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試合があることさえ知らされない息子が情けない。移籍したほうがいいかな問題

サカイク

公式戦が始まったけど、試合があったことをチームのインスタで初めて知る、ということが何度もあった。

同級生は呼ばれているのに息子が呼ばれてない。親として恥ずかしいしショック。これから頑張っても試合のメンバーに選ばれないなら移籍すべき? と悩むお母さんからご相談をいただきました。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

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<サッカーママからの相談>

初めまして、よろしくお願いします。

息子は小学3年生で県内でも強豪のクラブチームに所属しております。

2年生から公式戦も始まったようですが、息子には声がかかっていないので、試合があった事さえ知らないのです。

チームのインスタで試合があった事を初めて知るという事が何度もありました。

同じ小学校の友達は試合に呼ばれているようで、なんだかこの状況が親として恥ずかしく感じてきました。

2年生ですでに選抜されている事にショックなのと、これから頑張っても選抜されないのではないかと不安になっております。

このままこのチームに所属して練習のみに参加するべきか、他のチームに移籍するか悩んでおります。ここからの逆転劇はありますでしょうか?

毎日家でもコツコツ練習していて、確実に上手くはなっています。 サッカーも大好きで、息子はチームが好きなのでここで続けたいと言います。

高学年になり、試合にも呼ばれないと同じ小学校のチームメイトから馬鹿にされたりしないかなど勝手に私が心配しています。

本当に情けないのですが、アドバイスを頂けたら幸いです。

 

<島沢さんからの回答>

ご相談いただき、ありがとうございます。

チームのインスタグラムでチームメイトが試合に参加することを知るなんて、息子さんはどんなにかショックだったことでしょう。ぜひ励ましてあげてください。

 

■レギュラーだけに試合を告知するチームのやり方はおかしい

とはいえ、お母さんが「なんだかこの状況が親として恥ずかしく感じてきました」という告白は、少し残念です。解釈が間違っていたら申し訳ないのですが「親として恥ずかしい」の言葉が、息子が試合に呼ばれていないことを指しているととれるからです。

受け取り方はさまざまあるでしょう。

しかし、私はこの「レギュラーにだけ試合告知する」というチームのやり方に憤りを感じます。少年団ではなく民間のクラブチームですから、クラブ員全員に平等なプレー機会と楽しくプレーできる環境を与えるのが本来の使命です。人数が多ければ参加する大会を分けて、子どもたちにその都度説明すべきです。

それをこっそり隠れてエントリー組にだけ知らせて試合に連れていくなど、教育的配慮に欠ける以上に人としてどうでしょうか。

 

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■戦力ダウンになるからレギュラー以外帯同させなかったチーム

実は、都内にあるクラブが以前、都大会の地域予選で同じことをしました。8人制です。

記憶があいまいで申し訳ないのですが、エントリーが十数人。1試合のうち確か12人程度を必ず試合に出場させなくてはならないレギュレーションでした。ほかのチームはエントリーぎりぎりまでの人数を参加させ、12人出場を順守していました。

ところが、そのクラブは9人しか連れてきていませんでした。レギュラー以外の子どもを出場させると戦力ダウンになるからです。

 

■補欠だからしかたない、ではなくチームの大人に情けなさを感じてほしい

あとで、そのクラブで試合に呼ばれなかった子どものお母さんから話しを聞くことができました。

お母さんは「うちのクラブはガチガチの勝利至上主義なんです。試合があることを知らされなくても、私たち補欠組は仕方ないねとあきらめています」と涙ぐんでいらっしゃいました。

聞けば、そのクラブは代表であるコーチの方の息子さんはJリーガー。プロを輩出したクラブとしても有名でした。さまざまなブランド力の前に、誰も何も言えない状態でした。十数年前の話ですが、いまだに同じようなことが行われていることにがく然とさせられます。

息子さんが試合に呼ばれないことを、お母さんが残念に思う気持ちは私も同じ親としてよくわかります。しかしこの場合は、息子さんよりも所属するクラブの大人たちに対して情けなさを感じて欲しいです。

 

■お子さんにはどうあって欲しい? レギュラーで活躍するのが最優先なのか

ここから三つほどアドバイスさせてください。

ひとつめ。まずは子育ての原点に還ってみましょう。一度胸に手を当てて考えてみてください。お母さんは何のために子育てをしているのでしょうか? 子どもにどうあってほしいですか?

「このままこのチームに所属して練習のみに参加するべきか、他のチームに移籍するか悩んでおります。 ここからの逆転劇はありますでしょうか?」とあります。

サッカーではいつもレギュラーで活躍してほしくて、そうではない息子さんを許せないのでしょうか?

違いますよね? お母さんは、息子さんをサッカーのプロ選手にするために産んだわけではないと思います。それなのに、相談文には「恥ずかしい」「情けない」がたくさん並びます。息子さんに対して負の感情を抱いていることが伝わります。

「私は何のために子育てしているの?」

そこに注目すると、おのずとどうすればいいかが、わかると思います。

 

■不安かもしれないが、親は我が子を肯定してあげよう

2つめ。

お母さん、「心配するのが親の役目だ」と昔々の子育て観に縛られていませんか? 前述したように、移籍すべきかどうかと悩んだり、試合にも呼ばれないと「馬鹿にされたりしないか」と心配しています。

このようにお母さんが不安になるのは、レギュラーのみ試合告知するようなクラブにいるのも理由のひとつかもしれません。息子さんのサッカー環境は決してポジティブなものではないようです。

しかしながら、お母さんご自身が息子さんを肯定していないことも大きな要因ではありませんか? そうではなく、以下のように考えられないでしょうか。

うちの子は試合に出られなくても、こんなにサッカーを楽しんでいる。
うちの子は、コツコツと家でも練習して本当に努力家だ。
うちの子は試合を知らせてくれないようなチームなのに、チームが好きだなんて、なんて寛容な人間なんだろう。

そのように、お母さんが肯定することが、何よりも息子さんの力になります。逆に、心配な感情、不安な気持ちは、息子さんの自己肯定感を下げます。言葉にするとしたら「僕のことを一番知っているはずのお母さんにこんなに心配されてしまう、ダメな僕」と感じてしまうのです。

自分とは違う生命を預かるのですから、誰でも不安でいっぱいです。しかし、心配してオロオロするのではなく、多少不安なところがあってもわが子を信じてあげてください。鈍感でいるか、強がること。お母さんの鈍感さや強がりが息子さんの力になるのです。

そして、成果主義を卒業しましょう。いいですか? 試合に出られなくて一番つらいのは、息子さんです。そこを決して忘れてはいけません。

何か良いことをしなければ認められない家庭は、子どもにとって地獄とまでは言いませんがつらい場所です。

サッカーや学校は評価ばかりで、ジャッジされ続ける日本の子どもにとって、家庭は安全基地でなくてはいけません。心理的安全性がある家でこそ、子どもはこころのエネルギーをチャージして意欲的になれるのです。

 

■不安に陥りがちな「こころの癖」はどこから来るのか

(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

3つめ。

この機会に、子どもを心配してしまう自分の育ちを見つめ直しましょう。こちらから「子どもを信じましょう」「子どもに決めさせましょう」「自立させましょう」と方法論を伝えても、皆さんおそらく「わかってはいるけど、それが難しい」と思っていますよね?

不安に陥りがちな「こころの癖」はどこから来るのか。何か発見したら、またメールをください。

 

島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。

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