【知っておきたい水難事故の対処法】人が溺れた時、取るべき正しい行動は?「ういてまて」を指導する水難学会に聞きました。
身近に起こる水難事故。水難学会は「ういてまて」を指導
海や川でのレジャーが増える夏は、多くの水難事故が発生する時期でもあります。そこで今回は「水難事故の防止と対処法」について、一般社団法人 水難学会の会長で明治国際医療大学教授の木村隆彦さんにSBSアナウンサー近江由佳が話を聞きました。
近江:まず、木村さんが会長を務めている「一般社団法人 水難学会」はどんな活動をしているのか教えてください。
木村:水難事故を学術的に研究し、水の事故から命を守る方法をまとめています。日本はもとより東南アジアを中心とした諸外国でその方法を広めています。特に小学校の水泳の授業で行われている「着衣水泳:ういてまて」の指導は水難学会の主な事業の一つです。
中学生以下の事故は6割が河川で起こる
近江:水難事故はどういった状況で起こることが多いですか。
木村:警察庁が発表した令和5年におけるデータを見ると、水難事故で死亡・行方不明になった場所の内訳は海が49.5%、河川が33.4%、用水路が10.1%となっています。
近江:用水路が10.1%もあるんですね。
木村:ちなみに中学生以下の子どもだけで見ると、59.3%は川で起きています。子どもたちは生活に身近な場所で事故に遭っていると考えられます。
「何をしていて水難に遭ったのか」については、大人は魚取り・釣り23.8%、水泳7.4%、作業中6.9%。子どもは水泳40.7%、水遊び37.0%、魚取り・釣り7.4%となっています。大人は海釣りで落水する事故、子どもは河川で泳いだり水遊びをしたりしている時に発生する事故が多いです。
近江:作業中というケースが6.9%というのも気になりましたが、どういった状況のものが含まれますか。
木村:草刈り、工事などが該当します。道を歩いていて落ちる人もいますし、身近な所で起こっています。
水遊びは救命胴衣を着用し、浮き輪など浮く道具を準備
近江:遊泳禁止の海で泳いだり、キャンプやバーベキューで川に流されたりする事故をよく耳にします。子どもが目の前で溺れている時、親はどのような対応を取るべきですか。
木村:「水難事故を発見しても、二次災害を防ぐために飛び込んではいけない」と言われていますが、わが子が溺れていたらとっさに助けに行こうとするのが親です。これを止めることは難しいです。
したがって、もしもの場合に備えて「救命胴衣を着用して水遊びをする」、「浮き輪などの浮き具を準備しておく」ことが重要です。
ただし、救命胴衣を着て水遊びをしていいのは水位が膝より下の場合です。救命胴衣を着て泳いだり深いところに飛び込んだりしてはいけません。救命胴衣は体を浮かせますが、浮いた瞬間から流れに乗って移動が始まり、しっかりと水底に立っていなければ波や川の流れに流されてしまいます。
近江:なるほど。
目の前で人が溺れていたら、即119番
木村:一番大切なのはすぐに119番通報をすることです。昨年のデータでは119番通報から救急車が現場に到着するまでの時間は、全国平均で約10.3分でした。つまり119番通報から約10分は現場の人たちが頑張らなければなりません。1秒でも早く救助に来てもらうために、いち早く119番通報をしなければなりません。
そして流されないように、浅い所で遊ぶのが原則です。
救急車を待つ間、絶対に溺れた人を泳がせない
近江:救急車を待っている間は具体的にどんなことをして待てばいいですか。
木村:陸からの救助は溺れた人を「泳がせないでできること」を考えます。バランスを取りながら浮いていても、泳ごうとしたり周りの様子を見ようとしたりすると、その瞬間にバランスを崩して溺れることがあります。
そこで、ペットボトルや浮輪などの浮き具を投げてあげることが効果的です。ただし、浮いている人は周囲の状況が見えにくいです。大声を出すことや手を振ることで、浮き具を投げたことに気づいてもらうことが大切です。
近江:その場には行かず、陸から助けるということですね。
自分が溺れた時は「背浮き」の姿勢を
近江:実際に自分が溺れそうになった時はどうしたらいいですか。
木村:人の体は大きく息を吸って止めた状態にすると体の2%が浮きます。この2%が口と鼻なら呼吸ができます。ただし、息を吐くと沈み始めます。したがって、水の事故に遭った時は慌てずに大きく息を吸い、背筋をしっかり伸ばして、肩の力を抜くことが大切です。この姿勢を「背浮き」といいます。「助けて~」と声を出したり、手を振ったり、頭を上げてはいけません。一瞬で沈んでしまいます。
さらに静岡県は太平洋に面している海岸が多いため、台風などの低気圧が遠くにあっても大きな波が打ち寄せてきます。この波が引くときの力はとても強いです。私も実験で静岡市の海に入りましたが、一瞬で何十メートルも沖に流されました。ですから低気圧が接近している時や台風の時は、絶対に海に近づかないでください。
近江:改めて最後に水難学会会長として木村さんから海や川で遊ぶ時の注意点をお願いします。
木村:暑い夏を迎え子どもたちは水遊びを楽しみにしていると思いますが、水遊びはぜひ親子で楽しんでください。保護者がいることで防げる事故も多いです。そして万が一事故に遭ってしまった時は、落ち着いて行動してください。水に飛び込むのであれば、事前に救命胴衣を着ておくことが重要です。暑い夏は熱中症にも十分に気をつけてください。
※2024年7月4日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。今回、お話をうかがったのは……木村隆彦さん
42年間、市民に水難から命を守るための技術を指導したことで、「浮く」ことの重要性に気付き、水難時生還策を市民目線で研究し博士号を取得。このプログラムを「ういてまて:uitemate」と命名し、日本全国はもとより東南アジア諸国での普及活動に取り組んでいる。兵庫県赤穂市出身の元消防職員で、明治国際医療大学教授。水難学会会長を務めている。