“できないことが多い環境”を選ぶ|アメリカで挑戦を続ける女子サッカー三浦成美が語る「プレーの先にある想い」
なでしこジャパンでワールドカップ、オリンピックを経験した三浦成美選手(以下、三浦)は、2023年からアメリカ女子プロサッカーリーグ(NWSL)に挑戦しています。ヨーロッパの方が自分のスタイルに合うと思いながらも、あえて「できないことの方が多い」アメリカを選んだ理由とは何だったのでしょうか。
アメリカで出会った、サッカー選手でありながら「エンターテイナー」として社会に発信し続けるチームメイトたちの姿から影響を受けた三浦選手は、子どもたちへのサッカー教室や地元小学校での講演を積極的に行っています。
アメリカで4シーズン目を迎え、今季から『ユタ・ロイヤルズFC』に活躍の場を移し、2027年のFIFA女子ワールドカップを目指す三浦選手。クレバーで技術を活かした活躍のその先にある「伝えたい想い」について、話を聞きました。
「できないことの方が多い」アメリカへの挑戦
ーー日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーした後、2023年にアメリカ・NWSLのワシントン・スピリットへ移籍されました。海外に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。
三浦)なでしこジャパンに入り、日本代表としてワールドカップやオリンピックを経験したことで、自分の力不足、世界との差を身をもって痛感しました。そこから海外に出たい、このままじゃダメだとずっと思っていたんです。
もっと若い年齢で海外に挑戦する選択肢もありましたが、日本である程度サッカーを理解し、自分の中で譲れないものを作ってから行った方がいいと考えていて、「今だな」と思えたタイミングで移籍を決断しました。
ーーヨーロッパでも多くの日本人選手が活躍されています。三浦選手がアメリカを選んだ理由はどんなところにあるのでしょうか?
三浦)私自身のプレースタイルはヨーロッパに合うなと思っていましたし、フィジカルが重要なアメリカは自分に合っていないと思っていました。
ですが、アメリカのチームから実際にオファーが来て、試合を観てみたらものすごくおもしろいサッカーをしていて。ヨーロッパに行く選択肢もあったのですが、アメリカという“自分にないものを持った選手たちがたくさんいるリーグ”に入り、できないことが多い環境の方が自分自身が成長できるのではないかと感じ、アメリカ行きを決断しました。
ーー実際にプレーしてみていかがですか?
三浦)やはり最初は苦労しましたね。サッカーの面でも、言語でも。
たとえば、中盤の守備では最初はボールを奪う場面にすら持っていけず、その前にスピードに乗られてぶっちぎられることも多かったです。でも、スプリントトレーニングを増やしたり、ウエイトのやり方を変えたりして対応できるようになっていきました。
ボールを持っているときには、プレッシャーが速い中でワンタッチでプレーしないといけないときもあるし、パスを出したあとに避けたり、わざとファウルを受けたりすることも必要です。毎試合ワールドカップしてるような強度の高さ、感覚でプレーすることができています。
2万人の前で「エンターテイナー」として立つ
ーーアメリカの女子サッカーの環境はいかがですか?
三浦)アメリカは女子サッカーがとても人気で、ワシントンでプレーしていたときは毎試合、約2万席がソールドアウトになっていました。公園に行っても、当たり前に女の子たちがサッカーして遊んでいる環境があります。
試合の観客には小学生の女の子たちがとても多いんです。その小学生年代の子たちが本当に目をキラキラさせて試合を観てくれていますし、選手を見て感動して泣いてしまう子もいるほどです。
ーー女子サッカー選手が子どもたちの憧れになっているのですね。先日、三浦選手は小学校で講演会を実施されましたが、子どもたち向けの活動を始めたきっかけは何でしたか?
三浦)海外に出たことで意識が変わりましたね。日本でプレーしているときは、1チームの1選手としてある程度みんなと同じような行動をしていました。
ですが、アメリカではチームメイトたちが、自分で会社を持ち社会貢献活動を行っていたり、人種差別の解消に向けた活動をしていたり。選手それぞれがサッカー以外でも“自分がやりたいこと”をやっている姿を目の当たりにして「この人たちかっこいいな」「自分もなんかやりたい」と感じて、自分にできること、やりたいことを考え始めました。
ーーアメリカの選手たちとは、どんなところに違いがあるのでしょうか?
三浦)選手として“スポーツを通じて何か伝えたい”ものがあるかどうかだと思います。アメリカの選手たちは自分がエンターテイナーだということをすごく理解しているんです。
たとえば、女性の権利を強調するTシャツを着て試合会場に入るなど、個人で伝えたいことや「もっと社会がこうなったらいいのに」というメッセージを“サッカー選手”という立場を使って発信している。その強さをすごく感じますね。
ーー先日は、地元・神奈川県川崎市の小学校で講演会を行いましたね。そこではどのような内容をお話しされたのですか?
三浦)キャリア教育ということで、大きなテーマとして「夢」について話しました。自分の経歴から始まり、この小学校や公園で育った話、うまくいかなかったときにどう乗り越えてきたかなどを伝えました。
とくに強調したのは「好きを続けられる力」です。挑戦を避けたり逃げたりするよりも、まず触れてみることが大事だと伝えました。
ーー子どもたちの反応はいかがでしたか?
三浦)笑いを交えながら、親近感のある雰囲気で話せたのではないかと思います。ほかの小学校でお話することもそうですし、同じ学校でも来年も続けていきたいなと考えています。
日本でプレーしているときにも小学校訪問をしたことはありましたが、自分から「行きたい」と意思を示し、資料も自分で作ったので、充実感もすごくありましたね。
月の頭に目標を立てる。プレーと活動の両立
ーー自身のプレーと社会活動の両立は難しくはないですか?
三浦)一見まったく違うことに取り組んでいるように見えますが、サッカー教室や講話などの社会貢献活動に取り組みながらも、サッカーに対して本当に細かくストイックにできています。
サッカーが好きなので日々うまくなりたいですし、選手としての責任もあります。基本的にはサッカーにかなりの比重をかけていて、かなり細かくスケジュールやメニューを決めて取り組んでいますし、社会的な活動をする上でそこは絶対に欠かしてはいけないことだと思っています。
ーー時間の使い方で工夫していることはありますか?
三浦)毎月、サッカー面での目標として、何試合に出る、試合中の走行距離など、細かく設定し、前月の振り返りもしっかりやっています。そこでToDoリストを手帳に書くようにしているのですが、サッカー以外のところでも1ヶ月のスケジュールを見て、「ここに時間があるからこれをやりたい」というのを決めておき計画的に進めています。
日本の良さを、世界に届けたい
ーー今後取り組んでいきたい活動はありますか?
三浦)サッカー教室はいろいろなところで続けたいなと思っています。これまでアメリカ、日本で開催してきて、言語の違いや発見が多いです。
加えて、いろいろなところで活動することでグローバルに日本の良さを伝えたいとも思っています。海外で生活すると、日本のよさを感じることも多いですし、サッカー教室だけでなく「おもしろい!」と感じることをやっていけたらと思っています。
ーーアメリカにいて感じる日本の良さや海外の方の日本への関心はいかがですか?
三浦)日本って最高ですよ(笑)。自分が思っている以上に、外国の方の日本へのリスペクトがすごくあります。ほかの国にない文化がたくさんあるし、料理など、こだわりや熱意を持っている人が多く、その魅力をもっと伝えられたらいいなと思います。私自身、そうしたこだわりのあるものや、古風な職人さんが作ったものが結構好きで、今も自宅には和紙のランプを置いていたりします。
そんな魅力を伝える意味でも、海外の選手が日本に来て一緒にサッカー教室を開催できたら嬉しいですし、そうした文化を繋げる役にもなれたらと思っています。
ーーサッカー選手としての今後の目標を教えてください。
三浦)やはり自分の中ではワールドカップが大きな存在で、次の2027年のワールドカップで活躍することを常に頭に入れながら、トレーニングしています。
あとは、自分が常に成長していたい。好きなことに常に満足することなく取り組める人でありたいなと思います。
ーー最後に、子どもたちへのメッセージをお願いします。
三浦)やってみたいと思ったことはやってほしいですね。今しかできないことっていっぱいあると思うし、全然失敗してもいいと思います。
失敗したときに、私は素直に「どうしたらいいだろう」と相談するタイプで、そこで助けてくれた人たちの想いに応えたいという気持ちが自分のエネルギーになっています。家族や先輩・後輩などの関係性が私にとっては大切なものになっているので、子どもたちもチャレンジしていく中での出会いを大切にしていってほしいなと思います。
ーーありがとうございました!