「本屋さんがない暮らしは味わいたくない」偶然の出会いを守るマチの本屋さんの思い
皆さんは、家の近くに「行きつけの書店」はありますか?
新しい本との出会いがある「書店」の数が今、全国で減り続けています。
そんな中、北海道内で「生活の中に本屋さんがある風景」を守ろうとする人たちを取材しました。
国道沿いにある北海道留萌市のショッピングセンターです。
マチでただ1軒の書店があります。
開店は午前10時。待ちかねた子どもたちが、やってきました。
5歳、2歳、0歳のママのお目当ては、こどもの絵本です。
書棚には、今拓己(こん・たくみ)店長(75)のこだわりが詰まっていました。
「課題図書と自由研究の本、夏休み用に。子どもの本が一番神経使う」と笑います。
10分ほど棚とにらめっこしているのは、高校3年生。
受験生のかき入れ時=夏休みを前に、参考書選びに余念がありません。
物理、化学の参考書と一緒に買ったのは、発売になったばかりの小説「記憶アパートの坂下さん」。
そんな留萌ブックセンターが開店したのは、2011年7月のことです。
北海道の4割に本屋さんがない現実
前の年、留萌市内で唯一の書店が倒産。
それをきっかけに市民グループがたちあがり、出店基準が人口30万人だった三省堂書店を、当時、2万5000人の留萌市に誘致する、異例の出店を実現したのです。
今、北海道内の約4割の市町村には、書店がありません。
背景には、ネット通販の広がりや電子書籍の普及、雑誌の落ち込みなどがあります。
今拓己店長は、そんな時代だからこそ、書店ならではの手触りと偶然の本との出会いに、こだわっています。
「欲しい本と関連性があるものが、横にも上にも下にもあるよというのが、ちょっと膨らませてあげられるのは本屋の役目」
一方、自ら地方へ足を運ぶ、こだわりの書店を見つけました。
移動書店の工夫「本屋さんから出向く」
北海道十勝地方の大樹町の牧場です。小さな本屋さんが姿を現しました。
店主の、長谷川彩(さい)さん(35)。2020年、東京から大樹町に移住してきました。
大型書店での勤務経験などを生かし、2021年から始めたのが移動書店「月のうらがわ書店」です。
十勝とオホーツク地方を中心に週に1日~2日度開店。
出店場所に合わせて、並べる本も変えています。
この日は、サウナ・自然・ロシア料理・クマ…10畳ほどの広さに、150冊の選りすぐりの本が並びました。
「人生ずっと本に助けられて今まで生きてきた。本に対して恩返しがしたい。目の前にいるお客さんを大切にすること。一冊一冊を大事に売ること」
2週間後。
満月の日に間借りしたのは、北海道幕別町のカフェです。本を買うことも、読むこともできる、特別な夜になりました。
「本と出会うきっかけがないというのはすごくもったいない気がするので、私がいろんな場所に出向いて良質な本と出会いを作るきっかけになれば」
マチに本屋さんがある風景を守るには
再び、留萌ブックセンターです。
留萌市内唯一の書店の13周年を祝う、お祭りが始まりました。
スマホでポチっとするだけで、手元に本が届く時代になったからこそ、本の手触りと出会いにこだわり続ける人たちがいます。
今拓己店長(75)
「今もう全国的に、本屋のない町がどんどん増えていって、留萌のこの一軒をなんとか、維持していかなきゃ。本屋のない暮らしってのは味わいたくない」
書店が市町村に一軒もない比率が北海道よりも高い都道府県を調べてみました。
1)沖縄56.1%
2)長野53.2%
3)奈良51.3%
4)福島47.5%
5)熊本46.7%
6)高知44.1%
7)北海道42.5%
文化の発信拠点として「マチに書店がある風景」を守ろうとこの春、国もプロジェクトチームを立ち上げています。
地方の書店を残すための新たなビジネスモデル=知恵が求められています。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年7月29日)の情報に基づきます。