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子どもたちに実力差を作ったコーチに不信感。「スタメン取れなければやめる」の条件つけるべきか迷います問題

サカイク

小規模で細やかに指導してもらえると思って入ったチーム。最初は実力差がなかったはずなのに、いつの間にか補欠が続き、スタメンになれない姿を見るのがつらい。

夫婦ともにサッカー経験がないし、コーチに子どものアピールをしてこなかったのも原因かもしれないが、実力差を作ったコーチに不信感。所属し続けるのは私がしんどいから、辞めることも考えるが......。というご相談。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとに、お母さんがどうすべきかアドバイスします。
(構成・文:島沢優子)

※文中に、柴崎岳選手、松井大輔さんの発言紹介もあります

 

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

<<サッカー経験者でコーチでもある父親に「気持ちがない」と責められる息子。同じチームにいさせていいのか問題

 

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<サッカーママからのご相談>

10歳の息子がいます。

今年から所属チームに入りました。小規模で細やかに厳しく指導してもらえると思い、セレクション後入団して選手登録もして、平日週3回、頑張って練習を続けています。

入団してしばらくはそこまで実力の差が見えず、チーム内で上手い方ではないが、親の目にはなんとなくついて行けているようでした。
(実際はすでに実力の差は出ていたのに、親として気づいていなかったと思います)

夏ぐらいから実力差が顕著に出始めて、11月の公式戦では補欠がとても多くなりました。もともと人数が少ないチームなのに、スタメンになれない姿を見て親としてかなり辛いです。

我が家は夫婦ともサッカーの経験がなく、家庭で子どもに的確なアドバイスもできません。

また、コーチに対しても子どものアピールも全くしてきませんでした。親としてできていない事もあったなと反省もしています。

現状、そこまで実力差を作ってしまったコーチに対して、少し不信感を持ってしまって、親としても素直な気持ちでコーチに接する事が出来ないです。

子どもは何の不信感もなく、割と楽しく通っています。

チーム内でなんとなくポジションも固まり出して、我が子の居場所がない気もします。

このような状態で現チームに所属し続けるのは、親としては、精神的にしんどいです。子どもは少し気にしているが、練習は楽しく、辞めようとは思っていないようです。

今すぐに辞めるという事はないですが、今後どのように対応していけば良いでしょうか。

期限をつけて子どもに課題(次回公式試合でスタメンなければ、やめる)などを与えようかなとも考えています。

出来ればまだチームに残って頑張りたいのですが、残る意味があるのかどうか迷っています。

アドバイス宜しくお願いします。

 

<島沢さんからの回答>

ご相談いただき、ありがとうございます。

お母さん、あのね、私はいまお母さんに感謝しています。よくぞメールを書いてくれた、と。息子さんのために、これはどうにかしなくてはというのが私の偽らざる気持ちです。

そこでいくつかアドバイスさせてください。

 

■「子どもの気持ち」が大事 試合に出られなくて辛いのは親? 子ども自身?

子育ては、親の感情よりも、「子どもの気持ち」が大切だと心得ましょう。

お母さんは「スタメンになれない姿を見て親としてかなり辛い」「このような状態で現チームに所属し続けるのは、親としては、精神的にしんどい」とご自分の気持ちを正直に書いてくださっています。

私も子どもがサッカーをしていたころ試合に出られない時間もあったので、少なからずお気持ちを想像できます。

しかしながら、試合に出られなくて一番辛いのは息子さんではありませんか?

まずはそこを理解してください。

 

■活躍できないわが子が情けなく、「明日の試合でゴールできなければ辞めろ」と言った父

子どもに期待して、裏切られたら逆上する。そんな保護者の姿を私もたくさん見てきました。

補欠でスタメンでない息子に「明日の試合でゴールできなかったらサッカーはやめなさい」と命じたお父さんがいました。

レギュラーでゴールする友達の親御さんがうらやましく、活躍できない息子が情けなくなり、チームにかかわらなくなれば自分が楽になると思ったそうです。

幸いにも子どもがそのことを周囲に告げたため、コーチの方がお父さんと話をしました(お父さんは高校まで部活動でサッカーをしていました)。

以下の4つを主に話されたと聞きました。

 

①息子さんはディフェンダーなので公式戦でゴールをする機会はあまりないけれど、練習ではシュートを決めて喜んでいること。

②子どものスポーツは心身の発達の違いもあって、どこで伸びるかわからないので目の前の結果に一喜一憂しないでほしい。長い目で見て欲しい。


③小学生の間は、サッカーを好きになってくれることが一番なのでそこを第一に考えて指導している。公式戦でプレー時間に差はあっても、Bチームの試合を組むなど、プレー時間をなるべく均一にしている。

④サッカーのことはコーチと子どもでやっていくので、保護者はプレーについてあれこれ言わないでほしい。特にサッカー経験がある親御さんはご自分の経験則でアドバイスをしたり、試合や練習を分析して口を出してしまうが、多くの場合子どもにマイナスになっている。保護者は食事や睡眠など基本的な生活を支えることに集中してほしい。

 

最後に、コーチ(クラブの代表)は「子どもを真ん中にして、クラブと親御さんで子どもを支え合いましょう」とお願いしました。

その結果、お父さんは納得され、その子どもはサッカーを続けることが出来ました。中学になっても部活動でサッカーを続け、高校ではハンドボールに転向。大学にも進学し今は教員をしています。

 

■実力差はコーチが作ったものではない、発達進度が異なる年代ということを理解しよう

この話からわかることが2つあります。

お母さんは「実力差を作ってしまったコーチに対して、少し不信感を持ってしまった」と書かれていますが、これはお門違いです。

実力差はコーチが作ったのではありません。そもそも、個体差があります。子どもの発達や上達の進度は異なるのです。

上記のコーチが言ったように長い目で見てあげましょう。

 

■親がサッカー経験あるかどうかは関係ない

2つめは、親がサッカー経験者であろうがなかろうが関係ないということです。

むしろ経験者のほうが余計な口出しをしたくなったり、自身の物差しで「今後は伸びてもこんな感じかな?」と見限ってしまいがちです。サッカー経験者も別の意味でわが子のサッカーに葛藤を抱えているのです。

 

例えば、サカイクに柴崎岳さんのインタビューがあります。
「親がサッカー経験者じゃないと上手くならない? 柴崎岳選手の回答」

彼はそこで「母はいわゆる、ママ友応援団という感じで応援に来ていました。ピッチの外からワーキャー言っていましたね。○○しなさいとかではなく、単純に子どもたちのプレーに対して『惜しい~』などとリアクションする程度でした。母は僕のサッカーに対しては何も言わなかったです」と述懐しています。

 

松井大輔さんが親のサポートについて述べたインタビューもあります。
「親はサッカー経験者ではなかったが、寄り添い、自分の決定を支えてくれた」

「熱心に取り組むのはいいことです。ただ、親がやらせすぎて、子どもがサッカーを嫌いになってしまうケースを見てきました。何より大切なのは、子どもが楽しいと感じること。『サッカーをやりたい』『もっと上手くなりたい』という気持ちが、子ども自身から湧いてくることが重要です。子どもの思いを第一に考えることが、サッカーを楽しみ、長く続ける秘訣だと思います」

 

いかがですか? お母さんがおっしゃった「コーチに対しての子どものアピール」なんて、誰もしていません。親が何かを言えば、コーチもわが子も影響を受けるなんて思わないでください。教育やスポーツの育成は、もっと純粋で崇高なものです。

 

■あなたの考える「課題提示」は子どもを脅す発言になりかねない

この点からもうひとつ。お母さんは「次の試合でスタメンがとれなかったらチームをやめなさい」と脅せば、息子さんが望み通りにスタメンになれると考えているのでしょうか?

こう言えば、恐らくお母さんは「いや、脅すなんてそんなつまり滅相もありません」とおっしゃるでしょう。

ご相談文には「期限をつけて子どもに課題(次回公式試合でスタメンなければ、やめる)などを与えようか」と柔らかい表現で書かれていますが、これは「課題」と呼べるでしょうか。

もしかしたら「スタメンとれないならやめることも考えようか」といった提案型にするつもりだったのかもしれませんが、いずれにせよ息子さんにとっては威嚇に感じることでしょう。子ども時代に最も大事な自己肯定感がつぶされてしまいます。

 

■わが子が理想通り育たないとダメ? どうしてサッカーさせているか、原点に立ち返ろう

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

そこで、「何のために子どもにサッカーをさせているのか?」をご自分で考えてみましょう。

月謝だってかかる。送迎とかもろもろサポートする側の保護者は大変です。それでも、少年サッカーをさせている。そこには、息子さんにサッカーを通じてどうなってもらいたいのか、希望があるはずです。ぜひ自分の胸に手を当て、湧き出てくる言葉を思い浮かべてください。何が何でもプロ? 違いますよね?

息子さんは練習も休まず通っている。楽しくサッカーをしている。そこを親として「腐らずに練習も試合も行って偉いね」とまずは評価してあげて欲しいです。

そのうえで、例えば「でも、もっと試合に出られるチームに替わりたいなって思ったら一緒に考えようか」と提案してもいいでしょう。どうか子どもの意思を大切にしてください。

わが子が望み通りの姿でなくては我慢できないお母さんがいる限り、息子さんの自己肯定感は育まれません。今なら間に合います。どうか違うお母さんに変わってください。

 

島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。

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