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なぜローマの建物は2000年も崩れないのか?自己修復する古代コンクリートの謎

草の実堂

画像:コロッセオ。壁面の穴は戦傷の痕ではなく、建設および補修時の足場用の木材を挿入するための穴である。 wiki c FeaturedPics
画像:ローマのパンテオンの内部 wiki c Macrons

日本でビルやマンション、橋や道路などの建設に広く利用されている、一般的なコンクリートの耐用年数はおよそ50年から100年ほどであるという。

しかし古代ローマの遺跡であるパンテオンやコロッセオ、水道橋などにもコンクリートが用いられているが、それらは建造から約2000年もの時を経ているにもかかわらず、いまだに倒壊せずにいる。

イタリアは日本と同様に地震が頻繁に起きる国だ。2009年に発生したラクイラ地震ではローマの建築物も被災したが、なぜ古代ローマの遺跡の多くは大規模な倒壊を免れたのだろうか。

それは単純な強度というより、長期耐久性やひび割れへの強さにおいて、現代のコンクリートとは異なる驚くべき性質を備えていたためと考えられている。

今回は、古代ローマの叡智にして現在では失われた技術の結晶「ローマンコンクリート」について、詳しく掘り下げていきたい。

ローマンコンクリートが使われている建物

画像:パンテオンの天井 public domain

イタリアには建材にローマンコンクリートが使用された歴史的建造物が、いくつも現存している。

その中でも特に代表的な建物が、ローマ市内のマルス広場に建つパンテオンだ。

紀元前25年に建造された初代の建物は火事で焼失してしまったが、五賢帝の1人と讃えられるハドリアヌス帝により、現存する建物が西暦118年から128年にかけて再建された。

古代ローマで信仰されていた神々のすべてを祀る神殿だったパンテオンの巨大なドームや基礎にはローマンコンクリートが使われており、上部に行くにつれて骨材が軽量な物質に変えられ、強度と軽さが両立できるよう設計されている。

このパンテオンは建造以来、コンクリート製の基礎やドームの改修がほとんど行われていない。

画像:コロッセオ。壁面の穴は戦傷の痕ではなく、建設および補修時の足場用の木材を挿入するための穴である。 wiki c FeaturedPics

西暦80年に建設された古代の闘技場コロッセオは、戦争時に建材が他の建造物に流用されたため、多くの部位を失ってしまった。

しかしローマンコンクリートと石灰岩を主な素材とし、鉄で補強されたアーチ構造の建物は頑丈で、1349年に起きた大地震により南側の外壁が崩落したものの、ローマの歴史を物語るその姿を今に残している。

ローマ市民にとって重要なインフラであった水道橋やカラカラ浴場、公会堂として使われていたマクセンティウスのバシリカや、人類史上初のショッピングセンターと呼ばれるトラヤヌスの市場など、大規模な建造物にはもちろんのこと、港湾施設や小規模な建築にも、ローマンコンクリートが使われている。

自己修復するコンクリート

画像:コロッセオ内部 wiki c SeveroAntonelli

古代ローマの建造物に用いられたローマンコンクリートには、現代で建物の建築に用いられる鉄筋コンクリートとは異なり、鉄筋が使われていない。

鉄筋はコンクリートの弱点であるひび割れやすさ、引っ張る力や曲げる力に対する弱さを補うために、芯材として用いられる。

だが鉄筋コンクリートは時間が経つと、アルカリ性だったコンクリートの中性化や塩害の影響で、内部の鉄筋が錆びて強度を失ってしまい、定期的に補修を行わなければ寿命が短くなる。

その点、ローマンコンクリートは鉄筋を用いないため、鉄筋の腐食によって内部から膨張し、ひび割れや剥落を起こす劣化は生じにくい。

そのため、数千年規模の時間を経ても古代ローマの建造物が姿を保ってきた理由の1つと考えられている。

さらにローマンコンクリートは、崩落の原因になりかねないひび割れを自己修復する機能を備えていることが、国際研究チームにより2023年に発表された。

画像:イタリア、ヴェスヴィオ山のポッツォラーナ wiki c Jebulon

ローマンコンクリートはポッツォラーナと呼ばれるイタリア特産の火山灰、生石灰、水、凝灰岩や軽石などの骨材を基本材料として作られているが、製造時に消石灰ではなく生石灰を使用し、水との反応で高温を生じる混合を行うことで、ライムクラスト(石灰クラスト)というカルシウム化合物がコンクリート内に形成される。

このライムクラストが、ひび割れに浸透してきた雨水や海水などの水分に触れると、内部のカルシウムが溶け出す。

溶け出したカルシウムがコンクリート内の火山灰に反応して炭酸カルシウムが再結晶化することにより、ひび割れが埋まるのだという。

この自己修復機能を持つコンクリートを建築資材とし、さらには古代ローマが誇った「アーチ・ヴォールト・ドーム構造」などの優れた建築技術を用いたことにより、古代ローマの遺跡は数千年の時を経て今もなお、その姿を保ち続けている。

特に海水にさらされた港湾施設では、内部に新たな鉱物が生成し、長期的な耐久性を高めた可能性も指摘されている。

未来のために再活用される失われた技術

画像:自己修復によるひび割れの閉鎖 wiki c Niranjan Prabhu K

頑丈な上に自己修復までできる建材なら、現代でもローマンコンクリートを建築に用いれば良いのではないかと考えてしまうものだが、実情はそう簡単なものではない。

その強靭さや自己修復の原理は解明されつつあるものの、ローマンコンクリートの正確な製造方法は、西ローマ帝国の崩壊とともに失われてしまっているのだ。

さらにイタリアの特定の地域で産出される火山灰という材料は、一部の国や地域以外では入手しにくく、硬化に時間がかかり規格化しにくいなどの理由もあり、ローマンコンクリートをそのまま現代建築に応用するのは困難であると考えられている。

だがローマンコンクリートは現代のコンクリートと比べて、長寿命、製造時の二酸化炭素排出量が少ない、耐久性に加えて耐熱性や耐酸性も高い、塩害に強いなど利点も多い。

持続可能な社会の実現が提唱される今、ローマンコンクリートと同様の仕組みを持つ環境配慮型の建築資材の研究開発は日夜進められ、一部は実用化されている。

画像:鹿児島県霧島市の丸尾滝橋。基礎に火山灰を利用したシラスコンクリートが用いられている。 photoAC

その具体的な例としては、南九州の火山灰を利用して製造される「シラス・コンクリート」や、産業副産物を利用して製造される次世代コンクリート「ジオポリマー」などがある。

ローマンコンクリートの研究を手がかりに、ポルトランドセメントへの依存を減らす、あるいは代替する次世代コンクリートの実用化が進めば、二酸化炭素排出量の大幅な削減が期待できるだろう。

2030年までに二酸化炭素の排出量を十分に削減できず、地球温暖化がこのまま進めば、2070年には世界で約30億人が暮らす地域が厳しい環境になる恐れがあるとも推測されている。

遠い過去に生きた古代人の叡智は、決して過去の遺物ではない。持続可能な未来を考えるうえで、今なお大きな手がかりを与えてくれている。

参考 :
志村史夫 (著)『古代世界の超技術〈改訂新版〉あっと驚く「巨石文明」の智慧 (ブルーバックス) 』
齋藤勝裕 (著) 『「セラミックス」のことが一冊でまるごとわかる』
文 / 北森詩乃 校正 / 草の実堂編集部

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