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第32回【私を映画に連れてって!】「映画は誰のものか」と考えさせられる製作委員会方式のシステムと運営

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第32回【私を映画に連れてって!】「映画は誰のものか」と考えさせられる製作委員会方式のシステムと運営

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

 

 最近、過去の映画の4K上映が多くなってきた。デジタル修復版とかデジタルリマスター版とか、名称は色々だ。

 昨年は『Love Letter』(1995)の4K版が公開から30年周年記念で全国上映になったり、現在も公開中の『ヤンヤン夏の想い出』(2000)4K、そして今年後半には、同じく30年を迎える『スワロウテイル4K』が全国公開となる。

『ヤンヤン夏の想い出』も公開から25年が経ったが、それまでは35ミリ上映しかできなかった。しかも25年前のプリントでゴミが付いた状態(映画界では雨が降っているフィルムとも言っていたが)でしか上映できず、劇場、観客に申し訳ないと思っていた。

 ただ、デジタルマスター版にしたり、4K化するには数百万円(10年くらい前は1000万円以上の時も)の費用がかかる。これは誰が負担するのか?

 映画ビジネスは時代とともに変わっているものの、基本は劇場収入、ビデオ収入、放送、配信収入、海外収入……など色々存在するのだが、たいていはビデオ収入までで8割以上のシェアを占めていたので10年経てば、ほぼその映画の収入は95%以上終了、となっていたのである。

 ところが1950年代に製作された『七人の侍』(1954)や『ゴジラ』(1954)、『東京物語』(1953)などは、毎年、何処かで上映、或いは世界中で観られている。その時代の映画は東宝、松竹、東映など大手映画会社が管理していることが多く、35ミリネガの保管もきちんとされていて、適宜、ポジフィルムを制作したり、ビデオマスターなどの制作も自社関連で行ってきたと言える。

 ところが、1980年代あたりから、いわゆる製作委員会方式と呼ばれる日本独特の組合のシステムになってからは、「著作権者」が誰なのかがあいまいになってきている。これは製作委員会そのものが悪いのではなく、システムや運営に問題がある。

 ぼくが初めて製作に参加した『南極物語』(1983)も初期の製作委員会方式だった。10億円規模の製作費をフジテレビと学研が折半することで、お互いリスクヘッジをする目的は一致している。地上波であるフジテレビ、出版社である学研、ともに映画製作のプロではない。むしろ、初チャレンジと言える。一方、企画を持ち込んでくれた蔵原プロダクション(兄の蔵原惟繕監督と弟の蔵原惟二プロデューサーの制作会社)は映画のプロである。この2人がいなければ『南極物語』の映画化はなかったのである。

 製作出資金は2社であるが、現物出資の形(労働対価とも言うべきか)で蔵原プロダクションが10%の出資とみなし、権利の10%を取得する形になったのは、今から考えると良いことだったと考える。仮に、全体の権利を100とすると、フジ45%、学研45%、蔵原プロ10%である。当時興行収入100億円を超えるヒットになったので3社ともに恩恵があった。配給や宣伝を行った日本ヘラルド映画(当時)と東宝は配給手数料が主な収入だった。東宝系の劇場も潤ったことになるが。日本公開時には勢いのあったフジテレビの電波宣伝と、「科学」「学習」など生徒らにも信頼のある学研の宣伝、動員力が合わさり、大きなヒットに結び付く。そして蔵原プロの制作力が加味され、最も良い形の製作委員会だったとも言える。

▲1983年公開の日本映画『南極物語』とウォルト・ディズニー・ピクチャーズがリメイクして2006年に公開したアメリカ映画『南極物語』。日本版では、実話に近づけるため樺太犬に似たエスキモー犬が起用されたが、アメリカ版では、アラスカン・マラミュートとシベリアン・ハスキーが起用されたほか、ストーリーの流れや結末も日本版とは異なる。また、物語の中でなるべく動物を殺したくないというディズニーの意向により、死亡する犬の数もかなり少なくなっている。監督は、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』『カラーパープル』『オールウェイズ』など多くのスピルバーグ作品をプロデユーサーとして手がけているフランク・マーシャル。主演は、2013年にフィリピンの台風罹災者のための資金提供を募るチャリティイベントに出席した後、交通事故により40歳で早世した『ワイルド・スピード』などの主演で知られるポール・ウォーカー。

 しかし、問題はその後の権利運用である。当時の日本映画が海外でヒットすることはほとんどない時代だが、『南極物語』は一部の国で上映やリメイク権、映像の使用権など現在でも、どこかで上映、ビデオ、放送、配信が行われているのである。

 ある意味で映画配給会社はプロであるのだが、日本ヘラルドおよび東宝には配給を「委託」しているだけなのである。著作権者は3社だ。日本の製作以外なら「蔵原プロ」が中心になることが多いだろうか。

 著作権法第29条1項は「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」とある。

 この解釈はこの40年くらいで変わってきている部分はあるが、多くの著作者がいる映画の場合、製作者=プロデューサーが企画、製作の意図を監督、スタッフらの理解を得て創作物などを製作者に委任(委譲)することにより、プロデューサーがまとめて権利運用などが円滑に出来ることを意味している。大げさに言えば、著作者である監督や、たとえば脚本家、美術デザイナーが「完成した映画が思いと異なる出来になった」としても、公開や、権利運用は製作者が運用できるということだ。

 ただ、日本の場合は製作者=プロデューサーが、次第に製作者⇒製作社、そして製作社=製作委員会となっていった。

 東映などが幹事で製作委員会を組成する場合は、ネガ(オリジナル原版)の管理などはプロであるので問題は無い。本来「製作委員会」は映画や映像に関する会社(ある意味でそれを本業、事業として行っている法人)に参加が限定されているのだが、徐々に全く業種外の法人が参加していった。

 生前の市川崑監督から『幸福』(1981/2009年に当時のフィルムセンターにて復元35ミリプリント製作後、ビデオ化)と『その木戸を通って』(1993/元はハイビジョンドラマとして制作/2008年に劇場公開)のビデオ化や公開を依頼され、たまたまフジテレビ絡みの作品だったので実現できた。

▲1993年に、ハイビジョン放送の試験放送向けのテレビドラマとしてフジテレビが制作した山本周五郎原作、市川崑監督の『その木戸を通って』。35mmフィルムに変換され国際映画祭などでは上映されたが、2008年に劇場公開されるまでは、それ以外で上映されることがなく幻の映画として扱われていた。主演は中井貴一と浅野ゆう子で、石坂浩二、榎木孝明、岸田今日子、神山繫、井川比佐志、フランキー堺、うじきつよしら、市川作品にゆかりの俳優たちが共演している。

 

 その時、『鹿鳴館』(1986)の話も出たが、これは当時、丸源ビルのオーナーが製作者で、亡くなるまで(2024年)ビデオすら発売にならなかった。唯一、国立映画アーカイブ(元東京国立近代美術館フィルムセンター)にプリントは1本存在するが。

 製作者のポリシーなら致し方ないところでもあるが、未だにビデオ化にもならないことは監督、スタッフ、キャストらは残念であると思う。

▲1986年に公開された市川崑監督『鹿鳴館』は、三島由紀夫の戯曲で56年に文学座での初演以来、数々の舞台で上演を繰り返している。初演の舞台では、影山朝子を杉村春子、影山伯爵を中村伸郎、清原永之輔を北村和夫が演じたほか、長岡輝子、丹阿弥谷津子、仲谷昇、宮口精二、賀原夏子、三津田健ら、今思うとすごい演劇人らの共演だった。62年の新派公演では初代水谷八重子が朝子を演じ、その後も舞台では村松英子、二代目水谷八重子、佐久間良子、若尾文子らが朝子を演じている。映画では朝子を浅丘ルリ子、影山伯爵を菅原文太、清原永之輔を石坂浩二、永之輔の息子・久雄を中井貴一、大徳寺公爵令嬢顕子を沢口靖子が演じたほか、岸田今日子、井川比佐志、浅利香津代、渡辺篤史、尾美としのり、横山道代、神山繫、三橋達也というキャスティングだった。衣裳はワダエミが手がけている。映画はマルゲンフィルムの解散と権利上の問題で封印されている状態で、作品そのものの版権と原盤の所在が不明なためソフト化も上映も困難になっている。個人的には公開時のお披露目劇場試写会で観られたことは幸いだったが、今改めて観てみたい作品であり、観ることができないのがいかにも残念だ。

 『ヤンヤン夏の想い出4K』は現在、全国で上映中だ。最初に4K化をやりたいと思ったのは5年以上前である。日本よりも海外の評価が高まり、2000年以降の世界のベスト10映画の上位に選ばれるようになり、2023年にはアメリカの「Hollywood・Reporter」の批評家が選ぶ21世紀のベスト50の1位に選ばれた。エドワード・ヤン監督の『クーリンチェ少年殺人事件』(1991)などが4K化された中で、遺作でもある『ヤンヤン』がBlu-rayもなくDCPもない。日本側が100%権利を持っているのにも関わらずであり、ぼくはプロデューサーである。ただ、4K化の費用は、ビデオがほとんど売れなくなった今、経費負担は大きい。しかも、「製作委員会」は25年が経ち、当時の担当者もほぼいない状態。

 今回、国内で公開時よりも大きい形で上映、また台湾や韓国はじめ、世界中での上映もスタートできた。ポニー、オメガプロジェクト、博報堂には感謝である。幸い、エドワード・ヤン監督のAtom Film社と日本側との契約に、映画祭出品(今回はカンヌ映画祭と東京国際映画祭で上映)や、映画の完成後の作業・運用に関してプロデューサーの河井真也がメインで行う等、との条項があった。監督が亡くなっていることもあり、ぼくが監督の代理的に映像のチェックもした。それでもプロデューサーが製作委員会の会社の社員であったりすると決定権の所在はあいまいなところも多い。

▲日本で現在も公開中の『ヤンヤン夏の想い出』(2000)4K版が、韓国でも上映されることになり1月9日、韓国でのトークイベントに女優、制作会社社長でありプロデユーサーとともに登壇した筆者。韓国のポスターには筆者の顔も載っている。また、『ヤンヤン夏の想い出4K』の上映終了後には、2021年にアカデミー賞助演女優賞(ユン・ヨジョン)のほか、世界中の国際映画祭で数多くの賞に輝いた映画『ミナリ』の主演女優ハン・イェリ(写真左端)らのトークイベントも開催された。イェリさんはすてきな女優さんだったと筆者がその印象を教えてくれた。『ミナリ』は、「小津安二郎監督作品を思わせる繊細な人間模様を描いている」と大絶賛されており、監督は、新海誠監督の『君の名は。』のハリウッド版の監督に抜擢されたリー・アイザック・チェン。

▲日本での『ヤンヤン夏の想い出4K』公開ポスターと韓国の劇場風景

 

 映画製作は、本や絵の制作より金銭がかかる。出資者がいなければ実現化しない。しかし、出資者=著作権者となって、勝手に画の改訂を行えることにはならないはずである。

 やはり「著作権法29条」の製作者はプロデューサーおよび、クリエイティブにも責任を持つ人間が該当すると思う。その為にもプロデューサーはより一層の作品のクオリティと、クォンティティ(ビジネス)を追求していかなければいけないのだろう。

かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。

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