東京の六本木で「禁断のしらすバター丼」としらす料理三昧「土佐しらす食堂二万匹」|タベアルキスト・マッキー牧元の高満腹日記【高知グルメPro】
「今の時期だけの“こすじ”があるので、ぜひ食べ比べてください」
店主の岩本梨沙さんが言う。
なんだ「こすじ」とは?
聞けば、「小すじ(こすじ)」とは、主に高知県の安芸(あき)漁港などで水揚げされる、生後2〜3日ほどの非常に小さな稚魚(しらす)のことだという。
旬は、春(4月〜5月)と秋(9月〜11月)の年2回で、春は黒潮に乗って北上する、みずみずしく甘みの強いしらすが獲れ、水温が下がる秋は、腹に脂がのった濃厚な味わいになる。
いただいた季節は春、茹でた「こすじ」をいただいた。
向かって右側がこすじである。
食べればふんわりとして、最初から甘みが滲み出る。
いたいけな味わいという風情があって、心が焦らされるのであった。
もう一方の大きめなしらすはどうだろう。
これは最初は静かだが、しばらくたち、5回ぐらい噛んでから次第に甘みが出て、複雑な味もある。
ほのかな苦味もあっていい。
これも、こすじの上品な味わいを知ったからこそ感じることだろう。
さて「土佐しらす食堂二万匹」とは一風変わった名前だが、これは高知出身の店主岩本さんの、しらす愛から名付けられた。
もし、愛してやまないしらすに埋もれるとしたら、どのくらいの量だろう?と考えた際にとっさに浮かんだ数字だという。
しかし実際に数えたところ、二万匹はだいたい1kg程度であり、埋もれるには遥かに足りないことがわかった。
だが、語呂がよく、夢がある言葉なので、そのまま命名したのが現在の店名である。
こすじをいただいた後、文旦、レモン、小夏、柚子で作るサワーを飲みながら、次々としらす料理や高知の料理を楽しんだ。
前菜の三種盛りは、シャキッシャキッとした痛快な歯触りが魅力の塩漬けいたどり油炒め、甘長獅子唐辛子と茄子のピリ辛炒め、椎茸微塵、しらすのペーストいりで静かなうまみにクセとなる特製のおからである。
続いてかつおの刺身は、極上になめらかで、黄身醤油でいただく。
続いて酒を「しらす酒」に変えた。
炙ったしらすに燗酒を注いで飲む、オリジナルの酒である。
しらすから旨みが滲み出て酒の味が深くなり、浸かっているしらすを肴にして永遠に飲み続けられる、嬉しくも危険な飲み方である。
続いて柚酢によるしらすポン酢で食べる、太刀魚のたたきが運ばれた。
太刀魚の質も味付けも素晴らしい。
高級割烹と遜色なき質に驚く。
次は、「春野菜のスープ」。
筍、うすい豆、新高菜、浅利のスープである
豆の香りがアサリ出汁のスープから香って、春らしきほのぼのとした気分を運んでくる。
次は揚げ物で、真子と肝を生かしたイワシのフライ。高知のクレソン、玉ねぎとのびる添えである。
これには、タルタルソースならぬしらすペーストを練り込んだしらすマヨポン酢で食べるのだという。
「うまいっ」
一口食べて笑った。
単一なうまさではなく、真子や肝の複雑な味をふくんで、酒が猛烈に恋しくなる。
ここでいただいたのが、熱燗うるめ酒である。
なんとグラスに注いだ熱燗の中に、焼いたうるめを入れるのであった。
飲むほどにうるめから出たうまみが酒に溶け込み、色がついて、味わいが深くなっていく。
こいつは浸かったうるめを齧りながら飲んでも良いぞ。
さて、ここで名物しらすのアヒージョが運ばれた。
ぐつぐつと煮えたぎる油の中には、しらす、フルーツトマト、タラの芽、蕗のとう、ツボミナ、たらこが入っている。
この料理もまた、しらすの旨味効果で、油のコクが膨らみ、具の味わいが増していく。
そして、ここで出されたのが、締めのご飯「禁断のしらすバター丼」である。
熱々のご飯の上にネギとしらすをこんもりと乗せ、エシレバターを乗せてある。
まさしく禁断なのだが、これは別名「背徳丼」とも呼ばれている。
最初は、バターを混ぜずに、ネギとしらすだけでご飯を掻きこむ。
これだけでも十分に美味しいが、次にバターを混ぜて掻きこむ。
バターのコクと香りが加わって、一気に箸を動かす速度が上がる。
さらにそこへ秘伝のタレをかけまわす。
ああ、もうダメである。
うまみが三重にも四重にもなって押し寄せ、鼻息が荒くなる。
だが、まだまだであった。
最後にアヒージョの油をかけ、かき混ぜるのである。
もういけません。
誰しもが、しらすの底なし沼にハマり、旨みに埋もれ、陶然となって動けなくなるのである。
[word_balloon id="unset" src="https://kochike.jp/wp-content/uploads/2026/04/マッキー牧元.jpg" size="M" position="L" name_position="under_avatar" radius="true" name="執筆者" balloon="talk" balloon_shadow="true"]執筆者:マッキー牧元(本名:牧元裕之)
食ジャーナリスト・タベアルキスト。1955年東京生まれ。「味の手帖」取締役編集顧問。年間600食以上を食べ歩き、立ち食いそばから高級割烹まで幅広いジャンルを取材・執筆。『dancyu』『東京カレンダー』などへの寄稿、テレビ出演、料理開発など多方面で活躍。高知の食文化に造詣が深く、「高知家の〇〇」では高知グルメコラムを300本以上執筆している。[/word_balloon]
店舗情報
土佐しらす食堂 二万匹
住所:東京都港区六本木7丁目10−30 第2清水ビル 1階
電話:03-6455-4761
営業時間:ランチ【火・水・木】11:30〜14:30/ディナー【火・水・木・金・土】18:00〜23:00
※予約(夜のみ可)