【山田尚子監督「きみの色」】 きみのTシャツに注目
静岡新聞論説委員がお届けする“1分で読める”アート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のシネシティザートほかで8月30日から上映中の山田尚子監督「きみの色」から。2022年6月設立のアニメ製作会社シャフト「静岡スタジオAOI」が製作に参加。
「映画 聲(こえ)の形」やテレビアニメ「平家物語」などを手がけた山田尚子監督の最新作。「けいおん!」「響け! ユーフォニアム」「リズと青い鳥」など山田監督が得意とする「音楽×高校生」の図式による舞台設定だが、今回は音楽が「目的」ではなく「手段」として位置づけられている。
ミッションスクールに通うトツ子、きみはそれほど音楽の経験がないまま医学部志望のルイと、半ば発作的にバンドを組む。そこにあるのは音楽的な欲求というより、「この3人で一緒にいたい」という願いに近い感情だったのではないか。
きみのTシャツに注目すると、主に1990年代のオルタナティブロックへの暗示があって興味深い。「TV」はソニック・ユース、「KID」はKISS、「PUMPKINS」はスマッシング・パンプキンズへのオマージュか。きみがトツ子の寮に忍び込む際の「★」はジーザス&メリーチェインの「オートマティック」を思わせる。
劇中にアンダーワールド「ボーン・スリッピー」のカバーが差し込まれたり、トツ子、きみ、ルイのバンドの楽曲がニューオーダーの影響を強く感じさせる点も、この映画の世界観をうまく補強している。ステージ上に、ともに浜松市に本社があるローランドとヤマハのキーボードがそろい踏みしている点が好ましい。(は)
<DATA>※県内のその他の上映館。9月2日時点
TOHOシネマズ サンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ浜松(同市中央区)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
シネプラザサントムーン(清水町)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)