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【前編】宇多丸『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を語る!【映画評書き起こし 2023. 11.30放送】

TBSラジオ

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11月30日(木)放送後記

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。

今週評論した映画は、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年11月17日公開)です。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、11月17日から劇場公開されているこの作品、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。

漫画家・水木しげる生誕100周年記念作品。テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』本編の前、目玉おやじの過去と鬼太郎誕生の物語を描いた長編アニメーション。昭和31年、とある豪族が支配する村で起きた殺人事件の謎に、東京からやってきた水木……イントネーション、「(語尾上がりに)ミズキ」なんですね。水木と、行方不明の妻を捜す通称“ゲゲ郎”が挑む。鬼太郎の父となる“ゲゲ郎”の声を関俊彦が、水木の声を木内秀信が演じる。また、沢城みゆき、野沢雅子、古川登志夫など、テレビ版のキャストも出演しております。監督は、2008年の『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!!!』でも監督を務められた、古賀豪さんでございます。

ということで、この『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。リスナーの皆さんからも熱いリクエストメールをいっぱいお寄せいただいて、ようやくガチャが当たったということで、さすがメールの量は、「多い」です。

賛否の比率は、褒める意見がおよそ9割。非常に評判がいい。主な褒める意見は、「横溝正史作品的なミステリーとして、そしてバディ物として文句なしに面白かった」「アジア太平洋戦争の悲惨さや愚かさをしっかりと描き、水木しげるイズムがしっかりと継承されている」などがございました。一方、否定的な意見は、「アニメとしてのクオリティは一部を除いて普通」「ストーリーも先が読める。前評判ほどではなかった」などの意見。「ミステリー風のお膳立てはありつつ、謎解き要素はない。拍子抜けした」などがございました。

「作品全体に水木しげるイズムがしっかりと継承されている」(リスナーメール)

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「マウンティング・ニモ」さんです。「評価としてはかなりの賛です。まず横溝正史 meets 『妖怪アニメ』という取り合わせが好きです。そもそも怪奇味のあるミステリですから、妖怪物との食い合わせが悪いわけがありません。ストーリーは、ミステリとしては大人の観客はだいたい先が読める展開だとは思いますが、丁寧な話の運びで、登場人物のバックボーンや悲劇的な秘密に自然な感情を匂わせる作りがうまいです。

しかしなによりも嬉しかったのは、アニメ全体に水木しげるイズムがしっかりと継承されている点でした。太平洋戦争末期の悲惨さと愚かさを、ここまでストレートに、留保も美化もなしに描いてくれたことは素晴らしいと思います。昨今、歴史修正主義的な動きや、戦争美化の言説が目立つなか、こういった『戦争はしてはいけない』とまっすぐに伝えてくれる作品が、子供の目にも触れるであろうものの中で表現されていることに涙が出ました。野戦病院のようなあの地下のシーンなど、戦争の光景とだぶるところが何ヶ所もありましたし、民の生き血をすするというのは戦争全体のメタファーです(同時に、現代日本もほとんど変わっていないということに暗澹たる気持ちにもなります)。

そして考えてみるとこの作品は『継承』というテーマが鬼太郎の出生のみならず、何重にもミーニングされているように思います。水木イズムの継承、そして戦争体験の継承……最後に生まれてくる『彼』は、この醜悪な世界にこれから産まれてくるすべての子供たちのメタファーのようにも感じられます。毎日、悲惨な報道ばかりが目に飛び込んできて暗い気持ちになっていましたが、ほのかな希望を見ることができました。映画館に行って見てよかったと思える作品でした」。たしかに!という感じですね。

とかですね、「Nゲージ銀行」さんも、全体にめちゃくちゃ褒めていて。たとえばタバコの描写がすごく丁寧で面白い、みたいなことを書いていただいて。「……『ゴジラ-1.0』ではゴジラという超常存在を倒す、というある種アゲ展開で有耶無耶にした部分、つまり『こんな日本にした落とし前を誰がつけるの?』という点や、富や権力、そして大義のため人間が人間を非人間として扱う構造が戦中と戦後でも内実は変わっていないこと、そしてそれがよくないことと知りながらその恩恵を受けて生活する私たちの加害性にも警鐘を鳴らし、犠牲となった人たちへの鎮魂へと繋げていく流れは、『ゴジラ-1.0』にはない要素でしたし、ゴジラと同じ超常存在である妖怪たちが単なる舞台装置になっておらず、しっかり主題の鬼太郎誕生でオチをつけたのも素晴らしいと思いました」というね、Nゲージ銀行さん。こちらもなるほど、という感じでございます。

一方、ダメだったという方もご紹介しましょう。「BFCD」さん。「前評判の高さに興味を惹かれ、初めて鬼太郎の映画作品を鑑賞しました。アニメ映画としての水準は高いとは思いつつ、心底微妙でした。終始いつ面白くなるのかを期待しながら鑑賞しましたが、期待を超えることはありませんでした。異常なまでに熱量のこもった感想を多数見ていたため、『THE FIRST SLAM DUNK』のような作品の質の高さを期待しましたが……」。それはちょっと酷じゃない?(笑) あれはね、あれはちょっと桁違いなんでね。アニメとして、アニメーション、特に技術的な面として、非常に桁違いなんで。ちょっとそこは、酷な気もするが。

「……昨今の劇場版コナン的な、いわゆるキャラ萌えが主体のヒットという感じで、自分には刺さらず。一箇所だけ凄まじい作画の戦闘シーンがありましたが、そこを除く部分はアニメーションのクオリティーが高いわけでもなく、ストーリーに関しても、キャラクターを活かしきれていなかったり、連続殺人の謎や妖怪の島といった様々な軸が一つに収束するような練られた構成でもなく、かなり力任せな解決になっていました。プロモーションや絵作り、ゴア描写や各キャラクターの救われなさなどは露骨に大人に向けた映画になってますが、やはり根幹は子供向け作品のため、どっちつかずな印象でした」というBFCDさんの感想。

「マカ・マーマレード」さんも、途中で明かされるある真相の重さに対して、その描写が見合っているのか?っていうことであるとか。横溝正史的な舞台設定について、要はミステリのわりにはミステリ的な謎解きしねえじゃねか!みたいな……まあそりゃそうだっていうか、結局妖怪じゃねえか!って、まあ、そりゃそうだ(笑)っていうことも書かれていて。まあ、そんなご不満が出るのも理解はできますけども。

TBSラジオキャスター楠葉絵美さんからの当事者性高い「ゲゲ活」報告!

あとですね、皆さん、この方ですよ! この番組でもですね、『シティーハンター』であったりとか、『すずめの戸締まり』であるとか、非常に当事者性の高いガチオタぶり(笑)でおなじみの954キャスター、あの楠葉絵美さんが、現在、本当にこの作品にハマっていて。「何回観ているか?」ということも含めてですね、(楠葉さんの感想メールが)間に合いました! TBSラジオキャスターの楠葉絵美さんからの感想です。「ゲゲ活が止まりません。20回とも泣いています。『救いがない』とか言う人もいますが、私は好きな話。いろんな愛にあふれる話でした。たしかに切なさは残ります。『墓場鬼太郎』への繋がりや、包帯ぐるぐるになって目玉になるまでわかり、すっきり」。これ、ちょっと後ほども言いますけども。元のね、貸本漫画からある設定ですよね。

「別件でも内容的に人間に対してある意味、すっきりしました。そして映画を見て以来、目玉おやじがイケメンに見える病気にかかっています。特典のカードは12連続で水木で、『父が好きなのに……』と思っていましたが、その後はばったり水木が来なくなり、父さんが好きだったはずなのに急に冷たくされて水木が気になるという振り回され方をしています」。当事者性が高いなー!(笑) 「あの作品は2人の父が最高すぎて、世の女性が落ちること間違いなし。相棒物、最高! なのに東映さん、グッズやパンフが少なめ。上映館も少なめでスタート。結果、足りず。びびらないでください! みんな、まだまだ見ますし、ぬい(ぬいぐるみ)やアクスタ、スマホストラップ再販、待ってますよ!」というね、楠葉絵美さんでございます。本物!(笑) 本物、来たる!という感じでございます。楠葉さんもありがとうございます。そして感想をお寄せいただいたリスナーの皆様、本当にありがとうございました。

ファンダム的熱気の盛り上がり!

私も『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、T・ジョイPRINCE品川、そしてバルト9で、2回観てまいりました。どちらも、それこそ楠葉さんじゃないですけどね、大人の女性客が本当に多かったですし、平日昼でもまあまあ入ってる感じでしたね、本当にね。

ちなみに、パンフも劇場で売り切れていて、私は持っている人に読ませてもらって、ようやくちょっと資料的に読めたっていうぐらいだし。(来場者)特典、これはですね、今、技術に入っている吉村くんが……吉村くんは本当にマニアですね。いろいろね。『ゴジラ-1.0』には非常に厳しい吉村くんがですね(笑)、特典が一個余って……だぶったんでって(宇多丸にプレゼントしてくれた)。これ、中を覗いたらね、「ええっ?」って。中を覗いたら、ちょっと映画を観た人は落涙っていうか、声を上げて「ああっ!」ってなって泣く、ちょっとすごい内容でした、これは。素晴らしかった。さすが、楠葉さんが集めたくなるのもわかる!という感じです。

ということで、まあそんな感じで、(※宇多丸補足:主に水木とゲゲ郎のバディ感にハマった方々による)ファンダム的な熱気がね、すごく今、盛り上がりつつあるという中、リスナーからも熱いリクエストメールをいただいた中で、見事ガチャが当たった、というこの『鬼太郎誕生』でございます。

TVシリーズ第6期14話の監督脚本シフト

そもそも『ゲゲゲの鬼太郎』がどうこうとか、そういう説明は一応、もう飛ばします。当然のように。あえて言えば、このコーナー、2008年7月19日……だから初年度ですね。『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』という実写版。これをシネマハスラー時代にやってね、これをもう大酷評した、ということでしたね。すいませんね。

で、今回の本作はアニメーションで、一応テレビシリーズの第6期……2018年から2020年にかけて放送された第6期の世界観をベースに、ということで。特にその第6期の第14話、若き日の目玉おやじが、今回のと比べてもかなり理想化された姿で登場する、『まくら返しと幻の夢』というエピソードがあって。それで監督・脚本を手がけられた古賀豪さんと吉野弘幸さんという方々、このコンビが、今回の『鬼太郎誕生』でも踏襲されている、ってことですね。

ちなみにこの古賀豪さんという監督……東映アニメーション所属で長年様々な作品を手がけてこられた、ベテランと言っていいと思いますが。それこそ鬼太郎の劇場版の前作、さっきもちょっと言いましたけど、2008年の『日本爆裂!!』という……これ、三条陸さんが脚本で、僕はこれ、結構面白かったですけどね。とかで監督をやられてるんですけども。僕のこの映画時評コーナーで言いますと、この古賀さん、今まで絡まれた(作品の)中で言うと……すいませんね、なんとあの、2011年6月11日に取り上げました、『手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-』に演出として関わられていたりする、ということで。私的には、非常に気まずい!っていう感じでございます(笑)。ぜひ皆さん、こちらの評はね、まだ書き起こしとかないんでね。ネットとかに転がってるんでね、そんなので見ていただければと思いますが。

押さえておくべきはむしろ貸本時代の『墓場鬼太郎』、そして水木しげるの戦争体験

ともあれ、本作『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に関して言えばですね、とは言えお話としては、原作漫画でさえ描かれていない、ほとんどスピンオフ的なオリジナルの前日譚だし。キャラクターデザインも、『シン・エヴァンゲリオン』の副監督などの谷田部透湖さんという方が、改めて手掛けられたりしていて。

なので、それこそ若き日のその目玉おやじのデザインも、さっき言ったテレビシリーズ6期14話とは、全く違うものになっていたりして。僕のように、近年、その6期も含めてですね、それほど熱心にこの鬼太郎シリーズを追いかけてきたというわけではない人も、ここから観るので全然大丈夫です! はい。鬼太郎と猫娘と目玉おやじ、というキャラクターについて、何となくでも知っていれば全然大丈夫、っていう感じです。

で、テレビアニメシリーズとかよりもむしろ、あえて言うならば、鬼太郎というキャラクターのオリジン中のオリジンである、貸本漫画版。もっと言えば、その前に紙芝居版がありますけど。貸本漫画版の『墓場鬼太郎』シリーズ。これ、今は復刻版も出てますし、電子でも読めるんで、非常にアクセスしやすいです……そのさわりだけでも読んでおくと、今回の劇場版に、より「なるほど、そこをそう来たか!」という風に、膝を打つところがいっぱいあると思いますし。

さらに言えば、水木しげるさん自身の、皆さんもご存知の通り、苛烈な戦争体験と、そこから培われた思想・信条といいましょうか。特にそれをもとにした漫画作品『総員玉砕せよ!』……これも今、全然新刊で買えますけど、『総員玉砕せよ!』という作品が、実は今回の『鬼太郎誕生』の中でも一部、直接的に引用されてるぐらいなんですけども。テーマ的、メッセージ的根幹とも関わってくるあたりなので、できれば踏まえておいた方がいい。水木さんがどういう経験をされてきて、ゆえに戦争とか、あるいは権力というものに対してどういう風な思いを抱いてるか?っていうのは、押さえておいた方がいいかもしれません。

まあ事程左様に、本作『鬼太郎誕生』は、先ほどのメールにもあった通りですね、実はその「メタ」な構造も持っている作品である、というところが非常にキモかと思います。ちょっと順を追って話していきたいと思いますが。

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