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日本彫刻の最高傑作が東京で初展示 特別展『国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ』鑑賞レビュー

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国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀

6月22日(火)に東京・上野公園の東京国立博物館で開幕した特別展『国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ』。9月12日(日)まで開催される本展では、奈良・聖林寺(しょうりんじ)が所蔵する天平彫刻の名品、国宝《十一面観音菩薩立像》を東京で初めて展示。「日本彫刻の最高傑作」ともいわれる本像がまつられていた大神神社(おおみわじんじゃ)や付属する寺院の関係資料とともに、鑑賞者を1300年前の世界へと誘ってくれる。ここでは実際の会場の様子から、国宝《十一面観音菩薩立像》の鑑賞ポイントをメインとした本展の見どころを紹介しよう。

「日本彫刻の最高傑作」が東京にやってきた

東京国立博物館の本館特別5室で開催中の本展。展示室に入ると、まずさっそく中央に展示されている国宝《十一面観音菩薩立像》に目が行くはず。蓮華座の上に立つ長身の仏像は、参拝者のように周囲を囲む観衆の真ん中で煌々と輝いている。

会場入口

観音菩薩というと女性的なイメージが強いかもしれないが、この像はどちらかというと男性的な面持ちだ。たくましい胸や肩に対して腰から描くキュッとくびれたラインは現代風にいうと理想的なモデル体型といったところで、仏像の中でも特に肉体美に満ちている。

国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

本展の展示はワンフロアのみ。見どころがギュッと凝縮された室内で、この像が歩んできた約1300年の歴史をじっくりと味わいたい。

神話の地から悠久の時を超えて現代へ

現在は奈良県桜井市の聖林寺に所蔵されている国宝《十一面観音菩薩立像》。本像はもともと同じ市内の大神神社にまつられていた。

手前:《三輪山絵図》室町時代・16世紀 奈良・大神神社蔵 ※8月1日(日)まで展示

『古事記』の神話に創建のゆかりを持つ大神神社は、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)を御祭神とし、三輪山そのものを御神体としている珍しい神社である。日本には古来から「八百万の神」という言葉があるように、これは自然や自然現象など森羅万象のものに神が宿るという原初の自然信仰の考えが表された形だ。神社には拝殿と三ツ鳥居のみがあり、参拝者は三ツ鳥居を通して神様が宿る三輪山を拝むのがしきたりとなっている。

《大国主大神立像》平安時代・12世紀 奈良・大神神社蔵

仏教信仰が広まった奈良時代になると神宮寺(神社に深く関連した寺)である大神寺(鎌倉時代に大御輪寺へ改称、明治に入り廃寺に)や仏像が作られた。国宝《十一面観音菩薩立像》も奈良時代後期に作られたものとされ、長く大神寺の御本尊だった。

国宝《地蔵菩薩立像》平安時代・9世紀 奈良・法隆寺蔵

江戸時代までは神様と仏様が一緒に祀られることは珍しいことではなく、本展で見られる法隆寺所蔵の国宝《地蔵菩薩立像》や正暦寺所蔵の《日光菩薩立像》《月光菩薩立像》ももともとは大神寺にまつられていた仏像である。

左:《月光菩薩立像》、右:《日光菩薩立像》どちらも平安時代・10〜11世紀 奈良・正暦寺蔵

その後、明治時代に入って神仏分離令(神道と仏教を分離させる政策)が出されると、大神神社の仏像や仏具は周辺地域の寺院に分散して移されることになり、国宝《十一面観音菩薩立像》も聖林寺に安置されることになった。これらの仏像が再会している点でも本展は貴重な機会なのだ。

国宝《十一面観音菩薩立像》をじっくり鑑賞

三輪山と三ツ鳥居の大型パネルを背後に置いて立つ国宝《十一面観音菩薩立像》は現在一部のみが残っている光背を合わせると総高が4メートル近いといわれる大きな彫刻だ。そして、その威容は奈良時代後期に多く用いられた「木心乾漆造り」という技法によって造られている。

国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

この技法を用いた工程では、まず初めに顔や体の大まかな芯を木で造り、その上に麻布を一枚貼って漆を塗る。そして、木の粉と漆を混ぜた木屎漆という練り物を塗り重ねて、目や唇の絶妙な凹凸や胸部のふくらみを造っている。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

さらに指先などの細かな部分は鉄線を芯に使い、肉体の微妙な起伏と衣の写実的表現という優美なディテールを実現している。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

中2本の指を折り曲げた右手は、この時代の彫刻とは思えない生き生きとした造形。一方で水瓶を持つ左手はたおやかな印象だ。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

もうひとつ圧巻なのは、頭部にある11面の顔。慈悲の心を持つ観音様が苦しむ人をすぐに見つけ出すため、四方八方に顔を設けたとされる十一面観音菩薩像。正面の3面は慈悲深い表情をした菩薩面、正面向かって右の3面は怒った表情の瞋怒面、左の3面は口から牙が突き出した牙上出面、破顔している後頭部の1面を大笑面、そして中心に置かれている1面を頂上仏面という。いずれも観音様の変化した顔である。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

日本を代表する十一面観音菩薩像である本像は、菩薩面と牙上出面のそれぞれ1つと大笑面の3つの面を消失しているが、高く見上げたところに見えるひとつひとつの表情にはただならぬ威厳を感じる。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分)奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

そのほかにも、三輪山やその周辺で発掘された古墳時代の勾玉や大神神社に伝わる疫病退散の伝説にまつわる酒器など、数々の出土品や史料も見どころだ。

《山ノ神遺跡出土品》奈良県桜井市 山ノ神遺跡出土 古墳時代・5〜6世紀 東京国立博物館蔵

東京で展示されることも初めてならば、奈良県を出ることも初めてという国宝《十一面観音菩薩立像》。なお、十一面観音菩薩には10つの現世利益(生きている間に得られるご利益)と4つの後世利益(死後に得られるご利益)があるといわれている。そうした観音様の有難いパワーもいただいて帰ろう。

特別展『国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ』は、東京・上野公園の東京国立博物館で9月12日(日)まで開催中。その後は、2022年2月5日(土)から3月27日(日)まで奈良国立博物館でも巡回開催。東京展の入場は日時指定の事前予約制なので、詳しくは展覧会公式サイトにてご確認を。

文・写真=Sho Suzuki

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