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會川昇③ 「普通」のアニメという可能性『ゴルゴ13 劇場版』

Febri

Febri TALK2022.06.24 │ 12:00

會川昇脚本家

③「普通」のアニメという可能性
『ゴルゴ13 劇場版』

『鋼の錬金術師』をはじめ、「濃い」作風で数々のヒットを飛ばしてきた脚本家・會川昇。そのルーツをたどる全3回のインタビュー連載のラストは、巨匠・出﨑統監督についての思いを、意外な作品を入り口に語る。アニメにとっての「普通」とは何か?

取材・文/前田 久

ゴルゴ13 劇場版

「文学」を作れないことに対するコンプレックスがある

――3本目は出﨑統監督が手がけた『ゴルゴ13 劇場版(以下、ゴルゴ13)』です。出﨑ファンの間でも「この一本」として選ぶ人が少ない印象で、今回タイトルが挙がって驚きました。
會川 今につながる、毎週放送の30分枠の国産TVアニメシリーズが『鉄腕アトム』から始まったこともあり、SFだとかアクションだとか、いわゆるジャンルものとしての要素がない「文学」的な作品を、日本のアニメはほとんど作ってこなかったと僕は思うんです。東映の長編劇場作品でも『安寿と厨子王丸(あんじゅとずしおうまる)』くらいで、あれだって動物がしゃべります。何かそういう特殊な設定を入れないとアニメとして成立しないと思われていたんですよ。1970年代に入るまでは。

――そこで何があったのでしょう?
會川 出﨑さんが『あしたのジョー』を原作そのままでアニメ化して、それが受け入れられたんです。『あしたのジョー』だけがあの時代で異質な作品なんですよ。それ以降、僕の目から見ると、出﨑さんだけが平然と「文学」的な……言い換えれば、あまり好きな言葉ではないですが、「普通」の観客に向けた話をアニメで作り続けていた。『家なき子』も『宝島』も『エースをねらえ!』もそう。『ジャングル黒べえ』だけが例外で『ガンバの冒険』ですらそうですね。他の作り手がやれない「普通」の話を作る。この意味での「文学」を作れないことに対するコンプレックスが、僕にはすごくあるんです。

――いわゆる「名作劇場」もあったのでは?
會川 あれは原作に対してわざと何も手を加えないで作ろうという、作り手の意志が感じられるんですよね。「文学」を作っているのではなくて、あえて「文学」をやろうとしている感じがする、とでもいうか。しかもその作り方は『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』だけ特殊に徹底されていて、他の作品にはもう少しアニメらしい要素があります。作り手の意図と狙いがわかるという意味では『母をたずねて三千里』の脚本は「3回くらい生まれ変われば自分でも書けるんじゃないか?」という気がするんです。でも、『宝島』はどう作ればいいのかいまだにわからない。スティーブンスンの原作から、あれだけのものがどうやったら出てくるのか。「文学」的な話にもかかわらず、アニメとして魅力的で、感情に届いてくる。もちろん、アクションやサスペンスはありますよ。でも、特定のジャンルの作劇に依拠していない。「普通の話をちゃんと面白いアニメにしてしまう人」というのが、僕にとっての出﨑さんのイメージで、それも1話完結ではない、続きもののTVシリーズでそれをやれてしまう。あれは何なんだろう?と。

――たしかに、あらためてうかがうほどに驚異的ですよね……。
會川 そんな出﨑さんの作品の中で『ゴルゴ13』と『Space Adventure コブラ』だけは、我々が理解できる、ジャンルものの要素がある原作をもとにした作品だと言えなくない。でも、そうは言っても巨大ロボットは出ないし、バトルで話を解決するわけでもないし、その上で原作と全然違うものになっているんです。それをみんな批判したし、興業成績だけを見ていろいろと言う人はいたけれども、もしかしたらアニメが目指すべきだったのは、出﨑さんがやろうとしていたルートなんじゃないか。そちらが正しかったんじゃないかなと、僕は今でも思うんです。

――どういうことでしょう?
會川 我々はとにかく、原作ものであれば原作ファンの目線を第一にやってみたり、企画にしてもジャンルものにして、すぐに主人公と何かを戦わせてみたり、あるいは異世界に飛ばしてみたり、一種のフォーマットの中で毎回話を作ろうとする。でも、出﨑さんはそうじゃなくて、普通にお話をやろうとしているんです。1980年前後、『宇宙戦艦ヤマト』があって『機動戦士ガンダム』があって、やがて『超時空要塞マクロス』が生まれようとしていた頃、アニメは子供向けのものだけではなく、もっといろいろなものが作れるのではないかと期待されていた。その頃の出﨑さんの作品がきっちり評価される流れがあったら、アニメが本当の意味で全年齢的なものになって、富野由悠季さんも髙橋良輔さんも、ロボットアニメ以外を作ってくれたのではないか。杉井ギサブローさんの『銀河鉄道の夜』や『紫式部 源氏物語』、『日生ファミリースペシャル』をもっと洗練させたような作品を富野さんや良輔さんが手がけていたかもしれない……。だからOVAという形態にも当初はそういった「普通」 を期待されていたのであって、当時は主流とされなかった『街角のメルヘン』とか『軽井沢シンドローム』がじつは重要で、僕と仲間たちがやっていたジャンルものの再生産が一部で批判されていたのが、今となってはよくわかる。

ゴルゴの冷徹さはそのままに

原作にはない

ドラマの盛り上げや

サスペンスの面白さがある

――もう少し違ったアニメ史の可能性があった。
會川 あの頃、アニメは一気に少年期から青年期へと移行したんです。だけど、その「青年」が「大人」なのではないかと思っていたのは、出﨑さんだけだったのかもしれない。同じ世代のりんたろうさんが『がんばれ元気』を、同じ枠で石黒昇さんが『鉄腕アトム』のリメイクを作ったのとほぼ同時期に、出﨑さんは『あしたのジョー2』を作ったわけですからね。あれは明らかに、意識的にTVアニメを見る層以外の「普通」の人たちに向けて作っていた。そこにアニメのお客さんがいると信じて、大人が見て恥ずかしくない「普通」の作品を作ろうとしていた。そこに我々は何度もトライしつつもうまくいかず、そのうち、お客さんのほうにオタクのまま大人になる人が増えてしまった(笑)。

――まさにそういう「オタクのまま大人」になったひとりですみません……(苦笑)。
會川 ははは。そうやってアニメは何度も同じところに戻ってきてしまうんですよね。アイドルアニメが当たればアイドルアニメの本数が増えて、ジャンルやフォーマットを作って繰り返してしまう。それが一概に悪いとはいいません。もっといえば、作り手も「オタクのまま大人になる人」が大半になって、作るほうも見るほうも変化した結果、「普通」の形も変わったように思います。たとえば、『とらドラ!』にはロボットも異能も登場しない。かと言って競技やアイドルが話の中心になるわけでもなく、つまり、ジャンルもフォーマットもない作品でしょう。それが今の「普通」の観客に届くものになっている。

――少し超常的な要素はありますが、たしかに『とらドラ!』以外にも『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、長井龍雪監督、田中将賀さん、岡田麿里さんの3人が揃った一連のアニメ作品は、今の「普通」のお客さんに向けたものになっているのかもしれません。
會川 もちろん、若干の超常要素が必ず入っていて、それが現代的なのかも。他にもライトノベル原作ものに、僕にはそう見える作品があります。『半分の月がのぼる空』だとか『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』だとか。いまやそのほうが主流かもしれない。

――「萌え4コマ」原作ものの中にもそうした作品があるかもしれませんね。
會川 『けいおん!』もそうかもしれないね。そうした作品は、出﨑さんが目指した「普通」とは違う方向性だけど、今の時代の「普通」たりえている印象があります。少なくとも僕の世代の作り手たちが前世紀にできなかったことは、可能になっているんじゃないだろうか。

――新海誠監督の『君の名は。』や『天気の子』もその流れに置けそうですし……。
會川 そうしたものを横目に見ていても、これからは「普通」の話をただアニメにすることが、もっとできてもいいと感じます。それがアニメ的ではないのではないかと不安に思う人には「出﨑さんの作品を見ろ」と伝えたいんです。『ゴルゴ13』のような原作だって、ゴルゴの冷徹なキャラクター像を変えなくても、殺される側のドラマを盛り上げればエモーショナルにできる。遠距離狙撃を近距離狙撃に変えるだけで、サスペンスとして面白くできる。公開当時からかなりしんどかったCGシーンをはじめ、見ていていろいろと言いたくなる部分もありますが、それでも可能性を感じられるんですよね。アニメにはまだまだやれる道がある、と。だから「出﨑さんが手がけたようなアニメを、どうやったら作れるのか?」というのは、僕にも、他の作り手にとっても「与えられた課題」であり続けている気がします。あとこれは余談ですが『ゴルゴ13』の脚本は僕の師匠の長坂秀佳で、出﨑さんだから決して脚本通りに映像化はしていないんですが、長坂脚本のツボはことごとく押さえています。そこもぜひ見てほしい(笑)。それはさておき最近、『けいおん!』の山田尚子さんが『平家物語』をアニメ化したのは、素晴らしい企画だと思いましたね。ああいうものを作る方がもっといるべきだし、そのときにヒントになるのは出﨑さんなのではないのかなと、あらためて感じています。

KATARIBE Profile

會川昇

脚本家

あいかわしょう 1965年生まれ、東京都出身。脚本家。主なアニメ作品に『機巧奇傳ヒヲウ戦記』『鋼の錬金術師』『天保異聞 妖奇士』『大江戸ロケット』『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』、特撮作品に『ウルトラマングレート』『轟轟戦隊ボウケンジャー』など。

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