次世代リーダー育成がうまくいかない根本的な原因と対策
現在、日本企業が抱える課題の一つに「リーダー不足」があります。この背景には、次世代のリーダーをうまく育成できない企業の体制や危機意識の低さがあると考えられます。実際に、およそ40代を指す「ミドルキャリア」の社員に対しては、十分な研修を行っていない企業も多く、「空白の育成地帯」という言葉とともにその現状が問題視されているのです。本記事では、日本企業でリーダー育成がうまく進んでいない現状や原因、これから企業とミドルキャリア層の社員がとるべき対策について考えます。
「リーダー不足」は多くの日本企業が抱える課題
経営者と話をしていると「リーダーが育たない」という悩みを聞くことがあります。ここで言う「リーダー」とは、次世代の経営幹部を任せたいと思う人材のことです。いわゆる肩書的な課長や部長ではなく、経営者予備軍の人材を指します。
人材育成に関する各種調査でも半数以上の企業が「リーダーが足りない」と回答しており、いわゆる組織をマネジメントする管理職層よりも不足感が高いようです。この状況に危機意識を抱く経営者が増えているから、悩みを聞く機会も増えているのでしょう。
先日、お会いした製造業の経営者は「新規事業の立ち上げ、子会社設立、組織改革まで、リーダーを決めて任せたいことが山のようにある。ところが任せたい人材が育っていないので、数名の役員に仕事が集中してしまっている。このままでは経営が立ち行かなくなる」と嘆いていました。
参照:https://school.nikkei.co.jp/feature/hr/contents/article/14
では、どうしてリーダーが足りない状況になっているのか?大きな要因として、注目度合いが高まってきた「育成の空白地帯」という言葉に注目したいと思います。
日本企業では、社会人経験が浅い時期に社会人の基礎を、中間管理職になれば部下のマネジメントを学ぶ機会があります。ところが、それ以降に学びの機会が大幅に減少するのです。とくにリーダーとなるべき人材に対する育成の機会は少なく、空白地帯になっていると言っても過言ではありません。
そのような空白地帯のあることが、リーダーが育たない大きな理由と考えられます。どうして、こうした状況ができてしまったのか?対策はどうしたらいいのか?考えていきたいと思います。
ミドルキャリアは「育成の空白地帯」
日本企業も外部環境の変化や競争の激しい状況で生き残るため、人材育成のやり方を変革する必要性が高まっています。結果として、専門性を早期に高めるために1回2時間×数回のワークショップ形式で現実に発生している課題に対する解決方法を考えるものや、マイクロラーニングと呼ばれる短い時間(5~10分程度)で行う学習など、効果的な手法を試行錯誤しながらDXやグローバルなど必要性の高まるテーマを加えて、変革がすすんでいます。
ところが、変革のすすむ研修機会はミドルキャリア(40代)と呼ばれる世代で一つの区切りを迎えます。それ以降は経験豊富で自立していると判断され、指導や育成に対する優先度が下がり、研修を受ける機会はなくなっていくのです。
ただし、役員になるか退職前のシニア層になると役員向け研修とかセカンドキャリア研修など学びの機会を提供する企業が多く、ミドルキャリアは「育成の空白地帯」と呼ばれるようになっています。
当方が関わってきた企業も若手人材には様々な育成機会をつくりだす工夫が施されるようになりました。例えば、越境学習と呼ばれる異業種交流のようなものを実施して新規事業の創造につなげる施策などが挙げられます。
ところが、そうした果敢な取り組みがミドルキャリアにまで行われているケースは皆無。その理由を、とあるシステム開発企業の人事部長に尋ねたところ、次のような興味深い回答が返ってきました。
「ミドルキャリア世代は、十分に仕事を覚えてやってくれているので(育成は)不要だと思う」
この認識にこそ、大きな問題があるのではないでしょうか?
リーダー育成がうまくいかない根本的な原因
ミドルキャリアの時期は、リーダーとして変革に関われるチャンスが高まります。ただし、これまでの現場経験だけでは対応できない役割を担うことにもなるので、育成機会をつくるべきと考えます。
そこで人事部長に、
「『リーダーが足りない』と嘆く企業が増えています。ミドルキャリアは次世代のリーダー候補とも言えます。何か育成の取り組みをしてみてはどうでしょうか?」
と質問をぶつけてみたところ、
「人事部だけではできないことですよね。経営サイドで何とかするんじゃないでしょうか?」
とお気楽な回答が返ってきました。
この回答に企業の大きな問題が潜んでいます。その問題とは、主に次の2つです。
・リーダー育成は人事部的に守備範囲ではない
・経営者が感じているリーダー不足に対して、人事部は共感していない
前述の通り、経営者は「リーダーが育っていない、だから足りない」と認識しており、その対策を考えるべきと感じている。ところが、ともに考えるべき人事部は認識が高くない状況ということ。この回答のようなお気楽な認識は例外的なものではなく、一般的なものではないかと思います。リーダー育成に関して、当事者意識をもって取り組んでいる人事部門にお目にかかったこと遭遇したことは、あまりありません。
このままでは何も変化が生まれない状況と言えます。どうしたらいいのでしょうか?
「成長機会を案じるミドルキャリア」と「リーダー育成に苦悩する経営陣」
そもそも、ミドルキャリアの社員は育成の空白地帯におかれて大いに悩み、不安を感じていますので、本人的には育成の機会を望んでいます。すべての世代で知識やスキルに対する不安が一番高く、成長の機会が減っていることに危機意識を感じているのです。ただ、前述したように仕事の経験が豊富なので、その経験を生かして仕事に没頭してほしいと会社は考えている。リーダーにはなりたいがステップが見えないと感じているのです。
会社からすれば、「ここまで育ててきたのだから、あとは自分で何とか活路を見いだしてほしい」という考えなのでしょうが、本人たちはそのようにはとらえていないのです。システム開発会社のミドルキャリアの社員の方へ取材したところ、リーダー育成への危機感を語ってくれました。
「将来的には自分たちの世代から次世代の経営者が出てくるのだと思うが、その選出に向けた育成機会がオープンにされているとは思えない。現在の経営陣からみた『お気に入り』が選抜されるだけで、自分たちはノーチャンスである。だとすれば、自分のキャリアはここまでで終わってしまう。それでいいのか悩んでいる…」と話してくれました。
リーダーは育成機会を通じて選ばれるものではないと感じているようです。
確かに、経営陣のお気に入りになることがリーダー昇格への近道となるケースはあると思います。ただ、経営者も次の時代に会社のバトンをつないでいくためには、お気に入りだからといった理由でなく、時代が求める人材をリーダーにしていきたいとの志向が高まっているのです。
時代が求める次世代リーダー育成のポイント
リーダーを育てるためには、経営者が先頭に立って育成に取り組む覚悟が必要です。時代も社員たちもそれを望んでいます。時代がリーダー育成を求めていると思える理由の一つは、経営者に求められる能力の一つとして「リーダー選び」の重要性が高まっているからです。
人的資本経営の推進が期待されるなかで、経営者は次世代リーダーの選抜方法を明確に説明することを求められるようになりました。「自分のお気に入りだから」という理由では、説明になりません。
そのため、育成機会をつくり合理的にリーダーを選ぶ仕組みの構築が必要と考えた企業から、相談をいただく機会が増えています。
そのうちの1社が、創業以来、親族しか経営者になったことがない会社です。「初めて、次世代リーダーを広く探したい。親族である必要はない。どのように育成したらいいか」との相談でした。会社が生き残るためにリーダーを誰にするか?これを最重要課題と認識されて、検討方法に関する相談をいただいたのです。「お気に入りからの選抜」では生き残れないということなのでしょう。
このように経営者はミドルキャリアを対象とするリーダー育成に前向きで、ミドルキャリア世代の社員たちも育成機会を求めている。ところが、育成の空白地帯が生じている。こうした問題が起きているのはなぜなのでしょうか?
空白地帯が空白地帯のままである理由は、有効な手段がわからないからではないかと思います。
いわゆるサクセッションプランなどと呼ばれる海外の次世代リーダー育成の手法があります。単なる研修だけでなく、タフアサインメントと呼ばれる経営者視点の難度が高い仕事機会の提供なども含めて長期間で行っていく必要があるでしょう。
そんな取り組みについて、日本企業はなじみが薄い。具体的に成果をあげている企業例が少ない。そもそも、リーダーとは1名ではなく、複数を選ぶ必要があり、その候補者選定基準が難しい。こうした取り組みを行うにあたっての責任者があいまい。人事部なのか、経営企画部なのか、経営陣なのか?とりまとめる責任者を決める必要があります。
しかし、考えてみればわかりますが、人事部の担当者レベルが責任者を担うわけにはいきません。当然ながら機密性の高い育成プロジェクトです。結果として課題意識のある経営者が責任者として取り組んでいけるのか?そのあたりに空白地帯が埋まらない理由があるのではないでしょうか?
ミドルキャリアの当事者たちが考えるべきこと
最後に、ミドルキャリアの当事者はどうしたらいいのでしょうか?
企業は今まさにリーダーの育成機会を創出しようとしているタイミングです。まずは状況を把握するため、「リーダー育成機会の創出が自分の会社でも行われているのか?」という情報収集を行ってください。
取り組みが進められており、その流れに乗じていきたいのなら、果敢に手をあげて、自己アピールをしてみてください。リーダーにはそうした自己主張が求められます。
執筆者:株式会社セレブレイン 高城 幸司