旅行好きにも鉄道好きにもオススメ!『郷愁鉄路~台湾、こころの旅~』はまだ見ぬノスタルジーを呼び起こす台南鉄道ドキュメンタリー
台湾南部の鉄道路線を支える鉄道員とその家族、そして同線を愛する人々の想いを記録した台湾初の鉄道文化ドキュメンタリー映画『郷愁鉄路~台湾、こころの旅~』が、2024年7月5日(金)より新宿武蔵野館にて全国順次公開中だ。
台湾初の鉄道文化ドキュメンタリー映画
台湾南部の鉄道路線「南廻線」。パイナップル畑や線路の近くまで迫る海など大自然の中をSLやディーゼル列車がのんびりと走り抜ける旅情豊かな路線だったが、2020年に全線で電化され、その模様は変化を遂げた。
本作を手掛けたのは、台湾でドキュメンタリー監督として活躍するシャオ・ジュイジェン。4年の歳月をかけて失われていく沿線の原風景と鉄路をカメラにおさめ、鉄道員やその家族、「南廻線」を愛する人々の想いを映し出したドキュメンタリーだ。
シャオ・ジュイジェン監督のもと、本作を完成させるために台湾映画界を代表する精鋭スタッフ陣が集結した。撮りためた莫大な映像を巧みにつなぎ合わせたチェン・ボーウェン、さまざまな列車の走る音を繊細に映像に載せた音響の巨匠ドゥ・ドゥーチー。そして台湾民謡の要素を取り入れた音楽は、是枝裕和監督『幻の光』やホウ・シャオシェン監督『戯夢人生』などの音楽を手掛けたチェン・ミンジャンが作曲している。
台湾の公共交通事情
アジア映画が好きな私たちは、かつての台湾ニューシネマ作品などに映り込むひなびた線路やレトロなバスに憧憬の念を抱いてきた。自転車やバイクが印象的なモチーフとして登場するのが定番だが、公共交通機関も日本では考えられないような場所を走ってたりするので、いつか間近に見てみたいと思ったものだ。
台湾の交通機関は飛行機、鉄道、長距離バス/路線バス、タクシーなど、当然ながら日本と大きな違いはない。九州より少し小さいくらいと例えられるだけに1日あればバスで1周できてしまうサイズ感ながら、とくに台南地域には都市部では失われてしまった情緒が残っていて、ゆったり見て回りたいと思わせるだけの魅力がある。
本作が映し出すのは、そんな台南鉄道の悲喜こもごも。冒頭から台湾の熱心な“テツ”も登場するが、大半は運転士や整備士、駅員など鉄道員たちの証言で構成されている。全線電化が本ドキュメンタリー製作のきっかけとのことだが、実は日本の鉄道も東名阪の大都市以外は100%電化されているわけではなく、そこには地方の抱えるそれぞれの事情も絡んできたりする。
旅行好きにも鉄道好きにもオススメ! 知られざる台湾鉄道史
台湾鉄道の始まりはは1800年代後半まで遡るというから、日本とほぼ同時期になる。北端から徐々に路線を伸ばし、日本統治時代に台湾南西部の高雄まで開通。そのもう少し下にある枋寮駅から、反時計回りにぐるっと反対側の台東駅までを結ぶのが南廻線だ。線路計画が始まったのが1947年でつながったのは1992年のことだというから、苦労のほどがうかがえる。
当時の過酷な鉄道工事に従事した人々が「帰れなかった」「寝る間もなかった」と振り返る姿は苦労自慢かのようで和やかでもあるが、実際に南部の地質には相当に難儀させられたそうで、ときには命の危険を伴うほどだったという。ともあれ本作は、貴重な証言の数々から台湾鉄道史を楽しく学べるテキストであり、まだ見ぬ新たな旅へと導いてくれるガイドブックでもあり、そして鉄道好きにはご褒美のような貴重映像をたっぷり見せてくれる、とても多面的なドキュメンタリーである。
『郷愁鉄路~台湾、こころの旅~』は2024年7月5日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開中