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タラ汁とドライブイン、そしてトラック野郎たち

さんたつ

忘れられないみそ汁があります。タラのブツ切りが入った、タラ汁です。二年前の晩秋の日暮れ、富山から新潟に向け私は車を走らせていました。びゅうびゅうと海風の吹きつける8号線は、日本海の真横を走る国道。ひと気の少ない夜道をゆくうちに明かりが見えました。広い駐車場に小さな食堂――ドライブインです。 ※写真はイメージです

夜道で出合った、人生一番のタラ汁

店の壁に大きく書かれた「タラ汁」の文字。そりゃあ是非もなく吸い込まれますよ。たたきにテーブルと椅子が並ぶ店内に入るなり即注文。土地の味噌で煮ているんだよ、と店の親父さんは言います。待つ間、ガラスケースのおかず選びを満喫します。マグロのブツ、納豆などを取って自分なりの定食を編成しているうち、さあ来ました。……いやあ驚いた。アルミの小鍋(!)で出てくるんですね。お椀によそえばゆうに三人前はありました。むさぼるように身をしゃぶり汁をすすり完食。我が人生、間違いなく一番のタラ汁です。

ドライブインで食う、この状況も旨さを強めるんですね。いまや姿を消しつつあるこの業態、私自身にも色々な思い出があります。小学校低学年の頃、父はトラック運転手でした。当時、母は年寄りの世話で忙しく、私は二つ下の妹と、父の「積み込み」(荷物を集配することをこう呼びました)によく付いていきました。積み込み中は車の脇で遊び、お昼になれば、ドライブインです。

トラック野郎たちが体を休める場だった

父は関東圏の仕事が多かったのですが、大型車が停められるドライブインが千葉、埼玉、茨城のあちこちにありました。どこも広い駐車場を備えています。昼時、砂利と砂埃を巻き上げながらトラックを停めると、BVDの白Tを着、金のネックレスに金の指輪のいかつい男と、小さな兄弟が車から出てきます。ノレンをくぐると、三角巾をつけたおばちゃんたちが迎えてくれます。

早朝から走り回るトラック野郎をいたわるように世間話をし、子供達には大きくなったねと声をかけ、むいた柿なんかを少しもってきてくれるおばちゃん。子供はナポリタン、その父はかつ丼でも食べたでしょう。国道沿いのドライブインにはゲームセンター併設のところもありました。

ご飯のあと、子供二人は二百円ずつもらい、ゲームへ走ります。鏡状の回転盤に載せられたオイルライターや腕時計などの景品がクルクルと回るゲームがありました。棒をスライドさせて景品を盤から落とせばもらえるというUFOキャッチャーの先祖のようなゲームです。父にライターを取ろうとする兄。うまく落とせず早々に二百円を使ってしまうと、「お兄ちゃん、私まだできないからやっていいよ」と自分の二百円を小さな手にのせて差し出す妹。400円を一人で使うダメな兄は、結局取れませんでした。なんだか思い出すと心が痛いです(妹は忘れているでしょうが)。

その間、父は30分ほど食後休憩とし、トラックで寝ていたのだと思います。ドライブインは運転手たちが身体を休める場でもあったのです。加えて……父の場合は、応用編もありました。各地の店の女将さんたちと顔見知りだった父は、たまに北海道や九州の仕事が入るとドライブインで飯を食いながら一杯やり、車を一晩停めさせてもらっているうちに夜半、盛り場へと繰り出します。土地の物を食べて飲んで、店主や客たちから土地の話を聞く。そして夜中に車に戻って寝る、という遊びです。
「数年ぶりにいっても、あそこの店主は俺を覚えていてよ」なんて土産話を楽しそうにする父の顔を見るのが、私は好きでした。ふと気づくと今、私はトラックには乗っていないけれど、似たようなことをしているな、と気づきます。

身の置き場を失ったトラックたち

そんなドライブインも、砂利の大きな駐車場も、今やすっかり数が減りました。私が記憶にあるところだけでも全て廃業しています。とってかわったコンビニは、トラックドライバー御用達というだけでなく地域のよろず屋としての機能も持っています。トラックを店の駐車場に停めハンドルに足をあげ、エンジン付けっぱなしで寝て居ようものならすぐに通報されてしまうでしょう。

昨今、効率化を進める荷主たちも、ドライバーたちに延着も早着も許さず定刻キッカリに来るよう迫ることが増えました。人が運ぶのです。いつでもそう上手く進むでしょうか。それでも積み下ろし場周辺で待機することさえ認めません。大きな図体なのに、どこにも身の置き場の無いトラックたち。仕方なくコンビニ駐車場や路肩で時間調整したり、休んだりしているのです。

私にはドライブインを作ることはできません。ただ、トラック野郎と、その横でご飯を食べていた子供らを見ていた三角巾のおばちゃんたちのまなざしは真似したい、忘れたくない、と思っています。

文・写真=フリート横田
*記事中の写真は、本文とは直接関係ありません。

フリート横田
文筆家、路地徘徊家
戦後~高度成長期の古老の昔話を求めて街を徘徊。昭和や盛り場にまつわるエッセイやコラムを雑誌やウェブメディアで連載。近著は『横丁の戦後史』(中央公論新社)。現在、新刊を執筆中。

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