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【第8回-②】くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年 石塚正英(東京電機大学名誉教授)

にいがた経済新聞

前回はこちら→ 「8-1.前曳きオガが高麗時代の半島にあった!」

8-2.オガ(大鋸)からうかがえる日韓文化交流

私は、オガに関しては、ことのほか強い関心を持っています。私の生まれた地は旧高田藩の城下町で、職人の住む“大鋸町”だからです。慶應末年から明治維新にかけて建造された拙宅の入口には、町内の大工職人に伝わってきた実物が展示してあります(写真)。

“大鋸”とは木挽きのこぎりに由来し、「オガ」と発音します。ちなみに、竹中工務店の道具館でも中世になってこの道具が日本にもたらされたとき「大鋸(オガ)」と呼ばれていたことが記されています。「オガ」は室町時代に中国か朝鮮半島から輸入されたとのことですから、そのとき「オガ」という名称に落ち着くような名前で日本に伝わったのでしょう。それから、日葡(日本語ポルトガル語)辞典には、大鋸に対応する語として“voga”がありますので、伝道中のポルトガル人は「大鋸」のことを「オガ」ないし「ヲガ」と聞き及んだと考えられます。

さて、木浦市の海洋文化財研究所(高麗時代のコーナー)に展示されているオガにはハングル文字で「フナ型鋸(プンオ・トプ)」と書かれており、「オガ」という表記ではありませんでした(写真)。

けれども、私が驚いたのは、その形状が日本の“大鋸”と同じだったからです。2人で使うオガは中国・朝鮮にもともと存在していましたが、1人で挽くオガ(前挽きオガ)は列島伝来後に日本で考案されたとされてきたからです。その形状がすでに高麗時代の朝鮮にあったわけです。これには、①すでに半島でも造られていた、②日韓交流の一つとして日本から朝鮮にもたらされた、という推測が成り立ちますが、いずれにせよ、私はこうした偶然の出逢いがあるたびに、フィールド調査の有意義さを実感しております。

ついでに関連情報をもう一つ。1989年放送のNHK番組「海のシルクロード11集」テレビでの出会いだが、中国は泉州の造船場で2人挽きのオガをみました。若い女性が2人一組になって大勢挽きあっていました。その映像に接して、私は、オガは必ずしも2人挽きから1人挽きに変化したわけではないと確信しました。なるほど日本で2人挽きは廃れたかもしれませんが、造船業を中心に東アジア各地で両方とも繁用されたのでしょう。

ところで、旧オガマチのわが町内に、もう一つ貴重な文化財が残っていました。それは、オガで挽いた板材の製品です。2022年8月13日、かつて木挽きが使っていた前曳きオガで曳いた跡の残る板材に出会ったのです(写真)。

町内のある高齢大工さんの工房のテーブルになっていました。伐採した丸太から最初に材木を切り出す職人を木挽きと言います。この方は木挽き職人でなく通常の大工さんですが、大鋸町で大工仕事をする最後の職人です。当の板材をみると斜めに残るノコギリあとがあります。左右交互に挽いた痕跡が何よりの証拠です。電動のこぎりが出現する以前の遠き職人世界です。感慨無量でした。

(第8回-③に続く)

石塚正英

1949年生まれ。18歳まで頸城野に育まれ、74歳の今日まで武蔵野に生活する。現在、武蔵野と頸城野での二重生活をしている。一方で、東京電機大学理工学部で認知科学・情報学系の研究と教育に専念し、他方で、NPO法人頸城野郷土資料室を仲町6丁目の町家「大鋸町ますや」(実家)に設立して頸城文化の調査研究に専念している。60歳をすぎ、御殿山に資料室を新築するなどして、活動の拠点をふるさと頸城野におくに至っている。NPO活動では「ますや正英」と自称している。

【連載コラム くびき野の文化フィールドを歩む】
#7-1 胸張る狛犬獅子像―朝鮮半島とくびき野の交差点

#6-1 小野小町の死生観

#5-1 くびき野ストーン3兄弟の勢ぞろい

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