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坂東巳之助に聞く「僕からは教えませんよ」に込めた思い 『寿曽我対面』歌舞伎座で開幕へ

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坂東巳之助

2021年11月1日(月)より、歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』の第二部『寿曽我対面』に、坂東巳之助が出演する。この演目は、巳之助の父・十世坂東三津五郎の七回忌追善狂言として上演される。父親について、演目について、歌舞伎について、話を聞いた。

■錚々たる顔ぶれの『寿曽我対面』

2015年に、59歳の若さで惜しまれつつ逝去した三津五郎。在りし日の姿が、舞台に立つ巳之助と重なってみえた経験を持つ方は多いだろう。

「似てきたと言われる時、大抵は見た目の話ですよね。父がいた頃はムズムズするような居心地の悪さがありましたが、今では『そうでしょうね、親子だからね』と思うくらいです(笑)。ただ、役者の先輩に『似てきた』と言っていただけた時は嬉しいです。役者が役者に言うことならば、見た目だけでなく、ほんの何%かでも『芸が似てきた』の意味が含まれていると思えます」

『寿曽我対面』(H23.1新橋演舞場)左から、化粧坂少将=坂東巳之助、大磯の虎=中村雀右衛門、曽我五郎=十世坂東三津五郎 /(C)松竹

巳之助が勤める曽我五郎は、三津五郎が襲名披露興行で勤めた役でもある。11月の歌舞伎座の配役は、工藤祐経に尾上菊五郎、曽我十郎に中村時蔵、小林朝比奈に尾上松緑、大磯の虎に中村雀右衛門、鬼王新左衛門に市川左團次。

「菊五郎さんがお考えくださいました。これほどの先輩方にお揃いいただけることとなり、本当にありがたく思います。初役ですので、松緑のおにいさんに教わります。追善狂言だからと出演をご快諾くださった皆さんの、父へ思いを感じ、そして父のおかげと感じ、感謝しています。ただただ、ありがたいことです」

三津五郎の五郎について訊くと、「お手本のような五郎でした。格好良かったです」と振り返る。

■曽我兄弟の仇討ちの物語

『寿曽我対面』は、『曽我物語』から一場面を切り出したもの。

「このお芝居では、どの人物にも、それぞれ歌舞伎の象徴的な要素が詰まっています。過去には、小林朝比奈と化粧坂少将をやらせていただきましたが、役者としては、どのお役からも学ぶことがあります。曽我五郎はお芝居や舞踊など様々な演目に登場しますが、『対面』の五郎は、歌舞伎をあまりご存知ない方が歌舞伎と聞いて、まず想像されるような、むき身と呼ばれる隈取をして登場する、血気盛んな若者のお役です

『寿曽我対面』曽我五郎=坂東巳之助 /(C)松竹

『曽我物語』は、曽我兄弟の仇討ちのお話だ。「日本三大仇討ち」に数えられる題材だが、今では、誰もが知る話とはいいがたく、この場面だけで物語を把握することはむずかしい。初めてご覧になる方は、観劇前に予習するべきだろうか。

「どちらでも良いと思います。見取狂言として(一場面が独立して)上演され続けてきたのは、この場面に見どころがあり、ここだけを見ても面白いと感じる人が大勢いた時代があったからだと思うんです。歌舞伎の様式美や、儀式のような厳かな雰囲気、そこに朝比奈のような道化役が出てきたりもします。台詞回しの音楽性、幕切れの決まりまで、感覚的にも十分楽しんでいただける作品だと思います」

『寿曽我対面』曽我五郎=坂東巳之助 /(C)松竹

「ただし、分からないもの=つまらない、と感じやすい方は、予習いただくと良いのでしょうね。歌舞伎に限らず、最近は分かりやすいものが好まれます。TikTokのように短時間に面白いことが詰まったものが流行り、YouTubeでは20分を超えると視聴数が落ちるそうです。そんな時代に歌舞伎は、ひとつの場面に1、2時間かけることもあります。時代的に逆行する部分はありますが、そこに歌舞伎の魅力があるとも思えます」

■僕からは教えませんよ

役作りについては、あまり深く語らない。理由を問うと「現代劇や新作歌舞伎ならば答えやすいのですが、古典の役だと困ってしまう」と言った。

「歌舞伎役者は皆、先輩方に教えていただき、稽古をして吸収しようと努めます。先輩方が身につけ、脈々と受け継いでこられた役者にとっての財産を、僕が容易く言葉にして広めることに抵抗を感じるんです」

現在32歳。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』にはじまり、新作歌舞伎の『NARUTO-ナルト-』や『風の谷のナウシカ』などをきっかけに、巳之助には若い世代のファンも多い。だからこそ、意識することでもあるという。

「先人が残した本を開くと、劇評を書かれた役者が劇評家の先生に抗議の電話をし、喧嘩になったなんてエピソードもしばしば目にします。かつては名前を出して書く劇評家と、顔を出して舞台に立つ役者が、お互いの責任やプライドをもってぶつかる、健全な関係が成立していたんですね。時代は変わり、いまはWeb媒体の数も種類も増え、ネットで検索すれば、簡単に情報が手に入る。それを元に、SNSでは誰もが匿名でも発言できるようになりました」

巳之助自身、音楽や特撮もののファンであり、「インターネットを使う世代だからこそ、ファン側の目線でその変化を感じている」のだそう。

「変化の波は、歌舞伎にも入ってきています。けれども、もし本当に歌舞伎を好きになり、知りたいことが出てきた時には、書店や図書館で本を探せば、先人の言葉にいくらでも触れていただけます。この役者さんの一代前の方は、どんな話をしていたのだろう。さらに昔に遡ったらどうなのかな……と。それが、いい意味での“ヲタク”の楽しみ方だと思うんです」

「労力をかけて知ることを楽しめるお客様は、歌舞伎により詳しくなり、目が育ち、そのようなお客様に役者は育てていただく。歌舞伎は、それをくり返してきたと思うんです。ですから、僕があまりお話しないのは、隠したいわけでも『お客様は知る必要はありません』というわけでもありません。歌舞伎をもっと知りたいと思っていただけたなら、好きなだけ調べて楽しんでください。ただし僕からは教えないよ? っていうことです(笑)」

■分からないから、続ける

広い視野とストイックな姿勢の裏に、歌舞伎への真摯な思いを感じさせる巳之助。父親や坂東家に縁のある演目に出演する機会も増えている。三津五郎の跡を継ぎ、日本舞踊坂東流の家元でもある。

「家に縁のある古典演目も日本舞踊も、責任のある部分はもちろんありますが、使命感で『残さなくては』と重荷を背負っているわけではありません。自分で選んだ道で、家にとって大切なものを残したいと自分で思い、自分でやりたいと思ったことを望んでやっています」

そんな日々の稽古や舞台において、巳之助は、何をものさしに自身の成長をたしかめているのだろうか。

「分からないから、続けるのかなという気がします。芸は、師匠や父に教わり身につけていくものです。教わったことを自分で考えながら稽古しますが、正解は分かりません。全然できない……と思うことはあっても、よし! できた! ということは、おそらく一生ないですし、僕に限らず、皆さんそうだと思います。父もそうだったのではないでしょうか。だから続けるのだと思います」

2021年11月歌舞伎座では『寿曽我対面』特別ポスターが販売される。

歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』は、2021年11月1日(月)から26日(金)までの公演。

取材・文・撮影=塚田史香

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