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MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十八回目のゲストは曽我部恵一 お客さんと向き合う上で感じる清潔さとは

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MOROHAアフロの逢いたい、相対:曽我部恵一 撮影=高田梓

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十八回目のゲストは、ソロアーティストでありサニーデイ・サービスでボーカル・ギターを務める曽我部恵一。アフロにとって曽我部の存在は特別である。というのも、MOROHAが無名だった時代に誰よりも早く2人の音楽を評価し、曽我部の主宰するROSE RECORDSからCDをリリースするキッカケを作った。もはやMOROHAからすれば恩人の一人とも言える。今回の対談では約10年前の出会いから現在まで、凝縮された2組のエピソードが詰まった対談となった。

MOROHAアフロの逢いたい、相対

●ラップは「誰でもできる」ことではないかもしれない●

アフロ:最後にお会いしたのは、カレー屋さんですよね?

曽我部恵一(以下、曽我部):そうだっけ!? お店(※下北沢にあるカレーの店・八月)を始めたのが去年の5月だから、その頃に会って以来なんだね。

アフロ:あの日、俺はミシンを買いに行ってたんですよ。家でやることがないから、彼女と何かを作ろうと言って。

曽我部:作ったものを売ろうとしたの?

アフロ:全然そういうことじゃないんですけど、着なくなったTシャツとかを自分たちでリメイクしてみようと思ったんですよ。だけど、いざやってみたら難しいですね。当たり前ですけど、改めて売り物はすごいんだなと痛感したというか。

曽我部:素人が手を出しても、急にはできないよね。

アフロ:「ラップが出来るなんてすごいですね」と言われたときに、他の方は別として俺のラップに対しては「全然すごくない。照れさえなくせば誰でもできるよ」と言ってきたんです。だけど、ミシンの一件でそんなことないかもしれないと、自分のアイデンティティを確認しましたね。

曽我部:うん。音楽も洋服も「誰でもできるよ」の中にあるんだけど、そこで色々と専門が分かれてる感じだよね。

●「数が多い奴の勝ち」という資本主義社会の中で暮らしているんだけど、本質はそこじゃない●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:ソカバン(曽我部恵一BAND)のときは、ソカ(曽我部恵一)さんがメンバーに対して厳しかったという話を聞いたんですけど。そうすることでメンバーの気が引き締まって良い演奏になっていくという狙いがあったんですか。

曽我部:どうだろうな? 確かにピリピリしながらライブをやることはあったけど、今はなくなったね。

アフロ:心境の変化があったと。

曽我部:うん。人と一緒にやるとはどういうことなのかを考えるようになったかな。20代の頃だったら、人は作品を作り上げるための部品だと思ってた。ときには「ダメじゃん! 部品としての機能を果たしてないじゃん」みたいに言っていた時期もあったんだけど、そういうのは美しくないというか、ただのファシズムだと思ったんだよね。

アフロ:何か気付くキッカケがあったんですか。

曽我部:ドラマー(丸山晴茂)が亡くなったことが大きかったね。自分は好きでやってるから良いけど、他人を巻き込んで精神的に追い詰めていくのはあんまりだよな、と思ったんだ。好意で「一緒にやろうよ」と言ってくれる人がいるなら、その人がいることを最大限感謝してやっていくべき。ギリギリの状態でやろうというのは、自分一人でやれば良い。人によって気持ち良いスタンスとか、色んな居場所があるから。だから、俺と違う人が合わさったことで何が生まれるのかを楽しむようになった。

アフロ:そもそもROSE RECORDSがそういうコンセプトですよね?

曽我部:そうかもしれないね。

アフロ:町の商店街で働いている人が仕事をしながら、その町で鳴らしている音楽をCDにして出すのがROSE RECORDSのイメージなんです。「音楽で食っていけるようにするんだ」じゃなくて、「キミの暮らしの中で出したい音楽を鳴らそうよ」というスタンスだと思ってて。

曽我部:そうだね。レーベルもさ、気合の入ってる人もゆるい人もいて良いと思う。俺は、飲み屋のカウンターでたまたま知り合って「この人、音楽をやってるんだって」「そうなんだ! じゃあ、うちでCD出そうよ」みたいなのが良い。売れるとか売れないとかそういうのじゃなくて。2枚とか3枚しか売れないものでも、良い音楽はあるから。

アフロ:意地悪な質問ですけど、ROSE RECORDSでスタッフを雇うとなれば、どうしても経営者目線で売り上げなど数字的な部分が気にならないですか。

曽我部:もちろん気にするよ。

アフロ:そこは他で補填する感じですか?

曽我部:俺にある程度のお客さんがついてるし、自分が活動している分にはそれだけでお金が回っているから、他で儲けるつもりは一切ない。(ジャン=リュック・)ゴダールという世界的な映画監督がいてさ、「家族や2、3人のためだけの映画がある。そういうのも映画なんだよ」という話をしていたのね。音楽もそうだと思う。ここ2、30年は「数が多い奴の勝ち」という資本主義社会の中で暮らしているんだけど、本質はそこじゃないからさ。

●「Apollo 11」を結婚式で歌ったときに「ここで披露するべき歌を作れたんだ」と思って感動した●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:自分の話に繋げるのはおこがましいですけど、2016年に「Apollo 11」という結婚式の曲を作ったんですね。自分でも良い曲だと思ってライブで歌っていたんですけど、結婚式のオファーをもらって歌ったときに「ここじゃん! ここで披露するべき歌を作れたんだ」と思って感動したんです。先ほど言っていただいた映画監督も自分の作品を流しながら、家族の横顔を見て「そうそう! これだよ!」と思ったんだろうなと。

曽我部:そうだね。ちなみに知らない人の結婚式に呼ばれて歌ったの?

アフロ:そうなんですよ。

曽我部:すごいね! そういう営業も入れてるんだ! 俺も事務所にお金が無くなったときに、結婚式の依頼を引き受けた。それで全然知らない人の結婚式で歌ったなぁ。1組の夫婦はいまだにライブに来てくれる。その夫婦は日本中を転勤してて、あるときは名古屋に2人で来てくれて、またあるときは子供を抱いて観に来てくれて。お金のために歌ったんだけど、そういう経験は面白かったね。結婚式のライブは結構やってるの?

アフロ:10本近くはやってますね。

曽我部:呼ばれたら受ける感じ?

アフロ:スケジュールが合えば喜んで行きます。しかも、俺は知らない人の結婚式で泣けちゃうんですよ。特に、新婦側のお父さんの肩が震えた姿を目の当たりにしたら、もうダメですね。

曽我部:俺は離婚してるからさ。結婚式に行っても「こいつら幸せそうで腹が立つな」という感情しか湧かない。

アフロ:ハハハ! 腹の中で妬みながら「おめでとうございます」と言って。

曽我部:そうそう。だからあんまり行かないし、そういう気持ちで参加しても良くないじゃん。

アフロ:ギターを持ったら、そんなことはないんじゃないですか?

曽我部:そうでもない。「数年後はわからないよ」と言っちゃいそう。

アフロ:それで言うと、今日原宿を歩いていたら制服姿の男女が手を繋いで歩いていたんです。大人になると、学生時代のカップルが結婚まで進む確率がどれほど低いのかを知ってるじゃないですか。だけど、その2人はこの先もずっと一緒だと思いながら手を繋いでる。その様子を見るだけでグッとくるんですよ。

曽我部:アフロはさ、ちゃんとストーリーを考えるから、そこが偉いと思う。俺はカップルを見ても「良いなぁ……さ、仕事しよ」みたいな感じだから。

アフロ:俺は自分が可愛いんでしょうね。グッとくることによって、あのときの自分を抱きしめてあげられる感じがするんだ思います。

曽我部:自分の物語と人の物語を繋げるんだね。

●「こういうことが言いたいんだ」というのが見えてないと、曲として成立させられないんです●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:ソカさんは幸せそうなカップルを見て、仕事をしようと思って曲を作るわけじゃないですか。そのときの気分は曲作りにも影響するんですか。

曽我部:最近は、そのときの気分をそのまま反映させることはしない。勢いに任せて書くよりも、自分の中で蓄積してきた何かを歌詞にする方が良いかな。例えば「天気が良くて気持ちが良いな」と思う部分と「もう死にたいな」という部分をミックスさせて1つの歌詞にする。今までだったら「天気が良くて最高」という感情だけを書いていたんだけど、そういう曲は既にいっぱい作ってきたから深みがないんだよね。裏面のことも込みで曲にした方が良いなと思うようになってきた。

アフロ:1時間の気分を描くんじゃなくて、1週間ぐらいの気分を歌詞に落とし込もうと。

曽我部:そうだね。アフロは先に歌詞を書くの? それとも先にUKの音があってそこに歌詞を乗せるの?

アフロ:まずはUKに「最近こんなことがあったんだ」と話します。あいつにとっては、その話がどういう曲を作るかのリファレンスになっていて、UKはUKで曲を作り、俺は俺で歌詞を書き始めます。

曽我部:じゃあ2人でテーマを共有して曲を作るんだ。

アフロ:そうですね。あとは俺がたまらなく悲しい思いをしたときには、「ただただ優しい曲を作ってくれ」とお願いすることもありますね。そういえば、前に全曲ラップのアルバム(『ヘブン』)を出したじゃないですか。あのときはどう作ったんですか?

曽我部:先にビートを作って、出てくるままに言葉を書いていった感じだね。この曲はこれを歌おうとかはなくて、ビートの中に自分が入ってどんな景色を見たのかを探っていったかな。だから「こんなことを言いたかったのかな」というのが後々になってわかった。

アフロ:それをMOROHAではやってないんですよ。MOROHAはメッセージなので「こういうことが言いたいんだ」というのが見えてないと、曲として成立させられないんです。それこそソカさんが景色の話をされましたけど、「景色にこういうことを言いたい」はないというか。

曽我部:それはそうだね。

アフロ:景色を描いた歌にはお客の入り込む隙があるけど、MOROHAで書いているものはそうじゃない。だからこそ『ヘブン』を聴いて良いなと思ったんですよね。自分の想定してない感想が来たら、それを許せないと思うのがMOROHAの書き方なんです。逆に、想定外のものが来たときに嬉しいと思えるのが、ソカさんの『ヘブン』の書き方というか。

曽我部:アフロは額面通りに伝わって欲しいの?

アフロ:はい。「俺がこう歌ってんだから、そのまんま伝わってほしい」と思いますね。ただ、俺には『ヘブン』を聴いて良いと思える感性があるのに、なんでMOROHAでやらないんだろうと思ったときに、やっぱり自分というものを具体性を持って伝えたい、というのが根底にあるんだなって。

曽我部:俺は「お茶が美味しいね」と言ったときにリスナーが「この2人は別れたんだ」とよぎったりするのが表現だと思うし、最高だなと思ってるの。そういう意味で、音楽や言葉って魔法だと思ってるのね。自分の歌った通りじゃなくて「そうやって解釈したんだ」という体験がめっちゃ嬉しい。

アフロ:ソカさんの歌は本当にふくよかだと思います。いわばお客の想像力を信じて、冒険させていると思います。俺はそれを目指してやれなかったので、ゆえに眩しいですね。

●MOROHAはエンターテイメントの真髄をやろうとしてるんだよね●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

曽我部:だけど額面通り伝えるのは一番大変なことだからね。それこそディズニーランドと一緒だよ。あそこは人によって殺意が湧いても良いんですよ、じゃなくて「みんなで一緒の気持ちになりましょう」という場所だから、それはエンターテイメントの局地。

アフロ:行った人の全員が同じ感情になる。

曽我部:そうそう。ディズニーランドに行ったら、楽しいしかないじゃん。それは向こうがプロ中のプロだからだよね。楽しい一択でお願いしますという話でしょ? それがすごいことなんだよ。俺がやってるのはアートであり文学だから「誰も楽しまなくて良いんですよ」と、どこかで思いながらやってる。それに引き換え、MOROHAはエンターテイメントの真髄をやろうとしてるんだよね。

アフロ:ただ、俺はディズニーランドで殺意が湧くタイプの人間だったんですよ。それはミッキーが憎いわけじゃなくて、みんなで同じものを見て同じように感じてくださいね、という状況に対して「は? なんでだよ」と思っていたんです。だけど、その「は?」を表現した先にあったのが、まさかのディズニーランドだったとしたら怖くなりますね。自分の意見を強く打ち出すことで、お客を限定した方向へ扇動してまうとしたら、怖いなと思います。

曽我部:MOROHAが学校みたいな存在になってないか? ということでしょ。それは一番危険なところだよ。

アフロ:そうなんですよね。なので、今はそうならない為にどうするべきか考えていて。

曽我部:自由な学校だったら良いんだよ。お客さんが「めっちゃ楽しいじゃん。ここに俺の居場所があるかも」と思えたら良いわけでしょ? まあ、それはすごく難しいことだけど。

アフロ:ソカさんは自分のライブが学校になっちゃったと思う瞬間はありました?

曽我部:そういうことはあるよね。その場の盛り上がりが欲しいときに、分かりやすく大きな何かを提示したら、みんなが集まりやすいでしょ。そうやって盛り上げていたけど、みんなを分かりやすい何かで誘導して誘い込もうとする自分が気持ち悪くなったし、それは不潔だと思ってやめた。子供たちを見てると、すごく清潔じゃん。

アフロ:それはどういう意味で清潔なんですか。

曽我部:肌もそうだし心も綺麗。おじさんの政治家とか見てると、みんな不潔だよね。やっぱり清潔な方が良いし、かつての俺の考え方が不潔だと思って嫌になった。対バンをして「こっちの方が盛り上がっているように見せたい」とかあるじゃん。振り返ればそういうことばっかりをやっていた時期があった。

アフロ:それはいつ頃の?

曽我部:ソカバンのとき。「これくらいの方が分かりやすいんじゃないか?」とかさ、そういうことばかりを考えてた。結果として何も残ってないし、自分がエグいなと思った。俺は何をやりたかったんだっけ? と見つめ直すきっかけになったね。

●武道館で「初めまして」と言えなかったら、ただの記念ライブになっちゃう●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:来年、武道館での単独ライブがあるんです。ステージに立てるのは嬉しいけど、みんなが集まりやすい記号的な場所ではあるじゃないですか。そういうものに俺が呑まれないようにしなきゃいけない。ソカさんが言われたように「ここまでの道のりが……」とか集大成的なものを提示するのはすごくわかりやすいと思う。でもそういう大味なもので誘導したくないなと思います。

曽我部:自分たちがちゃんと歩んできた道を確認するために武道館をやる意味があると思うし、別にサクセスストーリーをやりたいわけじゃないという自分たちへのアンチもあるわけでしょ。それがお客さんに伝わったら良いし、どっちもちゃんと伝えるべきだと思う。

アフロ:11年前、下北にあるBAR? CCOで初めて俺たちのライブを観てくれたじゃないですか。あのときの俺たちは清潔でした?

曽我部:うん。

アフロ:最後にソカさんにライブを観てもらったのは、2年前の高知CARAVAN SARYですよね。昔と比べて今の俺たちはどうですか?

曽我部:お客さんが変わったよね。CCOのときはMOROHAを観に来たお客さんはいなかったでしょ? でも高知のときはMOROHA目当てのお客さんが来てるわけだから、関係性が変わっちゃってるよね。関係性が変わってるということは、つまり見栄えがだいぶ変わる。そこの関係性に甘んじてない人には清涼感がある気がする。例えば永ちゃん(矢沢永吉)には、キャロルの頃と変わらずにいつまでも清涼感があるのよ。お客さんは永ちゃんの信者みたいな人がほとんどなんだけど、当の本人はそこに甘んじてない。

アフロ:「初めまして」で向かいあってるわけですか。

曽我部:うん。それは先ほど言ってた清潔さとも繋がると思うんだよね。ファンが自分に信仰してる人たちだとして、そこに甘んじてやるのと「初めまして、よろしく」とやるのでは同じことをやっても違う。そこの差はあるよね。MOROHAがやってることは昔と何ら変わったとは思わない。むしろ同じだなと。武道館はわかりやすく大勢の人が集まるわけだし、そういう大舞台でなにができるかが試されると思う。

アフロ:すごくしっくり来ました。やっぱり「初めまして」でやるということですね。ソカさんの言葉を聞いて、まさにそれだと思いました。武道館で「初めまして」と言えなかったら、ただの記念ライブになっちゃう。

曽我部:だけど、お客さんにとっては記念ライブでもあるわけだからさ。

アフロ:それを突っ返しますよ。

曽我部:無理することはないと思うよ。そこに人間が出ているかどうかが一番大事だと思う。誰が来てくれていようが、お客さんが1人だろうが1万人だろうが、そこにアフロという人間が出ているかどうかなんだと思うよ。だから「自然だったな、俺」というライブは終わった後、清々しいじゃん。お客さんは全然知らない人たちだけど、終わってみたら一生の友達のような気もする。ありのままの自分がステージに出ていたときが、本当に素晴らしいライブかもね。

●「俺らプロになったんだ。だって水を買ってもらったんだぜ」と誇らしくなった●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:ちなみに、先ほど話した下北沢CCOのライブ終わりにソカさんが「うちからCDを出そうよ」と言ってくれたのが、俺にとって人生で一番嬉しかった夜なんですよ。高円寺の家に帰って、布団の中でも嬉しくてずっとニヤニヤしてた。あと、アルバム(『MOROHA』)レコーディングの日に俺が水を買おうとしたら、ソカさんが「いいよいいよ!」と言って水を買ってくれたんですよ。それはROSE RECORDSからCDを出すんだからレコーディングに関わる費用はうちが出すよ、という意味に受け取ったんです。あの瞬間に「俺らプロになったんだ。だって水を買ってもらったんだぜ」と誇らしくなった。そのときの気持ちは、ずっと忘れられないんですよね。

曽我部:そっかそっか。懐かしいね。

アフロ:それこそソカさんは、最初に俺たちのことをめちゃくちゃ褒めてくれたの覚えてます?

曽我部:うん。

アフロ:あれはエールだったんですか?

曽我部:エールのつもりはないよ。ただ、すごいな! と思って。

アフロ:ROSE RECORDSでCDを出してもらったときに、俺は一生分褒めてもらえたと思ってるんですよ。あれがあったおかげで、誰かにボロクソ言われたときも「いやいや、俺はソカさんからあれだけ褒めてもらえた人間だ」と思えたし、結果的に俺の中ではエールになっているんですよ。

曽我部:「この人たちはすごいな」と本気で思っていたから、リスペクトの気持ちで言ったんだけどね。自分にないものを感じたし、とことん本気だし、だけどエンターテイメントだし、すごい音楽だなと思って言った。

アフロ:ソカさんは先輩なのに、そういうことをたくさん言ってくれますよね。

曽我部:自分が良いと思った人には、ちゃんと伝えようと思ってる。逆に、俺は誰にも褒めてもらえなかったのね。まったく評価されなかった。

アフロ:それはいつまでの話?

曽我部:あくまで自分の感覚だけど、音楽を始めてから今日までずっと。続けていたら今になっている感じで、じゃあ今は良いポジションに来たのか? と聞かれると感覚は変わってないんだよ。デビューをして「絶賛」とか「オススメ」と言われたこともない。すごくマニアックに褒めてくれる人はいたけど、世の中は全然振り向いてくれないし、近しい人が褒めてくれることもなかった。自分らが褒められてこなかったからこそ、良いと思う人がいたらちゃんと伝えようと思っているんだよね。

アフロ:ソカさん自身、褒められることを拒んでいるところはないですか。

曽我部:あぁ、確かに。 

アフロ:褒められたとしても、自分自身が納得してないから受け入れられないんですか。

曽我部:結局、褒められたいと思ってないんだろうね。たまに嬉しいと思うのは全然関係ない話だったりする。「気持ちが沈んでいたんですけど、曽我部さんの曲を聴いたら子供と2人で笑ってたんですよね」とか、そう言う話を聞くと「自分の音楽が誰かの人生の中に流れていたんだ」それは素晴らしいことだなと。「曽我部さんの曲がきっかけで結婚しました」と言われることがあるんだけど、それもすごいなと思う。こっちは離婚をして何一つ人生に成功したと思えてないのに、この人たちはこんなに幸せそうで、そこに俺の曲が関係してるんだ! と。だから「曲がすごいですね!」「歌が上手いですね!」じゃなくて「たまたま音楽をかけていたら、サニーデイ(・サービス)が流れてきてすごく気持ちよかったんですよ」とか、そういう方が嬉しい。

アフロ:どういうふうに他者の人生に関われたのかということですね。自分の知らないところで、音楽が流れているなんて面白いなぁ。

●ライブを観てお客さんが感動するとしたら「この人、生きてるな」ということだと思う●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

曽我部:長女が二十歳になるんだけど、彼女が通っていた小学校では給食の時間に放送部員が好きな音楽をかけられたんだって。それで小学6年生のとき、給食でMOROHAがかかってたらしくて「MOROHAは、パパが一緒にお仕事してる人たちだよね?」と言われて、そのときはめちゃくちゃ嬉しかった! 

アフロ:嬉しいなぁ! ちなみにCMの曲をソカさんが担当してたときは、うちの親が「あれはソカさん?」なんて連絡をくれるんですよ。そういうのも嬉しいですよね。

曽我部:アフロもそうだし奇妙(礼太郎)もそうだし、CMで頻繁に声を聴くようになったじゃん。それで自分も頑張ろうと思う。録音された音が繰り返し流れているだけなのに、勝手に便りのように受け取っているの。音楽にはそういうことがあるよね。

アフロ:知り合いのミュージシャンのCDが出たというニュースを見るだけで自分も頑張ろうと思えますよね。その人の音楽が素晴らしいことは知ってるから、聴かなくても良かったりして。つまりやってること自体が、俺のガソリンになるというか。

曽我部:そうなんだよ。自分から聴こうと思ってないけど、どこからか流れてきた瞬間は最高の気持ちだよね。この前、オリンピックスタジアムの横にあるホープ軒でラーメンを食べてたの。そしたら、店内でオーサム(Awesome City Club)の新曲(「勿忘」)が流れてきて、それがすっごい良かったんだよ。オーサムは、バンドを立ち上げたマツザカ(タクミ)やドラムのユキエも辞めて、大変だろうなと思ってたのよ。そしたら、すっごい良い曲を作っていて「バンドはすごいな」と感動した。

アフロ:そうやって1曲の音楽を通して、誰かのことを思い出せたりするのが良いですよね。

曽我部:やっぱり手紙なんだよね。メールとは全然違う。

アフロ:それで言ったら、ソカさんの『ヘブン』に入ってる「夏至」にラップを乗せたのは俺からのラブレターでした。

曽我部:ああいうのは最高じゃん。MOROHAはこういうメッセージを出してますとか、こういうお客さんがいます、とは関係ないことをやってたでしょ。でも、アフロの言葉だったし、自由で自然体だなと思ったよ。

アフロ:ちなみに、歌で告白をすることとメロディに乗せないで告白することは、どっちが緊張します?

曽我部:言葉で伝える方が緊張する。もしかしたら俺は、歌とかメロディとか甘さとか快楽しか信じてないのかもね。

アフロ:俺も言葉の方が緊張するんです。だからこそ、言葉で伝えなくちゃいけないんじゃなかと思うんですよ。

曽我部:本当はそうだよね。

アフロ:一生懸命に言葉を伝えようとしてうまく言えないとか、しどろもどろになってしまうようで相手に対する自分の気持ちが届く。上手く言えないことが良かったりするのに、自分が上手に歌えるラップを使って告白するのはどうなのかなと思ったりして。じゃあ逆に、ライブとは何なの? ライブも一番得意じゃないことをやって伝えようとする様が、一番伝わるんじゃないの? とかグルグルと考えが回っちゃうんですけど。

曽我部:どうすれば愛情を上手く伝えられるのかを、頭で色々と考えるものじゃないかもしれないね。(会議室の窓から見える、空を指差して)こういうのが愛じゃない? 青空にかかる雲が綺麗だったり、雲間から差し込む光が綺麗だったり。こんな風に愛も音楽も自然のままであったらいいなと思う。

アフロ:とはいえ、意識したら作為的になっちゃいますよね?

曽我部:うん。やっぱりさ、感じるしかないよね。いつも感じて自分の心をちゃんと生かしてさ、その中から歌うだけなんだよね。愛を歌おうとか優しくしようとかじゃなくて、普段からそういうことをさ、ちゃんと呼吸して生きているかどうかが歌で試される。こういう気持ちになってもらおうとか、そういうのは見え透いてて。ライブを観てお客さんが感動するとしたら「この人、生きてるな」ということだと思う。結局は、裸になって立ったかどうかということだね。

●昔の恋人なんて、それ以上にロマンチックなことはないじゃん●

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:話は変わりますけど、最近ドキドキしたことはありますか。

曽我部:ドキドキとは違うけど、5月に父親が死んだのね。危篤になったと知って、実家に帰って看取るという一連の流れの中に感情のピーク感があった。悲しいとか辛いとかじゃなくて、ドラマで言うとクライマックスの一番良いシーンを観て「このドラマはもうすぐ終わるな」というような、そんな高まりがあったんだ。自分が死ぬときもそうだと思うし、そうありたいね。「このドラマはもう終わるんだな」というさ。だから分からなくなって死にたくない。

アフロ:意識を持ったままですね。そのときには手元にギターがありますか。

曽我部:あってほしい。つい先日、南正人さんというフォークシンガーの方が、ライブ中に亡くなったんだよね。それはすごいなと。最後までステージにいたいでしょ?

アフロ:どうだろう? でも俺は<死に際握るのはマイク じゃなくて人の手>(「恩学」)と歌ってるんですよ。

曽我部:それは暗喩としてじゃない? 人の心を掴んで死にたいということでしょ。それだったら俺らの場合はマイクだよ。

アフロ:なるほど、そうかもしれないっすね。ちなみに俺のドキドキした話もして良いですか? この前、深夜2時に彼女の携帯が鳴って画面を見たら元彼からだったんです。「出なくていいの?」と聞いたら「これは出なくて大丈夫」と言われたんだけど、何度もかかってくるんですよ。「もしかしたら事故とか病気かもしれないから出た方がいいよ」と言ったんですけど、それでも拒むんです。その後も鳴り止まないから「さすがに心配じゃない?」と聞いたら「そんなに気になるなら、代わりに出てよ」と言われて。そんなこと言われたら出るしかないと思って。

曽我部:出たの!?

アフロ:ドッキドキしなから出ました。「どちら様ですか?」と相手が聞いてきたのに対して、こっちもパニックだから「俺がMOROHAのアフロだ!!」と。相手も俺も大混乱ですよ。

曽我部:それは何も考えずに言っちゃったの?

アフロ:そうです。頭の中真っ白だったので、反射的に一番自信のある自分に頼ったのかもしれないっすね。最終的にはちゃんと話したんですけど。

曽我部:すごいね! 俺は絶対に出ないし、「電話に出なよ」とも言わない。昔の恋人なんて、それ以上にロマンチックなことはないじゃん。俺だったらそっとしとくよ。

アフロ:どういう感情でそっとしておくんですか。

曽我部:この人にそんな物語があるんだなと思って。女性と付き合ってると男は「俺の女」みたいな感覚になるわけでしょ。全然そんなことなくて、その人にはたくさん愛した人がいて、それが再び現れるなんて映画を観てるようでロマンチックすぎる。

MOROHAアフロの逢いたい、相対

アフロ:確かに!! そこに新たな登場人物としてズケズケと入るなんて俺は……。

曽我部:ハハハ(笑)、行っても良いけど勇気がいるよね。自分のいない世界線に「俺がアフロだ!」と入っていったわけでしょ? SFでは絶対にダメなことだよね。

アフロ:全て主観なんですよね。俺の彼女に電話かかってきた、俺はどうする? という。それは歌詞を書く姿勢に似ているのかもしれないです。ソカさんは自分がどう思ったのかじゃなくて、2人の物語をどうやって伝えるかという視点で書かれますよね。

曽我部:うんうん。話を戻すと……そういうことがあると、その人がもっと綺麗に見えるというか、浮気という意味じゃなくて昔の恋人がいた懐かしいような、寂しいような、愛おしいような気持ちに戻りたくなることがあると思うのね。ある意味では逃避かもしれないけど、俺は良いなと思っちゃう。今の恋人が、昔の恋人に会ってくるとか会いたいなと思う気持ちがあったとしたら「ああ……そうか」と。過去に歩いていくんだな、この人にはその必要があるんだなと感じるとカッコいいと思っちゃう。例えば彼女といて「この場所、前に付き合ってた子と来たな」と、ふと色んなことが蘇ったり自分が終わったと思っていた過去が目の前に現れたりとかしてさ。そういう機会は人生でいっぱいあるけど、それを今の彼女には言えないよね。

アフロ:俺の彼女がサッカーにめっちゃ詳しいんですよ。どう考えても元彼の影響だと思うんですけど。

曽我部:そういうのはすごく好き。

アフロ:歴史を感じますよね。

曽我部:そうだね。ひょっとしたら、彼女は今が最終地点じゃないのかもしれないし、10年前の恋がピークだったかもしれない。そういうことを考えためちゃくちゃ良いよね。もちろん切ないし、それも含めて良いんだよ。

アフロ:すごいな。これを読んだ恋人達は焦燥に駆られるんじゃないですか。

曽我部:ハハハ(笑)。この辺の話はよく分からないから書かなくてもいいけどね。

アフロ:いや、書いてほしい! 今付き合っている以上、ピークは今だと思い込んでいるけど、相手の恋のピークは既に過ぎ去ったのかもしれない。最大風速の恋は現在とは限らない、そう考えるのも自然ですもんね。

曽我部:10年前の恋愛が一番燃え上がったのかもしれないし、さらに遡ると17歳の女子高生でセーラー服を着て「行ってきます!」と言ってた、自分の知らない彼女がいるわけでしょ。そのときは魂がもっと若くて、清潔で何も知らない。そんな時代があったんだと思えたら、もっと愛せるよね。過去の彼氏と燃えるような恋をして、今がひょっとしたら疲れた恋愛なのかもしれないけど、そうやって想像したらもっと愛せる。

文=真貝聡 撮影=高田梓

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