管理職の7割が「心身の健康を損なう」時代。公認心理師・船見敏子さんに学ぶメンタルセルフケア
マイナビ転職が2025年1月に公開したアンケート調査(※)で、管理職の多くが「心身の不調」を感じていることが分かりました。やりがいを感じながらも、心と体が追いつかない。そんなジレンマを抱えながら働く管理職は少なくないようです。
なぜ今の管理職はこれほどまでに「しんどい」のか。そして、管理職かどうかを問わず、心身を壊さずに働き続けるためにはどうすればいいのか。数多くの管理職のメンタルケアに関わってきた公認心理師・船見敏子さんにお話を伺いました。
•管理職が「心身の健康を損なう」ワケ
•メンタル不調に気づくための"5秒の習慣"
•睡眠は大事なビジネススキルの一つ
•これからの管理職に必要なのは「自己開示」
監修者
船見 敏子(ふなみ としこ)
株式会社ハピネスワーキング代表取締役。大手出版社で雑誌編集に携わり、1000人超の著名人を取材。インタビュースキル向上のためにカウンセリングを学んだことを機に、2005年、カウンセラーに転向。以後、全国の企業、自治体等でメンタルヘルス対策及び組織のウェルビーイング向上支援を行う。これまでに約1000社、10万人のケアに関わり、メンタル不調者を6割減らした実績も。著書に『戦略的休暇』(ぱる出版)、『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』(PHP研究所)など多数。
管理職が「心身の健康を損なう」ワケ
実に7割もの管理職が、管理職になって「心身の健康が損なわれた」と感じているーー。そんな調査結果について、船見さんは「体感としても納得の数字」と語ります。
「表に出ていないものも含めれば、(心身の健康が損なわれているケースは)もっと多いかもしれません。
最近カウンセリングした、ある会社の部長さんは2か月間1日も休んでいなくて。直近の連休も『休めません』とおっしゃっていました。平均睡眠時間は4〜5時間で、少ない日は3時間。『部下をしっかり休ませているから、私は休めないんです』と。本当に心配ですね……。
コップに水が半分入っている状態を、『半分も入っている』と見るか、『半分しか入っていない』と見るか。この方はおそらく後者で、頑張っても頑張っても頑張りが足りないと感じてしまう。そして案の定コップの水があふれて(キャパシティを超えて)、体調を崩してしまうことが増えているんです」
管理職の負荷が近年増えつつある背景として、船見さんは複数の要因を指摘します。
まず一つ目が、働き方改革による業務のしわ寄せです。
「職種や業種にもよりますが、残業しづらくなった一方で、仕事の総量は大きく減っていません。そうなると、部下ができなかった分の仕事を管理職が巻き取らなければならないことも増える。近年の管理職の多くがプレイングマネージャーだと言われていますが、このような状況だから、どんどん仕事が増えていくのです」
そしてもう一つの大きな要因が、管理職業務の「感情労働(※)」的な側面です。
※……相手の反応を見ながら、自分の感情をコントロールして働くこと
「人間ですから部下や同僚にイライラすることは誰しもあるはず。でも今は、イライラをぶつけるどころか、"見せること"すら慎まなければならない職場の空気感を感じます。感情の表し方や感じ方をコントロールしながら働かなければならない、というのは感情労働そのものではないでしょうか」
加えて、1on1ミーティングの負荷にも言及します。
「近年はどの職場でも上司と部下の信頼関係構築を目的にした1on1ミーティングが増えていると言われています。一部では運用負荷が課題になっているケースもありますので、適切な頻度や目的設定が必要でしょう。
その場で上司は部下の話を一生懸命傾聴するよう会社から求められます。しかし、そもそも傾聴はカウンセリングの専門技術。しかるべきカウンセリングの教育を受けた上で1on1ミーティングに臨める上司は、そんなに多くないはずです。
うまく話を引き出せない上司と、やる意義を見出せないまま参加する部下など、双方にとって負担となっているケースもあります。
たとえ1on1を実施しなければいけない場合でも、すべてを完璧にこなそうとする必要はありません。
例えば、
•否定せずにただ黙って話を聞く
•すぐに答えを出そうとしない
•相手の言葉を一度受け止めて返す
といった基本的な姿勢を見せるだけでも、部下は心を開いてくれるはずです」
《画像:全体の3割近くが「マネージャー業務の負荷が高い」と回答》
疲れた上司の姿を見た部下が「あんなふうにはなりたくない」と感じ、昇格を拒否するケースも増えている──そんなキャリアトレンドも、こうした背景と無関係ではないでしょう。
▼「昇格拒否」のトレンドについて解説した記事はこちら
「昇格」を拒否しても生き残れるか。人材育成のプロ・田岡英明さんと考えるキャリア設計術 - ミーツキャリアbyマイナビ転職( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/data-54 )
一方で、全体の6割が「管理職になって良かった」と回答しています。この点はどう見ればいいのでしょうか。
「このデータと先ほどのデータを突き合わせると『やりがいを感じながらも負荷が蓄積していく』管理職の姿が浮かび上がってくるように思います。
管理職は、経営に近い視点でチームを動かすことができる面白いポジション。だからこそ、管理職が心身を健康に保つことは、チームの生産性を上げるためにも大切なんです」
メンタル不調に気づくための"5秒の習慣"
では、忙しい日々の中で、自分のメンタル不調にどう気づけばいいのでしょうか。
船見さんは、メンタル不調のサインは「疲れたときに出る症状」そのものだと話します。
「肩こり、腰痛、吐き気、集中力の低下、気力の低下、いわゆる"疲れたときに出る症状"は、すべてメンタル不調のサインだと言えます。
メンタル不調と聞くと特別なことのように思えるかもしれませんが、疲れたときの状態と捉えれば、より身近に感じるのではないでしょうか。
人それぞれ疲れたときに出る症状があるはず。私は肩こりですが、そうした自分特有のサインにまず気づいてあげることが大切です」
併せて、心の状態を日常的にモニタリングする必要もあると語ります。船見さんがすすめるのが「心の元気度」を毎日点数化するという方法。
「10点満点で、今の元気度は何点なのか。直感で構わないので、毎日同じ時間にパッと点数をつけるんです。5秒あればできますよね。
これはストレスを可視化することで、心の状態に意識を向けるためのアクションです。体重を毎日測ると食生活に意識が向くのと同じです。
続けていくと『平均点』が分かるようになり、いつもは8点くらいなのに5点や6点に下がったときに『今、疲れているかもしれない』と気づけるようになる。
•7点以下が3日続いたら黄色信号
•5点以下になったら休養優先
など、自分なりの基準を決めておくと、より活用しやすいと思います。
気づけないものはコントロールできません。そのためには、可視化して、記録して、傾向を見ることが欠かせないでしょう」
メンタル不調に気づくサイン
•“疲れた時に出る症状”が出ている
•「心の元気度」が下がっている
睡眠は大事なビジネススキルの一つ
不調のサインに気づいたら、次に何をすべきか。船見さんが真っ先に挙げたのは「睡眠」です。
「管理職研修などで皆さんに睡眠時間を聞くと、6時間が一番多く、4〜5時間という方も少なくありません。不調になりやすい方ほど睡眠時間が短い。眠れないことからメンタル不調が始まるケースも多いんです。疲れたなと思ったら、いつもより1時間早く布団に入ることを意識してみてください。
眠れなくても構いません。布団に入って横になっているだけでも疲れは取れるので、とにかく早めに布団に入ること。アスリートが睡眠を大切にするのは、睡眠の質や量が自分のパフォーマンスに直結するから。これはビジネスパーソンも同じです。睡眠も大事なビジネススキルの一つと捉えるべきでしょう」
もう一つすすめるのが、筋肉の緊張をほぐすリラクゼーション。中でも船見さんが研修でよく教えているのが「漸進的筋弛緩法」という方法です。
「100年ほど前からある、医療機関でも使われているリラクゼーションです。1回30秒程度でも実践できるため、仕事の合間や会議前にも取り入れやすい方法です。
やり方はとても簡単で、例えば肩をグーッと持ち上げて5〜10秒キープし、ストンと力を抜く。顔なら目と口をギュッと閉じてから緩める。腕なら握りこぶしを作って力を入れ、パッと抜く。これを全身で順番にやっていくと、体の力が自然と抜けてリラックスできます。
体と心は連動しています。
体の力が抜けると、気持ちもほぐれていく。心身ともにリラックスできる方法なので、大事なミーティングの前や、緊張が続いた日の終わりに、ぜひ試してみてください」
すぐにできる! 心身のセルフケア術
•疲れたなと思ったら、いつもより1時間早く布団に入る
•漸進的筋弛緩法を試してみる
これからの管理職に必要なのは「自己開示」
そして、不調のサインやケアの方法を知ることと同じくらい大切なのが、周囲との関係性の築き方です。船見さんによると、求められるのは「愚痴」とは異なる「弱さの開示」。
「『私は疲れた』『ちょっとしんどい』というように主語が"私"なら、それは弱さの開示で、『部長がこう言うからさ』『会社のルールがおかしい』と主語が"他者"になるのは愚痴だと私は捉えています。後者は部下に伝えたとしてもあまり意味のないものですが、前者は積極的に伝えてほしいですね。
なぜなら、『疲れちゃった』『これ分からないから教えてくれる?』などと部下を素直に頼ることが、部下との信頼関係を築く第一歩になるからです。
そう言うと、案外部下は助けてくれるものです。管理職が弱さを見せられるようになると、部下も『この人にはこういうふうにサポートすればいいんだ』と分かる。お互いが楽になるんです。管理職だからこそ、自己開示が大事なのかもしれません。
先ほど昇格拒否の話も出ましたが、そういう姿勢を見せることで逆に『管理職になってみてもいいかな』と思う部下も増えそうですよね」
そして「自己開示」のスタンスは、今後管理職を目指したい人にとっても重要だと言います。
「冒頭に述べた通り、管理職にはメンバーとは違った負荷がかかってきます。チーム全体の雰囲気や生産性も考えなければなりません。だからこそ、今のうちにある程度"弱さを見せられる自分"になっておきましょう。自分の仕事は責任をもって進めつつも、上司に自分を理解してもらうよう意識する。それが上司との信頼関係を強くし、望むキャリアに近づく一歩となるかもしれません。
併せて必要なのは、管理職の負担を想像する力とサポート力です。『ここ、手伝いますよ』『お疲れじゃないですか、早く帰ってくださいよ』といった一言をかけてあげるだけで、上司の心はきっと軽くなるはずです」
管理職は「やりがい」と「しんどさ」が同居するポジションです。だからこそ、自分の心身に耳を傾け、周囲との信頼関係を築き、適切にケアする技術が欠かせません。記事でお伝えしたアクションを参考に、できることから実践してみましょう。
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( https://tenshoku.mynavi.jp/ft/salary/?src=mtc )
【出典】
※マイナビ転職『管理職の悩みと実態調査』( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/21/ )
取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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