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第35回「気になる嫁さん」「赤い迷路」「傷だらけの天使」などで見る成城の風景 テレビドラマ篇 Vol.4

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第35回「気になる嫁さん」「赤い迷路」「傷だらけの天使」などで見る成城の風景 テレビドラマ篇 Vol.4

1932年、東宝の前身である P.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょう。

 成城が舞台となったテレビドラマは、なにも円谷プロ作品だけではない。今回は数々のテレビドラマで見られる成城の風景を追っていこう。

 まずは、前回触れた「気になる嫁さん」(71〜72年/NTV系)から。何せこの番組、全四十話中たった一話を除いて、すべての回で成城の風景が見られる〈成城ロケ・ドラマの決定版〉のような作品なのだ。

 ‶宇宙人に殺された〟という理由で「帰って来たウルトラマン」を降板した榊原るみがヒロインを務める本作は、結婚相手(関口守:関口宏の実弟)が死去した後も嫁ぎ先に同居を続けるめぐみ(榊原)と、その家族(佐野周二、山田吾一、水野久美、石立鉄男ら)との温かい交流を描くファミリードラマ。第1話から成城学園正門前の風景が見られるが、最も多く登場する嫁ぎ先の清水家は、労働科学研究所(現在の成城ハイム)前を走る小田急線南側の坂道を下りきったあたり(住所は砧八丁目31)にあった。この坂道は多くのウルトラ・シリーズのほか、宇津井健主演の新東宝映画『鋼鉄の巨人 地球滅亡寸前』(57年/石井輝男監督)にも登場する。

 当家からも程近い、仙川に架かる小橋もしばしばロケ現場となっており、末っ子に扮した山本紀彦は「赤い迷路」でも、まったく同じ場所で山口百恵と芝居をしている。

▲清水家は坂道を下りきった左手にあった。仙川に架かる小橋(右)は、「赤い迷路」やウルトラ・シリーズにも登場。2017年に榊原さんを現場までご案内したが、あまりの変わりようにピンとこないご様子だった(筆者撮影)

▲小田急線の向こう側、矢印下が清水家ロケ地。右上は東宝第8・第9ステージ(成城大学卒業アルバムより)

 本作で登場する懐かしの成城の風景は、店舗では成城パンと鈴木金物店(『ニッポン無責任野郎』で植木等が店前を歌い歩く)、葡萄屋(宇津井健が自宅地下で経営していたレストラン)、吉田書店(『憲兵と幽霊』や『日本一のホラ吹き男』に登場)、成城大飯店(「帰ってきたウルトラマン」で榊原と団次郎が店先を歩く)、魚康(『サザエさんの結婚』で江利チエミが魚を買う)、石井食料品店(現在の成城石井)等々建物では、成城プラザ(中華料理店「栄華飯店」正面に位置)に、前回も紹介した成城コンド(長男の山田吾一が冨士眞奈美と結婚して住むマンション)や竜沢寺橋など。
 橋上駅舎だった頃の成城学園前駅の改札口とプラットホームが見られるのも貴重で、改札口は61年の丸山誠治監督『B・G物語 二十歳の設計』(星由里子が通りかかる)や、74年の神代辰巳監督『青春の蹉跌』(萩原健一が「斎太郎節」を歌いながら通過する)でも見られる。

▲1967年頃の成城学園前駅プラットホーム。急行停車駅であるので各駅停車の待避線がある。右は橋上にあった改札口前風景(成城大学卒業アルバムより)

 ちなみに、続く石立鉄男の主演作「雑居時代」(73〜74年/大原麗子共演)も国分寺崖線上に位置する豪邸(成城三丁目14:今では某有名男女優夫妻の邸宅が建つ)が舞台となっていたことから、成城の商店街やいちょう並木、明正小学校(成城唯一の公立小学校:杉田かおるが通う設定)の風景が登場する。

 TBSが大映テレビと手を組んで作ったのが「赤いシリーズ」。‶激情型サスペンス・メロドラマ〟の名に相応しい異様な世界観や、宇津井健の大袈裟なセリフ回しにハマった方も多かろう。特に、増村保造監督の手による「赤い激突」での宇津井(大谷バレースクール主宰)は、神がかっていたとしか言いようがない。そして、その第1弾「赤い迷路」(74~75年)もまた、立派な〈成城ロケ作品〉である。
 精神科医の宇津井が妻殺しの犯人を捜すうちに、娘の山口百恵の出生の秘密に触れてしまう、という劇的な展開を見せる本作。第1話から早速、仙川に架かる竜沢寺橋(りゅうたくじばし)の上で宇津井と山口の父娘が会話を交わす。

▲そうした寺はないのになぜか「竜沢寺橋」という名が付くこの橋は、様々なドラマに登場する(筆者撮影)

「気になる嫁さん」で石立や山本紀彦が愉快なやり取りを繰り広げるこの橋の袂では、「太陽にほえろ!」(72〜86年/NTV系)の一作目で萩原健一扮する‶マカロニ〟刑事が必死の張り込みを行う。『華麗なる闘い』(69年)という映画では、ヒロイン・内藤洋子の家が橋の北側にある住宅に設定されていて、内藤を車で送ってくる‶ボンボン〟を成城大卒かつ成城在住の田村正和が演じている。

 成城にはかつて、大岡昇平や三船敏郎が愛した「栄華飯店」という中華料理店があった。筆者は74年の秋に百恵ちゃんと共演の松田優作が当店で食事している場を目撃、宇津井の自宅内シーンが隣接する住宅展示場で撮影されていたことを知る。
 そうした撮影事情もあって、本「赤い迷路」では成城のいちょう並木(まさに宇津井の自宅があった)や交差する桜並木通りで頻繁にロケが実施。宇津井や長山藍子、中野良子がいちょう並木を歩き、百恵ちゃんが桜並木通りを使って通学する姿などが撮影されている。

 他にも本作、映画『世界を賭ける恋』(59年)や『サザエさんとエプロンおばさん』(60年)に登場した「富士見橋」上で松田優作と山本紀彦が格闘したり、成城コンド前で怪しい男たちに襲われた百恵ちゃんを優作が救出したりするなど、成城の風景が頻出。隣の「仙川に架かる小橋」の方では、百恵ちゃんが優作や山本紀彦らと会話を交わすシーンもある。
 注目すべきは、登場人物の一人・大石吾郎が経営し、百恵ちゃんもしょっちゅう出入りするスナック「ビレッジ」が、成城二丁目に実在した喫茶店「シャネル」を使って撮影されていることだ。当店はとうの昔に閉店しているが、その外観はドラマで使われた時とまったく変わっていない。

▲成城に今も残る喫茶店・シャネル。今にも大石吾郎や百恵ちゃんが出てきそうだ(筆者撮影)

 ショーケンの異色作「傷だらけの天使」(74〜75年/NTV系)も、ことのほか成城ロケが多い。恩地日出夫、深作欣二、神代辰巳、鈴木英夫ら、錚々たる映画監督がメガホンをとった探偵ドラマの本作。尖ったショーケン(修)と人懐っこい水谷豊(アキラ)とのすっ呆けたやり取りが愉しく、筋立てにも従来のテレビドラマとは違う斬新な魅力があった。
 成城の風景が登場するのは、恩地日出夫、児玉進、工藤栄一が担当した三話。恩地作(15話)では、修がいちょう並木で誘拐された男子高校生の聞き込みをする際、バックに旧宇津井健邸が写り込む。並木道を北に入ると右手に神田隆の家があり、『青春の蹉跌』でショーケンが檀ふみと自転車で戯れた桜並木通りは、神田邸のすぐ先にあたる。
 児玉作(20話)で修とアキラの二人が拾った赤ん坊を捨てに来るのも成城で、この時二人はやはりいちょう並木を歩く。「太陽にほえろ!」で張り込み対象となった「竜沢寺橋」横のアパート(部屋まで同じ!)のシーンで聴こえてくるのは、懐かしい小田急ロマンスカーの警報音。ザ・ピーナッツが歌った「小田急ピーポの電車」で有名なこの補助警報(ミュージックホーン)も、やがて騒音問題により鳴らされなくなってしまう。
 工藤作の第25話では、またしてもいちょう並木を通って調査対象となる人気作家(小松方正)の家を訪ねる二人。それだけこの並木道は〝絵になった〟ということなのだろう。

 ショーケンの出世作「太陽にほえろ!」は国際放映(旧新東宝撮影所=現在のメディアシティ)で撮影されていたことから、七曲署(外観は上用賀で撮影)の刑事たちはしばしば成城や祖師谷の街に現れる。とりわけ砧の路上や住宅地、商店街でのロケが多く、殿下(小野寺昭)やボギー(世良公則)が住む螺旋階段のあるアパートは、砧四丁目12にあった「かおる荘」で撮影。聞き込みは富士見公園横の「富士見荘」が定番だった。カーチェイスはよく砧の高台の路上が使われ、植木等邸の前でもロケが行われている。
 意外なのは、渥美清の「泣いてたまるか」(66〜68年/TBS系)で成城の街並みが登場すること。『サザエさん』シリーズでも度々ロケに使われた下町情緒を醸す成城の商店街は、ここでも効果抜群であった。歌から発想された「恋人も濡れる街角 URBAN LOVE STORY」(88年/NTV系)でも中村雅俊が成城に現れるとのことだが、筆者は未見。雅俊さんが成城に住まわれるきっかけは、このドラマだったのだろうか。
 成城学園OGの紀比呂子さんに伺ったところでは、主演した「アテンションプリーズ」(70~71年/TBS系)で成城ロケの経験があるそうだし、夏木陽介さんによれば、学園ドラマ「青春とはなんだ」(65~66年/NTV系)のラグビー練習シーンは、成城大学のグラウンドで撮影したこともあったという。当時のお住まいは成城学園の高等学校前にあり、同学園出身の西條康彦さんはよく夏木邸に遊びに行ったとのことだ。

 テレビドラマ篇は、フジテレビ開局記念番組「少年ジェット」(59〜60年)で締めくくろう。主人公のジェットが成城の不動橋をバイクで駆け抜けるシーンがあることは、以前紹介したとおり。驚くべきは、北村健(タケシ)が開設する「少年ジェット探偵事務所」が富士見橋の東脇(現在の地番は「成城三丁目8」。藤田進が居住していたこともある)に位置していたことである。ジェットは愛車・ラビット号に跨り、この橋を渡って警視庁や事件現場へと向かっていく。
 さらに、ジェットと‶怪盗〟ブラックデビルが対決するのが『ニッポン無責任時代』(62年)でハナ肇扮する氏家社長邸として使われた旧中村邸の門前(‶成城名物〟の鉄塔・川世線がそびえる)だったり、「ハリケーン博士」の回に登場する美少女・カンナ(若き日の和泉雅子)が監禁されるアジトとして〈成城239番地〉の邸宅が使われていたりと、当ドラマもまさに‶成城メイド〟のテレビドラマなのであった。

▲現在の富士見橋。渡ってすぐ右手に「少年ジェット探偵事務所」があった。右は‶成城名物〟の鉄塔(旧タイプ:どちらも筆者撮影)

高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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