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「プロとアマ」ごちゃ混ぜのジャムセッション─問題点は何か【ジャムセッション講座/第32回】

ARBAN

ジャムセッション講座32

これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。

前回に引き続き、ピアニストの植田良太さんが「昨今のジャムセッションが抱える問題点」を赤裸々に語る!

【本日のゲスト】
植田良太(うえだ りょうた)
ピアニスト。神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校(旧 甲陽音楽学院)、バークリー音楽大学卒業。ジャズ、ゴスペル、R&Bといった黒人音楽をはじめ、ラテンやブラジリアンなど幅広いコンテンポラリーミュージックを、その場に応じたサウンドで的確に表現する。自己のピアノトリオでの活動に加え、多くのバンドでも活躍。現在は京阪神を中心に、ライブ活動やアーティストのサポート、各種レコーディングなど幅広く行っている。

【担当記者】
千駄木雄大(せんだぎ ゆうだい)

ライター。31歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。絶対にAirPodsの片方だけを失くしてしまうと思っているため、2025年にもかかわらず、イヤホンアダプタに耳かけ型の有線イヤホン(昔はやった、耳全体を覆うタイプ)を接続して音楽を聴いている。周囲からはドン引きされている。

セッションホストはプロであるべき

──前回、なかなか厳しいご意見をくださった植田さん。今回も引き続きお話を伺います。植田さんは普段、京阪神エリアを中心にジャムセッションを行われているそうですが、具体的にはどの都市にどんなジャムセッションの現場があるのでしょうか?

大阪だと梅田周辺が多いですかね。あと最近、心斎橋にも若手プレイヤーが集まるお店がオープンして話題になっています。ほかにも、大阪近郊の私鉄沿線でアマチュアが集まるお店が何軒かあったり、神戸でも三宮周辺にそういうお店があります。

──関西も若手ミュージシャンたちの活動拠点は充実しているんですね。

東京のように一駅ごとにジャムセッションの現場があるわけではないのですが、京阪神はコンパクトなので、みんな限られた場所に集結します。僕が住んでいる奈良の市内にもありますよ。それとは別の場所で、セッションとは別にワークショップもやっています。

──初心者にはめっぽう厳しいと思いきや、ワークショップも開催しているんですね。

僕は 、初心者やアマチュアの “セッションのあり方” をきちんと考えたいだけで、初心者を否定している訳ではありません。むしろ初心者セッションは絶対に必要だと思っています。

というのも、ジャズはどうしても “玄人好みのおじさんが聴くジャンル” というイメージが強くて、しかもそのおじさんたちはクローズドな傾向があるため、新参者が来ると拒んでしまうことがあるんですよね。それは不健康です。せっかく、高い演奏力とジャズの魅力を理解してくれる人が足を運んでくれているわけですから、その流れを途絶えさせてはいけない。むしろ、そういった新しい人たちこそ、大切にすべきなんです。

植田先生は学校やワークショップでの指導・教育、理論書の翻訳なども手掛けるほか、多彩なメディアで解説者としても活躍。

──ジャムセッションとは修行の場であり、見守る観客たちも目が肥えた演奏者でないといけないと考えているのだと思っていました。

確かに僕は、アマチュアとプロをもっと明確に分けるべきだと思っています。しかし、「プロの現場にアマチュアが行ってはいけない」とか「プロがアマチュアと一緒に演奏するのはダメだ」ということではありません。プロとアマチュアがごちゃ混ぜになっている現状を、少しでも整理・緩和していくべきだと感じているのです。

たとえば、プロがアマチュアと一緒に演奏するにはきちんとギャラが支払われるべきです。その辺りをなし崩しにチャージバックでやってしまっているプロもいるのが現実なので…。僕の意図としてはアマチュアのミュージシャンだけでなく、プロの立ち振る舞いについても提議したいと思っています。

──なるほど。健全化のためにはプロ側の意識も向上させなければならない。

残念なことに、現状ではお互いが、どこかでいがみ合ってしまっているような感覚すらあるんですよね。

──プロに文句を言うアマチュアなんているのでしょうか?

「プロがそんな態度だから、いつまでたっても客が来ないんだ!」……なんていう人、実際にいますよ。

──えぇ……。もはや、逆ハラスメントですよね。

たとえばアマチュア奏者でも、演奏力と集客力があって、お客さんとの接し方もうまい人がいる。そういう人がセッションホストを務める場合もありますが、他のプロ奏者に対して「プロのくせに…」みたいな態度だと、周囲のプロから冷ややかな目で見られるし、セッションのシーンのためにもなりません。

──「プロにモノ申す俺に気持ちよくなってる人もいるのかもしれませんね。前回、満足のいく演奏ができなかったのは、ホストの責任だ!という人がいると言われていましたが、それの亜種ですね。

そもそも、集客を言い出したら議論は進みません。あくまでも力量の話です。ジャムセッションの質を保つためには、アマチュアがホストを務めるのは力不足としか言いようがないです。

──やはりジャムセッションそのもののレベルを下げないためにも、プロのミュージシャンがホストを務めるべきということですね。

そうですね。アマチュアは「自分の楽しみ」で構いませんが、プロは「演奏クオリティの保証」が必須です。プロだからクオリティに責任を持ってホストを務める、という意識も働く。もちろん全てのプロがそうだという保証はありませんが、おおむねそういったことが「アマチュアとプロを明確に分けるべき」という真意です。

楽器演奏者はボーカリストをどう見ているのか

──植田さんがnoteで議題に挙げていたものの一つにジャムセッションにおけるボーカルの存在があります。私も人のことは言えませんがカラオケ気分で来ているボーカリストが多い問題はありますよね。

ジャムセッションをカラオケみたいな意識で望んでいるボーカリストさんは本当に多いですよ。

──むしろ、私はその根性は見習いたいですね……。

僕がホストを務めるセッションは、日によって参加者の半分以上がボーカルということもあって、順番に回すのがなかなか大変なんです。というのも、楽器演奏者との兼ね合いもあるので。

──これまで、私が参加したジャムセッションには、ボーカリストはほとんどいなかったので、そんな問題が起きていることは知りませんでした。

やっぱり、ほかのセッションメンバーのためにも、ボーカルセッションを別枠で設けたほうがいいですよね。そうすれば、ほかの参加者も「今日はボーカルのバックバンドとして演奏するんだ」と想定して参加できて、よりスムーズに楽しめると思います。

──ボーカルの参加によって演奏できる曲が限られてしまいますよね。

本来はそうではないと思うのですが、ボーカルは楽器演奏者と同列に扱われにくいのです。その結果、「ピアノトリオwithヴォーカル」というような形になりがちで、決してカルテットとしては見なされない。おそらく、ボーカルは“異質なもの”として認識されがちなのだと思います。

──楽器を演奏できなくても、ボーカルで参加するというのがジャムセッションでは一番手っ取り早い。実際に私もそうやって参加しました。ただ、身ひとつで出ていく分、秀でたものがなければ、なかなか認められにくいですよね。

歌えれば参加できますからね。それに「私、英語の発音が上手だから歌えます!」みたいな人もいますが、正直、それだと“趣味の延長”という印象が強くなってしまう。そういうことが積み重なって、楽器演奏者の中には、ほかの楽器奏者に対してはリスペクトを持っていても、ボーカルに対してはやや軽く見てしまうことがあるのかもしれません。

──歌が上手いというのは天性の才能ですよね。だから、ボーカリストの中には自分は特別と感じる人も少なくないでしょう。もちろん楽器をうまく弾くのも才能ですが、歌声のそれとは少し性質が異なる気がします。

とは言え、本当に上手なボーカリストというのは、楽器と同じ立ち位置で歌っています。演奏者たちも「ボーカル」という枠で接するのではなく、サックスやトランペットなどと同じ“フロント楽器”のひとつとして認識するんです。

極論! プロ免許制でジャムセッションは変わるのか

──いよいよ、プロ免許制みたいな議論になりそうですね……。

でも「基準ってどこなの?」と考えてしまいますよね。例えば、医者は医師免許が必要ですが、「医者が趣味で音楽をやっているんです」というのは、まったく問題ありません。しかし、ミュージシャンが趣味で「実は楽器だけではなく、メスも持っているんですよ」なんて言ったら、それは危ない(笑)。

──文字通り、その場に立つための資格があるかどうか、ということですね。プロのミュージシャンにも医師免許のように、誰もが納得するなにかしらの資格を与えたほうがいい。医療行為と違って楽器弾ける人は側から見ると、プロもアマチュアも楽器演奏者ですからね。

昔、ニューヨークには「キャバレー・カード」がありました。それがないと、店で演奏することができなかったそうです。

──就業許可書のようなものですね。一説には黒人ミュージシャンに演奏させないために発行されていたとか。

もちろん、そのようなふるい分けは許されません。しかし、これによって本当に演奏能力の高いミュージシャンだけがステージに立てたのも確かです。そして、時代は流れ、今のニューヨークでは、地下鉄で演奏するにもオーディション制が導入されています。

──大炎上した南港ストリートピアノも真っ青ですね。

突き詰めれば、このような「演奏が上手な者しかジャムセッションに参加できない」という仕組みも可能かもしれません。まぁ、そんなことを実際にやったところで、果たして何人がそこに集まるのか……という問題もありますが(笑)。

──話題にはなるでしょうね。

結局、これは明確な答えが出るようなテーマではないので、着地を求めるような議論ではないでしょう。

──演奏免許なんて言い出したら、保守派を通り越して、まるでジャムセッション原理主義ですね。

でも実際のところ、ジャムセッションに参加しているミュージシャンは保守派が多いと感じます。不思議なもので、ジャズをやっていると、だんだん保守派になっていってしまうんですよね。それぞれが保守的だから、なかなかうまくいかない。

“ジャムセッション社会主義”の限界

──いま話に出た保守派の反対側にあるのが、ジャズ社会主義としましょう。そうなると、プロとアマチュアはまるで労働者階級とブルジョワジーの階級闘争みたいな様相ですよね。その闘争の先にあるが、プロもアマチュアも関係なく平等に演奏できるユートピアです。

ジャムセッションを社会主義的にやってしまえば、それで話は終わってしまいます。お楽しみ会です。だからこそ、折衷案を考える必要があります。妥協するのも違います。いろんな状況があって、それを認めていくことが大事ですよね。

──そう考えると、前出のプロに反抗するアマチュアのセッションホストはジャズ社会主義者なのかもしれません。

いや、ポピュリストのほうが的確かも。

──エリート批判と既存政治の改革という点では、確かにそうですね。

1991年にソビエト連邦が崩壊したように、平等を謳った社会主義も完璧ではありません。しかし、小さな政府も放っておけば、格差が拡大するだけです。だからこそ、お互いが認め合うべきです。例えば私がホストを務めるセッションに、レベルにそぐわない人が来た場合でも、きちんと受け入れます。そして、深追いはしませんが、あえて伝わるように言葉を選びます。

──そこは、やはり厳しいのですね。

突き放すわけではありませんが、基本的に媚びるようなことはしません。ステージに上がってきて「緊張してしまいますね」と言われても、「はい。じゃあ、始めましょう」といった感じで、そのまま進めます。

──心の準備が……。

それと、やはり、セッションなので、「テンポはどれくらいですか?」と聞いてもわからないようであれば、こちらのペースで進めてしまいます。音楽のレベル、そしてセッション全体の雰囲気のレベルが下がらないように心がけています。繰り返しになりますが、セッションの質を下げたくないのです。

──しかし、その理念や考え方はわかっていても技術が追い付いていないと、いずれ心が離れてしまいそうです。

もちろん、相手を見て対応は変えていますよ。しかし、この世界、ある程度「打たれてナンボ」という部分があるのは確かです。まぁ、それが嫌な人もいるでしょう。

──そうならないためにも、自分のレベルに合ったセッションに参加して、徐々にステップアップするべき。なおかつ“自己中”にならないように、ということですね。

そうですね。初心者セッションで、自我を強く出そうとする人もいます。自分の居場所を見つけるというより、「スペースを広げよう」としてしまう人が多いんですよ。

──本来はその場の状況に応じた振る舞いが大事なはずですけどね……。

例えば、初心者向けのセッションにプロレベルの人が来て華麗に吹いたとしても、「すごいすごい」とはなるけれど、それって一体何の意味があるのでしょうか? もちろん、上手い人の演奏が、良い影響をもたらすこともありますが…。

──……自己顕示欲。

逆に初心者が上級者向けの場に出ていっても、やっぱり無理が出てしまうことがありますよ。だからこそ、お互いがそれぞれのレベルに合った場所で、自分の次のステップを目指していく。やはり、このやり方がジャムセッションでは一番自然で、健全だと思います。

取材・文/千駄木雄大

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

1. セッションのホストはプロが務めるべき
2. プロ奏者たちの意識改革も必要
3. 楽器演奏者に認められるボーカリストを目指そう
4. みんな仲良しではなりたたない
5. ジャズは「打たれてナンボ」の世界

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