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僕がブラック企業に4年いて学んだ「良いマネジメント」と「悪いマネジメント」

さくマガ

さくマガ

「もう入社5か月か、明日からお前に部下付けるから、マネジメント出来るようにしとけよ!」
無理だろ。という言葉を飲み込み、曖昧に返事をして怒鳴られた。
新卒でゴリゴリの営業会社に入社してしまって数か月経ち、劣悪な労働環境や暴力・暴言・眉毛が太いからという理由で毎日プロレス技をかけられる・休日出勤を断ったら上司が実家に怒鳴りこんで来た、などのイベントにより同期が何人か辞めた。気づけば同期だけでなく、何年かこの会社にいる先輩や上司もモリモリ辞めていっていた。
会社の平均年齢は20代だった。平均年齢が低い会社は若くてエネルギーに溢れてる!
ということは珍しく、多くの場合においてそれだけ人が定着しないという意味となっている。
ドラッカーによるとマネジメントとは、「組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関」とのこと。半年前まで大学生だった僕は、その言葉の意味も全然分からないままに部下を管理し、成果を上げることを求められた。
たまたまその月、新卒の中で2番目に成績が良かった僕は「来月から数か月おきに異動して部下を率いること」と、急に5人の部下を持つことになった。
「誰が俺なんかに付いてくるんだ?」
そう悩んだ。客観視しても、自分に誰かが付いてくると思えなかった。
新卒で入社して数か月。全体で見れば大した成績じゃないのに「新卒」という枠で成績が悪くなかったから出世したという時点で、良く思われてないだろう。しかも今までと違う部署で全員知らない。
マネジメントなんてしたことない。大学生の時もサークルでは1人で脚本書いてただけだし、バイトも1人で寿司を配達してただけだ。教えたり面倒を見た経験というのが無かった。
急いでマネジメントの本を少し読んだが、本当にこれを実践して部下は付いてくるのだろうか。不安は尽きなかった。
「今までお前がされてやる気が出たマネジメントを真似してやればいいよ」
異動前日、上司の鈴木部長はそう言った。 そうは言うものの鈴木部長にマネジメントされた記憶がない。放置をされていたという記憶はある。
あ、あれか。仕事のことで悩んでた時、いきなり叶姉妹のヌード画像を送ってくれたことがあった。あれか? あれマネジメントのつもりだったのか?
「まあ参考に出来る部分はしてくれよ」
鈴木さんは堂々たる態度でそう言った。どうしても叶姉妹しか思い出せない。こいつなんかしてたの? 本当に?
深い霧の中を歩くような気持ちで、翌日を迎えた。

奢ると少しだけ付いていく

案の定というか、部下が僕に付いてきている感じは全く無かった。
表面的には言うことを聞いてくれるが、期待されてないなあとわかる状態。そりゃいきなり異動してきた就活スーツの男が「上司です」とか言ってもなんにもならないとは自分でもわかっていた。
営業部のノルマは部署全体で追うので、部下1人1人が頑張ってくれないことには達成は出来ない。僕含め6名のこの組織で成果を上げなくてはいけない。マネジメントだ。
「シンプルなことだが、ご飯を奢ってくれた人には少しだけついていくもんだぞ」
移動先の大久保課長はそう教えてくれた。
「お前は異動したてだからインパクトあるほうがいいな、あのいい焼肉奢ってやれよ」
納得は出来る内容だったが、正直に言えばキツかった。
会社の近くに、普通に飲み食いしたら1人7000円くらいかかる少し高い焼肉屋があった。6人で行けば3-4万かかるだろう。新卒1年目には厳しい出費だ。
だが普通の居酒屋に誘って嫌々付いてきてもらうくらいなら、そっちのがいいかもしれない。
「今予約した。金曜日な、21時」
僕の返事を待たずに、大久保課長は予約を済ませていた。そして立ち上がり、
「マキヤがお前ら5人に高級焼肉を奢ってくれるそうだ! 良かったな!」
と大声で僕の部下たちに言った。少し呆然としながら、遠くに薄い歓声を聞いていた。
*****
「お前ら今日焼肉だからもう上がれ、あ、マキヤ、お前ちょっとこれだけ手伝ってくれ」
充分にお金をおろして迎えた金曜日、少し遅れていくと部下たちに伝え、先に行ってもらった。
手伝いを求められた作業はいつやってもいいような雑務で、なぜこんなものを焼肉の日に手伝わせるんだと少しイライラした。
「終わりました、行ってきます」
「OK、ちょっとこっち来い」
まだなんかあんのかと思いながら課長のデスクに向かう。
「6人だからまあこれで足りるか」
そう言って課長は5万円を渡してきた。
心底驚きながらも強く遠慮をして、押し問答になった。
「あ、いえ、自分のお金で奢らないと意味がない気がして……」
「大丈夫。あいつらには『自分のおごりだ!』ってちゃんと言うんだ」
「いやでも申し訳なく……」
「いいんだよこれで。あいつらはお前に少し付いていくし、異動したてのお前は俺に少し付いてくるだろ?」
かっこよかった。
マジでかっこよかった。
「シンプルなことだが、ご飯を奢ってくれた人には少しだけ付いていくもんだぞ」
なんとなく忠誠心が低そうな人にランチを奢ったり、ノルマを達成した月にはみんなで居酒屋で祝ったりした。たしかに徐々に結束感みたいなのが生まれていたと思う。
異動するまでの数か月間、部下たちは誰一人辞めずに頑張ってくれて、僕は大久保課長の良き部下となるように努めた。
マネジメントするんだと思っていたら、自分がマネジメントされていた。
上司たちはそれぞれ独自のマネジメントをしているが、この会社において有効なマネジメントだとしたら、参考になる部分も多いはずだ。数か月でどんどん異動になるので、上司の数だけ参考になるはず。
「今までお前がされてやる気が出たマネジメントを真似してやればいいよ」
身体でマネジメントを覚えていこうと決意し、異動した。

自己責任で考えないといけない

「何事も自分に責任があると考えない奴は成長出来ない」
異動先の秋元課長にはそう教えられた。
僕はこの考え方が好きだった。
例えば部下の営業成績が悪いとき、ほとんどの上司はそいつを怒鳴るか殴るかしかしてなかった。それは責任がその部下にのみあると考えているからそうなるのだろう。
「こっちの教え方が悪かったのかもしれない」
「僕が気遣えて無いのかもしれない」
そう考えることで、部下への接し方も変わる。それは自身の成長に繋がるはずだ。
「部下がFAXを間違えて変なところに送ってしまい……」
「お前の確認と指導不足だ」
秋元課長はそう言って僕を責めた後、FAXを間違えなくなるよう確認体制を見直した。課長は課長自身の責任とも考えているのだろう。
「派遣で来た社員の態度で得意先からクレームが……」
「態度や言葉遣いが未熟なまま営業に出したお前のせいだ」
次回から個人的な研修を増やした。課長は人事部に、研修の中身について要望を出した。
「これ使いにくくて、前の部署で使ってたシステムのがいいかと……」
「前のシステムを知ってるお前が、2か月も黙っていたせいで遅れたな」
課長はすごく仕事が出来る人だった。
なんでも自分のせいとされるが、課長も自身のせいにするので嫌ではなかった。
自己責任の考え方は自分にも染み付き、基本的にどんなトラブルも自分で考え、対処出来るようになっていった。
「自分に責任がないですなんて書かれた報告書なんてゴミ以下だ」
秋元課長はよくそう言っていた。会社では何かトラブルがあった際に報告書を出すのだが、例え自分に非がほとんど無くても、責任は自分にあるとちゃんと伝える必要があると教えてくれた。
そうしないと余計なやり取りが増えて仕事に支障をきたすそうで、この会社でうまくやっていくのに必要なことらしい。
その考え方は理解したのだが、どうしても自分が悪いと思えないトラブルが発生した。
「すみません、エロいメルマガが会社のサーバーに来ている件ですが、部下が八王子の風俗店で、名刺割引とかいうのを使うのに、緊急連絡用に持たせてた僕の名刺を出したらしく……」
「あー……んー……お前のせいだ」
そうか? 本当に? これも俺? お前もなんか迷ってない? いつもみたいに理由を述べてくれないぞ?
「報告書出しとけよ」
今まで色んな文章を書いてきたけど、この報告書が人生で一番難しかった。
「今後は部下の名刺割引の利用を固く禁じ、再発防止に努めます」とか書いたけど、あれでよかったんだろうか。名刺割引ってなんなんだ。

恐怖で支配しろ

「なんだこの成績は! 死ね!」
菅原課長は常に怒鳴っていたし太っていた。
「例えば、ピストルを突き付けられて、『今日契約取らなきゃ殺す』って言われたら死に物狂いで契約取るだろ?」
「俺がしたいのはそういうことなんだよね。出勤した以上、最大の効率で働いてほしい」
何を言っているんだこいつは。異質すぎる。こいつは今までの上司と違う。学ぶところがない。最大の効率を求めて「死」に行き着いてる。
「お前ブスなんだから契約くらい取れよ!」
「まだ契約取ってないのか!? 自分で右腕を折れ!」
「お前の部署土日も全部出ろよ」
部署の空気は最悪だった。全てコイツのせいだった。
念のため「怒られることでやる気はでるのか」と部下に尋ねたが、テンションが下がるのでおそらく悪影響な気がするとのことだった。
「ガールズバーを奢ってやるから来い」
ある日、いきなりガールズバーに連行された。
奢ると人はついていく、コイツもそれを実践しているのだろうか。
会計の時、「女の子のドリンクはお前持ちな」と行って、セット料金(3000円×2名)だけ払ってどっかに消えた。菅原が気前良い感じで好き放題飲ませていた女の子のドリンク代(9500円)を僕が支払った。
部下のほうが多く支払う場合、すごく心が離れることを学んだ。 僕の部下も奴が原因で何人か辞めてしまい、すごく悔しかった。

テンションをあげてあげろ

「朝からテンションが上がってないといい仕事は出来ないからな!」
木下さんはいつも朝礼で面白い話をしてくれていた。
「仕事でミスって栃木の畑に捨てられた話」とか「社長の車を運転して事故を起こした話」など、インパクトがある話をしてくれた。
「来週から火曜・木曜の小話はお前に任せるわ!用意して来いよ!」
これは難しくて普通に働くほうが全然楽だったが、1分くらいで要点をまとめて、笑ってくれるように話す能力は少しだけついたように思う。
ここは前の組織と打って変わって、すごく雰囲気が良く、新人さんとかもすぐ打ち解けて結構頑張ってくれた。
もちろん労働環境自体は劣悪で、役員から
「退勤後って休みみたいなもんだろ? お前は毎日休んでるんだよ。それなのに休日に休むのか? おかしくないか?」
とかわけのわからないロジックで無給の休日出勤をさせられたりはするんだけど、雰囲気がいいからか辞める人は少なかった。

一番参考にならなかったやつ

「部下の女性社員を抱けばな、従順になって頑張ってくれるぞ。ハハハ」
佐々木課長は、訴えられてクビになった。

そして自己流へ

その他にも色んな部署や出向を経験しながら2年ほど経ち、もう1段階出世をした。
もう僕をマネジメントしてくれる人はいない。自分がちゃんとマネジメントをやっていかなくてはいけない。
会社の8割が営業部だったのだが、社員たちは異動の希望を出せるので、マネジメントがうまくいかないとどんどん人が少なくなり、出せる利益も減ってしまう。
「今までお前がされてやる気が出たマネジメントを真似してやればいいよ」
最初の教えに倣って上司にされて嬉しかったこと、それと嫌だったことを書き出した。
【うれしかった】
・落ち込んでいるのに気づいてくれた
・奢ってくれた
・自分の見せ場みたいなのを作ってくれた
・仕事のスタイルを強制されなかった
・自己責任の考え方を知れた
・朝礼の時楽しい話をしてくれた
【嫌だった】
・暴力
・暴言
・わけのわからないイジり
・残業が多すぎた
・休日出勤の要請
・休みの日に家に来た
・休みの日に上司の部屋を掃除させられた
・休みの日に上司の子どもの面倒を見させられた
・ガールズバーで上司のお気に入り子のドリンク代を払わされた
・怒鳴るよう強制された
・大量の酒を飲まされた
・一気飲みを強要された
・タバコを盗まれた
・居酒屋でナンパして女の子を連れて来いと言われた
・サウナでスクワットをさせられた
・銭湯でずっと冷たいシャワーをかけてきた
・カーディガンを着ていたという理由で蹴られた
・一切触ってない鍵を無くしたのを僕にせいにされた
・「客には、俺が死んだってことにしろ」と言われ、知らない案件のすごく重いクレーム対応をやらされた
・レモンサワーを勝手に大量に頼んで金も払わずに帰った
・ヤクザに僕の名刺を出して僕として振る舞っていた
自分がされて嫌だったことはせずに、されて嬉しかったことだけをするようにした。
たまにご飯を奢り、簡単に病む環境だったので、朝は楽しい話をして、精神的な不調にはなるべく気づけるようにした。
営業も、「手数をこなすタイプ」と「1件1件じっくり向き合うタイプ」がいたので、やりやすいように、長所を伸ばせるように何度も指導した。
何かあればまず自分の責任を考え、怒る際も怒鳴ったりはせず、無駄な残業はさせないようにすぐ帰らせた。業務時間が終われば一切仕事の話や関係性を持ち出さないようにした。
一か月で「一生ついていきます」と言ってくれる部下が生まれるくらいにうまくいった。
僕自身の営業力は並程度だったが、部下たちに自分の部署のいいところを宣伝させ、「やりやすい部署があるらしい」という噂を広めることで拡大を図った。
異動の希望が多く来るようになって人数も増えたことで成果も出たりして、最終的に全社員の前で表彰をされた。

「付いてきてくれたみんなのおかげです」みたいなことを言った記憶がある。

でもマネジメントのために無意識で多くの我慢をしていて、結局は色々ため込みすぎて全部嫌になって退社しているので、もっといいやり方や逃げ方があった気もする。自分の精神を保つセルフマネジメントについては、何も出来ていなかった。
ただいまだに当時の部下から飲みに誘われたり、結婚式の招待が来たりもする。そのたびに、きっと間違っても無かったなとも感じる。
色々なマネジメントの本も読んだが、きっと正解とかはなくて、会社やメンバーによって最適な方法は異なるのだろう。どんな環境でも学べることはあり、何かに活かせることもあるように思う。
もし部下を持った時は、されて嬉しかったことをしてあげるといいかもしれない。
その時は、嬉しいことを自分にも与えれるようにしてみるといいなと思っています。
叶姉妹のヌード画像に関しては今でもよくわかっていません。
マキヤさんが書いた記事はこちら
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執筆

マキヤ
29歳。会社で編集などの仕事をしながら、違う会社の執行役員になっている。先月、実家の牛乳を新しい方から使ったことで親からひどく怒られた。

編集

川崎 博則
1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

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