」と呼ばれた男であり、監督業をしたこともなかったのに、いきなり監督デビューである。

新宿・矢来町の雑居ビルが“制作ルーム”に

 北大神田書店なるビニ本・裏本出版社を立ち上げ、膨大な利益を上げていた彼は、わいせつ図画販売容疑で全国指名手配を受け、北海道で逮捕。半年後釈放されてAV監督として旧知の西村忠治社長に声をかけられ、クリスタル映像で監督業を始めた。その第一歩が新宿・矢来町の雑居ビル(写真①)だった。2DKを制作ルームにして機材や衣装をそろえた。

 目の前には新潮社の社屋が道の両側にそびえ立つ。裏本の帝王と呼ばれながら、本好きな村西とおるはみずから新英出版なるまっとうな出版社を立ち上げ、「にっぽんのおふくろ」や初代タイガーマスクの自伝などを出し、当時200万部に迫る勢いだった「FOCUS」に似た隔週写真誌「スクランブルPHOTO」を創刊させた。その編集長になったのが、この私だった。

 摘発を受けて北大神田書店は壊滅、あおりを受けて「スクランブル――」も廃刊の憂き目に遭う。

 表の出版社、新英出版という社名は、読書家の村西とおるが日本を代表する出版社として新潮社と集英社を挙げ、社名のヒントにした。その憧れの新潮社に近いから矢来町に制作ルームを設けた、というわけではないだろうが。

住宅街のド真ん中で警察官に囲まれる

「トラックの中で…」は、荷台でドライバーが女子大生DJを落花狼藉の目に遭わせるストーリーであった。

 女子大生役は20歳になったばかりの喫茶店アルバイト店員だった。ルックスは良かったが、セリフは棒読みで、村西監督は頭を抱えっぱなしだった。non-noのモデルを目指しているという彼女は、どうも来る道を誤ったとしか言いようがなかった。

 戸山公園脇にトラックを止めて撮影しようとしたら、バッテリーがあがり急きょ、電源を求めて新宿・戸山の閑静な住宅街(写真②)の雑居ビルに向かった。この中にクリスタル映像の事務方が入っているので、ケーブルを引いて照明とVTRの電源を確保しようというのだ。

 ロケというのはさまざまなハプニングがつきものだと、このときわかった。

 荷台でドライバーがうら若き乙女を襲うシーンを撮っていると、カメラマンが倒れた。荷台を閉め切っていたために脱水症状になったのだ。

 水分補給で事なきを得て、また撮影開始。

 嫌な予感がした。

 いきなり荷台のドアが開き、10人ほどの屈強な男たちがトラックを囲んでいた。制服警察官だ。

 スタッフ全員ホールドアップ。荷台から漏れる悲鳴を聞きつけ、住民が通報したらしい。

 村西監督はさっき撮ったばかりのシーンをモニターで見せて、これはあくまでもドラマであり、犯罪行為ではなく、裏ビデオでもない、と力説した。フィルムを使う映画ではこうはいかない。あらためてビデオの時代だと思った。

羽田沖の荒れ地で女子大生を解放するシーンを

「今後の勉強になるから君らもよく見るように」

 指揮官が若い警官たちを集めると、モニター周辺は妙な熱気に包まれ、あちこちから生唾をのみ込む音がした。

 村西撮影班は無罪放免となり、撮影再開。徹夜になった。

 新宿のシティーホテルでからみを撮り、明け方の新宿で、トラックドライバーが女子大生をさらうシーンを撮った。寝不足もあってか、劇団員が演じるドライバーが狭い路地をすり抜けるときに駐車中の高級国産車を派手にこすり、劇団員は絶望的な顔になった。

 トラックはレンタカーだったので保険によって事なきを得たが、スケジュールは大幅に遅れた。

 ドライバーが女子大生を解放するシーンは、羽田沖の広大な荒れ地だった。

 2泊3日、一睡もできないロケがやっと幕を下ろした。

 羽田沖から吹き付ける風にあたり、睡眠不足と疲労でふらふらになりながら、私はやはり物書きが合っていると思ったものだ。

 飛び交う海カモメを見やりながら、この先どうやって生きていくのだろうと、無名の監督の行き先を杞憂したものだ。

 ◇  ◇  ◇

 2年後。

 村西とおる監督はブレークする。

 撮る作品は軒並み大ヒット。巨万の富が入り、新たに新宿・四谷に借りた超高級マンションに制作ルームを移転させた。

 専属女優たちに一晩で数千万円分の衣装を買い与えようと、事務所の入るマンション1階の高級ブティック(写真③)で、「ここから、ここまでください」とメートル買い。現金払いで値切らないので、女性店主が気を使い、値引きしてくれたほどだ。

 私は、規格外の人生を歩んできた村西とおるの半生をつづった「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版=文庫版は新潮社から発売中)を刊行するとこつこつよく売れた。

 2019年夏、山田孝之が村西とおるを演じた「全裸監督」がNetflixから世界190カ国に配信されると大ヒットになった。いよいよ今年6月24日、続編のシーズン2が配信される。

「トラックの中で…」撮影から37年ぶりに羽田沖を再訪すると、あの荒涼とした空き地はトレーラーの大規模中継基地(写真④)になっていた。

 羽田沖で見上げた空はいまも高く青い。

 主演を演じた彼女、ドライバー役の劇団員はいま、どこで何をしているのだろう。

 届かぬことと知りながら、ナイスでしたよ、と風に乗せて送ってみた。

(文=本橋信宏/作家)

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