涼を求めて。有名人の二拠点&避暑生活|私が青森を選んだ理由【能町みね子さんインタビュー】
「ずっと避暑がしたかった」と言う、エッセイストでイラストレーターの能町みね子さんが、東京に暮らしながら夏の数カ月間を青森市で過ごすようになったのは2021年7月のこと。青森を選んだ理由、「まるでリゾート地!」という青森での生活について、現在、避暑滞在中の能町さんに聞きました。
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掲載:2026年9月号
「猫との新幹線での移動のしやすさも考えて、青森でした」
のうまち・みねこ●1979年生まれ、北海道出身、茨城県育ち。著書に『デッドエンドで宝探し』(hayaoki books)、『逃北~つかれたときは北へ逃げます』(文春文庫)、『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)。『週刊文春』『散歩の達人』『月刊相撲』などの雑誌、『まるごと青森』『流星舎note』などのWeb媒体で連載多数。『ハッキヨイ!もっと大相撲』(NHKラジオ第1)ほか、ラジオ、テレビでも活躍。中学時代は卓球部!
避暑地のヒミツ【青森県青森市の涼しさ】
2025年8月の平均気温は25.9℃。最高気温の平均が30.7℃、最低気温の平均が21.8℃(青森観測点データ)。東京に比べると4℃ほど平均気温が低く、朝晩は気温が下がるため寝苦しさも少ない。夏が短く冬が長いのも特徴で、冬の降雪量が多いため、春から夏にかけて快適に過ごせるまちだ。
なぜ青森なのか?
「もう……暑いのが嫌いで。絶対に暑くないだろうと、稚内のホテルの1カ月滞在プランを探したりしていました。そのときは東京のラジオ番組でのレギュラーのお話をいただいて実現しなかったですけど」
30代から避暑に憧れていたという能町みね子さん。避暑で滞在できる地を求めて、一度は動くも頓挫……。さらに猫の「小町」を飼い始め、なんだかんだと東京で10年近い月日が流れた2021年、コロナ禍と東京オリンピックのその年、「東京にいたくない!」と心を決める。西表島への旅の計画を、沖縄での感染者急増を理由にキャンセル。空白になった5日間を、青森市での物件探しへ充てることに。西表島のはずが、青森?「たまたまそうなりました」と笑う。
「虫も苦手で、キャンプなども好きではなくて。自然の恵みと共に暮らす、みたいなことがやりたいわけではありませんでした。車の免許も持っていますがペーパー(ドライバー)で、できれば自転車で事が済むように暮らしたい。転勤で地方に住む人のような気持ちで部屋を探そうと思いました」
北海道小樽市生まれで、茨城のベッドタウン育ち。そこまで自然に囲まれた環境で育ったのではないことも影響が? それにしても、なぜ青森なのか。
「小町と飛行機に乗る場合、猫は貨物扱いで。移動のたびにそれはかわいそう!と、北海道ははずしました。それで盛岡、青森、弘前あたりで考え、東北でも盛岡はまだ暑いし、弘前も盆地で暑い。新幹線での移動のしやすさも考えて、青森です」
もともと青森県には年1~2回通っていた。好きになるきっかけは、北海道に向かった大学の卒業旅行。
「貧乏旅行でのんびり北上する、その通過点で。最初に惹かれたのは言葉でした。津軽弁でもなまりのキツイところは、おばあちゃんの会話だと単語一つも聞き取れない。ここまで!?とカルチャーショックで。強烈なところだな、もっと行ってみたいと」
暑さを避けるのに、垂直移動して標高の高い地へ向かわず、水平移動して北を目指した。
「長野もちょっと考えたのですが、遠くに行っている感じがほしかったんです。生活をガラッと変えました!というような。だから言葉が違うのも、なんかよくて」
そうして青森市に焦点を絞った。
部屋探しとお引っ越し
主に夏場の滞在で冬場の雪かきはできないから、一軒家ではなくマンションで。まずは賃貸をと、能町さんは青青森市内在住の知人に不動産屋を紹介してもらった。
「ペット可の物件は数が東京に比べて少ないですが、あるにはあるという感じで。3つの物件を提案してもらい、そのうちの1件は、行ってみたら4つ空き部屋があり、そのうちの1部屋はかなり予算オーバーでした。まず3つ見て、広さも予算的にもここでいいかなという部屋があって。でもせっかくだからと、予算オーバーの部屋も見てみたんです。すると家具がほぼ揃っていて、オーシャンビューで、『なんだこの部屋!?』と。涼しく暮らせればよかったのですが、あまりに景色がいい。それを見たら、ここはナシというわけにいかなくて。後悔するよりは、とその日に決めちゃいました。自分に決断力があると思ったことはありませんが、迷えなかった、迷わなかった」
テーブル、椅子、テレビ、テレビ台、ベッドが備え付け。洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどの家電、小町の遊び場にキャットタワーを購入し、東京の家も残しながらで、さほど大きな荷物をつくることなく引っ越しは完了。物件を決めて1カ月半後には、青森市での生活がスタートしていた。
猫の小町も、青森ですっかりくつろぐ。「移動はすごく嫌がりますが、部屋に着き、場所に慣れるとわりと平気。一度来ると、次の年には『ああ、ここか』という感じで、明らかにわかっているよう」と能町さん。
「青森がリゾート地のようだと、みんなもっと知るべき! と思うんです」
〝青森リゾート地〟説?
間取りは2DK、窓のある部屋は、ほぼオーシャンビュー。連日猛暑にうだる東京を脱出し、朝起きて窓のカーテンを開けるとそこは海!という夢の生活を手にした。
「陸奥湾に面しているのは地図でわかっていましたが、海がここまで近いというイメージがなくて。こんなに青森市がリゾート地のようであることに驚いています」
この日は梅雨明け前だったが、窓からはスカッと突き抜ける青い空と青い海が見える。
「夏の青森は基本的にこんな天気、いつも晴れているという感じです。7月でも涼しいときは22~23度で、初めて青森で過ごした夏は、昼間でも冷房をつけたのは5~6回でした。夜は窓を開けて風を通せば涼しいので、冷房は必要ありません。それで何より、湿度が違うと感じます。カラッとして、部屋干しをしても夜には洗濯物が乾きますから。感覚的には梅雨もほぼなく、気候は最高です。青森市がこんなにリゾート地のようだと、なぜみんな言わないの? もっと知るべき!と思うんですけど(笑)」
ずっと住んでいたら当たり前過ぎて気づかないのかも? そんなところで暮らしたら、ずいぶんと心持ちも変わることだろう。
「東京をいい意味で遠くに感じる、別世界のようです。青森にいると、東京で行われることが、自分とはまったく関係ないことのような気がします。逆に東京にいるときは、青森でのことが嘘のよう。こんなに切り替わる!?と驚くほどで、ぱっと気持ちが一新される感覚があるんですよね」
オーシャンビューの部屋に暮らしながら、「趣味というわけではありませんが、海を見に行くというのをよくやります。やっぱり気分がいい。海が近いのはすごくいいです」と能町さん。
「東京より、逆にいろいろなものが手に届きやすいと思うんです」
仕事のこと、生活のこと
東京での仕事を、青森でも引き続きやっているという能町さん。
「青森県庁のお仕事、地元の新聞、NHK青森と、こちらに来てからいただいたものもあります。家では仕事ができない性分で、こちらでも喫茶店、コンセントのあるチェーンのカフェで仕事をするので、そこは東京と変わりません。コロナ禍で多くの人がリモート会議をやり始めた時期でもあって、タイミングもよかった。すべてがスムーズでした」
「コミュ力は決して高くない」と言う能町さんだが、知人と連れ立ってごはんを食べに行ったり、弘前の知人と卓球をしたり。心ひかれる街に来たせいか、肌の合う人と次々に出会った。
「青森にいるときのほうが飲みに行くことがずっと多くて。週1~2回は行っとこう、みたいな常連になった店もあります。家庭的なバーで、おばちゃんが思いつきで料理をつくるのですが、イカを刻んでハンバーグ状にした〝イガメンチ〟がおいしくて」
能町さん自身、東京ではほぼ自炊しないそうだが、青森は「スーパーが面白い!」とも。
「魚があまりに安く、知らない魚が売られていて。〝フクラゲ(ブリの幼魚)1尾30円〟とか、なんだこれ?とつい買って。動画を見ながら三枚におろしたり、殻付きのホタテが80円だったので刺身にしたり。魚介類は東京とは全然違います。また漬物など、青森にしかないものも多く、片っ端から試すだけですごいボリュームです」
ブリの幼魚がそんな値段!? スーパー通いが娯楽となるのも納得。東京とは異なる輝きを放つ、生活そのものを楽しむ。
「東京より、逆にいろいろなものが手に届きやすいと思うんです。先日、サニーデイ・サービスのライブを見に行ったのですが、ライブハウスから歩いて5分で家に帰れました。東京ではあり得ないですよね」
農的暮らしではなく、都会で暮らすように地方で暮らす。能町さんはそれを、「車を買うみたいな感じ(の予算)で」実現した。
「仕事に集中できなかったり、気分があまりよくないときは、海を見に行きます。家から歩いてすぐ、ベンチがある公園で。風が気持ちよく、ちょっと仕事をしたり。海は本当にいい」
先日、新しい自転車を買った。「ロードバイク風の自転車なので、気候のよいときに遠くに行ってみたい。10~ 15 キロ先の浅虫温泉とか。温泉は市内にもたくさんありますが、車がないと行きづらいところばかりであまり行ってなくて」
いっそ完全移住?とも思うが、冬の青森は雪と切り離せない。
「雪があると単純に歩くのが大変で。自転車も使えず、行動範囲が極端に狭くなる。雪のあいだも生活するなら、さすがに車を持たざるを得ません。でも今は東京と青森と、両方あるからちょうどいい。いいとこどりができるうちはずっとこの感じで、と思っているんですよね」
青森出身のギタリストで音楽プロデューサーの伊藤ゴローさんとユニット結成!?「成り行きで2年前に始め、“全青森ツアー” を実施。半分おふざけで、半分はわりと真面目に。見よう見まねというか、ノリで作詞もやってます(笑)」。
「津軽地方には、青森ねぶた、弘前ねぷた、五所川原の立佞武多(たちねぷた)と、『ねぶ(ぷ)た』系の代表的な祭りが3つあります。1週間のうち3カ所に行ったり、このあたりの青森ねぶたには開催期間中、ほぼ毎日行きます。季節を感じるし、青森に住んでいることを実感します」
【東京⇔青森】能町さんの年間の滞在スケジュール
「6月上旬に青森へ行き、9月末か10月頭に東京へ帰るというペースです。青森に滞在する約4カ月のあいだも月2~3回、ときに日帰りで上京します。青森でのテレビの仕事などがあるので、冬も月1程度は青森に来て、3~4日滞在します」
「地下街もなく、冬は雪が多くて、単純に歩くのが大変です。私はマンションなので、雪かきはしなくていいですけど。それから暖房の問題もありますよね。ウチは灯油なので、タンクで買ってきて補充しています」
能町さん【避暑移住のアドバイス】
「 冬も青森で過ごすなら車を持つ必要がありますし、暖房費の問題もあります。でも避暑移住なら、いいとこどり! やってみたらこんなによいことはありません。やっちゃえばどうにかなります。勢いだと思います!」
私の好きな青森の“涼しい” スポット
龍飛崎(たっぴざき/外ヶ浜町)
「風が強くてワイルド。木があまり生えてなくて、冬に行くと死にたくなるくらいに荒涼としていますが(笑)、日本海!という感じで、夏はかなり涼しいです」
尻屋崎(しりやざき/東通村)
「下北半島右上のとんがった所にある尻屋崎では、寒立馬(かんだちめ)が放牧されています。初めて青森に来た年に訪れ、大好きになりました。野生馬が芝生の上でボーッとしたり、ダラダラしたり。真夏でもカラッとしています」
岩木山神社(いわきやまじんじゃ/弘前市)
「富士山のようなキレイな形の岩木山、その麓に岩木山神社があります。弘前は起伏のあるところにリンゴ畑があり、気持ちのいい景色が広がっています」
私の好きな青森の“涼しい” グルメ
そうめん&ニジマスのから揚げ(追の沢マス釣場/弘前市)
「 弘前市の追の沢マス釣場には、レトロな流しそうめんの機械があり、マス料理が楽しめます。ニジマスを丸ごとカリカリに揚げたのがおいしいんです。私はインドアですが、青森には海も山も湖もあるので、アウトドア派の人には楽しいと思います」
ざる中華
「ざるそばの中華麺バージョン“ざる中華” は庶民の料理で、お店で食べるというより、家で食べるものという感じ。スーパーで売っているので、私も何かつくるのが面倒なときによく食べます。昨日も食べました(笑)」
嶽きみのかき氷
岩木山麓、嶽(だけ)高原で栽培されるブランドトウモロコシ「嶽きみ」を使ったかき氷。「嶽きみ自体が本当に甘くて。それでつくられたスムージー状のシロップ、凍ったコーンスープのようなものがかかっています。たまたまお祭りのときに屋台で食べたのですが、おいしかった!」。
取材・文/浅見祥子 写真提供/能町みね子さん、青森県