「特別支援学校が相応」判定も、特別支援学級を選択!自閉症娘の小学校デビュー、1学期の全記録
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
悩み抜いた末の特別支援学級。入学後は……
わが家の長女まゆみは中等度の知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)です。
就学先選定での焦心苦慮ぶりは以前にも記事にさせていただいたとおりで、「特別支援学校がふさわしい」とする教育委員会の判定は重く受け止めつつも、私たち夫婦は地域の小学校の特別支援学級へまゆみを入学させる道を選びました。
「迷った時は手厚いほうへ」と言われることが多い発達障害(神経発達症)育児において、やや珍しい決断をしたのではないかと思います。
今回は『入学後のまゆみがどんな様子で学校生活を過ごしているか』についてお話しします。
初日からくじけそうに
学校のご厚意で事前見学させてもらっていたこともあり、入学式は何とかなりました。
問題が起きたのは、まゆみが1時間近い長丁場をどうにか座り続けてくれた、その直後です。写真撮影のため一旦は合流したのですが、PTAの役員決めのために親とまた離れることになると、パニックになったまゆみは転がって大泣きしてしまいました。
近年は切り替えの早くなったまゆみですが、この日は慣れないことの連続だったためか一向に泣き止まず、私も一緒に別室へ……。
後悔と不安と、申し訳なさが全身を駆け巡り、こんな状態で翌日から登校していけるんだろうかと心配になりました。
生活面と学習面
そんな入学初日でしたが、私の心配をよそにまゆみは翌日から平然と通ってくれました。
登校時は、私が昇降口まで付き添って先生にバトンタッチするのですが、まゆみはいつも挨拶中の私と先生を置いてスタスタと教室へ向かって行きます。本心はどう思っているのか?学校に行きたくなさそうな素振りはないか?と観察していますが、今のところ大丈夫そうで胸を撫でおろしています。
学習面はどうかというと、療育で学習を積み重ねてきたおかげもあり、一学期はほぼ問題なく過ごすことができました。
心配していた立ち歩きの問題も、「全面禁止せず、特別支援学級の中ならOK」などのルールを決めて慣らしていくうち、45分間ずっと座っていられたと報告を受ける日も珍しくなくなりました。まだまだ落ち着かない日もありますが、そういう時は休憩を多めに取るなどまゆみのペースを大事にして過ごさせてもらっています。
交流級は少し苦手だったようで、最初は入室するのも嫌がっていたそうです。そこで、ドアの外に机を置き、廊下から授業を受けるなどの工夫を重ねていった結果、少しずつ教室内で授業が受けられるようになり、今は授業だけでなく給食当番や日直もこなしているのだとか。支援員さんに補助されながらまゆみが号令をかける日もあるそうで、少し覗いてみたい気がします。
ピアニカの音が苦手、給食で好きなものしか食べようとしない、板書が難しいといった課題もまだまだ多くありますが、取り出しや個別対応で大きな問題なく過ごせているとのことで、ひとまず順調な滑り出しといえそうです。
「どう接していいか戸惑っている……」というクラスメイトに向けて、母自ら娘について説明する場をもらえた
生活面と学習面はおおむね順調だったまゆみですが、気になるのは社会性の面ではないかと思います。
もともと私たち夫婦が特別支援学級を望んだ理由の一つに、『ようやくお友だちを意識し始めたまゆみに、もう少しだけ同年齢集団と接する機会をあげたかったから』というものがあり、子ども同士の関わり合いは重要視していました。
とはいえ、まゆみは『学校で1番コミュニケーションが難しい子ども』といっても過言ではないと思っている私。
それだけでなく、ピョンピョン跳ねる・クルクル回るといった常同行動も顕著だったようで、入学して10日と経たないうちに「みんな、まゆみちゃんにどう接していいのか戸惑っているようで……」と先生から相談がありました。
有り難かったのは、まゆみと同級生たちとの間を取り持つ方法を先生方と話し合い、母親である私自ら1年生さんにお話会をさせてもらえたことです。
話す、マネする、動く、感じる、そうしたことはみんな脳の働きであること得意なことや苦手なことは人それぞれで、脳の働き方は一人ひとり違うことまゆみは、多くの人と働き方の違いが大きい脳を持って生まれてきたことまゆみの場合、クルクル回りたくなったり、いきなり大きな声が出てしまう場合があることコミュニケーションがとても難しいけれど、あなたのことが嫌いなわけではないことみんなを見て、ゆっくりゆっくりまゆみも学んでいること人と違うことはたくさんあっても、うれしい、悲しいと思う心はみんなと同じものを持っていること反応できなくても、話しかけてくれたらうれしく感じていることおしゃべりはできなくても、ハイタッチなら返せること
このほか、まゆみの好き・得意なことを紹介し、みんなの質問にもしっかり答えられたことが功を奏したようで、その日からまゆみが遠巻きにされることはほとんどなくなったと聞いています。
また、お話会を要約した手紙と資料を学校に置かせてもらっており、何度でも・他学年の子にも読んでもらえるようにしました。
その結果、まゆみを理解してくれる子が学年問わず現れ、今では挨拶代わりに手のひらを向けてくれる子も多くいます。ハイタッチを返している時のまゆみは無表情なことが多いのですが、そんなまゆみを理解し、笑顔を向けてくれる相手の子には感謝の気持ちが湧き上がります。
一般的な友人関係を築くのは難しくても、こんな風に受容的な雰囲気が生まれたのは学校側が協力的に情報共有してくれたからにほかなりません。保護者の意見を聞き入れ、柔軟な対応をしてくださった先生方には感謝ばかりです。
特別支援学校への転校も視野に……?いざ1学期末の面談へ
ここまで読んでくださった方は「すごく上手くいってるじゃん」と思われるかもしれません。
しかし本当のことを言うと、1学期はまゆみだけでなく私も小学校に慣れるのに必死な上、小さな困りごとが起きるたびに先生と相談しながら対応を考え、頭も体も心も休まらずドキドキバクバクの毎日でした。
「もし先生から見て今後があまりに大変と予想されるなら、2年生から特別支援学校へ転校することも視野に……」と臨んだ夏休み前の面談で、先生から意外な言葉をいただきました。
こちらについてはまた次にお話しさせていただきます。
執筆/にれ
(監修:井上先生より)
地域の小学校の特別支援学級を選ばれ、さまざまな出来事や戸惑いも経験されながら、先生や周りの子ども達の理解にも支えられて頑張られている様子が伝わってきました。1年生のクラスでまゆみさんの特性やかかわり方を分かりやすく伝えることは、とても大変だったと思いますが、すごく頑張られたと思います。2学期3学期と新しい行事も体験する中で、困難に出合うことが増えていくと思いますが、相談しやすい環境や先生同士のチームワークがあれば大きな助けになると思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。