独裁者の座を狙う男か、国を守ろうとする男か ─国家の命運をかけた攻防!韓国史を揺るがした衝撃の事件の映画化『ソウルの春』
アカデミー賞作品賞に輝いた映画『パラサイト 半地下の家族』(19)を上回る観客動員数を叩き出した『ソウルの春』が、8月23日(金)より日本公開となる。ちなみに日本映画の歴代興行収入のナンバーワンは、2020年の『劇場版 「鬼滅の刃」無限列車編』、2001年の『千と千尋の神隠し』と続く。お国柄によってこうも違いがある。隣国、韓国国民の民主化への熱望がまさに観客動員数に現れているといえよう。
韓国の歴代大統領については、収賄事件で逮捕される、親族の不正資金を受け取った事件で自殺するなど、何かと暗く重い事件が多いイメージがある。二人の大統領経験者が白い囚人服で司法の場に立たされているニュース映像も記憶に新しい。その韓国政界の騒擾事件はやはり長い軍圧による政権下にこそ火種があったのだろう。
1963年に就任した朴正熙(パク・チョンヒ)大統領は、79年10月26日に側近の中央情報部(KCIA)部長に射殺された。朴大統領は18年にわたる長期政権で、国民は動揺しながらも民主化への期待が高まっていった。そんな中起こったのが、12.12軍事クーデターである。韓国現代史の事件の中で、「10.26(朴正熙大統領暗殺事件)」や80年5月18日、光州での民主化デモ鎮圧のため軍隊が派遣され多数の市民が虐殺された「5.18(光州事件)」などは映画化され公開されてきた。しかし、もう一つの大きな事件である79年12月12日に起きた軍事クーデターを題材に映画化に至ったのは本作が初めてである。
本作のキム・ソンス監督は、当時19歳で漢南(ハンナム)洞に住んでいて、恐ろしさに震えながら銃声の音を聞いていたという。このクーデターは回顧録や評伝、記事などの多くの資料が残っているが、謎も多い。しかし、キム・ソンス監督はクーデターを起こしたチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミン)の暴走を食い止めるべく立ち上がった正義感溢れる首都警備指令官イ・テシン(チョン・ウソン)の二人の指揮官を軸に、彼らの対立と攻防を緻密に描写することでクーデターの全貌を描いた。本作は、10月26日の大統領暗殺事件の当日から始まり、保安司令官のチョン・ドゥグァンが、戒厳法に基づき合同捜査本部長に任命され、12月12日の軍事クーデターの緊迫した9時間の攻防が緻密にドラマチックに描かれている。特に二人の名優、ファン・ジョンミンとチョン・ウソンは、悪代官に挑む正義派といった構図がわかりやすく、軍に関連する場所や小道具、衣装などもリアルに時代背景を描写しており、さながらドキュメンタリー映画のような展開で、手に汗を握る場面が続く。
チョン・ドゥグァンのモデルがチョン・ドゥファン(全斗煥)だとわかるが、彼は、80年に大統領に就任し8年間実権を握った。その間には、オリンピックの招致、日米との連携により経済を発展させるなど功績も残しながら、金賢姫らによる大韓航空機爆破事件、親族の汚職、不正蓄財などダーティーなイメージを重ねた大統領だった。90歳で亡くなるが、元大統領の国葬が見送られたのは初めてであり、国立墓地への埋葬も見送られた。
かつてチェコスロバキアの「プラハの春」に準えられた映画『ソウルの春』は、1300万人以上を動員した。韓国では4人に1人が劇場に足を運ぶという歴代級のメガヒット作になったという。大統領暗殺、軍事クーデター、光州事件等々を経て多くの血を流した後の民主化は本物だったのか。わずか40数年前に起きた韓国史を揺るがした衝撃的な事件に、韓国民ならずともじっと目を向けてみる価値はある。
『ソウルの春』
8月23日(金) 新宿バルト9ほか全国公開
配給:クロックワークス
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