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【ニワカ知識はトサカにくるぜ!】鳥類学者・川上和人先生に聞く! アニメ『ニワトリ・ファイター』を2億倍楽しむためのニワトリ講座

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2020年12月の漫画原作連載開始直後から、その斬新な世界観と圧倒的な画力で北米・中南米を中心に大きな話題を呼んでいるのが、マンガ『ニワトリ・ファイター』。現在では世界50カ国以上で翻訳展開されているほか、2026年4月からは、いよいよファンが待望のアニメの国内放送が開始となります。

私たちの生活にも欠かせない、そして人類にとって一番身近な鳥類とも言える「ニワトリ」が主人公の本作ですが、皆さんはニワトリについてどれくらい知っていますか?

そもそも原作におけるニワトリの描写がどれくらい正しいと思いますか?

“ニワカ知識”で本作を語るのはニワトリにも失礼ということで、アニメイトタイムズでは鳥類学の第一人者であり、鳥類に関する著書も多数執筆されている鳥類学者・川上和人先生をお招きして、ニワトリについて徹底的に解説していただきました。

これを読めばアニメ『ニワトリ・ファイター』が2億倍楽しくなること間違いなし! ニワトリと鳥類学の神秘の世界へようこそ!

 

川上和人さんプロフィール

1973年生まれ。鳥類学者。農学博士。森林総合研究所 北海道支所 地域研究監。2017(平成29)年にベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』など、鳥に関する多数の著書のほか、図鑑の監修やNHK『子ども科学電話相談』への出演などの幅広い活動を行う。

 

【写真】アニメ『ニワトリ・ファイター』鳥類学者・川上和人先生によるニワトリ講座

この『ニワトリ・ファイター』は鳥類学的にも信用できる作品ですね(笑)

──川上先生には事前に『ニワトリ・ファイター』の漫画を読んでいただきましたが、鳥類学者目線でいかがですか……?

鳥類学者・川上和人さん(以下、川上):鳥って体全体がモコモコとした羽毛に包まれていて、どこにどんな骨や筋肉が付いているのか分かりづらいので、それを描くのはなかなか難しいんですよ。いい加減な描き方だと「これだと重心が悪くて転びそうだな……」なんて思ったりもしますが、この作品は鳥類学者目線でも本当にしっかり描かれていると感じました。

特に一番よく描けていると感じたのは、第6巻の表紙にもなっている烏骨鶏(うこっけい)の足の指の数です。ニワトリを含む一般的な鳥の足の指は「前指3本・後ろ指1本」になっていますが、烏骨鶏の場合は親指が2本あるので「前指3本・後ろ指2本」の全部で5本指、場合によっては6本指なこともあって普通の鳥とは全く違うんです。

そんなところまできちんと描かれていたので、この『ニワトリ・ファイター』は鳥類学的にも信用できる作品ですね(笑)。

 
一同:(笑)

──まさかのいきなりお墨付きを頂いてしまいました。今回のインタビューでは『ニワトリ・ファイター』という作品をベースに、ニワトリについて学べたらと思いますが、まずはニワトリの学名やルーツといった基礎知識を教えていただけますか?

川上:ニワトリは世界中に常時200億羽程いると言われている世界で最も数が多い鳥です。しかも、ニワトリはほぼゼロ距離で接することができるので、人間にとって最も身近な鳥でもあります。

ニワトリのルーツは東南アジアにいる「セキショクヤケイ」というキジの仲間で、このセキショクヤケイを人間が飼い始めて、長い時間かけて改良して現在のニワトリになっています。ちなみにニワトリの学名は「ガルス・ガルス(Gallus gallus)」と言って、ガルス属のガルスという意味になり、ガルスという言葉は「雄鶏」を指します。

そこから人間が、卵をたくさん産んでいたり、お肉がたくさん付いている個体の選抜を繰り返して、段々と飼いやすくしたのが現在のニワトリです。これまでにも小型の「チャボ」から大型の「軍鶏(シャモ)」、日本で一番大きいものだと体重が7キロ近くのものもいる九州の「天草大王(あまくさだいおう)」など、世界中で様々な品種が作られています。

──いわゆる家畜のような形で、人間の好みに合わせて品種改良されてきたんですね。

川上:一般的に「家畜」は哺乳動物に対しての言葉で、鳥の場合は「家禽(かきん)」と呼びます。例えばアヒルはマガモを改良して作ったものですが、同じようにセキショクヤケイをルーツとして選抜・改良してきたのがニワトリというわけです。

セキショクヤケイは、私たちが地鶏などで見るような、全身が赤っぽい見た目をしています。ニワトリというと「白」をイメージする方が多いと思いますが、赤っぽい見た目のセキショクヤケイがルーツなんです。

では、どうしてニワトリが白色になったかと言うと、それは人間が白を好んだからです。ニワトリに限らず、ヤギや羊などもそうですが、人間は野生動物を飼育している時に白い個体が生まれると、それを選びがちなんです。ニワトリもそういった流れで、白い個体が一般的になったと思ってください。

──先ほどチャボや軍鶏の話が出ましたが、よく耳にする「雄鶏(おんどり)」と「雌鶏(めんどり)」は単純にオスメスの違いという認識で良いのでしょうか?

川上:そうですね。オスとメスの区別で一番分かりやすいのは「トサカ」の大きさで、オスはトサカが立派で大きく、メスは小さめなのですぐに見分けがつきますよ。

──たしかに漫画を改めて確認すると、エリザベスのトサカは少し小さ目になっていますね。

▲左:エリザベス、右:ケイジ

川上:実はニワトリは「一夫多妻」なので、オスは非常に気性が荒くて、同じ場所でたくさん飼うと激しくケンカをしてしまいます。基本的にはメスをたくさん飼って卵を取り、オスの数は少なめにして種付け用に飼育することが多いので、人間にとってニワトリのオスメスの違いは重要なんです。だから、あえて「雄鶏」と「雌鶏」という言い方で区別しています。

あと、チャボやシャモというのは品種です。チャボは英語で「バンタム(Bantam)」と言いいますが、ボクシング好きな方は「バンタム級」という階級を思い浮かべると思います。あれは「チャボのように小柄」というところから名付けられています。

──個人的にチャボと軍鶏は名前が似ていて、子供の頃は同じだと勘違いしていました。

川上:名前は似ていますよね。軍鶏の方が、体が大きくて力も強く、特にオスは足にある「蹴爪(けづめ)」が大きくて、それを使って喧嘩をするような性質が引き出された品種です。闘鶏はフィリピンなどで特に盛んですが、この蹴爪に鉄製の爪を付けて相手が死ぬまで戦わせるなんてこともやるそうです。

あと、現代でもよく使われる「バトルロイヤル」という言葉がありますが、これは闘鶏から生まれた言葉なんですよ。

一同:へー(関心)。

川上:イギリスの王様が自分専用の闘鶏場を持っていて、そこで最後の一羽になるまで複数のニワトリ同士を戦わせたのが始まりです。「ロイヤル」という言葉がついているのは、まさに王家(ロイヤル)が楽しんでいた証なんですね。

それで「バトルロイヤル」と呼ばれたのが、今は一般の方も使う言葉になっています。実は皆さんも気づかないうちに、ニワトリに関連した言葉を使っているわけです。

──闘鶏用に飼われたり、バトルロイヤルの語源にもなっているニワトリですが、そもそもニワトリは戦闘能力が高い生き物なんですか?

川上:めちゃくちゃ高いです。足にある蹴爪を見てもらうとわかると思いますが、種類にもよりますが結構大きくて、あれで蹴り合うんです。

ニワトリは一夫多妻制なので、自分が囲っているメスと縄張りを防衛することがオスの役割です。当然、メスを奪い合ったりする中であぶれるものもいます。でも、そいつらもメスと“つがい”になりたいし、縄張りを持ちたいとなると、他のニワトリから奪い取るしかありません。だからニワトリはオス同士で激しく戦うんですね。

そんな中から特に気性が荒いというか、ファイティングスピリッツの高い個体を選抜して作られたのが軍鶏だと思ってください。最近では動物虐待という観点から禁止される動きが世界中でありますが、品種によっては攻撃性が非常に高いため、蹴爪に鉄製の器具をつけて片方が死ぬまで闘鶏させることもあるくらいです。

──蹴爪は突き刺さりそうな見た目ですね。

川上:肉体の装飾が大きければ大きいほど強い証なので、蹴爪に関しては戦う前にお互いの格付けができるという意味もあると思います。その上で、実際に戦いにも使う部位なのだと考えてください。

──そう聞くと、ケイジが巨大な鬼獣に立ち向かっていく姿も、あながちファンタジーとは言い切れないリアリティを感じます。

川上:そうですね。数ある鳥類の中でも、ニワトリは比較的戦う種類ですので、そんなニワトリを主人公に選んでいるのは鳥類学的な観点から見ても非常に納得がいきます。

 

昔、ニワトリは富や権力の象徴だった!?

──東南アジアがルーツの飛べるないニワトリが、どうやって世界中に広がっていったのでしょうか?

川上:どれくらいの時期にセキショクヤケイが家禽化されたかは、3,600年前という説もあれば、8,000年前というように諸説あり、実はよくわかっていません。ただし、世界中に広がっていった流れはわかっています。

キジの仲間のセキショクヤケイは長距離を飛ぶのは苦手ですが、短距離であれば数十から百メートルくらい飛べる鳥だと思ってください。それが家禽化されて肉がたくさん付くようになると、より飛べなくなるから飼いやすくて珍重されたわけです。しかも色が綺麗で観賞用にもなるので、人々はこぞって世界中へ連れて行ったんです。

昔の人たちは船で移動する時にニワトリを一緒に持って行ったらしく、例えばイースター島などにもニワトリを連れて船で渡っていたことがわかっています。ニワトリは飼いやすくてお肉もたっぷりとれるし、卵も産んでくれるので、それだけ人間にとって有用な生き物だったんです。

──そうすると日本にニワトリが入ってきた時期も不明ですか?

川上:確実な記録としては弥生時代で、紀元前2~3世紀頃には既に日本に入ってきていたようです。ただし、ニワトリというと卵や食肉をイメージするかもしれませんが、弥生時代の遺跡から出てくるニワトリの骨はオスに偏っています。もしかしたら当時の日本ではまだ上手に繁殖ができなかったのではないかと言われています。

では何のために飼われていたのか、もちろん本当のことは誰もわかりませんが、有力な説としては「威信財(いしんざい)」だったのではと言われています。威信財というのは、いわゆるお金持ちが持っている富や権力の象徴のことです。

ニワトリは「時告げ鳥」とも言われるように朝に鳴くことで時間もわかるし、それ以外にも宗教的な象徴として飼っていた可能性もあります。もしくは闘鶏として飼っていたかもしれませんが、少なくとも最初は食用でなかったのは間違いありません。なぜなら、見つかる骨がほぼオスである以上、卵や肉が目的ではなかったと推測されるからです。

古墳時代になると、ニワトリの絵が描かれた土器や鳥形の埴輪などが作られるようになるので、それくらい日本でも長い歴史がある生き物だと思ってください。

──高貴な生まれと言うと語弊があるかもしれませんが、日本に持ち込まれた時と今とでは全く違っていたんですね。

川上:それこそ最初は大陸からきた珍しい生き物なので、ニワトリを持っているだけで誰もが尊敬してくれる、それくらいの価値があったのではないかと思いますね。

 

 

どうしてニワトリは飛べない方向に進化したのか?

──ケイジはひたすら歩いて旅をしますが、なぜニワトリは鳥なのに飛べない方向に進化したのでしょうか?

川上:一言で言えば「飛ばない方が人間にとって便利だったから」です。キジの仲間やセキショクヤケイは決して飛べないわけではなく、捕食者に襲われた時などにはバッと飛びあがって何十メートルか逃げたりします。

もともとはニワトリもそうだったんです。ただ、食肉用の品種にしたい場合、一羽から取れる肉の量が多ければ多いほど良いですよね。だから、人間は肉付きが良い個体を選んでいき、それらが交配することで体が重くてどんどん飛びづらい個体が増えていきました。あまり飛ばない性質を持っている個体の方が、人間にとっては逃げられにくくて飼いやすいわけです。

人間が飛ばない個体を選抜していくことで、人為的な進化が起こって飛ばない方向になっています。ただし、完全に飛べないわけではなく、木の上まで飛んでそこをねぐらにするようなニワトリもいますよ。

──人為的な進化・交配で徐々に飛距離が落ちていったんですね。

川上:昔は飛べたという根拠を知りたければ、鳥の胸骨を見てください。一般的な鳥の胸骨の前には「竜骨突起(りゅうこつとっき)」という突起があるんです。英語では「キール」と呼ばれる部位ですが、その突起はダチョウなどの全く空を飛ばない鳥にはありません。

竜骨突起があるおかげで突起の横にたっぷりと筋肉を付けられます。それが「むね肉」と「ささみ」なんですけど、実はむね肉は翼を下ろすための筋肉で、ささみは翼を上げるための筋肉なので、これを繰り返して動かすことで鳥は空を飛べています。だから、竜骨突起があるニワトリは飛ぶタイプだと一目でわかりますし、その竜骨突起のおかげで肉がたっぷりつくので、我々はむね肉をたくさん食べることができるのです。

あと、ささみにはスジが付いていますよね。実はあのスジで翼を動かしているので、スジは肩の後ろを回って翼に繋がっているんです。筋肉が収縮すると、このスジが翼を持ち上げる仕組みになっていて、あのスジがないと空を飛べなくなってしまいます。ささみの調理をする際、スジを取り除く時には「これがあるから鳥は空を飛べるんだ」と思っていただけたら嬉しいです。

──これからはスーパーで鶏肉を見る目が変わりそうです。

川上:ちなみに鶏肉はピンク色をしていますが、多くの鳥の筋肉は赤色です。それはマグロの赤身と同じ理由で、長距離を飛ぶ鳥の筋肉にはヘモグロビンよりも多くの酸素を蓄えられる「ミオグロビン」という色素タンパク質がたっぷり含まれているからです。

ニワトリの場合は長距離飛行をしないし、捕食者から逃げる時も短距離を飛ぶだけなので、そこまで酸素を必要としません。だから赤よりも薄いピンク色のお肉で、味もさっぱりしています。逆に、鴨の肉は赤色が強くて血の味がしますが、カモは長距離移動するために筋肉にミオグロビンが多く含まれているからです。

だから、ニワトリのピンク色のお肉というのは、言ってみれば鳥の中でも異端なんです。

──むね肉やささみの話を伺いましたが、鳥類学者の川上先生から見て、ケイジの肉体の描き方はいかがですか?

川上:筋肉の点でも非常に作画が良いと思います。僕らは鳥の健康状態を見る時に、胸の筋肉の付き具合を見るんです。竜骨突起(キール)の周りにパンパンに筋肉が付いていると、鳥でもマッチョな感じになるので、それを僕たちは「キールスコア」と呼んで5段階で評価したりしています。

──ケイジの胸板はかなり厚いですがキールスコアで言うと?

川上:間違いなく「キールスコア5」で最高ランクのムキムキ状態ですね(笑)。だから、ケイジが疲れ果てて健康を損なうような描写が出てくることがあれば、キールスコアも下がっていきますし、もし「キールスコア1」になってしまうと竜骨突起が飛び出して見えるほどガリガリなはずです。もしそうなったら、読者の皆さんは「キールスコアが落ちてる!」と全力で応援してあげてください。

アニメ『ニワトリ・ファイター』スタッフ:実はアニメ化に際してケイジのCGモデルを起こす時に、原作の桜谷シュウ先生から肉付きやトサカの形などに細かくチェックが入ったんです。アニメは漫画と違って線を単純化しなければいけないところはありますが、シルエットなどは桜谷先生がご自身で研究したものを反映しています。

川上:それは素晴らしいですね! 漫画の方も僕のような専門家が見ても違和感なのないニワトリが描かれていましたからね。

 

「トサカ」の秘密

──ケイジの決めゼリフが「トサカにくるぜ!」ですが、ニワトリといえばみんながイメージする「トサカ」にはどんな役割があるのでしょうか?

川上:オスとメスで大きさや色が異なる部分がある場合、多くは性的な役割があると言われています。鳥はメスがオスを選ぶ場合が多いので、その時の判断基準が必要になるんです。例えば、トサカが大きくて鮮やかな色をしていたら「体の健康状態が良い」という信号になりますし、逆に元気が無くて寄生虫がたくさんいるような時はトサカの色が悪くなったり、小さくなってしまいます。

実はニワトリにとって、トサカは生きていくために不可欠な器官ではありません。そんな部分にこれだけ体組織を投資できているということは、それだけ体の状態が良いというアピールになるんですね。そういう個体を好むメスがいることでオスの方も進化していく、これを「性淘汰」と言いますが、それが起こった結果だと考えられます。

──そうすると『ニワトリ・ファイター』の劇中でケイジがメスに振られてばかりなのは、ニワトリの生態を考えると正しい描写なんですね。

川上:そうですね。オスがどんなに望んでも、メスの方から選んでもらえなかったら交尾まで至れませんから。

──トサカはニワトリの象徴みたいなイメージでしたが、本当にメスからモテるためだけのものだとは思いませんでした。

川上:でも彼らにとってはすごく重要なものなんです。どんなに元気でたくさん食べ物を採れても、メスにモテなかったら子供を残せませんし、子供を残せなかったらそのDNAは途絶えてしまいます。メスにモテる形質を持っていることで子供をたくさん残せるので、それが選ばれて集団の中に広がっていくのが進化のメカニズムなんです。

──作中ではトサカの形にも色々とありますが、これもメスにモテるための進化の過程ですか?

川上:これはどちらかというと人間の好みだと思います。セキショクヤケイから家禽化していったように、ニワトリの進化には人間による品種改良という側面が加わっています。

人間はニワトリを食用だけでなく愛玩用として飼う方もいるので、特徴的なトサカの形をしている個体を選んで増やしたりもするんです。そういった際は「変わった形のトサカ」「変わった体の色」といった個体が選ばれやすくなります。

──金魚の品種改良みたいですね。

川上:それこそ烏骨鶏なんて頭にいわゆるトサカはなくて、モコモコとしたものが付いていますが、それは人間が選んだ結果です。烏骨鶏って骨や筋膜まで黒いという不思議な特徴を持った鳥で、そういうのも含めて人間が面白いと思って選んできた結果なんです。

 

 

ケイジのような進化は有り得るのか?

──主人公・ケイジの必殺技「鴣鴃鶻鵁(コケコッコー)」のように、ニワトリといえば「コケコッコー」と朝に鳴くイメージがありますが、そもそもどうして朝に鳴くのでしょうか?

川上:ニワトリに限らず鳥全般で言われているのは、鳥が鳴く主な目的は「縄張り宣言」や「メスへの求愛(メイティング)」です。それをどうして朝に行うかと言うと、朝は昼間に比べて雑音が少なく、空気が温まっていなくて気流が安定しているので、声が遠くまで届きやすいからと昔から言われています。

それに加えて、最新の研究では「縄張り意識が強い鳥ほど早朝に鳴く」ということがわかってきました。

ニワトリは一夫多妻なので、たくさんのメスを囲いつつ、自分の縄張りをガチガチに守るために縄張り宣言が必要になります。しかも、それを怠ると勝手に他のオスに縄張りに入り込まれてしまうかもしれない。だから、他のニワトリに自分の縄張りを知らせる意味で、朝一番に鳴いているのではないかと考えられます。

──求愛でも鳴くということは、オスとメスで鳴き方も異なるのでしょうか?

川上:基本的に「コケコッコー」と大きく鳴くのはオスで、メスは「コッコッコ……」と小さく鳴くと考えていただけたらと思います。鳴き声以外にも子育ての役割も全く異なっていて、オスは交尾をしたら子育てはしないし、卵も温めません。では、オスは何をしているかというと、ひたすら縄張りを守ることに専念しています。

──縄張り意識や気流のことなど考えると、実はニワトリはすごく頭が良いのでしょうか?

川上:いえ、頭が良いかどうかではなく、長い歴史の中でこういった行動をとる個体が生き残って多くの子孫を残してきただけなので、ニワトリが考えてやっているわけではないと思ってください。

頭の良さを何で測るかは難しいですが、体の大きさに対する脳の大きさが一つの基準になります。ニワトリと他の鳥を比べると、カラスなどと比べて頭が小さいんですよ。

ニワトリはキジ目に分類されますが、日本で見られる鳥の中で最も古い時代に現れた鳥のグループがキジとカモで、どちらも体のサイズに対する頭の大きさは小さいです。一番最後に現れたグループがカラスやスズメですが、その仲間は体に対して頭がすごく大きくて賢いタイプになります。

──たしかに頭の良いカラスの話はよく聞きます。

川上:いわゆる知性と言う意味では、ニワトリはそれほど高いわけではありません。しかし、古い時代に現れてから絶滅せずに生き残っていることは、非常に上手く環境に適応しながら素晴らしい進化を遂げてきたのだと思います。

だから、ニワトリたちは考えて工夫しているというよりも、長い歴史の中で数え切れないほどの障害を乗り越えながら洗練されて、それで今なお生き残っているのだから本当にすごいと思いますね。

──作中にはスマホを使いこなすメンドリのエリザベスも登場します。鳥が道具を使ったり、知的な行動をとるようなことは現実でも有り得るのでしょうか?

川上:道具利用となると、有名なのはガラパゴス諸島にいる「キツツキフィンチ」なんかは枝を使って虫を捕ったりもします。あとはニューカレドニアにいる「カレドニアガラス」は、自分で枝を加工して作った道具で虫を捕らえたりするんです。

こういう鳥って何故かガラパゴスやニューカレドニアみたいな島で進化することが多いのですが、それはおそらく島というのが食べ物の枯渇しやすい環境ということに起因しています。そういった場所では、枝や道具を使うような特殊なことをしないと生き延びられなかったんです。

ピンチに陥った集団ほど工夫をするんですね。工夫するということは頭を使うことなので、頭を使って考えるとものすごくエネルギーを消費します。エネルギーが必要になると、それだけ食べ物も必要になるので、本来であればそれをせずに済ませたいのが野生動物です。それでもなお頭を使わなければ絶滅してしまう状況にあると、道具利用のような進化が起きやすいんです。

だから、できれば野生動物は考えずに済ませたいんです。その方がお腹が空かないから、野生環境では馬鹿ほど有利なんです(笑)。

──そうするとエリザベスはかなりエネルギーを消費したようですね。

川上:ニワトリにそうした進化は起きづらいかもしれないと思いつつも、もう一つの条件としては逆に余裕がある時にも進化が起きることがあります。食べ物がたくさんあって、エネルギーをたくさん使っても生存上の問題が全くないくらい余裕があれば、頭を使う行動のような進化をしやすいです。

めちゃくちゃ貧乏で工夫しないと生きられない場合と、めちゃくちゃ金持ちで余裕がある場合の、その両極端で進化するかもしれないわけです。ただ、ニワトリは体の大きさに対して頭のサイズが小さいので、本作のエリザベスのような進化は難しいかもしれません。

余裕のある生活をしていて、エネルギーも有り余っていて、それで他の個体にはないくらい脳のサイズが大きくなっている、そういった条件があれば進化が起きる可能性もゼロではありません。エリザベスに関しては、大金持ちに飼われているから進化できたと思いたいですね。

──エリザベスはスマホを使って人間の飼い主と意思疎通します。文鳥などは人間とコミュニケーションを取るイメージがありますが、ニワトリも同じようにコミュニケーションをとることはできますか?

川上:それは無理です。人間は普通に会話をして、頑張れば英語などの言葉も覚えることができるじゃないですか。これは音声学習をしているわけです。しかし、鳥の中で音声学習、つまり後天的に他の生物の声を学習して鳴き声を変えることができるのは、鳥類の中でもスズメ目、オウム目、ハチドリ科の3種類だけです。

この3種類以外は、生まれた時に持っている鳴き方しかできません。だから、人間の音声を聞いてコミュニケーションをとれるように発達することは、生物学的も系統的にも無理ということになります。

──では、音声を真似るのではなく、人間の指示を理解したりするくらいはできますか?

川上:それは大丈夫だと思いますね。餌をくれる人を覚えたり、あるいは相手が攻撃的なのかなどを見極めることは、野生で生き延びるために重要なスキルです。同じ個体でも襲い掛かってくる時と、そうでない時の相手の反応を知ることは非常に重要で、それができないと進化できずに死んでしまいますから。

──単行本の第4巻では鳩と合コンするといった、種族を超えて交流するシーンがあります。動物によっては種を超えて共生することもありますが、戦う意識が強いニワトリが他の動物と共生することはあり得ますか?

川上:ひよこが犬や猫と仲良くなる事例はあるので、生まれた時から見慣れていて、相手が自分を攻撃してこないとわかっている状態であれば、種を超えて仲良くなることは十分できると思いますよ。

 

ニワトリについて気になるアレコレ

──ケイジもそうですが、ニワトリは白のイメージが強いのに、ひよこが黄色なのは何か理由があるのでしょうか?

 
川上:ひよこの黄色い羽毛には「カロテノイド」という成分が入っていますが、カロテノイドには抗菌作用もあるので、もしかしたら病気から身を守るバリアのようなものになっている可能性があります。

鳥には大人と子供で羽の色が違う場合がありますが、その理由の一つは見た目で大人になったとわかれば、大人同士でつがいを探したりできるんです。若鳥にしても、自分が若い鳥だと他から見分けがつけば、縄張り争いなどに巻き込まれなくなります。だから生きる上での信号みたいな意味で、こういった違いが重要になってきます。

鳥でも哺乳動物でも、背中が茶色くてお腹が白いものが多いのですが、茶色の毛はメラニン色素を含んでいるため太陽からの紫外線を吸収してくれるので、それでDNAの損傷を防いでいると言われています。

このように、実は大人側の羽毛や毛の色には多くの意味があるんです。でも子供の時にはそういったことよりも、むしろ成長にエネルギーを注がないといけないので、ひよこの羽毛のような形状でしのいでいるのでしょう。

あと、鳥の種類によっては、生まれる前から毛が生えているものとそうでないものがいますよね。ヒヨコのように地上で生活する鳥は、生まれた瞬間から捕食者に襲われるリスクがあるため、孵化した時点で歩けないといけないので生まれつき羽毛が生え揃っています。逆にメジロやカラスのように樹上に巣を作る鳥は歩けると、かえって木の上から落ちてしまうので、裸で目も開いてない状態で親鳥に守られながら成長するんです。

──ニワトリのモノマネをする時、みんな頭を前後に揺らしますよね。実際のニワトリもそんな感じで歩きますが、あれだと視界が悪くなる気がするのですが、あの動きに何か意味があるのでしょうか?

川上:実は逆で、あの動きをすることで視界が良くなっているんです。人間は眼球運動ができるので、例えば電車の中で風景が流れていくのを、体を動かさずに眼球を動かすことで風景の流れに対して眼を止めることができます。ところが、鳥の眼球は球状ではなく、平たく潰れた形をしているので眼球運動がほとんどできません。

しかも鳥は目が横についているので、ただ前に歩くと風景がどんどん流れていって逆に見えづらいはずです。だから、実はニワトリは頭を振っているのではなく、空間に対して頭を止めているんです。

つまり自分が前に進む時に、先に首を出して頭を固定して、後から体を前に出しています。そうすることで頭を出した瞬間は視界がブレますが、後から身体だけ動かしているあいだは安定して視界を確保できるんです。

だから、ちゃんと鳥を見てみると、1歩に対して1度だけ頭を動かしていることがわかりますよ。人間から見ると体に対して頭を動かしているように見えますが、あれは逆に空間に対して頭を止めている動きなんです。

──ニワトリというと毎日のように卵を産むイメージもありますが、どうしてあんなにポンポンと産めるのでしょうか?

川上:それも人間が卵を産む個体を選んできた結果です。ただし、野生の鳥でも、例えば卵を5個産むと決まっている個体がいたら、5個の時点で卵を産むのを止めて温めはじめるのが普通です。でも、そこから卵を盗むと、減った分を産み足していくんです。

ニワトリも同じで、巣に卵が残っていると、それを温め始めるから新たに産まなくなってしまいます。そこで人間が卵を取り上げ続けることによって、本来は5個しか卵を産まない個体が10個も産んだりするんです。鳥は元々そういった性質を持っているのが、ポンポンと卵を産む理由の一つです。

その中で、特にたくさん卵を産み続けるニワトリを人間が選んできた結果、年間で250個とか産むような現在の個体が誕生したわけです。ニワトリが卵を産み、人間がどんどん回収していき、それに対してニワトリが産み足していく、そんなサイクルが続いているんですね。

──卵と言うと、殻や黄身の色が濃厚だと栄養が高いみたいなイメージがあります。そういった色の違いで栄養価も異なるようなことは有り得るのでしょうか?

川上:生物学者としての見解を述べると「殻の色と中身の栄養価はあまり関係ない」です。黄身の色はカロテノイドという色素で、カロテノイド自体には抗菌作用などの良い面もあるので、それがたくさん含まれている色の濃い卵ほど良いものとも言えます。ただし、それはあくまでもカロテノイドに限った話なので、例えば黄身が濃いからといってアミノ酸などの他栄養素が豊富に含まれているかといえば、それはまた別の話ですね。

カロテノイドが多いエサをたくさんあげれば、当然ですが黄身の色は濃くなりますし、逆にカロテノイドが少ないエサを与えると白っぽくなります。殻の色は主に鶏の品種や系統で決まります。

珍しい殻の色としては「アローカナ」というニワトリの品種で、このアローカナの卵の殻は青いんです。青い卵と聞くと食欲がわかないかもしれませんが、系統的にそういう特徴を持っているだけなので、農協などで見つけたらぜひ食べてほしいですね。

──作中では、大葉の葉と玄米とコーンが盛られたものをご馳走と言ったり、海でウニを食べたりもしています。実際のニワトリも意外とグルメなんですか?

川上:ニワトリは雑食性なので色々なものを食べられますが、その中で何が好きかは本人に聞いてみないとわからないですね(笑)。例えば、野生のキジ目の鳥は、木の実や草の若葉だけでなく、ミミズなどの小動物も好んで食べます。ミミズにはタンパク質が多く入っているので、彼らにとってミミズはご馳走なのではないかと思います。

食べ物の味には全て意味があるんですよ。「旨味」はタンパク質の味なので、肉体を作るために必要です。「苦味」は元々は毒の味ですし、「酸味」は未熟なものや腐っているものに多いので、食べてはいけないものがわかる。「甘味」はエネルギー源になりますし、「塩味」はミネラルの味なので体に不可欠なものです。

人間もそうですが、その時に不足しているものを美味しいと感じるので、ニワトリも穀物ばかり食べているとミミズの旨味を取りたくなったり、逆にミミズばかり食べていると穀物とか若葉を美味しく感じるんじゃないかなと思います。

──ケイジは意外と味にうるさくて、カメムシを食べて「苦みがあって美味しい」と感想を述べたりしていますね。

ケイジ:普通の野生動物は苦みを嫌がることが多いので、だからこそカメムシなども食べられないように忌避物質として「苦み」といったものを出すようになっています。ただ、人間も進化の過程で「苦み」のような刺激を好むようになってきているので、家禽として長い歴史があれば、野生では食べないものでも好むように進化を遂げることは十分に有り得ると思います。もしかしたらケイジは食通に進化してきているニワトリなのかもしれませんね。

──ここまで様々なニワトリに関する知識をありがとうございました。最後に、アニメの放送を楽しみにしている方に向けて、鳥類学者の目線からメッセージをいただけますか?

川上:ニワトリは本当に誰にとっても身近で、あらゆる文化圏で愛されている鳥だと思います。この「ニワトリ」という鳥の中には、鳥類学のあらゆる面白さが詰まっています。

それこそ竜骨突起からは飛べる鳥であることがわかりますし、翼の骨の構造を見れば「癒合しているから、体を頑丈で軽くしているのだな」と僕らは思ったりもするわけです。ニワトリの骨格というのは進化の教科書みたいなもので学ぶことも多いので、骨格標本みたいな敵でも良いので、いつか劇中にニワトリの骨格が出てきてほしいと期待しています。

この『ニワトリ・ファイター』をきっかけに鳥類学の様々なことを学ぶことができるかと思いますので、一人の鳥類学者としても放送を楽しみにしています。

 
企画・取材:岩崎航太、撮影:小川遼、編集:太田友基

『ニワトリ・ファイター』原作情報

WEB連載開始と同時に、世界中で大反響を呼んだ前代未聞のオンドリ・バトル・アクション! ! ! !
これは一羽のニワトリが世界を救う物語であるーー。

原作『ニワトリ・ファイター』の単行本は、現在12巻まで好評発売中!
 

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