なぜ世界で唯一、ネパールの国旗は「四角」ではないのか?
世界には数多くの国旗があるが、そのほとんどは長方形である。
しかし、ヒマラヤの麓に位置するネパールの国旗だけは、二つの三角形を重ねたような独特の形をしている。
遠くからでも一目でそれと分かるそのデザインは、世界の国旗の中でも強烈な個性を放っている。
なぜネパールだけが「四角い国旗」という世界的な常識に従わず、このような独特なデザインを使い続けているのだろうか。
その背景には山岳国家としての誇りと、ヒマラヤの神々を見上げる古い信仰世界が深く根付いている。
神々の山とヒンドゥー教の教え
ネパールの国旗が二つの三角形で構成されている理由については諸説あり、ヒマラヤの山々を象徴しているともいわれている。
一方、三角形の旗は、ネパールの寺院や宗教儀礼、王侯の旗印などにも古くから見られた。
現在の国旗は、そうした二枚の三角旗を上下に組み合わせた「二重三角旗」の形を受け継いだものとも考えられている。
さらに宗教的な視点では、上部に描かれた「月」と、下部に描かれた「太陽」にも特別な意味があるといわれている。
ヒンドゥー教の影響が色濃いネパールにおいて、太陽と月は重要な象徴であり「この国が太陽と月と同じくらい長く存在し続けるように」という願いが込められているとされる。
かつての国旗では、月と太陽には人の顔が描かれていたが、1962年に現在の形が整えられた際、顔の部分が取り除かれ、より簡潔な図柄へと改められた。
長方形という枠組みにとらわれず、天と地、山と信仰をそのまま切り取ったようなこのデザインは、ネパールという国家が文明の境界ではなく、神話の世界の延長にあることを物語っている。
文明の枠を拒んだ誇り
近代国家の形成が進む中、多くの国では長方形の国旗が採用されていった。
しかしネパールでは、古くから受け継がれてきた二つの三角形からなる国旗が、その後も維持され続けた。
1962年に現在のデザインが正式に憲法で定められた際も、伝統的な形を長方形に改めることはなかった。憲法には、深紅の地に濃い青色の縁取りを施し、上部に月、下部に太陽を描くことが明記され、別表には国旗を正確に描くための作図方法まで細かく記された。
つまりネパールは、受け継いできた国旗を単に残しただけではなく、その独特な形状を国家の正式な象徴として憲法に刻み込んだのである。
王制が廃止され、連邦共和制へと移行した後も、この国旗は変更されなかった。
政治体制が大きく変わってもなお守られているその形は、ネパールという国が受け継いできた歴史と、国家としての揺るぎない矜持を象徴している。
次にこの独特な国旗を見かけたら、ぜひその形に注目してみてほしい。そこには、ヒマラヤの山々とともに歩んできたネパールの人々の誇りと祈りが、静かに刻まれているのである。
参考 : THE CONSTITUTION OF NEPAL, 1962、CIA The World Factbook「Nepal」他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部