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『ランボー』吹替5種一挙放送! ささきいさお、羽佐間道夫、玄田哲章、銀河万丈、渡辺謙!! 全魅力を解説

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『ランボー』吹替5種一挙放送! ささきいさお、羽佐間道夫、玄田哲章、銀河万丈、渡辺謙!! 全魅力を解説

5人の名優が演じた『ランボー』

ヴェトナム戦争から還ってきた青年ジョン・ランボー。仕事もなければ行き場所もない男が田舎町ホープにたどり着く。しかし尋ねた戦友はすでに亡く、得体の知れないこの青年を町の保安官ティーズルは追い出しにかかる。退去勧告に従わないランボーをティーズルは逮捕。保安官事務所で手荒い扱いを受けた青年の心のなかに、戦場の記憶が蘇る。隙をついて脱走し、ひとり山に籠るランボー。逃げた帰還兵と保安官たちの暗闘は、いずれ軍も出動する騒動へと発展していく……。

思わず『ランボー』のあらすじを書いてしまったが、今さら説明するまでもないシルヴェスター・スタローンの、1982年の代表作である。『ロッキー』(1976年)と並んでシリーズ化。2019年の最新作『ランボー ラスト・ブラッド』、およびその前作『ランボー 最後の戦場』(2008年)は、もはや戦場以外に生きる場所がない主人公の人生をあまりに苛烈なバイオレンスとともに描き切って、世界中の観客の度肝を抜いた。

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スタローンが演じたもうひとりのヒーロー、ロッキー・バルボアの生涯はいろいろありつつ愛と友情に満ちていたけれども、ランボーの人生にはどこまで行っても暴力と孤独しかない。40年弱におよぶジョン・ランボーの地獄めぐり。1982年の第1作にはその原点がある。同作を何度繰り返したか知れないし、そのうち何度かは確実にテレビの吹き替え版で観ている(『ランボー』はテレビでかかっていると無条件に最後まで観ないと何かマズい作品のひとつだった)。

今やスタローンの吹き替えといえばささきいさお、『ロッキー』の場合は羽佐間道夫をおいて他には考えられない。しかし、地上波テレビのゴールデンタイムに毎日のように洋画が流れていた頃は、放映局が変わるたびに異なる俳優たちがジョン・ランボーを演じていた。ささき・羽佐間の両巨頭はもちろんのこと、同作はさらにあと3人が吹き替えている。玄田哲章、銀河万丈と渡辺謙。5人の名人が演じた『ランボー』の、それぞれにまったく異なる魅力について振り返ってみたい。

ささきいさお(日曜洋画劇場)

まずは、ささきいさお版である。ささき氏といえば今やスタローン吹き替えの大定番だが、ジョン・ランボー初演は1995年3月のテレビ朝日系列「日曜洋画劇場」。映画の公開から約13年が経過しているから、スターの代表作を演じるまでにはなかなか時間がかかっている。ささきスタローンには常にいかにもヒーロー然とした凛々しさと頼り甲斐が漲っているけれども、追い詰められて傷ついたランボーには、どこか不安定で痛々しいトーンが感じられる。たとえば『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010年~)で聴けるささきいさおの声とは明らかに違う味わいで、この確かな演じ分けには思わず舌を巻く。『ラスト・ブラッド』までランボーを吹き替えているのはささきいさおのみ。当然、月日が経てばその声にも深みや渋さが増してくる。スタローン/ランボーとともに歳を重ねてきた、声に現れる年輪のようなものをシリーズ全作通して感じられるのはささき版だけの特質といえる。

羽佐間道夫(水曜ロードショー)

続いて羽佐間道夫のランボーを聴き直してみる。1990年4月、TBS系の「水曜ロードショー」音源。羽佐間スタローンといえば、なんといっても『ロッキー』だ。シリーズ全6作、およびスピンオフの『クリード』2作(2015年/2018年)まで、一貫してロッキー・バルボアを吹き替えている。第3部では玄田哲章、第4部ではささきいさおも同じ役を演じているが、羽佐間版の砕けた下町感がロッキーのキャラクターには最もフィットしている。羽佐間ランボーからもやはり同種の匂いが感じられるが、前述のとおりジョン・ランボーとロッキー・バルボアという2大キャラクターの境遇には天と地ほどの差がある。同じ羽佐間道夫の吹き替えでランボーとロッキーに触れることで、それぞれの差異がより痛切に響いてくるから不思議なことではある。

玄田哲章(金曜ロードショー)

そして玄田哲章版である。1999年11月の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)。玄田といえばアーノルド・シュワルツェネッガーの声、というのが世界中の共通認識だが、実はスタローンの吹き替えもしばしば務めている(最近では『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)のキング・シャーク役も玄田哲章)。シュワルツェネッガーとスタローン、世界2大アクション・スターを堂々演じ切るあたりに玄田のえも言われぬ説得力がある。『トランスフォーマー』シリーズ(1985年ほか)のオプティマス・プライム……というかコンボイ司令官も含めれば世界3大ヒーローを制した男といえよう。何しろ盤石のリーダー感がある。シュワルツェネッガー吹き替えなど聴いていると、オリジナルの俳優本人以上の深み、あるいは頼れる男感がビシビシ伝わってくるのだ。もはや言語版と玄田吹き替えの両方に触れないとシュワルツェネッガー映画を観た気になれないけれども、そんな玄田が演じるランボーは意外や意外、傷ついた主人公の痛切さが要所要所で伝わってきて思わず息を飲む。

演じた俳優を問わず『ランボー』第1部の聴かせどころは、なにしろ全篇のクライマックス、とうとう追い詰められたジョン・ランボーが、義理の親ともいうべきトラウトマン大佐にむかってその胸中を激白するくだりだ。ここまでに紹介した、ささきいさお版、羽佐間道夫版、それに玄田哲章版が、それぞれに少しずつ異なる解釈で演じ切っている。とくに玄田版などは完全に声が裏返ったランボーが悲しすぎる心中を吐露、最後はただ泣き崩れて、普段よく知る玄田ボイスとの落差でこちらも大いに泣かざるをえない。

以前、玄田氏にシュワルツェネッガー吹き替えについてお話を聞いた。この大スターの声を、ある時期からは入れ込んで演じるようになったという。だが、それこそ洋画がテレビで毎日のように放送されていた頃は1日限りの収録を連日やっていたから、誰の役であれ当時について詳しいことはあまり覚えていない、と聞かされた。彼らがそうして無数に手がけた1日仕事が、こちらの記憶に今でも残って消えない。むしろそのことに何とも言えない凄みを感じたことをよく覚えている。

銀河万丈(ゴールデン洋画劇場)

そしてさらに銀河万丈版である。1993年3月、フジテレビ系の「ゴールデン洋画劇場」で登場。ここまで触れた各バージョン、すべて放映局が異なる。テレビ局によって毎回吹き替えをやり直していたのだ。豊かな時代であった。それはそれとして万丈である。何といってもこの人はギレン・ザビであり、『装甲騎兵ボトムズ』(1983~1984年)のナレーションであり、あるいは聖帝サウザーだ。概ね物ごとを高みから見下ろしている印象の強い万丈が、暗い地べたを這いずり回るランボーを演じるとは、なかなか意外な感もある。低く響き渡る活舌のよさはスタローン本人とはだいぶ違うけれども、その声は戦うことしか知らないジョン・ランボーというキャラクターにまた新しい魅力を与えている。万丈はシリーズ第2作『怒りの脱出』でも羽佐間・玄田と並んでスタローンを吹き替えており、こちらの音源もそろそろ聴いてみたいところだ。

渡辺謙(金曜ロードショー)

そして最後に渡辺謙版『ランボー』である。「金曜ロードショー」で本作が地上波初放送となったのは1985年10月。渡辺が『瀬戸内少年野球団』(1984年)で映画俳優デビュー、伊丹十三の『タンポポ』(1985年)に出演していた年だ。翌1986年には『海と毒薬』で主演することになる売り出し中の俳優が、どういう経緯でスタローンの声を務めることになったかは定かでない。調べる限りでは、ほかに洋画吹き替えを担当した例も決して多くなく(各種映画で本人が演じた役は別としても)、なぜ渡辺かについては多少の謎は残る。だがそうしたことは置いても、渡辺謙のジョン・ランボーがここまでに紹介した誰にも負けない印象の強さを残すことは確かだ。

ささき、羽佐間、玄田に銀河といった洋画吹き替えの猛者たちと比べると、渡辺の吹き替え演技は明らかにこなれていない。どこかに安心して聴けない粗削りさがある。それは渡辺謙自身の当時の若さかもしれない。だがそういう垢抜けなさ、不器用さが、下町の兄ちゃんがキレる第1作には非常にマッチしている。おなじみ最終盤の激白場面などは痛切すぎて冷静に聴いていられないほどだ。ことによってはスタローン本人よりも繊細で危ない感じさえ醸し出している渡辺謙版、これは日本語吹き替えという文化が生んだひとつの財産だと思う。

5つの『ランボー』日本語版を振り返ってきた。実のところ主人公はそんなに喋らないので、聴きどころが要所に限られるのが惜しいところではある。が、決して多くない台詞のひとつひとつを、5人の名優がいずれも異なる解釈で聴かせてくれる。スタローンのオリジナルを加えれば全6バージョン。『ランボー』を6倍楽しめるという、少なくともこの点において、日本は世界に胸を張ることができるのである。

文:てらさわホーク

吹替版『ランボー[4Kレストア版]』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「史上最強!! ランボ—超特大SP」で2021年11月放送

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