大ヒット公開中!『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』。ライバルを失った後どう生きるのか
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
手に汗握るストーリーと、こだわりの作画で大ヒット公開中!
ものすごい力作でした。もちろん『ウマ娘』シリーズは、これまでも熱いストーリー展開で、十分支持されていますが、今回は「ライバルを失った後どう生きるか」をテーマに、「速さ」を競い合うウマ娘の熱い心情に迫りました。
主人公はジャングルポケット。ジャングルポケットは、アグネスタキオンをライバルと思っているのですが、アグネスタキオンはすぐに引退してしまうんです。あいつに勝つ!と思っていた相手が突然いなくなってしまう喪失感を抱えてのレース。それは、自分との戦いでもあるわけです。そこがすごくドラマチックに描かれていました。
よかったのは、伝えたいドラマや感情がちゃんと絵になっていたところです。例えば2人が初めて出会ったときのシーン。ゲートに入る前に通路を歩いていくのですが、この通路の真ん中にある柱の向こう側にアグネスタキオンが見えます。
ジャングルポケット側から見ているのですが、ただ者ではない雰囲気がちゃんと演出されています。影が落ちていたり、柱があったりで顔をすぐに見せなかったり。顔が見えても、瞳が目の中央に描かれていて、ちょっといっちゃってるような顔にも見えます。
また通路を2人が歩いている様子を、正面から描くカットでは、2人の間に柱がある構図を採用することで、2人の間にある距離感を描いていました。
ジャングルポケットは前半で負けてしまうのですが、その引退を報じるニュースが流れてからしばらく画面がずっと真っ赤なんです。シーンの最初は夕日があたっているから真っ赤な風景という形で始まりますが、途中からは、ニュースの衝撃を伝えるための赤い画面になっていて、とても鮮烈な印象があります。
後半、ジャングルポケットがアグネスタキオンに会いに行くシーンでは、部屋がひどく散らかっています。本心を明かさないアグネスタキオンの心境とつながっているんでしょうね。そしてやっぱりここでもジャングルポケットとアグネスタキオンの間に障害物が置かれていて、画面の両端にいるふたりの間を遮るようになっています。このシーンは2人の最初の出会いを踏まえつつ、でもアグネスタキオンの気持ちがすでに変わったということがセリフで表現されていて、すごく丁寧に心情を拾っていました。
また、ジャングルポケットが悩んでるときに、先輩であるフジキセキが結構重要な役目を果たします。2人は川の近くの柳の木の下で喋るんです。このときはお互いの顔が揺れる柳の枝に隠れたり見えたりするように描かれています。ここも柳という小道具を使って、2人の心情を浮かび上がらせるいい演出でした。本作は、ここに限らず描こうとしているドラマと、描こうとしている絵がちゃんと結びついていて、映画を見ているのを実感させる作りになっていましたね。
作画もよかったですね。レースシーンのパワフルな走りはもちろん、コミカルなところの崩し方も味があってすごく良かったです。レースの回数も多く、力の入った作画に加え、撮影でも多彩なエフェクトを加えることで、速さ・強さの表現がどんどんエスカレートしていく様がうまく表現されてました。
美術は、「でほぎゃらりー」という美術スタジオの渡辺悠祐さんが美術監督なんですが、描き込みすぎない絵の魅力がありました。特にジャングルポケットとタナベトレーナーが河原で話すシーンでは、季節感・温度感が非常によく出ていました。
先ほどお話したとおり、ライバルを失ってどうするかというテーマは、自分との戦いとの側面を帯びています。なので画面に「鏡に映った私」のイメージがちりばめてあるので、そこも気にしてみると面白いと思います。なるべくネタバレしない範囲でお話をしましたので、ぜひ見に行ってみてください。