京都五山送り火を支え、地域と、山とともに生きる。「妙」「法」送り火の今とこれから 〜京都五山送り火連合会会長 松ヶ崎立正会理事長インタビュー〜
京都では、“おしょらいさん”と親しみを込めて呼ばれる先祖の精霊を、お盆の始まりとともに家に迎え、8月16日の五山送り火で一斉に浄土へと送り出す風習があります。送り火は、おしょらいさんが迷わず帰れるよう、明るく照らす道しるべといわれています。人々はその様子を遠くから眺め、手を合わせて心静かに故人や先祖を想う、祈りのひとときでもあるのです。
同時に五山送り火の現場では、保存会の会員、消防署・消防団など、多くの人々が無事に、円滑に、そして美しい火を届けようと尽力しています。
その準備は年間通して行われていますが、近年は担い手不足や野生動物への対策といった新たな課題も生まれているようです。
今回は、(公財)京都五山送り火連合会会長と(公財) 松ヶ崎立正会理事長を兼任する岩﨑勉さんに、「妙」「法」の今とこれからについてお話を伺いました。
五山送り火のあらまし、起源などは京都観光Naviをご覧ください。
https://ja.kyoto.travel/event/major/okuribi/understand.php
「妙」と「法」は2つで1つ。連綿と続く歴史ある送り火
京都駅を背にして、12時あたりの方向。世界遺産である下鴨神社よりもさらに奥に、五山送り火で2番目に点火される「妙」「法」の山々があります。
山々のふもとにある涌泉寺(ゆうせんじ。前身は妙泉寺)の寺伝によると、鎌倉後期(1306年)に天台宗から日蓮宗に改宗した際に、日像上人が「妙」の字を画き、点火したことが始まり。また、「法」の字は江戸初期に日良上人(1590~1660)が画いたと伝えられています。
<双方の山は直線距離にして約1km離れている 画像提供:(公財)松ヶ崎立正会>
向かって左にある標高133mの松ヶ崎西山に「妙」、右にある標高186mの松ヶ崎東山に「法」と、それぞれ独立した山の表面にあり、「妙」の女偏の一画目は約95m、「法」のさんずい偏の一画目は約12mもあります。
その由来が法華経の「南無妙法蓮華経」であること、また古くから松ヶ崎地域の住民が送り火行事を支えてきたことなどから、「妙」「法」は一対。2つで1つと考えられています。
<「妙」「法」にゆかりの深い涌泉寺。本堂は京都市指定有形文化財>
送り火と踊りのダブルヘッダー。お盆の忙しさもあって
「妙」「法」の送り火は、支障する木を伐採し、見晴らしを良くした山肌に火床(ひどこ)と呼ばれる焚き火台のようなものを点々と連ねて文字を表現しています。
火床は「妙」が103基、「法」が63基、あわせて166箇所。1つの火床に2束のアカマツ割り木を入れるので、毎年予備も含めて350束を準備します。1束の重さは5〜6kgですから総重量は約2トン。毎年、林業業者の力を借りて準備をするそうです。
<「妙」がある松ヶ崎西山(万灯籠山)。宝池自動車教習所の奥にある>
<「妙」の火床は103箇所。随所に防火用水のドラム缶も設置>
「12月に林業業者さんへアカマツ割り木を手配することから準備が始まります。年が明けてからは火床や山道、防火用の水を入れるドラム缶の状態などを点検し、必要に応じて修理、取替を手配する。木や下草もどんどん伸びてきますから、山火事にならないよう定期的に草刈りをしたり、街中から送り火が見やすいように支障する木を伐採したり。その他、常務理事会、理事会・評議員会の開催、所定の補助金申請、各家でのアカマツ割り木の乾燥……そして涌泉寺での題目踊・さし踊実施のための練習も欠かせません」と岩﨑さんはいいます。
<「法」の火床は63箇所。こちらの山はやや急斜面>
松ヶ崎では、毎年「妙」「法」送り火とともに、「題目踊」と「さし踊」が涌泉寺境内で行われてきました。前者は鎌倉後期(1306年)から続く日本最古の盆踊りともいわれ、後者も室町末期を起源とする古式ゆかしい踊りです。
<「題目踊」は宗教的行事であるため、松ヶ崎立正会の会員のみが踊る
画像提供:(公財)松ヶ崎立正会>
いずれも京都市登録の無形民俗文化財で、8月15日と16日に涌泉寺境内で行われていましたが、近年は年によって開催日を決めてきたそうです。今夏(2026年)からは15日夜半に実施されます。
「親戚の訪問や帰省のタイミングと重なるお盆時期に、送り火と踊り両方のお務めは近年の小家族化と相まって、皆さん、とても忙しいんです。お盆休みも15日までですね」と話す岩﨑さん。
<「さし踊」は誰でも参加できる。画像提供:(公財)松ヶ崎立正会>
題目踊・さし踊【涌泉寺】の詳細
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=6906
子どもから大人まで関わることができる“接点”をどうつくるか
こうした「妙」「法」送り火と「題目踊・さし踊」の準備、執行は、公益財団法人 松ヶ崎立正会がその保存継承とともに、支えています。
会員数は準会員も含めて73戸。理事長の岩﨑さんと常務理事7名を中心に、理事や監事、町ごとの当番宅(宿老・一和尚6名)と密に連携をとって行ってきました。
ところが、その一方で「送り火行事って閉鎖的ですね」と言われることもしばしばあるのだとか。
「8月16日当夜の、点火までの下準備が本当に大変なんです。また、この行事を保存継承していくことを考えると、これまでの体制や手法を簡単に変えることはできません。けれども、送り火の伝承に加えて地域の発展に寄与するということが当会の目的でもありますので、できるだけ多くの人に関わっていただけるよう、火床で焚き上げる護摩木の志納受付を4年前から開始する等、積極的に接点づくりに努めています」
<2021年に行われた「法の山にのぼろう!」企画>
定期的に地域の小学校の授業やPTA企画のイベントに出向き、パワーポイント資料で送り火を紹介したり、子どもたちを山へ案内し、火床をはじめ、新たに設けた鹿の侵入を防ぐ柵を説明し、山が抱える課題、野生動物への対応についても理解を深めてもらっているそうです。
<「法」の字。写真上は2014年、写真下は2021年ごろ。上部の土が露出していることがわかる 画像提供:(公財)松ヶ崎立正会>
「『法』の山にはツツジがたくさん生えているのですが、近年その新芽が鹿に食べられ、ツツジが枯れて土が露出する現象が起こりました。植物の根が枯れると地盤が緩みます。また、雨で土が侵食されますから、火床の倒壊にもつながる。そこでクラウドファンディングを実施し、『法』の字を囲む約400mの防鹿柵(ぼうろくさく)が2022年3月に完成しました。送り火行事だけでなく、自然環境を守ること、ツツジを再生させる工夫についても子どもたちに伝えています」
普段は関係者以外、立ち入り禁止の山々ですが、幼稚園の遠足など、特別な機会には開放していると話します。
続いていく挑戦。そして人と人、送り火をつなぐ護摩木
<植林について丁寧に教えてくださる岩﨑さん>
これまで地元の支えをはじめ、行政や企業からの支援、大学の先生や学生ボランティアなど、多くの人の手と知恵、協力を得ながら、送り火行事の保存継承に努めてきた松ヶ崎立正会。その歩みは止まることなく、新たな次の挑戦へと繋がっています。
その1つがアカマツ苗木の植林事業です。
「松ヶ崎と名付けされている処ですから、かつて地域の山には豊かな松林があり、松茸も取れていました。もちろん送り火のアカマツ割り木もそこから切り出していましたが、植生が変わり、現在、アカマツ割り木の調達は外部に頼らざるを得ない状況です。しかし昨今の林業従事者の減少などを考えると、安定的なアカマツ割り木の調達に対策が必要と考えました」
そこで2024年3月に松ヶ崎立正会が所有する山林約13000㎡の山頂部と山麓部約1000㎡にアカマツの苗木をそれぞれ150本、約300本を植樹。現在は50〜60cmほどに成長し、今後は害虫の駆除や間伐などを行いながら、30年後に使用することを目指しているそうです。
<五山共通護摩木(京都五山送り火協賛会)>
そしてもう1つの挑戦は護摩木です。
仏教の「護摩(ごま)」という儀式で、炎の中に投げ入れる木の棒を護摩木(ごまぎ)といいます。名前と願いごとを書いた護摩木を神聖な火で焚き、願いが叶うように祈願するものです。京都五山送り火では、「大文字」「船形」「左大文字」「鳥居形」の各保存会ごとに専用の護摩木を「送り火」の炎で焚き上げてもらうことができます。「妙法」では2020(令和2)年から護摩木の志納を受け、送り火の火床お焚き上げを行っているそうです。
【京都五山送り火】誰でも奉納ができる「護摩木」を知っていますか?
https://plus.kyoto.travel/entry/okuribi_gomagi
「護摩木は人と人、そして人と送り火とをつなぐ大事な存在です。裏に願い事を書いて志納いただいた護摩木は8月16日に火床で焚き上げられ、『妙』『法』の送り火となって浄土への道筋を照らします。先祖御供養とともに、戒名のほか、様々なお祈り・願いが書かれています。ぜひ、志納いただけると嬉しいです」と、岩﨑さんは語ってくださいました。
「妙」「法」の護摩木は、8月15日と16日に地下鉄「松ヶ崎」駅1番出口の西隣で志納受付します。
<妙法の護摩木の志納受付>
場所: 武與門(ぶよもん)ビル入口(地下鉄「松ヶ崎」駅1番出入口すぐ)
日時:8月15日(土)10:00~17:00頃 、8月16日(日)10:00~13:00頃
志納料:1本500円(売り切れ次第終了)
また遠方の方でも護摩木を志納していただけるよう、五山の護摩木を5本セットで返礼品とするTHE KYOTOクラウドファンディングを、公益財団法人京都五山送り火連合会が7月1日から実施しました。郵送でのやり取りなので、京都へ足を運ばずとも護摩木を志納できて、五山送り火の支援にもなる画期的な取り組みです。詳細はWebサイトをご覧下さい。
https://the-kyoto.en-jine.com/projects/gozan-okuribi
その他、収益金の一部が京都五山送り火の保存・継承に役立てられる「京都五山送り火共通護摩木」や、「送り火オリジナル絵はがき」「手拭い」などもあります。ちょっとしたお土産にいかがでしょうか。
<五山共通護摩木の奉納>
販売および奉納受付場所・日程・時間
■京都総合観光案内所「京なび」(京都駅ビル2F) 8月7日(金)~15日(土) 8時30分~19時 ※8月15日(土)のみ17時まで
■ミーナ京都・BiVi二条 8月14日(金)・15日(土)11時~15時
価格 880円(税込)
※奉納する山はご指定いただけません
記念符・手ぬぐい・扇子・五山共通護摩木(令和8年度)https://ja.kyoto.travel/event/major/okuribi/goods.php
「妙」「法」をはじめ、多くの人の協力と支援で運営される五山送り火です。夜空に浮かび上がる美しい火を光で邪魔しないように、この時間だけ心静かに大切な人を想う時間にしませんか。
<参考資料>
・「京都大文字五山送り火 」(京都市文化観光資源保護財団)
・「京都大事典」(淡交社)
・松ヶ崎学区 ホームページ http://kyoto-matsugasaki.com/dantai/risshokai/
・READYFOR 防鹿柵設置により、植物再生・表土流出防止を行い、妙法の火床を守る。 https://readyfor.jp/projects/HOUNOJI_PJ
記事を書いた人:五島 望
東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。