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“大きな足がずっと大嫌い”だった彼女が、コンプレックスと向き合い続けて見えてきたものとは【SEVEN AND A HALF】

Sitakke

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北海道立近代美術館にほど近いビルの3階に、25cm〜27.5cmのレディースシューズ専門店「SEVEN AND A HALF(セブン アンド ハーフ)」があります。

このショップの二代目オーナー・鈴木いづみさんは、身長175cm。スラッとしたパンツスタイルが似合う素敵な人です。現在の仕事に出会ったのは、長年にわたって抱えてきたあるコンプレックスがきっかけでした。

そのコンプレックスを強みに変え、経営者として輝いている鈴木さん。お話を聞くと、悩みがあっても“前を向きながら歩み続けるコツ”が見えてきました。

いろいろな生き方・働き方をしている北海道の女性へのインタビューを通して、自分らしく生きるヒントを見つけるための連載です。

「自分の大きな足がずっと大嫌いだった」

白を基調にしたSEVEN AND A HALFの店内

幼稚園の頃からクラッシックバレエを習っていたという鈴木さん。長身で、スラッとした佇まいは、清楚なのにどこか華やかで人目を引きます。

鈴木さんが経営する「SEVEN AND A HALF」は、25cm〜27.5cmのレディースシューズ専門店。イタリアやスペイン、ポルトガルなどから買い付けする上質なシューズをはじめ、日本の職人が丹精込めて手作りするシューズなど、シーズン毎に入れ替わる商品数は、年間350種類にも及びます。

国内外から集めた上質な靴の数々。すべて25cm以上のサイズ

鈴木さんがこのショップに出会ったのは、大学を卒業し、会社勤めをしていた2001年。当時の鈴木さんは、長年、あるコンプレックスを抱えていました。

それは、“足が大きい”ということ。
「私の足のサイズは26cm。履ける靴がなかなか見つけられなかったんです。足が大きいことが恥ずかしくて、常に悩みの種でした」と、鈴木さん。たまたま広告でSEVEN AND A HALFのことを知りショップを訪ね、衝撃を受けたといいます。

「履けるサイズで靴を選ぶのではなく、好きなデザインで靴選びができたのは、初めての体験でした。それがすごくうれしくて」と、すっかりファンになった鈴木さんは、その後、定期的にショップに通うようになりました。

長年のコンプレックスがあったからこそ…

「中学生の頃には、すでに足のサイズが25cmくらいあって、メンズのスニーカーやサラリーマン用のローファーなんかを履いていました。女性もののコーナーには、自分に合うサイズがないので、買い物に行くのも嫌で」と、振り返る鈴木さん。

高校生になり、誰もがお洒落に目覚める年頃になると、大きな足へのコンプレックスはますます大きくなりました。いくら服装でお洒落をしても、足元はスニーカー。ガーリーな服を着たい年頃でも似合う靴がなく、諦めるしかなかったそう。

「大学時代には、男女のグループでボウリングに行くと、シューズをレンタルするときにサイズをみんなに知られるのが恥ずかしくて、無理して『24.5cmで』とか言ってました。もう足が痛くて痛くて、ボウリングを楽しむどころではありませんでした」と、今では笑い飛ばす鈴木さんですが、当時は大きな悩みでした。

そんな鈴木さんは、会社員として勤めていた時にSEVEN AND A HALFと出会います。
広告を見て、ショップを訪ねると、オーナーとして店頭に立っていたのは高校時代の同級生でした。サイズに不自由することなく足元のお洒落が楽しめる靴と出会い、すっかりお店のファンになったといいます。

その後、結婚を機に仕事を辞め、二人の娘さんにも恵まれましたが、30歳を過ぎた頃に離婚。シングルマザーとして娘さんたちを育てることに。

当時、SEVEN AND A HALFのオーナーが海外での買い付けで不在にする際は、友だちのよしみで鈴木さんがショップに立つこともありました。そして2009年、正式にパートスタッフとして採用。以来、お客様の悩みに寄り添いながら接客し、信頼を築いて行きます。

「自分自身が靴で痛い思いをたくさんしてきたので、お客様には靴で笑顔になってほしいんです」と話す鈴木さん。たとえお客様が気に入った靴でも、足に合わないと判断したときは、しっかりとマイナス部分を伝え、ぴったり合った靴をお薦めするように心がけてきました。
「せっかくなら、ずっと長く履いていただきたいので」。そんな心のこもった接客を続けるうちに「鈴木さんに靴を選んでもらえて良かった」と、ショップに通い続けるお客様も。

そして、パートスタッフとして働き始めて10年が経った頃、鈴木さんに転機が訪れます。
「この店を継いでくれない?」
2019年、海外移住を決めた前オーナーから、こんな言葉をかけられました。

「正直、経営者になる自信がなくて悩みました」。鈴木さんは当時を振り返ります。


一大決心で二代目オーナーに。ところが直後に大ピンチ!

「接客にはある程度ノウハウが蓄積できたとは思っていましたが、経営に関してはまったくの素人。すごく迷いました。それでも娘2人を育てていくためには働かなければなりませんし、何よりこのお店が好きでした。足のサイズに関する悩みを抱えて、ここにたどり着いてくださったお客様のことを考えると、ちょっと頑張ってみようかな、と。私もこのお店に救われたわけですから」。

2019年10月、鈴木さんは経営譲渡を受け、SEVEN AND A HALFのオーナーに。独学で経営を学び、仕入れから接客、顧客管理まですべてを一人でこなす多忙な日々が始まりました。

仕入れ、接客、事務仕事、WEB管理まで一人で何でもこなす鈴木さん

しかし、一念発起して経営を引き継いだ鈴木さんに大ピンチが訪れます。
オーナーとして新しい年を迎えて間もなく、世の中は新型コロナウイルスのパンデミックに陥り、北海道は全国に先駆けて緊急事態宣言下に。お洒落をしてお出かけすることはおろか、通勤すらままならない日常が始まりました。
「どこにも行けないのだから、靴なんてそもそも必要ありませんよね。お客様がいらっしゃらない、注文も来ない。数字の面では本当に大変で、夜中に目を覚ますこともありました」。

それでも、今できることをやろうと前を向いた鈴木さんは、「お店を忘れられないように、DMやメルマガを出しました。できるだけお客様の負担にならないような軽い感じで」と、努力を惜しみませんでした。

ピンチのときでも「お客様の負担にならないように」という言葉に、鈴木さんの人柄がにじみ出ています。


お客さんとの交流で経営者としての自信も

2020年から続いたコロナ禍。乗り越えられた理由をたずねると「お客様の声だったんですよ」と笑顔を見せる鈴木さん。来店は叶わなくても、「ここがなくなったら、靴を買えるお店がなくなるから頑張って」。そんなお客様からの言葉に救われたと言います。「必要とされている間は頑張らないとって思えました」。

再びお出かけもお洒落も楽しめる日常が戻り、「最近は以前のようにたくさんお客様が来てくださって、ネット販売の方も好調です」。女性はもちろん、ジェンダーレスなお洒落を楽しむ男性客も増えたそう。

サンダルからパンプス、ブーツ、スニーカーまで幅広い品揃えとバリエーション豊かなデザインが魅力

昨年の春頃からは、お店のSNSに本人自ら登場し、お店の紹介や新作の案内をするように。「それまで表に出ることに抵抗があったんです。どこかで、自分が始めたお店ではないし、ご縁があって引き継がせてもらっただけだからという自信のなさがあったのだと思います」と鈴木さん。

そんな不安をよそに、勇気を持ってSNSに顔を出すと、お客様からは「オーナーの人柄が分かって、お店の良さが伝わる」といった好意的な声がたくさん寄せられました。さらに、今年2月に初めて出店した阪急うめだ本店でのポップアップショップには、大阪や神戸からもお客様が訪れ、声をかけてくれたそう。「それまで通販でご利用いただいていたお客様が、『鈴木さんに会いたかった!』と言って来てくださって。SNSで顔を出しておいてよかったと思いました」と、ひときわ明るい笑顔を見せた鈴木さん。

マニッシュなローファーを品良く履きこなす鈴木さん

遠方のお客様とも直につながれたことで、経営者としての自信も湧いてきました。
「30代でお洒落にも迷うようになったのですが、スタイリストの友人からカッコイイ靴が映えるファッションを提案されたんです。大きい足だからこそ決まるスタイルだと実感して、今では足が大きいのが私の長所だなって(笑)」。

いつしか、鈴木さんは自身のコンプレックスを長所とまで言えるようになっていました。


「素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれるから」

最近ではショップ内でイベントを開催し、積極的にお客様と交流の場を設けている鈴木さん。靴だけでなく、服についても「どこで買っているの?」といった質問を受けることも多く、お買い物情報の共有も楽しんでいるそう。

「本当に足が大きいことが嫌で仕方なかったのですが、その足のおかげで今はこうして頑張っていられます。過去の私に、もしも言葉をかけられるなら、『嫌いだった部分があるからこそ、同じ悩みを持つ人にちょっとプラスになることができるよ』と伝えたいですね」と、鈴木さんは胸を張ります。

抱えていたコンプレックスがきっかけとなって、まったく予想もしていなかった未来へとたどり着いたときには、そのコンプレックスが強みに変わっていた鈴木さん。「コンプレックスを強みに転換するのはすごく難しくて、私は何年もかかってしまいました」と、これまでの道のりを振り返ります。さらに、「私に言えるのは、マイナス面をほんの少しでもプラスに考えるようにしてみたら、それはいつか強みにさえなるということでしょうか」と、優しい眼差しながらも、力強いメッセージをくれました。

「『素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる』というヨーロッパのことわざがあるように、何か新しい挑戦をするときには、新しい靴からパワーをもらえる気がします。そんな靴をみなさんにお届けしたいですね。きっとこれは、私じゃなければできない仕事ですから」。

SEVEN AND A HALF(セブン アンド ハーフ)

【店舗名】大きいサイズの靴セレクトショップ SEVEN AND A HALF(セブン アンド ハーフ)
【住所】060-0042 北海道札幌市中央区大通西16丁目3−27 美術館前片岡ビル 3階
【営業時間】11:00~18:00
【定休日】水曜・木曜(臨時の定休日は、Instagramにてお知らせしています)
【公式Instagram】@seven_and_a_half_712

※2024年6月取材時の情報です。最新の情報は店舗までお問い合わせください。

文:菅谷環
編集・撮影:Sitakke編集部 ナベ子

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